本番
リハーサルも終わり、いよいよ本番が近づいてくる。
1組目の番が終わり、2組目のバンドの出番が始まった
「盛り上がってますかー!」
ボーカルが煽ると、会場全体から大きな歓声が上がる
ドラム、ギター、ベースだけのスリーピースバンドだが、とにかく迫力は凄かった
「明日の景色が美しくなりますように…」
最初の迫力とは反対に、曲はとても繊細だった
少し前に流行ったバンドのリスペクトなのだろうか、応援ソングの様な歌詞と優しいメロディーで見る人の心を掴んでいた。
舞台袖でチューニングをしながら聴いていると、隣で水瀬先輩が何かを書き出す
「水瀬君何してるの」
「良い歌詞思いついたから忘れないように書いてる」
水瀬先輩はパッと思いつくとどこでもメモ帳を取り出して歌詞を書いている。
僕は構わずに次に迫った出番への準備を整える
1グループ3曲ほどの短い持ち時間なのであっという間に僕たちの出番が来た。
暗いステージの上に立ち、一人スポットライトにあたる水瀬先輩を見ていた。
水瀬先輩はスタンドマイクの電源をそっと入れて話し始める
「こんにちは!櫻崎高校軽音楽部です!」
先輩は練習の時に新橋先生に言われたように少し声のトーンを上げて喋っている。
少し見慣れないが、その方が良いと思った。
「えー何度かこのイベントには出させてもらってるんですけど、今年から新たにメンバーが加わって、現在は4人で活動してます」
少し間を置いてもう一度口を開く
「今年の新入生はアツい子ばっかりなので、こっちも負けないように全力で盛り上がっていこうと思います!」
その言葉と同時に花咲先輩のカウントが始まる
「君たちみんな口を揃えて、誰が悪い?君が悪いって、証拠不十分な容疑で、取り締まって揚げ足取って…」
この曲はギターのパートが比較的簡単なので、落ち着いて一つ一つを丁寧に弾いていく
『モンスターの主張』と言う新曲で、誰かの前で披露するのはこれが初めてだ
「後ろ指さして笑い、挫ける心突き刺して
聞きなくないもの全てブロック、都合の良いように情報操作
身勝手も良いところだよ…」
これまでに聴いたことのないような力強い歌声で先輩は歌う。
「嘘の涙の裏に隠れた笑顔で、この曲を聴いてみろよ…」
ギターソロに入り、一層気を引き締める
練習の時の様に、一音一音を完璧に弾いていく
速弾きもタッピングも、練習の時以上に上手くいっている気がする
ネックの上で指を滑らせてギターソロを終える
「視野が狭いくて言葉の選べないような、醜い存在にはなりたくない…」
水瀬先輩は先ほどよりも力強い歌声で歌う
大山先輩もそれに負けないようにコーラスをする
「誰の言葉も信じない、誰も誰かを愛さない」
先輩が歌い終えると、会場から拍手が巻き起こる
その余韻に浸るまもなく、次の曲のカウントが始まった




