異父兄
母との話し合いだったはずなのに、いつのまにか義頼と話し合うことになった俺。正直話すようなことはないと思っているが・・・今回は母の言うことを聞くことにした。
どうやら既に義頼側には話はいっているらしく、翌日には城での二人っきりの水入らず?の話し合いが決定した。
和丸や重政には反対されたが約束したことだ。今更反故にはできない。
もし仮に襲ってきたとしても、白虎を使って逃げることは可能だ。
そして当日。
俺達は重い足取りで登城する。既に義頼陣営はいるらしく、家臣たちの控室には、義頼の手足である、馬杉と黒田がいた。
この二人の横暴さはよく耳にするが・・・俺をちらりと見て無視を決め込む感じ、よく聞く話は本当なのだろう。
外様である二人が幅を利かせていることで、武田家譜代の家臣たちとは対立をしている。そういう所も、今回の家督争いに関係していくる。
「奥へどうぞ」
和丸と重政はそこに置いていき、俺一人だけが母の侍従に案内されて奥の部屋へと通される。
襖を開けると、一人の青年しかいない。
武田義頼、俺の異父兄。顔は母に似て整っているが、体つきは思っている以上にがっしりとしていた。鍛えられた筋肉に、随分と刀を使っていると思われる分厚い手。
「久しいな、孫犬丸」
俺を一瞥するなり、そう言う義頼に俺は座ってから答えた。
「お久しぶりです、義頼兄上」
俺の返事に何故かクツクツと笑う義頼。
「そうか、確かに久しいな。確か・・・一年ぶりぐらいか?お前は相も変わらぬ姿だが・・・お前から見て俺はどう見える?」
「?ええ、以前にも増して体つきが良くなったと思います。より武士、いえ、武将らしくなったと言いますか・・・」
少しだけ煽るように言ってしまった。だが、義頼はニヤニヤと笑みを浮かべるだけ。ここで俺を殺す算段でも付けているのだろうか?
「何だ、俺の顔をじーっと見つめて?何か付いてるか?」
「いえ、別に」
「母上から聞いただろ?二人だけで話し合えと」
「はい・・・」
「こうやって兄弟で水入らずで話すのは初めてじゃないか?」
「そうですね」
そうだが・・・義頼の様子がおかしい。いつものような横柄さはなく、牙を抜かれたような感じがする。
「実はな、いつかこうやってお前と二人で話し合いたかったんだ」
「???俺とですか?」
「ああ、そうだ。まあ疑われているだろうけど」
そう言ってまた笑う。
「なあ、孫犬丸。お前から見て、俺はどう見える???」
「それは―――」
「脅威か、それともただの道すがらにいる敵に過ぎないか?」
その質問に俺はすぐ答えることができなかった。
何故義頼はそのような質問をするのか?そんなの、義頼にとってはどうでも良いことであろうに。
「覚えているか、十年近く前、俺が金塊を探しに禁足地である若狭彦神社の裏山へ入ったことを」
ああ、もちろん覚えている。あそこから俺の、本当の天下統一の旅が始まったと思っている。あの時から、仲間が増え、やることも増えていった気がする。
「あの時、謎の霧か何かで俺達は意識を失った。曖昧な記憶だが、山の神を怒らせてしまったんだと思う」
「そう、でしたかね?」
「俺はな、ほとんど意識を失っていた。でもな、どうしてだか意識を取り戻す直前ぐらいでお前と誰かの会話が聞こえたんだ」
そう、なのか?
「これが本当にあったのか、俺の妄想か夢かは分からん。お前を問い詰めた所できっとのらりくらりとはぐらかすだろう。だがな、俺は確かにお前が『天下統一をする』と、誰かに―――山の神かそれ以上の存在のモノに誓っていたのを耳にしたんだ」
『主、めちゃくちゃ聞かれているではないですか!ガハハハ』
笑い事ではない。あそこで俺達以外は意識を失っているたはずだが・・・どうして義頼は聞こえていたんだ?いや、本人はあくまで夢かもしれないと言っているが・・・本人の表情的には、それが夢だとは思っていない。
「あの時の言葉、俺は今でも忘れない。天下統一という一度は考えるけど、現実的には不可能な所業をやると言い切るお前に、俺は畏怖した。あの言葉は夢であり、そんな事をする訳が無いと俺は思い込んできた。それでも、あの時の言葉は頭にこびり付く」
義頼は続ける。
「お前をこの十年近くこっそりと見てきた。気付いていないだろうけど、いや、警戒もしていなかっただろうけど、俺独自にお前の行動を調べていた。六角に行った事も、浅井で何かをやったことも、六角承禎(義賢)様から無理やり聞き出した。その他の事も少しだが把握している」
うっ、そうだった。
そもそも義頼は武田家である前に六角家の人間であった。そして、六角家の人間なのだから甲賀の忍者などへの伝手はあったはず。くそ、失念していた。
『主はそういう所の詰めは甘いな』
「別にそれらのことは誰にも言っていないから安心するといい。お前が裏で暗躍していた場も、つい最近やっと知れたばかりだしな」
「!!!それは、ですが、どうして、」
「最初の質問に正直に答えてくれ。お前にとって、俺という存在はどれぐらいだ」
俺はすぐには答えを出せなかったが、しばらくして口を開けた。
「俺の目指す、天下統一の通過点の一部に過ぎません」
「大きな障害か、それとも大した敵ではないか?」
「敵は敵です。ですが、俺には倒さなければいけないもっと大きな敵がいます」
「ふっ、そうだよな〜」
天を見上げる義頼の目は何処か悲しく、でも何故か嬉しそうだった。
「やっぱりそうだよな。お前、俺のことに全く興味がないだろ?」
「いえ、そんなことはありません」
「だったら、俺の最近の情報を知っているか?敵なら知っていて当然だろ」
「それなら、武藤だったりの遠敷郡豪族は―――」
「そういうことじゃない。例えば俺の子がもうすぐ産まれることだったり」
「!!!」
「本当は今年の秋頃に上洛する予定があったり」
「!!!」
「その上洛で官位をいただく予定があったり」
「!!!」
分かっていたように呆れる義頼。
「だよなーーー、お前にとって俺ってそれぐらいの存在だろ?敵ではあるけど脅威とは思っていない」
「いえ、」
「家臣とかに基本的には全てを任せていたんじゃないのか?家督争いが起こる日に備えて」
「ギクッ」
見事に当てられている。
俺は今年に起こる事件だったり、織田家の動向、三好家の動向を主に注視していた。義頼との家督争いは元々和丸や重政に任せており、こんなに早く始まってしまったことには結構焦ってはいる。
でも本当に義頼の言う通り。俺はそこまで目の前の敵を脅威とは思っていなかった。
我が儘で傲慢、目立ちたがりで承認欲求が強いという印象しか持っていない。だから特に動向には注視せず、京北武田家が大きくなる上での手駒としてしか見ていなかった部分も確かにある。
でも別に油断とかではなかった。ただ、義頼という人間を知ろうとはしなかった。俺が毎年対面して、重政達の報告を聞いて、全く脅威とは思えなかった。
そう演じていたのか・・・
『貴方は家族についてどう思う?』
昨日の母の質問を思い出す。
俺は周りの慕ってくれる仲間を意識していた結果、その他の俺と関わりのある人を見れていなかったのかも知れない。
よくよく考えれば、義頼は同姓同名であるこの”武田元明”と深く関わりがあり、何度か調べたことがある。
正史において、義頼は強い家臣を従えており、精兵かつ大力だった。若狭武田家の一員として将軍の上洛にも関わるぐらいであり、若狭武田家の家臣の中核にいたのは間違いない。
昔は横柄な性格でも、今では変わっているかもしれないと考えてはいなかった。
「申し訳ありません」
心からの謝罪だった。何に対してなのか、謝って何かが変わるわけでもない。ただ、自分こそが横柄な性格だと感じずにはいられない。
「何で謝るんだ?お前は間違っていない。天下統一をするという難題に比べれば、俺なんて脅威ではないと思う。
俺は変わったんだ。成長していくにつれて、子供の頃のように欲深かさが無くなった。自分の欲求より、俺を育ててくれたこの家を守りたいという気持ちが強くなっていった。多分、理解されないだろうけど。
「・・・・・・」
「当主なんて俺の器じゃない。お前を見ていると、余計にそちら側へと行けるとは思えなくなった」
「・・・もの凄く変わられたんですね」
「お前が知らない間にな。ハハハ」
俺はその返しに苦笑いしか返せない。
「まあ、何だ。俺とお前の進む道は違う。だから、ここでお別れだ。最後にこうやって話せてよかったよ」
「ま、待ってください!」
俺ままだ戸惑っている。
義頼がここまで大人になっていた事に、俺は気付けなかった。義頼を家族として見れてなかった。あくまで、敵という認識だった。
「ここでさよならだ。母上と父上を宜しく頼む」
そう言って立ち上がると、こちらを一瞥もせずに部屋を出ていった。
俺はいったい、どうすればいいんだ・・・・
次回は義頼視点です!




