目立つアリエル
お久しぶりです。更新を待っていた方、すいませんでした!!ちまちま書いていたら間が空いてしまいました。これから気をつけます。
「この魔法陣、解読できる人はいますか?」
エスプリ先生が黒板に書いた魔法陣。今までの応用で、結構難しいらしい。
周りを見渡しても、誰も手を挙げない。というか、発言できるほど自信がないようだ。
が、しかし。僕は違った。
そんなに難しそうには見えないんだけどなぁ……?一見分かりにくいけど、式が二つ重なってるだけだよね。
「みなさん、わかりませんか?」
うーん。ちょっと目立つけど、まぁいいや。
先生に見えるように手を上げる。
「さすがに難しすぎましたか………って、あれ?アリエル君、この問題わかるんですか?」
僕は先生の問いに無言で頷いてから答える。
「これは、二つの魔法陣の重ねがけをした魔法陣、えっと……炎の魔法陣と風の魔法陣が混じっていると思います」
「お、お見事です、アリエル君。正解です。二重の魔法陣は、先の内容なので、まだ教えていないはずだったんですが……」
先生に言われてから、軽く教科書をめくってみる。すると確かに、二つの魔法陣の組み合わせについては別の単元扱いをされていた。
えっ、これって先の内容だったんだ。てっきり、ただの応用問題なのかと思ったのに。
すると、エスプリ先生から始まり、クラスが少しざわめく。
「すごいね、アリエル。私、全然わからなかったよ。一つの魔法陣にしか見えなかった。二つの魔法陣が重なってたのね」
「いやいや、大したことないよ。みんな、発言する勇気がなかっただけじゃないかな?」
「またまた、謙遜しちゃって」
ルカが僕にからかうような視線を送った直後、四時間目の終わりを示すチャイムが鳴った。
「それでは、今日の授業はここまでです。午後は戦闘訓練なので、着替えて訓練場に集合です」
それだけ言うと、急いで教室を出て行く先生。なにやら、仕事が忙しそうな様子だ。
午前の授業も終わり、次第に教室に明るい声が響いて賑わってくる。みんな各々で食堂へ行くようだ。
僕も教科書等を机にしまい、食堂へ行く準備をする。すると、レンド君が話しかけてきた。
「アリエル君、一緒に食事を取らないかい?」
「あ、いいね。それ。私も混ぜてよ」
そこにルカも加わる。二人が僕と食事をしたいと思ってくれているのが結構嬉しい。
と、思っていると、他のところからも声が聞こえてきた。
「あ、じゃあ俺も!」
「俺も混ぜてくれ!」
「私もアリエルちゃんとお話しした〜〜い!」
「私も私も!」
クラスのあちこちから、自分も、自分もと、次々に声がかかってくる。気がつけば、僕の周りには、クラスメイト全員が集まってきていた。
「うわっ、一瞬でこの人だかりとは、すごいね。アリエル、さっそく人気者だね」
楽しそうに話すルカは、少しからかってきている気がする。
「みんな、少し落ち着いたらどうだい?そもそも、アリエル君に用事がないとも限らないんだ。ひとまずは返事を聞こうじゃないか」
レンド君のおかげで、そのざわめきは少し収まる。
「え、えっと……みんなと食事するのは構わないんだけど、僕、食事をする約束をしてるから、断られることはないと思うけど、その人に返事を聞かないとなんとも言えないんだ」
少し苦笑まじりに話すと、みんなが驚いた顔をする。
「アリエル、この学校に食事の約束をするほど仲のいい人がいるんだ?兄弟とか?」
「お姉ちゃんと、先輩二人。僕は何度も会ってるからいいけど、みんなは初対面なわけだし、みんなに心苦しい思いをして欲しく無いんだけど……前提条件としてそれでもいいって人じゃないと今日は無理かなぁ」
知らない人もいる、ってなると、誰も来ないだろうなぁ。
僕は少し寂しく思ってみんなを見た。
しかし、みんなその場にいたままだ。
てっきり、みんな時離れて行くと思ったのに、誰も離れる素振りを見せない。
「みんないいの?知らない人が一緒でも」
僕の言葉に頷くクラスメイト達。あっという間に、驚きと嬉しさが広がっていく。さっきまでの寂しい気持ちが嘘みたいだ。
ここで、一人の生徒の声が響いた。
「俺は、構わないぜ!!たとえ、アリエルちゃんとの間にどんな障害があろうと、俺は構わないっ!!」
咆哮のようなその声に、みんなビクッと肩を揺らした。
「セルウェスうるさい。アリエルに対する下心が見え見えなんだけど」
が、そこにルカの冷めた一声がかかる。
「べ、別に俺には下心なんてない!!純粋にアリエルちゃんと友達になりたいと思っただけだ!!」
「はいはい、そーですか」
心なしか、彼を見るみんなの目が冷たくなった気がする。
僕が準備を終えて、いつでも教室を出られると言う段階になった時、ルカが話しかけてくる。
「ところでなんだけど、アリエルと食事の約束してる人達の事、簡単にでいいから教えてもらえるかな?」
あ、そっか。構わないとは言っってたけど、いきなり名前も知らない人と会うのは流石に気が引けるよね。
「三人とも高等学院の三年生だよ」
「と言うことは、三つ年上なのね」
僕は軽く頷いてから、みんなに聞こえる声で話した。
「まず僕のお姉ちゃんが、セレーナ・ナーキシード。次に、ハルルカ・ケニアン先輩、最後がティア・ラベンダー先輩。それで、詳しい紹介だけど……って、あれ?みんなどうしたの?」
ここで僕は、みんなが目と口を目一杯開けている事に気がつく。
「あ、アリエル?一応聞いておくけど、冗談じゃないよね?」
「僕、こんなところで冗談なんて言わないよ」
ルカは僕の顔を見て、僕が冗談を言っているわけじゃないことを確かめると、軽くため息をついた。
そして、場をしばしの沈黙が包み込む。
「ご、ごめん。さすがに、女神騎士様と学院随一の天才、学院でも指折りの美少女の三人は、ちょっと、荷が重いかな……アリエルちゃん、ごめんね。食事はまたの機会にさせて」
「お、俺も。流石に、食事時に女神騎士様と謁見はきついかな」
「緊張して食事が喉を通らないよ」
そして、一人、また一人と、僕に一言謝ってから教室から出て行くクラスメイト達。
先ほどまでの人だかりは、瞬く間に消えてしまった。
「私はそれでも構わないけどね」
「お、俺だって!女神騎士様が相手でも、ぜ、全然関係問題ないぜ!!」
「その割には声が震えてるけどね」
「ほ、ほっとけ!」
少ししんみりした空気の中で、ルカと先ほど叫んでいた人は少し浮いている。
「僕も大丈夫だよ。昨日アリエル君の身の上話は聞いてたから、こんなところだろうなとは思ってたし」
気がつくと、僕の前には三人しかいなかった。
「う……そ、そんなぁ」
さっきまであんなにたくさんの人がいたのに。お姉ちゃん達の名前を出した途端こうなるなんて……
「ま、まあ仕方ないんじゃない?相手があの三人じゃ」
ポンポンと肩を叩いてくれるルカ。
「まあ、話は歩きながらでもできるしさ。とりあえず、大食堂に行かないかい?」
レンド君の言葉に同意見だった僕達は、少し重い空気を引きずりながら教室を後にした。
「げ、元気だしなよ、アリエルちゃん!ほら、俺がいるからさ」
「えっと……君は」
あ、さっき叫んでた人……名前聞いてなかったんだった。
「セルウェス・マレシナ。女好き。まぁ、全然モテないけどね」
僕が少し首をかしげると、ルカが答えてくれた。
「おいルカ!何勝手に俺の紹介してるんだよ!!」
「紹介しているんじゃない、アリエルに警告してるの。いい、アリエル?こいつのすることの裏には、必ず下心があるから。優しそうに見えてもあんまり信用しちゃダメだからね?」
僕の両肩を抑えながら話すルカの視線は、至って真面目。
う、うーん。本人の前でその人を警戒するように言われても困るなぁ。こう言う時はどうしたらいいんだろう?
「そうなの?」
「えっ?!」
と言うわけで本人に聞いてみることにする。
「ルカの言っててること、本当なの?」
すると、彼は軽く慌てる。
「ほ、本当なわけないだろ?!」
「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ今のはルカの冗談なんだね」
僕と同い年で女好きだなんて、そんな人、まずいないよね。
僕が軽く笑うと、ルカが苦笑いで僕を見てきた。
「いやいやいや、本人に聞いても否定するに決まってるでしょ?!」
結局、僕はどうしたらいいんだろう。
「えっと……よくわかんないけど、よろしくね。セルウェスく……セルウェス」
とりあえず、挨拶をして場を乗り切る。ルカに言われた通り、名前は呼び捨てにする。
「お、おう。よろしくな、アリエルちゃん!!」
「鼻の下伸ばしちゃって……これだから男は」
とりあえず、セルウェスも返事を返してくれたので場を乗り切れたと考える。
「あはは、アリエル君も男だけどね」
「アリエルは、まぁ例外かな」
レンド君のツッコミに答えるルカは、少し微妙な顔をしている。
そうして、少し話しているうちに、僕達は大食堂に着いた。
お姉ちゃん達との待ち合わせ場所は決まっているので、先に食事を受け取ることになっている。
僕は少し悩んだ後、シチューセットにする。
「アリエル君はシチューにしたんだね。僕は茄子の炒め物だよ」
「そうなんだ。いいよね、茄子。この前にも食べたから、今日はシチューにしたんだけど。ここの茄子、とろとろにほぐれるんだよね。僕も好きなんだ」
レンド君、ルカ、セルウェスも食事を受け取ったら、いよいよお姉ちゃん達の元へ行く。
いつも待ち合わせている壁際のあたりを探してみると、すでに三人が待っていた。
「待ってたわよ、アリエル。今日は少し遅かったのね」
「うん、少しね」
せっかく集まってくれたクラスメイトが瞬く間にいなくなった事を思い出し、少し俯く。
「どうかしたの?元気ないけれど……いじめとかじゃないわよね?」
「違うよ、そうじゃない。実はさっき……」
ここで僕は先ほどの出来事を3人に話した。
「そんな事が……ごめんね、アリエル。お姉ちゃん達のせいで」
「ううん、いいんだ。友達ができなくなったわけじゃないし、何人かは一緒に来てくれてるから」
今回の事は仕方のない事だもんね。お姉ちゃん達に非がないのはわかってるし。
「と、言うわけなんだけど。それで、何人かのクラスメイトも一緒でも、いいかな?」
「私はもちろん構わないけど」
お姉ちゃんがティアさんとハルさんの方を向くと、二人は笑って頷いた。了承してくれたみたいだ。
「それじゃあ、みんな。呼んでくるね」
僕は安堵すると、みんなを呼ぶ。
そして、僕を含めた7人が楕円形のテーブルを囲んだ。
僕はいつも通りお姉ちゃんの隣の席。
僕以外の全員が自己紹介をし終えてから食事をしていると、場は和気藹々とした雰囲気に包まれていた。
「学校でのアリエルはどんな感じなの?」
「そうですね〜〜、なんて言うか、目立ちますね」
少し心配そうなお姉ちゃんと話しているのはルカだ。
「えっ、僕目立ってた?」
「あはは、自覚無いんだね。アリエル君はみんなが分からないところで一人だけ答えるから目立ちまくりだよ?」
「うんうん、レンドの言う通り。それにしても、よくあんなにスパスパと答えられるよね〜〜。試験の時に少し先の内容まで勉強してたっていってたけど、どれだけの範囲勉強してたの、って思う」
範囲の話は、ただの応用だと思ったら建前みたいなものだったっていう話だったんだけどね。
といいか、僕、目立ってたんだ……全然気づかなかったなぁ。少し発言の回数抑えた方がいいのかな。あんまり目立ちすぎるのも嫌だし。
「へぇ〜〜、やっぱりアリエルちゃんって学校でも目立つんだね」
「まぁ、これだけ可愛い上に勉強もできたら、仕方ないんじゃないかしら?」
食事が三分の一程に減った頃には、すっかりみんなは打ち解けていた。
「えっと、ルカちゃん、それ本当?アリエルが、試験勉強の範囲で授業より先の内容まで勉強したって言ったの?」
「はい、4時間目の終わりの頃にそう言ってましたけど」
「おかしいわね、アリエルに渡した教科書には、試験範囲ピンポイントの部分しか載ってないはずなんだけど」
「えっ?」
二人がそう言うと、みんなが僕の方を見てくる。
え、えっと……なんて言おうかなぁ。
「普通に解けたから、応用問題かと思ったんだけど。それが次の単元だったみたいで。あんまり目立ちたくなかったから、建前的に勉強してた、って言ったんだ……」
僕がそう言うと、みんなが目を見開いた。
「ルカちゃん、その単元って何?」
「魔法陣の重ねがけ、です……」
「いやいやいや、おかしくない?普通わかんないよ?みんな、今まで一つだった魔法陣がいきなり複雑になって混乱するところだよ、そこ!!」
「そ、そうなんですか?僕にはわりと簡単だと思えたんですが……」
「さすがアリエルちゃん。秀才セレーナの弟だけの事はあるわね」
みんな口々に僕を褒めてくれる。
「可愛い弟が凄いのは姉として誇らしい限りだけど……アリエル、あなたって少し度が過ぎてるわね」
お姉ちゃんは嬉しそうに、しかし困ったような笑みを浮かべるのだった。
こうして、僕達は楽しい食事会を終えたのだった。
「食事、楽しかったね〜〜!」
「そうだね。セレーナ先輩をはじめ、女神騎士様やハルルカ先輩もとても優しかったね」
教室への帰り道、僕達は楽しく話をしていた。
「そういえば、セルウェス、全然喋ってなかったね?自己紹介もおぼつかない感じだったし、何かあったの?」
「えっ?!い、いやぁ、別に何もないよ?」
僕が尋ねると、なぜか慌てるセルウェス。
どうしたんだろう?
「もしかして、僕のために無理してついて来てくれてたから、気分が悪くなったとか?」
不思議に思ってそう言ってみたが、その言葉はすぐに否定された。
「あははっ!それはないよ、アリエル。だってセルウェスはアリエルとお近づきになるためにきてたんだもん」
セルウェス本人ではなく、ルカによって。
「セルウェスは、隣にティア先輩……女神騎士様がいたから、緊張でガチガチだっただけだよ」
「ば、馬鹿っ!お、俺がこれしきの事で緊張するわけないだろ?!」
あ、なるほど。緊張してたのかぁ。
「気持ち、わかるよ。僕も初めてティアさんに会った時はすごく緊張したから」
正体がバレていないか、という不安からだけど。
「そ、そうだよな!やっぱり、アリエルちゃんだってそう思うよな!!」
「へぇ〜、今ではあんなに仲よさげなのに、アリエルも緊張したんだ」
ルカはセルウェスを無視して、僕に話しかけてくる。
僕はあの時の事を思い出し、ふふっと笑ってから、答えた。
「あの時は年甲斐もなくすごく泣いちゃってさ」
「えっ、泣くほど?!」
「そこまで緊張するなんて、人見知り、なんだな。アリエルちゃんは」
僕の言葉に驚く二人。レンド君は、なぜ僕が泣いたのか知っているので、苦笑していた。
「別に悪口を言うつもりはないんだけどね。あの時、ティアさんに結婚させられそうになってさぁ〜〜」
「「け、結婚?!」」
「びっくりでしょ?ぼくも驚いたよ。まぁその時は運良く女神騎士城にいたお姉ちゃんが助けてくれたんだけどさ」
「結婚かぁ〜〜。まぁ、アリエルは可愛いもんね」
「え?る、ルカ、突っ込むところそこか?そもそもこの国って、同性婚って出来たか?!」
「セルウェスうるさい」
挙動不審になりながら言葉を発するセルウェスの頭に、ルカが拳を叩きつける。
「いっだあっ?!」
ていうか、同性婚って……セルウェスって、僕のこと女の子だと思ってるのかな?
呼び慣れてるから気づかなかったけど、セルウェスって僕のことちゃん付けで呼ぶし……いやでも、僕男用の制服着てるよね。見た目で男ってわかるだろうし。
「セルウェス、一応言っておくけど、僕は男だからね?」
念のために伝えておく。
「え?あぁ、うん。わかってるよ、俺はわかってるからね、アリエルちゃん」
が、しかし。何やら、俺だけは理解してるよ、みたいな意図を交えた言葉が返ってくる。
「無駄だよ、アリエル。セルウェスの頭はお花畑だから、何言っても無駄」
セルウェスを横目で流し見るルカ。
「わかってる、事情があるんだよな、俺だけはわかってるさ」
う、うーん。悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。ま、いいか。僕が女の子だと思われても何も問題はないし。
どうしてセルウェスが僕を女の子だと思いたがるのかがよくわからず、僕は首を傾げながら教室へと戻るのだった。
教室では、ルカやレンド君にクラスのみんなが食事の感想を言っていた。
食事会で一言も発せなかっ事で軽く落ち込んでいたセルウェス君に対しては、みんな気を使って話しかけなかったようだ。
その後、6時間目が終わるとすぐに解散となった。
「ふ〜っ、終わったぁ」
ルカは背筋をぐっと伸ばし、気持ちよさそうに目を細めた。
「ルカ、疲れてるの?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ、解散したらいつもこうするのが癖なんだ」
軽くあくびをしたルカは、僕を見てニヤリと笑った。
「ねぇアリエル。今から、暇?」
「大事な用はないから、時間は作れるよ」
魔物狩りはいつでもいいし、時間はある。
僕が答えると、ルカは楽しそうに笑った、
「本当に?!じゃあさ、一緒におでかけしない?」
「お出かけって……どこに?」
「ここは王都だよ?名所とかお店なら、数え切れないくらいあるけど」
名所に、お店ね。そういえば、僕はまだ王都を観光した事なかったっけ。
「それはいいね!僕、王都の事よく知らないから案内してよ」
「わかった、アリエルが心ゆくまで案内してあげるっ!」
こうして、僕は初めて家族以外の人とお出かけすることになるのだった。
今回は話が進んでいませんが、次の話ではアリエルが活躍します。




