王様空回り劇場5~愛は与えよ
そこから流れが変わった。
魔力が足りない、これ以上の資金も投入できない。
私が魔力を得るために、世界の理に生贄に捧げると決めたのは、
『最愛に愛してほしいと求める気持ち』
だった。
最愛の人に愛されたい、私の中で最も大きな願望だ。
だがそうと決めただけでは効果がない。
駄目押しで、決して破れなくなる神殿誓約を行なった。これは破ろうとすれば天罰が落ちて破滅するほど強力なものだ。
両親や祖父といった王家の家族、側近たち、そして滞在していた仲間たちや、……最愛の前で宣言した。
『愛を捨てるから勇者を救う力を我に』
この瞬間から、私は我が最愛に対して一切の愛を求める言動ができなくなった。
私の神殿誓約への周囲の反応は様々だったが、一番反応したのはあのピンクの両生類、歌聖ピアディ殿だった。
「われ感動したぞ、友の親戚よ!」
「ピアディ殿……」
よりによって我が最愛の軍服の胸元にインしていた小さなウーパールーパーは、そこから飛び出した。
慌てて落ちないよう受け止めてくれた最愛の手の中で、ぷるんと半透明の身体を震わせ、ぷぅぷぅと勢いよく短い両手を振り上げた。
「おまえの覚悟に報いてやるのだぷぅ。われ、救いの祝福を授ける。よいか、よく聞くのだぞう……『愛は与えるもの!』」
「!? ぴ、ピアディ殿!」
私はハッとなって、彼か彼女かもわからないウパルパを見つめた。まだ幼すぎてこの両生類は性別未分化なのだ。
「われを見習えなのだぷぅ。われがいつ鮭の人に愛をもとめた? われは愛するウパルパ。だからかわゆい愛されウパルパなのだぞ」
「!」
鮭の人、とは我が最愛のことだ。実家リースト家はアケロニア王国では鮭の名産地で、本人も贈答品によく使うことからそう呼ばれている。
「愛されずとも、おまえが愛せばよいのだ。わかったなぷぅ!?」
「は、……はい!」
私は小さなウパルパの勢いに飲まれた。
……いや、あどけなくも自我の強いその言葉に胸を打たれた。
愛は、求めるのではなく、与えるもの……
このウパルパはこれでも歌聖、――歌の聖者でかつ神人である。本人の言う通り見事な祝福であり託宣だった。
普段はぷぅぷぅ適当な鼻息を吹いているだけなのに。やはり歌聖の称号は伊達ではなかったか。
ピンクのウパルパからは虹の煌めきをまとったネオンイエローの魔力が吹き出している。
日頃の傲岸不遜な態度を忘れそうになるぐらい、神々しく輝いていた。
神殿の神官たちなど感動のあまり跪いてウパルパを崇めている有様。
「あとちょっとだけ夢見に工夫してやるのだぷぅ。出血大さーびすなのだぷぅ~」
神殿から王宮に戻って、サロンで一息つこうとしたとき、ピアディ殿が思い出したように言い出した。
ぷぅっと息で虹色に輝く魔力を吹き出し、我々の前に大きな幕……半透明のスクリーンを作り出した。
しばらく待つと、そこには私が夢見を行ってきた光景が映し出された。
「完全に夢に入り込むと、夢とうつつの区別がつかなくなるぷぅ。これは夢の世界を覗く窓のようなもの」
宙に浮いたスクリーンを小さな手でビシッと指す。
確かに。完全に夢の世界に入り込むと日常生活がおぼつかなくなる。ここ最近の私は昼間でも少し頭がぼんやりとしていて、執務の効率がだいぶ落ちていた。
つまりこのスクリーンは、今ここの現実にいながら、夢の世界を空間に投影して観ることを可能にするわけか。
「魔王おばば……じゃなかった、ジューアおねえたまとつくったのだ。とっても高機能」
「ジューアお姉様と? ……くそ、なら最初から教えてくださればよいものを!」
「そういえばわれ、これをおまえに授けに来たのだった。いまおもいだした。許せぷぅ~」
何だかがっくり力が抜けてしまった。西の小国にいた頃もこの両生類には随分と振り回されていたが……マイペースすぎる!
しかし私を脱力させたのはこの後だ。
夢見スクリーンで映し出されたのは私が行った夢見、そして今も継続している『御米田ユウキの異世界・日本』の世界だ。
そこでの主だった出来事を、スクリーンの調子を確かめると言ってピアディ殿がダイジェスト表示させたものだから……
最初は良かった。御米田ユウキが祖母の家で暮らしていた幼い頃、居間の座卓で手作り料理を幸せそうに食べている家族の光景。
「おお。お前の幼い頃と同じ顔だ。お前にもこんな、いとけなく愛らしい頃があったなあ」
呑気に母が呟いている。
しかし小学校、中学校、高校、そして都会の大学に進学し、就職してからの、それぞれから切り取られたシーンが人間関係……特に女性関係ばかりというのは悪意あるチョイスではありませんかピアディ殿!?
先ほどまでの神殿誓約の神妙さや真剣さを一気に吹き飛ばしてくれてしまった!
「うっわ。ユーグレンさん、女運わっる……」
「私ではない! これは御米田ユウキといって、」
「いくら可愛くたってのう。さすがにこの女は選ばなくないか? 普通」
「や、おじい様、だからそれは、」
「ははは。ユーグレン様、色白巨乳好みだったんですねえ。初めて知りました」
しまいには我が最愛にまで笑われて、私にはもう立つ背がなかった。
「だから……これはあくまでも夢見のために作った分身であって……」
「あら。それは違いますよ、ユーグレンさん」
必死で言い訳しようとする私に聖女殿が小首を傾げた。
「夢見の世界は、可能性の世界でもあり、どこかにある並行世界でもあるのですって。だからこの『オコメダ・ユウキ』さんは、あなたの、あり得たかもしれない別の人生だわ」
「………………それは」
「カズンの前世を探るために、この夢見を行ってるのでしょう? なら彼もあなたの前世なのかも」
「来世かもしれんぞぷぅ! 夢見に時の流れはあってないようなものだからぷぅ~」
何やら頭が混乱して来た。
私は懐から手帳を取り出して書きつけ、簡潔に整理した。
夢見で私はカズンの前世、御米田カズアキとの接点を求めた。
過去の時間軸に御米田ユウキを発生させたが、私が今ここを起点にしているから、……ああ、なるほど。だから来世の可能性もあるのか。




