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弔いの旅路  作者: クジラ
ミミゼラブル後編 その剣を手にする者
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追いかけ道中

 360度、見渡す限り真っ平らな大平原。その境界線に突き進むエスタ教官の後塵を拝する。


「いい感じだ。身体がバカに軽い」


 自身の絶好調を肌打つ風から悟った。


 常に追い風が吹いているようなこの感覚、到底俺ひとりの力では到達できなかった境地だったろう。


 ガウ、モッコ、マク、スタッドさん。みんなと互いに励まし合い、思い合ったからこそ至った。


 自分の力をひたすらに信じてみたくなる、この底抜けた明るい気持ちに。


 訓練が辛くて弱音を吐いてしまった時があった。そんな時は、ガウから『お前はいつも悲観的なんだよ、もっと笑え、やる前から無理だなんて言ってたら、ほんとにできなくなっちまうぞ』って、おふざけを交えながら陽気に諭してくれた。


 サボってしまった時があった。そんな時はモッコが『ナイト。僕もお供していいですか? 時には休息だって必要ですから、え? 怒られる? ははっ、気にすることはないですよ。僕も一緒に怒られてあげます。また明日から頑張りましょう! 約束ですよ! ええ!』嬉しかったな、あの言葉。次の日、身体を無理に叩き起こして訓練に出たっけ。


 順位を落とし落ち込んでた時は、いつも隣にいてくれたマクが『大丈夫だよナイト。ナイトは頑張ってるもん。ボクはいつだって見てるから、そのナイトのひたむきなところ、だからそんな顔しないで。あっ、そうだ! むしゃくしゃしたらボクを殴っていいよ! ナイトになら、全然……大丈夫だから。えへへ』当然殴りはしなかった。冗談……だったんだよなあれ……俺に発破をかけるための……屈託のない笑顔が逆に怖かった。


 みんなの不安事は、いつもスタッドさんが親身になって話を聞いてくれる。その度にみんな元気になって、ガウの言ってたことが、だんだんわかってきたんだ。


 暗い気分のままする訓練はしんどいし身が入らない。でも、明るい気持ちになって挑めば、訓練はいつもより気合いが入ってたくさん頑張ることができた。


 知った。明るい気分でいることさえできれば、いつもより頑張る力が増えるってこと。


 思い返せば俺が家に引きこもってた時は、すごく後ろ向きだった。すべてを諦めていた。悪い方向にしか物事を考えなかったから。裏を返せば、頑張る力がなくなっていた状態だったんだろう。


 神託で尻を蹴飛ばされるように家を出てから初めて前向きになれた気がする。


 いや、違うか。


 前を向きたいんだ。


 頑張る力をもっと増やすために。


 実際のところ俺は、ミミゼラブルに参加するような落ちこぼれかもしれない、けど。


 その事実をねじ曲げたって、誤認するべきだ。


 想像する未来は明るい未来。


 頑張ればきっといいことがある、みんなに褒めてもらえる、認めてもらえる、ほら、甘い匂いがしてきた。


 これを嗅いでなきゃだめなんだよ。


 肺いっぱいに広がる。一呼吸のたびに鼻腔を刺激する、美味しそうな香り。


 常に臭ってないとだめなんだ。


 じゃなきゃ、頑張れない。


 考えに考え尽くした強くなるための秘訣。


 なんて、なんて弱い。


「強さなんだろうか……」


 不意に後方に引っ張る力が働き、思わず俺はククポの上で仰向けになった。


 天に燦々(さんさん)と輝く太陽が俺を照らしつけていた。ぼーっと見つめ手を伸ばす。


 太陽を握る。いや、ただ握ったわけじゃない、そこになにかがあったからこそ握った。


 決意、希望、そんなだいそれたものが、確かに今、俺の手の中にある。感触でわかる。輪郭が鮮明にわかる。


「ククポ……落ち着いて……まだ大丈夫だから……」


 鼻息荒くするククポの背中を優しく撫で、減速を促す。俺のやる気が伝染してしまったのだろう。少し冷静にならないと。せっかく加速してくれたククポには悪いが、本気のエスタ教官を追うのだ、勝負どころは今じゃない。


 腹筋を駆使して、無理矢理体勢を戻した。


「ん? なんだ……?」


 前方に違和感。


「向かってくる?」


 距離にして1キロは先、それはエスタ教官の辿る道先からやってきた。いや、ほんとなんなんだあれ……。


 とにかくこのままではぶつかってしまう。重心を右に傾け移動するが、


「いやほんとになんなんだよこれぇ!」


 はっきりとその物体が目視できる距離に迫ってなお、知見から答えを導き出せなかった。


 ものすごいスピードで迫りくるそれは、目の前を横切ってまだ不明。後方へ去りゆくそれを凝視に凝視して、やっと推測を立てることができた。


「草? なのか?」


 最初は大量の紐が飛来してきたと見紛ったが、どうやら追尾してきたのは紐状の草のようだ。


 冷や汗もんだ。やばいだろこれ。確かディエゴが作った芸術品は護送車と言っていた。護送だ。護る。


 エルフの力の凄さはミュウルを通して体験している。


 それが今まさに俺に牙を剥いているのでは? 後ろからついてくる俺を敵だと認識して。


 鳥の群れかと見紛う紐状の草たちは案の定、くるっと回転し俺追ってくる。


「やっ、やっぱりねぇええ〜!」


 エルフの力に追われる俺。足元を絡め取るように迫ってきた草を飛んで交わし、空中でその叫びをあげた。



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