TOKI(冒頭)
おまけ3
小学校高学年のころに妹からリクエストを強奪して書いてた中編。感謝が尽きません。リメイク予定。
(0)プロローグ
体に当たる一つ一つの雨つぶがうっとうしかった。ただ体力をうばっていく冷たい雨にうたれ、ずっとうずくまるだけ。
寒い。ひもじい。眠い。
つらさにたえ続けた彼女の心には、もう死んでしまいたいという思いさえ芽生えていた。
うつろな目で見上げた空には、ずっしりと暗い灰色の雲。
「おか……さ……」
かすれた声で呟いてみても、誰も来てくれないことは知っていた。もう泣くことさえ忘れて、この暗い路地裏に居るのだから。
たとえここが明るかったとしても、今にも死にそうな思いをしている彼女にとってはどこまでも暗い闇にしか見えない。
れんが造りの壁にもたれ、膝をかかえ、裸足の足をもう片方の足で交互に隠しながら過ごして、もう四日は経っていた。
――もう、あきらめよう。
俯き、自分の身体に任せて目を瞑った。このまま寝てしまえば、気がつけばもうこの世ではないだろうと思った。
「生きてる?」
ふと男の声がした。重たい頭を上げて声の主を見ると、その男は深い海を思わせる紺の、肩まである髪をゆらして笑った。
「なんだ、生きてるんだ。」
20代半ば、といった感じの格こう。あちらこちらにつけているアクセサリーが路地裏のかすかな光をあつめて光っていた。その時彼女は“不良のお兄さん”というふうに彼をとらえていた。
その彼は、やさしく笑って手をさしのべた。
「一緒に来る?」
その言葉に、手は自然にのびた。
まともな服を着ているだけで、ぼろぼろの彼女には彼が自分を救ってくれる神様に見えた。むしろ、違う世界の人のようにも思えた。
手をとると力強くにぎり、ひっぱられ、こしをおろしていた彼女は半ばよろつきながらも立ちあがった。
「名前は?」
強く彼女を見つめるその瞳は、かすれて出なかったはずの彼女の声をすんだ一つの言葉にした。
「結菜。」
「よし、結菜。行こう。」
ポン、と背中を押され、自然に足が動いた。
――体が重たく感じたのも、声がかすれたのも、自分がそう信じこんでしまったせいかもしれない。
そう思うと、少しの笑みがこぼれた。
歯車がくるい始めたのはきっとここから。
なにかがからまわりしたんだ。
きっと―――




