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平和な冒険

「今日はこの辺で野営しますか」

 シエナ達は昼前にテミンを出発し、順調にハーピーの岩山へ向けて進んでいた。

 モンスターや魔物にも特に襲われず、まるでピクニックのように快適である。


「そういえば、ルクスさんって王族なんですよね?野営とかで大丈夫なんですか?」

 宿屋内やお客様として接客をする時には様付けをするシエナであるが、同じ冒険者として出かけている時には、さん付けとなる。ルクスは「呼び捨てでも構わないのに」と思いながらも先にシエナの質問に答える事にする。


「冒険者を仮の姿として選んだのは自分だからな。野営とかで全然問題ない。むしろ、変に気を使われるよりはこっちの方が楽なんだ」

 シエナは、この世界の王族ってそんなもんなのかな?と、疑問に思いながらも野営の準備を進める。

 一応は王族がいるので、ハンモックだけでなく小さいテントも用意していて、その中でルクスに寝泊まりをしてもらおうとシエナは考えていた。


 ハンモックやテントの設営が完了すると、シエナは鼻歌を歌いながら食事の準備を進める。

 食料は自分のリュックに詰めてきた分と、ティレルが持ってきている分となっているので、少なめであるが、シエナの工夫で野営にも関わらずそれなりの量の美味しい料理が出来上がった。


「ん、このスープ美味しい!」

 シエナが冒険に出る時に必ず持ちだすコンソメキューブで作ったコンソメスープを飲んだケイトは、その味の濃さと美味しさに感嘆の声を挙げる。

 シエナはその感想に嬉しそうな表情をし、それを見ていたルクスは顔が緩んでいた。



 夕食が終わり、シエナとケイトが片付けを済ませると、ルクスはずっと質問するタイミングを失っていたシエナの出身国を聞こうとシエナに近寄ったが、シエナを前にすると何て聞けば良いかわからずに言葉を詰まらせてしまった。

 シエナは、ルクスが話しかけてきそうな雰囲気だったのにも関わらず、何故か困惑しているような態度であったので首を傾げた。

 そのシエナの行動に、ルクスは顔を赤くして視線を外したりと挙動不審となってしまう。


「あ、そうだ。明日行くハーピーの岩山にいるハーピーの事ですが」

 シエナは急に思い出したかのようにミレイユ達の説明を始めた。


「ハーピーとは友達なので、攻撃しないでください。もちろん、向こうにも攻撃とかはさせないので」

 シエナの言葉に、魔物と友達という人間は見た事がないルクス達は同時に「は?」と驚く。

「聞き間違えじゃないよな…?魔物と…ハーピーと友達、だって?」

 自分の耳を疑ったルクスは、確認するようにシエナに質問をする。

 シエナも、多分1回目は理解されない可能性は高いだろうなぁ、と思っていたので、聞き返されることには特に何も疑問を感じていなかった。


「はい、岩山に住むほぼ全てのハーピーと友達です。一応、ルクスさん達を攻撃しないようには言いますが、もし、それでも攻撃をされた時には防衛の為に攻撃し返すのはアリです。そうならないようには頑張りますけど」

 シエナはあっけらかんと答え、付け加えるように正当防衛の許可を出す。

 死んでしまったら元も子もないので当然である。



 その後も、シエナはハーピーの、特にミレイユの説明を続けた。

 ミレイユとは特に仲の良い友達であり、ハーピーとの会話の通訳を頼みたいならそのミレイユに頼むのが一番良いという事などを説明する。

 ハーピーは皆、片言ではあるが人間の言葉をほんの少しだけ喋る事ができる。それでも、普通に会話をしようと思ったら苦労はするだろう。

 その中でも、ミレイユはシエナと会話をしたくて特に人間の言葉を勉強しているので、若干片言ではあるが、人間の言葉をほぼマスターしているのであった。

 また、シエナが教えた歌が日本語である為、この世界の人間には理解できない言語ではあるが、若干の日本語を喋る事もできると言うのがなんともおかしい話しではある。


「とりあえず…いきなり攻撃とかはしないから、本当に俺達が襲われないように説明してくれよ?」

 ティレルが少し心配そうにシエナにお願いをする。

 これでハーピーの大群に襲われれば、ひとたまりもないと感じているからだ。

「泥船に乗ったつもりで任せてください!」

「それじゃ沈むだろうが!」


 シエナが胸を張って答えると、ティレルはすかさずにツッコミを入れる。

 そのティレルのツッコミにシエナは嬉しそうであった。ボケに対してのツッコミはとても重要である。本当は豪華客船の名前を言いたいところではあったが、そのネタは確実に伝わらないので、諦めたのである。


 シエナは、少し弱くはあったが自分の精一杯のボケに、ベターなツッコミが入った事に「まんぞく…」と呟くと、リュックからタオルを取り出し、近くに流れる川の方へと向かった。


「どこいくんだ?」

 ルクスがシエナの後についていくと、シエナは少し恥ずかしそうな表情をして「水浴びです」と答える。

 当然、ルクスは回れ右をしてティレルのいる場所へと戻るのであった。


「シエナはどこに行くって?」

 ルクスがティレルのところに戻ると、ティレルはシエナの行き先について訊ねた。ルクスがついていこうとして、戻ってくるくらいであるから問題のないところではあるだろうが、現在一緒に冒険しているからには仲間の居場所は多少なりとも知っておく必要があるからである。


「水浴びだって」

 ルクスが答えると、ケイトが「あ!私も行くー!」と言ってシエナの向かった方へと駆け出した。

「なんかあったら大声で呼べよー!」

 ティレルがそれなりの大きさの声でケイトに伝えると、ケイトは手を振ってそれに答えた。


「好きな人の水浴びを覗きに行きたいとかは思わないのか?」

 ティレルが少し意地悪な質問をする。

 ルクスは「ん?」と、何を言ってるんだこいつ。というような表情をすると、真面目にその質問の答えを返した。


「いや、シエナは好きだけど、別に覗きにいきたいような体型じゃないし。それに嫌われたくないからな」

 ルクスはあくまでシエナの笑顔と内面が好きなのである。

 体の成長具合に関しては、今後に期待しておこうという程度であり、もしもシエナが自分の好みの体型に成長しなかったとしても、内面が好きである以上、ルクスは余程の事がない限りシエナの事は嫌いになれそうではなかった。


「なんだ、もっと焦って変な反応するのを期待してたのに」

「お前…」

 ティレルがつまらなそうな反応をすると、主に向かってなんて口の利き方だ。と、ルクスは呆れた。

 一応はティレルはルクスの家来である。

 しかし、ルクスは主従関係というよりも友達のように接してくれるティレルとケイトの事を大切に想っていた。

 だから、今のような態度を取られても、呆れる事はしても怒るような事はしない。


(でも、たまには怒るべきだよな?)

 ルクスは複雑そうな表情をしながら、焚き火に追加の木をくべているティレルを見てため息を吐き、言われてからほんの少し、覗きに行きたくなるのであった。



「すっごーい!魔法ってこんな使い方ができるんだ?」

 一方、川ではシエナとケイトが水浴びをしていた。水浴びというより、お湯浴びである。


 シエナは魔法を使い、川の水をゼリーのように盛り上げて、水に熱魔法を加えてぬるま湯程度のお湯にしていた。

 それを見たケイトは驚きの声を挙げる。


「はい。魔法が自分の魔力をイメージした通りに動かす事ができるのであれば、誰でもこういう使い方ができますよ」

 魔法はイメージ力による使い方次第なので、水を持ちあげるイメージができれば、水を温めてお湯にするイメージさえできれば誰でもお湯にすることはできる。

 ただし、それも結局のところ、それだけのイメージ力があればの話である。


 シエナは、前世の日本で様々な物を実際に見たり体験をしたりしてるので、イメージ力はかなり強い。

 更に、しっかりと覚えてはいなくても、魂に刻まれた記憶が更にイメージ力を高めているので、少ない魔力で、大きな魔法を扱うことができるのであった。


 ケイトは、本当にほんの少しではあるが魔法を使うことができる。

 しかし、保有魔力自体はシエナよりも断然上なのであるが、イメージ力が乏しい為、満足に魔法を扱うことはできなかった。


 それ故に、現在シエナが使用している魔法を見ても、少し珍しい使い方をしている程度にしか思ってなく、自分にはそんな使い方はできないと客観的に見ている為、結局ケイトもシエナに魔法の事を詳しく質問はしなかったのであった。



「丁度良い温度にはなってると思うので、このお湯で水浴び…お湯浴び…もういいや、水浴びをすると良いですよ」

 自分の言葉に若干の疑問を持ちつつも、シエナはお湯の塊をケイトの方へと動かした。

 ケイトは初めて見る使い方の魔法に興奮しながらも、そのお湯を使って水浴びをする。


「冷水じゃないだけでこんなに違うなんて」

 仮の姿ではあるが冒険者としての活動をする事のあるルクス達についていく為、野営をする事もしばしばあったケイトは、冷たい水で主に水浴びをしていた。

 寒い季節になると鍋で湯を沸かし、そのお湯に布を浸してからそれで拭くだけだったりしていたので、野営で適温のお湯で水浴びをするのは初めての出来事である。


「ん~…湯沸かし器を小型化して、シャワーのように使う事の出来る道具でも作ろうかなぁ…でも、持ち運びが大変そうだしなぁ…」

 思い切ってお湯の中に飛び込んだケイトを見ながら、シエナは冒険をしている女性の為に何らかの道具が作れないかを思案していた。

(やっぱプラスチックとかホースみたいな石油製品がないと持ち運び大変だよなぁ…)

 それがあれば更に自分の作りたい便利な道具作りが捗るのに。と、シエナは考えるが、少なくともこの世界でシエナとして生きてる間には実現しそうにないことにため息を吐いた。



 その後、シエナとケイトは一緒に水浴びをしながら、主に食べ物の話題について楽しく語り合った。

 2人とも、色気よりも食い気の方が旺盛で、共通して甘い物が好きなのである事が判明して、更に仲良くなっていく。


「へぇ、小豆が好きなんだ。そういえば、この前食べさせてくれたどら焼きってお菓子も小豆が入ってたね」


 シエナは小豆を使用した和菓子が特に好きであった。

 ケイトから好物を聞かれたシエナが、即答で「小豆です」と答えるほどであり、何気に来客者にサービスで振る舞うお菓子のほとんどが小豆製品だったりするのである。


 小豆だけでなく、甘い物は特に大好きで、今回冷蔵庫・冷凍庫を作ろうと思っているのは、プリンやアイスクリームを作りたいのが一番の理由であった。

 魔法で冷却をすれば作れないことはないが、出来上がるまでの間、ずっと魔法を使わなければいけないし、一気に冷やし過ぎたりすると微妙な出来具合になってしまうのである。

 それに、今後の事も考え、せっかく狩猟してきたスライムが利用できそうであった為、シエナは冷凍機能付き冷蔵庫の作成に取り掛かったのであった。



「甘いの以外だったらどんなのが好き?」

 ケイトは更にシエナの好物を知ろうとする。

 普通に仲良くなりたいから聞いてるのだが、ついでにシエナの食べ物の好みをルクスに教えてあげようと言う魂胆である。

「ん~…やっぱり、しょっぱい食べ物ですかね?私、子供舌なので」


 シエナは、見た目通りの子供舌であり、好きな食べ物は「甘いかしょっぱいか」のどちらかである。

 辛い食べ物は少し苦手で、苦い食べ物はかなり苦手である。


 前世では、辛いのも苦いのも大好きであったのだが、生まれ変わってからは味覚はもちろんガラリと変わってしまった。

 それでも、克服する為に挑戦はしているし、なるべく苦味を抑える為の工夫をした味付けなどもしている。ピーマン料理がその筆頭である。

 シエナは、もう少し大人になれば苦味のある物も好きになれるかな?と期待をしているのであった。



「お酒は飲めるの?」

 ケイトの質問にシエナは首をぶんぶんと振って否定した。

 この世界では、酒の年齢制限などは存在しないので、子供であっても飲む事はできる。

 シエナはなるべく成人してから、と思っていたが、一度だけ味見を含めて飲んでみた時に大失敗をしてしまっていたのであった。


「私、どうもお酒を飲むと、飲んだ後の記憶がなくなるタイプのようでして…」

 シエナが飲めない理由は急性アルコール中毒で倒れるといったことではなく、飲んだ後に笑い上戸になり、散々はしゃぎまわった結果、その記憶が全く残っていないのが原因であった。


 飲んだ次の日に、飲んだ直後からの記憶がなく目覚めた時は、「これじゃ、お酒飲んでも楽しめない…」と落胆したのである。

 更に、シエナの特殊能力である『前世の記憶と知識を引き継いで生まれ変わる』能力は、あくまでシエナがきちんと覚えていた事に限られていて、酒に酔って完全に忘れ去ってしまうときっかけがあっても思い出せないのである。

 そうなると、酒を飲んで記憶をなくすというのは、シエナにとって致命的な弱点なのであった。



(あ~あ…前世ではお酒好きだったのになぁ…)

 シエナの前世は、毎日嗜む程度にはお酒が好きなのであった。

 前世で好きだった食べ物やお酒が楽しむ事ができない。ある意味、食が何よりの幸せであるシエナにとっては失ってはいけないかけがえのないモノなのであった。




「おーい、大丈夫かー?」

 少し遠くからルクスの声が聞こえてきた。

 シエナとケイトは雑談をしながらかなり長い間水浴びをしていた。あまりにも戻ってくるのが遅いので、ルクスが心配になったのである。


「大丈夫ですー。すいません、もう少ししたら戻りますー」

 シエナは、姿の見えないルクスに向かって返事をする。

 流石に自分達の姿が視認できる距離にはいないだろうとは思っているが、なんとなくシエナは恥ずかしくなって顔を赤くした。

 そのシエナの様子に、ケイトは「おや?結婚を断ってたけど、やっぱり良い線いってるんじゃないかな?」と、心で思うのであった。

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