リハーサル
1ヶ月後の土曜日、朝から新橋先生の車でライブ会場へと向かった。
会場へ入ると合計で7組ほどのバンドが待機していた。
行きのコンビニで買ったペットボトルの水はもう空になっているのに、まだ緊張で喉が渇いている。
チューニングを終わらせたギターを両手に抱えて待機場所へ歩く。
僕たちの出番は3番目、ギリギリまで練習をする
「全体リハーサル始めるので1番目のグループから並んで下さい」
そう言われて並ぶが、ずっと嫌な震えが止まらない
物心ついた頃から緊張すると頭が回らなくなってしまい、ミスることも多い
そしてそれが不安でより緊張が高まる悪循環が生まれるのをどうにかしたい
そんな事を考えていると大山先輩が声を掛けてくれた
「青海君、やっぱ緊張しちゃうよね。僕も最初すごい緊張したよ」
「そうなんですか?」
「うん、でもいざ始まるとすっごく楽しくて緊張なんて吹っ飛んじゃったよ」
「すごいですね」
「だから、深く考えすぎずにさ、初めてなんだから失敗だってする。でも失敗だって楽しんじゃえばどうでも良くなるから」
僕はハッとした。
そうだ、楽しむために入ったはずの軽音部で失敗ばかり恐れて楽しく無くなったら本末転倒だ。
「ありがとうございます、すごく為になります」
「それなら良かった」
大山先輩はそう言うと水瀬先輩の方へ向かって走っていき、何かを話に行った。
「次は櫻崎高校のみなさんチェックお願いします!」
スタッフの人に呼ばれてステージへと向かう。
スポットライトに照らされたステージから薄暗い観客席を見てみると、他のバンドメンバーたちが準備中だった。
リハーサルでは時間短縮のためにラスト1曲だけを演奏する事になっているので、早速始める事にした
カッカッカッ…
ドラムスティックの合図から曲が始まる
部活初日に水瀬先輩が作った曲、『シャトルラン』のイントロと共にピアノの音色が響く。
水瀬先輩はいつもよりも少しトーンを落とし、高音は出さずに力を抜いて歌っている
本番に備えているようだ
「走る横顔を、見ていると感じる、情熱に溢れたその笑顔に…」
力を抜いていてもわかる綺麗で繊細な歌声は、観客席で準備をしている人たちの耳にも届き、ライブ会場は先輩に釘付けになっていた。
「キミが立ち上がって叫ぶ『ガンバレ』」
先輩が歌い終わると、どこからともなく拍手が起きる
水瀬先輩はそんなことは興味が無さそうにスタッフの方へと行き、音響などについて相談している。
リハーサルの緊張感に胸を高まらせながら僕はステージを後にし、待機場所へと向かっていった。




