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神堕としの王  作者: 皇洵璃音
7/8

幼い魔王とへっぽこな黒幕

揺れ動く感覚が、ふっとなくなった頃だったか。

真正面から先に逃げたライゼルとナタリアの声が聞こえる。

とても心配していたのか、ナタリアは泣いている。ライゼルは混乱していて何を言っているのかわからない。

困ったな、すごく大変なことになっている。

アイゼが一人で対応しきれなくなったようで、僕の名前を何度か呼んでいる。


(……うん、一旦起きた方が良さそう……)


なんとか眠い目を開けて、真正面の二人を見た。

僕が目を覚ましたことに気づいたようで、ナタリアが泣き叫びながら抱き着いてきた。


「アオしゃまぁああああ!!!よがっだぁあああ!!」

「うぐっ……!な、ナタリア、すごく……力がつよっ……」

「ナタリア、落ち着いて!やっと目を覚ましたアオ様があの世に行ってしまいそうになっているから!」


まさか抱き着いた時に首まで絞められるとは思わなかった。少し綺麗なお花畑が見えた気がした。

なんとか解放してもらい、咳き込みながらもメンバー全員の無事に胸を撫でおろした。

背中に心音と暖かい感触がする。ふと、顔を上げるとそこにはアイゼの赤い顔があった。

どうやら僕は今、あぐらをかいて座っているアイゼに後ろから抱きしめられている様子だった。


「ごめんね、ライゼル、ナタリア。不安にさせちゃって……」

「本当に心配しましたよ……まさか、アイゼと一緒に残るとは思わなかったです……」

「ふふ……あの時、アイゼだけだったら僕が望まない結末になっていたからね……アイゼ?」


少しだけお腹に回している腕の力が強くなる。それと、首筋に吐息がかかった。

首元に顔を埋めているからだと思う。後ろにいるから、詳しくはわからないけどすごくドキドキしてしまう。

マーキングするように、顔をぐりぐりと首元に摺り寄せている。本当に猫みたいだ。


「……どこにも行かないように、マーキングした」

「ふふ、ふふっ……アイゼは本当に……子猫みたい……」

「俺が子猫なら、アオが飼い主だろ……飼い主が先に死にかけてどうすんだ」

「うん……ごめんね、アイゼを置いていなくなったりしないから。ね?機嫌を直してくれる?」

「……ん」


小声で、正面にいるライゼルとナタリアが「ねこちゃん……」と呟いている。

アイゼにも聞こえているとは思うけど、アイゼ自身は僕が居なくならないか不安で仕方がなかったようだった。

しばらくスリスリした後、ようやく顔を上げた。


「と、とにかく!俺たちも無事だし、二人もまだ大丈夫そうだな?」

「えぇ、まだ行けそうです。ナタリアは?」

「私も全然行ける!でも、アオ様はどうするの……?」

「俺がおんぶして連れて行く。下手にここに残したり、帰らせるのは危ないからな」


チームメンバーが全員一致したようだ。

僕はまたアイゼに背負われて、さっきまでいた道へと進んでいく。

最後の分岐点もまた全方位に扉があるという状況だったが、自然とアイゼが扉を選んでいた。

宵闇の地下道を抜けると、すぐに魔王城内部へとたどり着いた。

おそらくここはエントランスだろう。特に守っている魔物たちの姿はなく、さくさく探索が出来ている。

魔王の気配を感じていた僕が、指さす方向へと進むとエントランスにあった扉以上に異様な雰囲気を出す扉があった。

ゆっくりと開け、中に入ると歪な金の玉座に座る中年男性と横には言っていた通りの魔王の姿がある。


「おやおや……よくぞここまでたどり着きましたねぇ……まさか、両殿下ご健在とは……!」

「やっぱり、てめぇが黒幕か!アオ、下ろしても大丈夫か?」

「うん……大丈夫。あ、あの子が魔王なんだね……?」


ゆっくりと下されてから取り出した本を胸に抱いて、アイゼの横に立つ。

すると、僕の姿を見た魔王が、なんだろう。揺れてる。ゴムみたいにぐりんぐりん動いている。


「な、なんだお前は……!おい、魔王!さっさとあいつらを殺せ!」

『……まま、まま……まま、だ……』

「は?何をおかしなことを……!父親の言うことが聞けないのかっ!」

『……う、うぅ……ごめんな、さい……ごめんなさい……』


横のサイドテーブルに置いてあった鞭を手に取ると、その中年男性は魔王を打ち始めた。

なんて酷いんだろう。父親と言うのなら、暴力で教えることは最悪の手段だ。


「やめてください!その子は怖がっていますから!」

「はんっ、こんな知性が赤ん坊な奴には暴力が一番いいんだ。邪魔するな!生臭坊主!」

「……そうか……つまり、魔王が言うことを聞いていたのは父親から怒られたり嫌われるのが嫌だったからか……」


何本もある黒い手が自分自身を必死に守ろうとしている。

ライゼルが冷静に分析している横で、アイゼが剣を抜くと思いっきり中年男性の顔の横に投げた。


「ひぇえええ!く、くそ、この死にぞこないが……!魔王!さっさとやれ!」

「うるせぇ、父親らしいことを一切しない外道に文句を言われる筋合いはないぞ」

「は、はは!何を言うか。この魔王からはずっと父親として慕われているんだ。それを今更……ん?」


再び中年男性が鞭打ちをしようとした時、魔王はぶるぶる震えながらゆっくりとこちらに向かってくる。

攻撃をしてくるのかと思ったアイゼが、咄嗟に僕の前に出る。

けれど、これは違う。母親に助けを求めているんだ。


「アイゼ、僕は大丈夫だから……ほら、おいで?私たちと一緒に行こうか」

『まま……まま……ぁああ……まま……!』


魔王の真正面に立ち、両手を広げていると震えながら擦り寄ってきた。

この子は何も知らなかったから、悪人を親だと思って従ってしまったんだ。

人を殺すことが悪だと、誰にも教えてもらえなかったからやるしかなかった。

無知とは大罪であると誰かが言っていたけど、この子はまさにそうなのだろう。

それでも、ここでこの子を受け入れないと最悪な結末を迎えてしまう。

黒い巨体が、小柄な僕の胸の中ですすり泣いている。背中まで手が回らないから、肩の辺りを優しく撫でる。

すると、魔王の姿がだんだん小さくなっていく。

気づいたら僕の腕の中にすっぽり入るサイズになっている。顔をあげたら、魔王は黒い子犬になっていた。


「あ、可愛い子犬」

「わんわんになっちゃった」

「は、はぁあああ?!な、何故だ?!何故そのような姿に……?!って、うひゃああ!」


椅子から立ち上がり、子犬を奪い取ろうとする中年男性の前に立ち塞がったライゼルとアイゼから剣を突き付けられた。

まともな攻撃手段を持たないようで、前と後ろから突き付けられたその男は大人しく捕まることを選んだ。

この場で切り伏せるのかと思ったけど、そうはしないらしい。

帝国には帝国のルールがあり、その上で罪状を決定する。

男が逃げないように厳重に能力封印と、拘束を行った姿を見ると本当に二人は手慣れていた。


「さて、黒幕を捕まえたことだし、帝国の首都へ行きましょうか」

「そうだな。アオ、ナタリアも一緒に来てくれないか?」

「もちろん、いきまーす!アオ様も行きますよね?!」

「ふふ、もちろん同行させて頂きますよ。君のことも、皇帝陛下にお伝えしないとね」


君、と呼んだ黒い子犬は大きく、きゃうん!と吠える。

小さくても元気いっぱいだ。

こうして僕らの魔王討伐はあっという間に終わりとなった。

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