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神様の天罰計画

挿絵(By みてみん)

ジャンル:コメディ


 ここは宇宙の中心部。

 天体が行き交い、消滅してはまた生まれる、そんな宇宙。


「まったくけしからん!」


 そんな風に声を荒げて怒っているのはこの宇宙の創造主、神様とか何とか呼ばれている自称“超高次概念的存在”だ。

 “超高次概念的存在”と言われてもわけがわからないだろうが要するに宇宙で一番偉い存在という風に理解してくれたら幸いである。


 さて、さすが神様らしいと言うべきか、その概念的存在がわめき散らすたびに宇宙のエントロピーが崩れて星が二、三爆発するのである。

 はい、ほらまた一つボカーン、ドーン。バキューン、ズバーン。


 あーあ、今日はまた派手にやってるね。それにしてもこの轟音を何度も聞いてると鼓膜がどうにかなりそうだ。

 まったく、いい加減にしてほしいものだ。

「何か文句でもあるのか!?」

 うわっ、ナレーションに話し掛けないで下さい! 非常識だな。


「ふん。この創造主様の前では常識など何の意味も持たんのだよ」

 本当に何でもありですね、超高次概念的存在てのは。



 まあ、どーでもいいので話を進めましょう。

 ところで質問です。さっきからむやみやたらに惑星を爆破してますけど何にそんなに怒ってるんですか?

「よく聞いてくれた。いいか?この宇宙の創造主であるワシのもとへは全宇宙からの声が伝わってくるのじゃ! 『創造主様ありがとう』『神様のおかげです』という具合にな。」


 はあ、それだけ神様が色んな星で信仰されてるってことですね。

「じゃがしかし、ここ最近全く信仰の声も何も来ない天体があるのじゃ!」


 へえ、どこですか?

「地球じゃ!!」


 地球? 何でまた。

「あの小さな星には何百万もの手下を派遣しているのに全く音沙汰無しとは! 全く舐めくさっておるわ!」


 まあまあ、落ち着いて下さいよ。

「うるさいッ!! よしッ、もうワシの堪忍袋も我慢の限界じゃ。地球へと赴き天罰を加えてやろうぞ!」


 そう言うと神様は光となって宇宙の中心部から姿を消した。



 *



「ちょっと署まで来てもらおうか」

「おい、こら! 放せっ、放さんか!」

「――はい、こちら8号車。通報現場で暴れていた住所不定無職の若者を補導中」

「無職とは何じゃ無職とはっ! ワシは神様じゃぞ!」

「はいはい、詳しい話は署で聞こうな」



 遡ること30分前、東京渋谷の路上で一人の若者に痛い程の注目が集まっていた。

「ふふっ、愚民どもめ。ワシのオーラを目の当りにして声も出せないようじゃな」


 いや、全裸の人間がスクランブル交差点のど真ん中に突っ立てたら普通の人は言葉を失うでしょうね。

「な、なに!? 姿形まで愚民どもと同じにしたのにダメなのか!?」


 ダメです。天罰どうこう言う前に捕まりますよ、アンタが。

「うぬぬ、仕方がない。おい、そこの金髪ピアス! 貴様の服をよこせええええ!」


 歩いていた金髪ピアスのチャラ男に襲いかかる全裸の神様。

 何かを叫びながら必死で逃げるチャラ男。

 人混みから次々とあがる黄色い悲鳴。

 全裸の若者から逃げる人の波、泣き叫ぶ女子。

 全裸の若者を撮影する写メの音。

 車道に逃げる人々、急ブレーキでタイヤが焼ける臭い。

 ぶつかり合う車の破壊音、鳴り響くパトカーのサイレン。

 そこはまさに現代の地獄絵図だった。



 というか、神様なら服ぐらい自分で何とかできるでしょう?

「おお、そうじゃった」

 全裸の神様が両手を挙げて何やらブツブツと唱えると、全裸の神様の体は月に代わってお仕置きをするヒロインのように一瞬にして衣服に包まれた。


 本当に何でも有りですね。

「神様がストリーキングで捕まってしまっては元も子もないからのう」


 そう言って神様は人混みの中へと進んでいく。神様が服を着たせいか周りの人たちも神様には目も向けない。

 さっきまでギャーギャー騒いでいた群衆も落ち着きを取り戻し、駆け付けた警察も一般人と化したストリーキング……もとい神様を見つけだすことはできなかった。

 よくよく考えればそんな簡単に騒ぎが治まるわけがないのだが、何かの撮影の類だと思ったらしく本当に騒ぎは一瞬で治まったのだ。

 現代人の無関心と傍観者精神の賜物なのだろうか。いや、そういうことにしておいてほしい。



 *



 群衆の中をぐんぐん進む神様。

 すれ違う人と肩がぶつかろうが足を踏もうが、まったく気にせずズンズンと我が道を歩んでいた。


 あれ? 天罰はどうなったんですか?

「天罰落とすだけならわざわざ地球まで来んわい。まずは何で地球人がワシに無関心なのかリサーチする必要があるのじゃ」


 リサーチ?

「そうじゃ、マーケティングの基本は自らの足による実地調査じゃからの。原因の究明とそれに基づいた考察が適切な問題解決策を生み出すのじゃ」


 冒頭で理由も無しにたくさんの星を潰した人の台詞とは思えませんね。

「うるさいっ!」



 おや、知らない外国人が近づいてきましたよ。


「アナータは神を信じまースカ?」

「ワシが神じゃ!」

 あまりにベタな台詞を吐いた外人に対して、神様もこれまたベタベタな返事をしてしまったのであった。

 もう、これは『山』と聞かれて『川』と答えるぐらいベタな返答じゃないでしょうか。


 まあ、それは良いとして、何やら神様はご立腹のようです。襟を掴んで外人をキリキリと締めあげてます。

「そもそも貴様からはワシに対する敬意が1ミクロンも感じられんぞ! 『神を信じまスカ』などとほざいておるくせに」

「OH! ジーザス! この哀れな仔羊をお救い下さい」

 食って掛かる神様を頭のイタい若者だと思い、外人は天を仰いで祈りのポーズをした。


 そう言えば、ここで豆知識。

 よく外国映画で「ジーザス」と叫ぶシーンがありますがこの「ジーザス」というのはイエス・キリストの英語読みで「ジーザス・クライスト」のことだそうですね。

「オー、マイゴッド(ああ、私の神様)」と同じようなニュアンスなのでしょう。


「何? それは本当か」

 ええ、そうですが何か?


 気付けば神様と外人の周りに黒山の人だかりができていた。

 その群衆を見渡した神様の表情は困惑の色を示していた。


 イエス・キリスト、アッラー、釈迦、手塚治虫、キラ……群衆の頭上にそれぞれ信仰する神の名が記されているのである。

 もっともそれは神様だけにしか見えないのだが。


 説明しよう。神様の眼は人々の信仰する神すらも暴くことができるのだ(もちろん神様の常識を無視した能力さ!)


 ところで何なんでしょう、手塚治虫ってのは……。

「お主、漫画の神様を愚弄するなりか!?」

 だ、誰ですか、あなたは!?

「禁則事項なり」

 もう、話がややこしくなるからどっか行って下さい。




 さて、話を戻しましょう。

 ムラムラ群がった群衆を見て神様が困惑しているところからです。


「な、何ということじゃ」

 群衆の頭上を見て唖然とする神様。それもそのはず、神様にとってキリストだの何だのは……


「クソッ、奴らやりおったな。ワシが派遣した部下(・・・・・・)を愚民どもは信仰していたというのか!」


 どうやら、神様は直接手を下さずに部下を派遣して色んな惑星から信仰を勝ち取っていたようですね。

 でも、地球に派遣された部下は自らが信仰対象となってしまった、と。


「奴らめ、ワシの目の届かん所で好き放題やりおって……許さんぞッ。この星もろとも破壊してくれるわッ!!」

 神様はアニメキャラが必殺技を出すように右手を天高く挙げて、関節が外れるのではないかというくらい思いっきり振り下ろした。


「天罰覿面(てきめん)! 神の雷霆!」


 しかし、振り下ろされた右手の先……というか指の先で小さな静電気が申し訳なさそうにパチパチしていた。



 世界が至って平和なまま、時報は12時をお知らせします、ピ、ピ、ピ、ピーン。



 さあ、冗談はさておき、そのちっこいのが“神の雷霆”なんですか?

「そんなワケなかろう!しかし何故じゃ、何故天罰が落とせんのじゃ!」


 神様は応援団ばりに何度も手を挙げたり下げたりするものの指先の静電気は小さいままだ。


 もしかして、神様が信仰されてないからじゃないですか?

「ぬ?それはどういうことじゃ?」


 天罰なんていうのは、いわば信仰の権化みたいなものですよ。

 愚民たちからの信仰のエネルギーを使うことで神様は神様らしい力を使うことができてたんです。

 宇宙では神様の元へ多くの信仰が集まってましたが、地球(ココ)では神様を信じる人は誰一人いない!

 つまり信仰パワーを失った神様はまさに無力!


「ち、ちょっと待たぬか! 信仰パワーが無いといってもさっき服を思い通りにできたし、それに宇宙全土からの信仰パワーもあるではないかッ!」


 うーん、それはたぶん地球に来たり、人間の姿になったり、服を出したりしたときに今まで貯めてた信仰エネルギーを使いきっちゃた、とか。

「え、そんなに信仰エネルギーの蓄えって少なかったのかのう?」


 いやいや、だって神様が地球に来る前、『わしの体を全部地球に持って行くのは重くて面倒じゃから大部分は置いていくことにしようかの』とか言って本体はほとんどあっちに置いて行ったじゃないですか。


「じゃ、じゃあその概念体をこっちに呼び寄せればワシの力は戻るのか!」

 そういうことになりますね。ちょっと計算してみましょう……。

 あー、無理ですね。本体がこっちにあるんで地球に届くまでに五十六億七千万年かかります。


「そ、そんな。な、何とかならんのか?全宇宙からの信仰パワーがあるではないか」


 無理です、何ともなりませんね。

 そもそも、神様が概念的存在であるかぎり“信じ”られなければ神としての神様は存在ししませんからね。

 いくら全宇宙からの信仰パワーがあっても、神様を信じてない人たちにとっては“天罰”なんてコト自体存在しないんですよ、たぶん。


「な、なんじゃと!?」


 なんと信仰対象である神様は信仰されなければ力も持てない無力な存在だったのだ。

 鰯の頭も信心からと言うけど、今の神様は鰯の臓物にすら劣るほどの弱者なのである。




「フフフ、ハハハハハ!」

 狂ったように笑う神様。

 それを哀れむ外人、アーメン。

「うるさいッ。まあよい。おい、“信仰心”が必要な“天罰”は効果が無いのじゃな?」

 一応はそういうことになりますね。


 すると何を思ったのか、神様は再び両手を高く挙げた。


「異常気象!!」

 神様がそう叫ぶと空はみるみる暗くなって雨が降りだした。


 すかさず轟音が鳴り響いて目の前がピカッと光った。


 ……落雷ですか。

「そうじゃ。“天罰”が無理でも“異常気象”であれば有効であろう? ワシは創造主じゃぞ、“異常気象”を創り出すくらいわけないわ」


 何と言うか、本当に何でもありですね。

「さあて、とりあえずは雷を落としまくってそれから富士山でも噴火させてやるかのぅ?」


 悦に浸ってるトコ悪いんですが、さっきから何百発も雷落としてるのに一つも人に当たってませんよ。

「何じゃと!?本当じゃ、雷がみな歩行者を避けておる」


 神様の眼には群衆の信仰オーラがはっきりと見えていた。

「部下どもへの信仰心が愚民どもを守っているというのか……」

 そのようですね、コイツはやっかいだ。


「クソッ、手下どもを直接どうにかせんとならんらしいな。よしッ、手下ども覚悟しておけええぇぇえぃ!!」


 神様は部下の名前を次々と天に向かって叫んだ。




 ……何にも起こりませんね。

「奴らめ、ワシの言うことも聞かんとは! こうなったらこの宇宙を全て消してやるッ!!」


 ち、ちょっと待って下さいよ。あっちから何の返事もないなんて流石におかしいでしょう?

「ならば、どうなってるんじゃ?」


 そうですね………信仰心?


 そうですよ、神様に人々の信仰心が届かなかったように、神様が部下さん達を信用してないから神様の声が届かないんですよ、きっと。

「ならばまるっきり打つ手が無いではないか。こうなったら……」



「直接接触攻撃による実力行使じゃ!!」

 人混みで暴れだす神様、群衆に殴りかかろうとする神様。

 あちこちで挙がる悲鳴、鳴り響くサイレン。

 駆けつける警察、捕まる神様。

 静かに鳴り響く手錠の音。


「おい、こら。放せっ、放さんか! ワシは神様じゃぞッ!」

「はいはい、詳しい話は署で聞こうな」



 神様を乗せたパトカーが真っ赤な夕日を背にビル街へと消えていく。



 *



「まったく、ひどい目にあったわい」


 ここは宇宙の中心部。

 天体が行き交い、消滅してはまた生まれる、そんな宇宙。



 パトカーの中から急に消えましたからね、今頃地球の方じゃ大騒ぎになってるんじゃないですか?

「そんなこと知るか!」


 ……それより“天罰”はいいんですか? ここなら地球を消すことぐらいはできるでしょう。

「確かにやろうと思えばできるが……」


 できるが?

「なんかこう、また失敗しそうでのう……」


 確かにそう簡単に消えそうにないですよね、あの星。予想の斜め前を行くというか何というか。

「もう地球はいい、ほっとこう。ワシは疲れたのじゃ、もう寝るぞ」


 神様がそう言うと宇宙は静かになった。




 かくして我らが地球は神様の天罰の手から逃れることができたのであった。


【完】


「うるさいぞッ! 静かにせんかッ!!」

 だからナレーションに話し掛けないで下さいって!!




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