アリエル、学院デビュー
自分で読んでて面白くなかったです。話が進む期待はしないほうがいいかと思います。次回は頑張って面白くします。
カーテン越しのおひさまの光が、優しく瞼を撫でる。
「んん……」
ゆっくりと、広いベッドの上で一人、なんの不自由もなく起き上がる。
今まではお姉ちゃんに抱き枕にされていたけど、もう違う。
その事実に、少しの寂しさと、少しの開放感を感じる。
僕の部屋がお姉ちゃんの部屋とは別々になったのだ。
実は昨日、靴をプレゼントして貰った後すぐ、僕達姉弟に学院長先生から呼び出しがかかったのだ。
「お呼びとのことでしたが、私達二人に何かあるのでしょうか?学院長」
呼び出しがある、と聞いた時からお姉ちゃんの表情は硬くなり、なんだかピリピリしていた。
「お、お姉ちゃん?なんでエイヴァンさんに対して喧嘩腰なの??」
お姉ちゃんの目が、なんだかエイヴァンさんを睨んでいるような気がしてならなかった。
「言いたい事は分かりますが、落ち着いてくださいね、セレーナさん」
そんなお姉ちゃんに対して、少しの苦笑を交えながら落ち着いた様子のエイヴァンさん。
でも、お姉ちゃんはエイヴァンさんに対して何も言わない。
「ふぅ、まぁ思うところもあるようでしょうし、今はいいです…………一先ずは」
エイヴァンさんはお姉ちゃんから僕に視線を移すと、ニコッと笑った。
「アリエルさん、王立中等学院中途編入試験合格、おめでとうございます」
まさかエイヴァンさんにお祝いの言葉を言われるとは思ってなかったので、少しびっくりしたけど、僕は今日の嬉しさを噛み締めて笑顔で答える。
「ありがとうございます!」
そんな僕の様子にふふっと笑いをこぼすと、エイヴァンさんは続けた。
「なんでも、首席なんですってね。筆記試験では満点、実技試験ではダミーの完全破壊と、凄いですね。歴代最高得点らしいですよ?」
「ええっ?!そうなんですか?」
歴代最高と言う言葉を聞いて、思わず胸が高鳴る。
「先生方も驚いていましたよ。人形とは言え、まさかC級の魔物相当の強さを相手にしても戦えるなんて。流石は、ダークウルフ殺しのアリエル、と言う事ですね。そう言えば、A級のギルドハンターにもなられたようですね。重ねてになりますが、おめでとうございます」
僕はエイヴァンさんにありがとうございます、と答えてから少し笑った。
「あ、そう言えばなんですけど。僕、身分証明にA級のギルドカード見せたんですよ、そしたらまるっきり信じてもらえなくって〜」
「あらあら、それはそれは、学院の職員が失礼な事をしましたね……」
そう言って、謝ろうとしてくるエイヴァンさんを慌てて止める。
「あ、すいません。違いますよ!別に、その事にはなんとも思ってません。ただ、笑い話として話したまでですから。エスプリ先生も悪気はなかったみたいですし」
「そう言っていただけるとありがたいですね。それにしても、エスプリ先生ですか。あの先生は悪い人ではないんですけどね。ちょっとお転婆というか。たまにドジを踏んでしまうんですよ」
僕はエイヴァンさんに言われた通り、おばあちゃんを見るつもりで話している。まぁ、気分はご近所さん通しでのちょっとしたお喋りの感覚。
だが、横から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「学院長。そろそろ本題を話していただけますか?」
お姉ちゃんは誰がどう見てもイラついていた。目の端あたりがピクピクしているのだ。
「もう、お姉ちゃん!エイヴァンさんは学院長先生なんだから……」
僕がお姉ちゃんを諭そうとしたのだけれど、エイヴァンさんは軽く笑ってそれを制した。
「すいません、セレーナさん。アリエルさんとの話が楽しくて、つい」
「それで、話というのは?」
なんだかお姉ちゃん、エイヴァンさんを目の敵みたいにしてるような気がするなぁ。
お姉ちゃんとエイヴァンさんの間に、何か確執があるような気がする。
お姉ちゃんが普段見せる事のない姿に少し驚きつつも、話を聞いた。
「ええ、実は……」
エイヴァンさんの話はこうだった。今までは僕が学院生でなかったから良かったものの、姉弟とは言え男女を同じ寮部屋にするわけにもいかないし、生徒は一人一部屋というルールに従って動いてもらわなくてはいけないのだそう。つまり、僕とお姉ちゃんは部屋を別々にしなくてはいけないという事だ。
「これが、アリエルさんの部屋の鍵となるものです。他の方より少し早いですが、事情があるので渡しておきますね」
来客用のカードと生徒手帳をエイヴァンさんに交換してもらうと、お姉ちゃんと部屋に戻る。
その後、お姉ちゃんの荒れようは酷いものだった。
エイヴァンさんの前では平静を装っていたようなのだけど、部屋の中に入るなり、僕を思いっきり抱きしめて、泣いたのだ。
1時間ほどそうした後、その状況に耐えかねて呼んだ、ハルさんやティアさんに諭され、お姉ちゃんはやっと泣き止んだ。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。今まで通りに、ご飯の時も一緒だし、僕からもお姉ちゃんの部屋に遊びに行くようにするからさ」
「うん。絶対よ?絶対来てよ?アリエル、約束ね?お姉ちゃんと約束だからね?」
お姉ちゃんは、まるで今生の別れとでも言うかのように僕を引きとめようとしたけど、ティアさんとハルさんに抑えられ、その間にお金やら荷物やらを僕の部屋に移動させた。
まぁこんな感じの一騒動を経て、僕は一人で部屋にいるのだ。
小さなあくびを手で覆いながら、ゆっくりと伸びをする。
目覚まし時計を使わなくても、決まった時刻に起きる事が出来るほど僕の体にはリズムが刻まれている。
時計の針を見ると、時刻は丁度6時。
「さて、行きますか!」
パジャマから汗をかいてもいい服装、運動着に着替えてから、僕は一人で学園を出た。
まだあまり人のいない王都を、軽快なステップを踏みながら走り抜けて行く。
これは僕の日課。癖と言ってもいい。僕は王都に来る前、つまり村にいた頃は、毎朝走っていた。勇者になるための自主訓練の一つとしてだ。
でも最近は、試験のための一時的な訓練以外では、色々あったせいで一月近く日課として走れていなかった。
だから、1人で走りに行くことで、その際に僕を抱き枕にしていたお姉ちゃんを起こしてしまう心配もしなくて済み、なおかつ自由に朝の訓練もできる環境になった事は少なからず嬉しかったりする。
行こうと思えば、今から森に行って魔物狩りとかもできるんだよね。まぁ不測の事態に備えるために、本当にやるならもう少し早く起きなくちゃだろうけどね。
そんなことを考えているうちに、僕は学院から王都を一周してまた学院に戻って来る。
腕時計を見ると、まだ6時30分。
汗もかいているので、大浴場に行って汗を流す。
部屋に戻って来ると、ちょうど7時なので、服を着てお姉ちゃんの部屋へと行く。
コンコン。僕がノックすると、中から声が聞こえてきた。
「アリエルね?」
「うん。そうだけど」
「鍵は開いてるから、入ってきて」
内心、お姉ちゃんが朝起きている事にびっくりしつつ、部屋に入る。
「おはよう、アリエル。昨日は良く眠れた?」
扉のすぐ向こうには、今制服に着替え終わったらしいお姉ちゃんがいた。
「うん」
「そう言われると寂しくなるけど、アリエルが元気ならいいわ。ちなみに、お姉ちゃんは全然ダメ。アリエルのぬくもりがないと全然眠れないわね」
「僕もちょっと寂しいけど、まぁ慣れてよ。そもそも、ちょっと前までは校内ですら会えなかったんだからさ」
僕はお姉ちゃんを元気づけるように励ます。
「まぁ、それもそうね」
それだけ言うと、お姉ちゃんは僕をぎゅっと抱きしめる。しばらくして、ハルさんとティアさんが来るまで、僕はそのままだった。
その後、4人で朝食を食べる。僕とお姉ちゃんとハルさんが食事を共にしているという事を聞いて、ティアさんも加わったのだ。
「今日からアリエルちゃんも学院生だね〜。可愛い後輩が出来て、私は嬉しいなぁ」
楽しそうに笑うのは、ハルさん。
「アリエルちゃん、きっとすぐに学院で有名になるわね。女神騎士の私も、うかうかしてられないなぁ」
「うちのアリエルはティアなんかはとっくに超越した存在よ?」
「いやいや、そもそもアリエルちゃんと私達は学年違うから。張り合っちゃダメでしょ」
概ねいつも通りの楽しい朝を過ごした僕は、お姉ちゃん達と別れて編入生が集まっている場所、訓練場へと向かう。
試験当日に比べれば、人口密度はその十分の一もいないだろう。
ざっと見て、30人ってところだと思う。 編入生だけでこれだけの人数がいるのはさすがと言えるだろう。
僕は編入生を一人ずつ見ていく。
レンド君どこにいるんだろう?呼び出し時刻まであんまり時間が無いし、もう来てると思うんだけど。
と、僕がきょろきょろ首を動かしていると、後ろからポンポンと肩を叩かれた。
「やぁ、アリエル君」
あっ、この声は……!!
僕はワクワクしながら振り向いた。
「あっ、レンド君!おはようっ」
「うん、おはよう。朝から元気だね。その様子だと、あんまり緊張してないのかな?」
そこには、爽やかな笑みを浮かべるレンド君がいた。
「緊張って、なんで?」
少し羨ましそうに見てくるレンド君。
「ほら、今日は初めて教室に入るだろう?だから、クラスに馴染めるかな、ってね。自己紹介とか、考えた?」
クラスに、馴染めるか……自己、紹介……。
言われてから、初めて気づいた。
「どっ、どどどどうしようレンド君!!僕、何も考えて無いや!!」
「ええっ?!やけに落ち着いてると思ったら、考えてなかったのかい?!」
昨日は、学校に行けば友達が出来て楽しく過ごせると思ってたから、楽しみで頭がいっぱいだった。
何を考えていたんだろう僕は。無条件で友達ができるって思ってたし、ましてや自己紹介なんて、ちらりとも考えてなかったぁ!!
額から冷たい汗が流れた気がした。
「とりあえず落ち着きなよ、アリエル君。大丈夫だよ。僕も一緒に考えるからさ」
「ほ、本当?!ありがとう、助かるよ!ぼ、僕、初対面の人は苦手なのに。うわぁ、どうしよう!考えてみれば、いや、考えなくても、クラスメイトの人って初対面だよね……うわぁー!自己紹介昨日考えておけばよかったぁ!!」
「落ち着いて、アリエル君落ち着いて!!」
最初は取り乱していた僕だったけど、先生がやってきて点呼を始めた時にはレンド君に諭されてなんとか平静を取り戻した。
その後、僕達編入生は先生に制服と生徒手帳を渡された。生徒手帳に関しては、僕だか先に渡されていたけど、特段目立つことはなかった。
「さて、それでは早速だが、訓練場に設置されている更衣室で男女に別れて制服に着替えてもらう。場所はあそこだ」
昨日審判をしていたちょっと怖い先生が指差す方には、男女別で更衣室があった。
みんな各々で制服を持って更衣室に向かう。
が、しかし。
「それじゃ、行こうかレンド君」
「え?アリエル君、なんで男子更衣室にて来るの?」
僕はレンド君に真顔で動きを止められた。
「いやいやいやいや、レンド君?僕、男だよ?」
「うん、知ってるよ。まぁ、男っていうか、男の子だけどね。子っていうか、娘?」
「レンド君、何言ってるの?もう、僕勝手に行くからね」
僕は彼に抑えられた肩を無理矢理前に進めて歩こうとした。
しかし、僕の肩は、なぜか動かなかった。
結構力を入れてるはず、なんだけどな?
「レンド君、僕結構力強いと思うんだけど、よく抑えられ………!!」
ここでやっとレンド君の顔を見た僕は、気づいたのだ。彼が、必死の形相を浮かべている事に。
「アリエル君。ここは、通すわけにはいかないんだ。ごめん。女子更衣室に行ってもらえるかい」
申し訳無さそうな表情からは、本気の思いが感じられた。
「うん……わかっ、た」
そして、その言葉は決して断る事は出来なかった。
1人の男として、彼が本気の思いをぶつけている気がしたのだ。
そして、10分ほど経ち、僕以外の男子が全員着替え終わった頃。僕はやっとの事で男子更衣室に入る事が出来た。
いや、さすがに女子更衣室に入るのはダメだと思ったんだよね。
実際女子更衣室で着替えたところで、僕自身何も思わないんだけどね。なんか女子の人達も先生もみんな構わないって言ってたし。逆転の腕時計を使う選択肢もあったんだけど、女の子の見た目で下着が男物なのはどうかと思ったんだよね。
まぁ1番の理由は、男の僕が女子更衣室に入るのは普通に良くないと思うっていう簡単な理由なんだけど。何人かの女子が僕を見て舌舐めずりしてて身に危険を感じたのもあったりしなくもない。
制服を着て訓練場へ戻ると、全員揃ったようだった。
その後、先生からの説明が始まり、各自それぞれの担任の先生に引き渡されて、教室へ移動するとの事。
そのため、生徒達の周りには何人かの先生と思われる人がいる。
「ーー次の生徒は……アリエル・ナーキシード。レンド・サージキア。この2人は、エスプリ・レールズ先生が担任だ」
あっ、レンド君と僕、クラス一緒だ!
僕とレンド君は顔を見合わせてから笑い合う。
「やったね、レンド君!」
「うん。友達が同じクラスだと心強いよ」
「それじゃ、先生のところ行こうか」
僕がレールズ先生を知っている風に言うと、レンド君は少し驚いた様子を見せる。
「アリエル君の知ってる人なの?」
「ふふっ、ちょっとね」
僕は含み笑いをすると、担任のエスプリ先生を探す。
「アリエル君!レンド君!こっちです!」
でも、どうやら探すまでもなかったみたいだ。
レールズ先生が、ポニーテールを揺らして僕達に手を振っているのが見えたのだ。
僕とレンド君も笑顔を返して、エスプリ先生の元へ行く。
「私が、2人の担任の、エスプリ・レールズです。よろしくお願いしますっ!クラスのみんなは私をエスプリ先生、と呼ぶので、2人もそう呼んでください!」
にっこり笑うエスプリ先生に対して、僕とレンド君は軽く一礼する。
「「よろしくお願いします、エスプリ先生」」
「ふふっ、2人ともすでにお友達みたいですね!いい事です。それでは、行きましょうか」
そして、エスプリ先生に連れられて僕とレンド君は王立中等学院の階段を登る。
「二人の教室は1年4組。ここです。」
やがて、教室の前で止まるエスプリ先生。
「少しここで待っていて下さい。呼んだらドアを開けて入って来てくださいね」
「「はい」」
それだけ言い残すと、エスプリ先生は教室のドアを開けて入って行く。
残された僕とレンド君。
いよいよ学生としての生活が始まるわけだけど。
どうしよう。自己紹介、全く思いつかないぃっ!!
僕は冷や汗を流しつつ、レンド君に小声で話しかける。
「レ、レンド君。僕の自己紹介、どうしたらいいかな?!」
慌てる僕を手で制すレンド君。
「いいかい?今から言う事を覚えるんだよ」
「う、うん」
軽く頷くと、レンド君は話し始める。
「話す事は3つだけ。自分の名前、好きなもの、もしくは趣味。今後の抱負だ。これさえあれば、大体はなんとかなるはずだよ」
「名前、好きなもの、もしくは趣味、今後の抱負だね。うん、わかった。具体的には、どんな感じにすればいいのかな?」
「それはね……」
僕の質問にレンド君が答えようとした時、エスプリ先生の声がドア越しに聞こえてくる。
「二人とも、入ってきて〜」
あと少しと言うところで聞こえてきた声に、僕もレンド君も苦笑い。
「時間がないから、後は僕の自己紹介を参考にするんだ。大丈夫、アリエル君ならできるよ!」
「う、うん。ありがとう、頑張るよ」
レンド君、僕の順番で教室に入ると、中には30人ほどの、男女それぞれ同じ服に身を包んだクラスメイトが目に入ってきた。
ううっ、全員知らない人……その上、注目されてるうっ。
僕がたじたじになってレンド君の後ろに隠れるようにして教室の中心に入ると、窓際にいるエスプリ先生が喋りはじめた。
「二人とも、どっちから自己紹介する?」
自己紹介、と言う言葉にビクッと肩を震わせた僕を見て、レンド君は小声で大丈夫、と呟くと答えた。
「僕からお願いします」
レンド君、ありがとうっ!!
僕は彼の優しさに感謝しながら、彼の自己紹介を聞くことにした。
「レンド・サージキアです。趣味は読書で、公務員の父のようになりたいと思ってこの学校に来ました。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるレンド君に、クラスメイトのみんなはパチパチと拍手をする。
「レンド君はあそこの席に座ってください」
「はい」
エスプリ先生の指示に従い、廊下側の真ん中の席に座るレンド君。
前に立っているのは僕と先生だけになってしまった。
ど、どうしよう。凄く緊張してきたよぉ!
「はい、それじゃあ自己紹介お願いします」
「は、はいっ」
カクカクした動作で動きながら、先ほどまでレンド君がいた廊下と窓の中心地点に立つ。
「か、可愛い……」
「なんであの子男装してるんだ?」
「何?あの超絶美少女、嫉妬の念すら浮かばない」
「俺、このクラスでよかった……」
なんだか聞こえるけど、緊張で、頭が認識する前に耳から通り抜けて言ってしまう。
えっと、名前、好きなもの、または趣味、今後の抱負、だよね。
軽く、深呼吸をしてみる。たくさん息を吸って、それからその息を吐き出すように口を開いた。
「ア、アリエル・ナーキシード、です」
よしっ、名前はオッケー。
「えっと、趣味は……」
あっ、レンド君に釣られて趣味って言っちゃったぁ。ど、どうしよう。僕、趣味なんて無いよ。
でも、さすがに趣味はって言った手前、やっぱり趣味は無いって答えるのもどうかと思うし……ううっ、こうなったら無理やりでも言うしか無い!えっと、趣味。趣味ってなんだろう?続けてやっているもの、とか、たくさんやっているものとか?だよね、きっと。えーっと、僕がたくさんやっているもの……続けてやっている事は、なんだろう。
教室に設置されている丸時計の針が動く音が、カチカチと聞こえる。沈んだ教室に、ゆっくりと、ゆっくりと響く。
5秒ほど経った時、僕の頭が閃いた。
「趣味は、ダークウルフを狩る事です!」
空白の5秒間を誤魔化すように、笑顔を作る。
しばらくの、間。
うう。言い直したのは、だめだった、かな?
僕が泣きそうになった時、うっすらと声が聞こえてきた。
「ふ、ふふ……あんな可愛い子の趣味がダークウルフ狩りとか……ふふふっ」
「す、すごい冗談だね、あはっ、あはははっ」
「あはは」
「ふふふっ」
1人の笑いから、波紋のように、教室は笑いに包まれていく。
でも、それは嘲笑のような嫌な笑いじゃない。ただ、冗談に対して笑っているような感じ。
ええっと、これは、いいのかな?
不安に思ってレンド君を見ると、口パクで何か言っている。
えーっと……けっ、か、おーら、い?あ、結果オーライ!
それは何かダメな事がカバーできた時に使う言葉だと思うけど……まぁ、いいや。なんか上手くいったぽいもんね!
笑いが少し静かになったところで、僕は続きの抱負を話す。
「この学校には、勇者になるための近道と聞いたので入りました。あ、あと、友達を作るためっていうのも理由です。えっと……友だちになってもらえると、嬉しいです」
ぺこり。腰から上半身を折るようにして礼をする。
すると、大きな拍手が教室を包んだ。どうやら、自己紹介は上手くいったみたいだ。
「アリエル君の席は、あそこになります」
「はいっ、わかりました!」
ふうっ、よかったぁ〜〜!これで自己紹介は終わりだぁ。
僕は一息ついた後、元気よく返事して、先生が指差す方へ歩いていく。
窓際の、1番後ろの席だ。
綺麗な幾何学的な形をした椅子の上に座ると、軽く辺りを見渡した。
窓からは学校から王都の先まで見えて、クラスメイトのみんなの事もよく見えた。
男女が隣り合うようになっている席の中でも、どうやら、僕の隣の人は1人だけみたいだ。
左右の髪を、横から後ろにかけて三つ編みして後ろで結い、その間から髪を垂らした女の子。
僕が彼女の方を見ていると、彼女もそれに気づく。そして、僕の方を向いてニコッと歯を見せて笑った。
「さっきの、面白い冗談だったね。私、ああいう冗談好きだな」
「冗談って、なんの事ですか?」
「え?ほら、ダークウルフを狩るのが趣味ってやつ」
彼女が笑いながら言っている所を見て、先ほどレンド君が結果オーライと言っていた意味がわかった。
あ、そっか……僕がダークウルフを倒せるなんて、誰も信じられないのか。なるほど、だから冗談だと思われて、笑われたんだね。
僕は1人で納得すると、一応訂正しておく。
「あの、あれは一応冗談じゃなくて本当のことなんですけど……」
「ふふっ、もうその話はいいよ。アリエルみたいに可愛くてひ弱そうな子がダークウルフ倒せるわけないでしょ」
また冗談だとおもわれたのか、笑われてしまった。
あれ、完全に信じられてない……僕、そんなに弱そうに見えるかな?
「まぁ、そんな事はいいんだけどさ」
あぅ、そんな事って言われちゃったよ……まぁ、ダークウルフを倒せる、なんて情報、わざわざ伝える必要性もないから気にしないでもいっか。
僕は少し寂しい気持ちになりつつも、1人で納得した。
「ひとまずは、自己紹介したほうがいいよね」
「あ、はい。お願いします」
そう言うと、彼女は胸に手を当てて話し出した。
「私の名前は、ルカ・リターナス。ルカって呼んでね。もう呼んじゃってるけど、私もアリエルって呼ばせてもらうからさ。これから、よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします、ルカさん!」
僕は笑顔で喋った。
が、ルカさんは眉をピクリと動かすと、僕に人差し指を突きつけて来た。
「ルカさんじゃなくって、ルカって呼んで」
「え?呼び捨てって、事ですか?」
「そう言う事。あと、その敬語じみた言葉遣いのもやめてね。同い年のクラスメイトなんだからさ。年上だったり、目上の人ならともかく、同学年とか、これから来るであろう後輩にも、敬語はやめたほうがいいんじゃないかな?相手に窮屈な思いさせちゃうかもしれないよ?」
淡々と語る彼女。
確かに、同学年の人とか、年下の人に対して敬語なのは変かも。僕、初対面の人と話すのは苦手だから、誰に対しても、いつも敬語から始めちゃってたけど……確かに、僕から見て目上じゃない人からすれば、他人行儀だったかもしれない。
僕は彼女の言葉に頷いてから言った。
「うん、確かにそうだね。僕、年上の人とか、目上の人以外には敬語は使わないようにするよ。わざわざ教えてくれてありがとうね、ルカ」
僕がお礼を言うと、ルカは少しだけ驚いた顔をした。
「ふふ、素直なのね。私、余計なお節介だって言われるかと思ったよ」
「そんな事言わないよ。それじゃあ改めて。これからよろしくね、ルカ」
「うん。よろしくねっ、アリエル!」
どうやら、僕の学院生活は上手くいきそうだ。
「さ、2人の編入生の紹介も終わった事ですし。授業、始めますよ」
エスプリ先生の言葉の後、始業のベルが鳴った。
あぁ、アリエルの周りにどんどん女の子が増えていく……男を増やさねば!!
それはさておき、どうですかね、アリエルがクラスで目立っているのが伝わっているでしょうか。伝わっているといいです。