変身
グレゴール・ザムザは目を覚ますと虫になっていた。
わけがわからないのでザムザはとりあえず行きつけの泌尿器科へ向かった。
「ふうん、大変だね」
医者はさもどうでもいいといった風でザムザを診断した。
ザムザは少し焦った。
「先生、もうちょっと驚くとか不思議がるとかあるんじゃないですか?」
「いや、そんなこと言われてもねえ。まあ、お薬出しときますから」
医者はそう言って机の上にドンとこけしを置いた。
「何ですか、このこけしは?」
「薬だよ。もっとも昨日までの話だがね。目が覚めると座薬はこけしになっていたってね」
「こけしなっていたって言われても……」
「君だって同じようなもんじゃないか。わかったら馬鹿高い診察費でも払ってさっさと帰りなさい」
医者が気怠そうにそう言うのでザムザは馬鹿高い診察費を払い、こけしを袋に詰めて泌尿器科を後にした。
ザムザが家に帰ろうとしていると、もしもしと言って誰かに呼び止められた。警察である。
「何でしょうか」
「いえ、ちょっと職務質問を」
「グレゴール・ザムザです。ちくわの穴に角切りゴボウを詰める工場で働いてます」
「外国人か。ちょっとビザを拝見」
「あ、ビザは家に忘れてきたんです」
「何だと。もしかしたら不法滞在者じゃないのか。それに何だ、その手に持っているこけしは」
「これはこけしじゃなくて薬です」
「そんな言い訳が通用するか。どうせ中に麻薬でも隠しているんだろう! ちょっと署まで来てもらおうか!」
警官に腕を捕まれパトカーに押し込まれそうになったので、ザムザは必死に暴れて逃げ出した。
虫になっているのだから羽で飛べればいいのだが、生憎ザムザは羽虫では無いので関節をギシギシ鳴らして走るしかない。
ヒイヒイ言いながらザムザは警察を巻いて、自宅に無事帰還した。
「全く今日は災難だった」
ザムザは溜息を吐いて何かを悟ったように語る。
「そしてなにより一番の災難は、自分が虫になったことが一番の災難じゃなかったことだ」
グレゴール・ザムザはそう言い、夜空に向かって処方されたこけしを投げ飛ばした。
明日からは巾着の口をかんぴょうで縛る仕事が始まる。頑張らなくては。
ザムザは布団の中に入って目を閉じた。
次の日、グレゴール・ザムザが目を覚ますとザムザはボールペンのキャップになっていた。
ザムザは気にせずにそのまま職場に向かった。




