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後編

 私たちの戦いが始まりました。


 アイザック様はその日のうちに私の手作りチョーカーを手に旅立たれました。


 私はモーガン子爵家の家令の手助けを得ながら、古着と手作り装飾品の商売を軌道にのせるため、奮闘しました。


 最初は母の古いドレスや装飾品から始めました。

 もともと質の良いものばかりでしたので、ちょっとしたお直しや装飾で見違えるようなドレスに生まれ変わりました。


 社交界でも評判を呼び、私の商売は順風満帆でした。

 注文が引きも切らず、私は寝食を忘れて働きました。


 アイザック様は相変わらず旅から戻られてはいません。

 ジョシュア様とローズ様は相変わらず噂の的です。


 そして私は無理が祟ったのでしょう。

 半年を過ぎた頃高熱を出して倒れたのです。

 邸で何日も高熱に魘されているうちに私は気を失ったようでした。



 気がつくと私は知らないお部屋に立っていました。

 天蓋付きの寝台にはローズ様が泣き崩れています。

『ローズ様』

 声を掛けますが、ローズ様には届かないようです。

 私、もしかしたら死んでしまったの?


 ローズ様は手に枯れ果てた花冠をお持ちでした。

「ザック、何処にいるの?

 私、結婚させられてしまうわ。助けて」


 ザックとはアイザック様?

 ジョシュア様との結婚をお望みではないのでしょうか?


 そんな事を考えていると、

「アリア!」と私を呼ぶジョシュア様の声が聞こえます。

 何度も、何度も。


「ジョシュア様のところへ戻らなければ」

 そして私の意識はまた消えました。


 次に気付いた時は自分の部屋で寝ていました。

 寝台の傍らにはジョシュア様がお顔に苦悶の表情を浮かべ私の手を握っておられます。


「アリア、私を置いて行かないでくれ。

 私を嫌っていても構わない。

 生きていてさえくれれば、それだけで十分だから」


 これも夢でしょうか。

 私はジョシュア様の手をそっと握り返します。


「アリア!」

 夢では無いようです。

 ジョシュア様は私をそっと抱きしめて、それから侍女を呼びました。


「アリアが目を覚ました。

 おば様と医者を呼んでくれないか」


 ちゃんと目を開けると、間近にジョシュア様のお顔があります。

 私の心臓が激しく鼓動します。


 ジョシュア様は赤らんだ私の額に手を当て

「顔が赤いな。まだ熱が下がらないのか」

 と心配されています。


「ジョシュア様、私はもう大丈夫です。

 熱も下がりました」


 そこへ母が泣きながら入って来ました。

「良かった。あんなに無理するから」


 お医者様に診察していただき、もう心配ないとお墨付きを貰ってもジョシュア様と母は私から目を離しませんでした。

 特にジョシュア様は側を離れようとしません。


「ジョシュア様、騎士団へ行かなくてもいいのですか?」


 心配になってお尋ねすると、

「団長の許可は取ってあるから大丈夫だよ。

 アリアは元気になる事だけ考えて」

 そして優しく頭を撫でてくれます。


 どうも私が良くなるまで側についてくださるおつもりの様です。


 騎士団は本当に大丈夫なのでしょうか。

「でもこんなにお休みしたら、お立場が悪くなりませんか?」


「いいんだ。

 あんなくだらない任務を押し付けられたせいでアリアを失うところだった。

 副団長には反省して貰わないと」


 くだらない任務って何の事でしょう。


「任務だったから話せなかったけれど、もうそれも終わったから本当の事を言うよ」


 本当の事?


「私とベネット侯爵令嬢の事だよ。

 あれは擬装。

 ベネット侯爵令嬢は大勢の求婚者に追いかけ回され、挙句腕力に物を言わせようという輩まで出たので、近辺に護衛を配備していたんだが、うちの副団長がバカな事を考え出してね」


「擬装?バカな事?」

 ジョシュア様はまた、私の頭を撫でます。


「ベネット侯爵令嬢に決まった相手が現れれば、求婚者たちも諦めるのでは無いか、とね」


 私はびっくりして息が止まりそうです。


「それで何故か私が指名されたんだ。

 勿論、断ったよ。

 ベネット侯爵令嬢がきちんと相手をお決めになればいい事だ」


 そうですよね。

 でも、何故か私がって、この場合ジョシュア様くらいぴったりの方はいませんよ?


「ただ、しつこく言い寄る相手のひとりがヒル公爵の子息だったから、事が複雑化してね」


 私はハッとしました。

 あの社交界のありとあらゆる女性たちから蛇蝎の如く嫌われているというあの方?


「悪名高いあの男という事で、ベネット侯爵がうちの副団長に泣きついたらしい。

 それで私に、任務だから遂行せよ、とか言ってね」


 ヒル公爵の子息は陛下の甥、仮にも王族です。それは確かに複雑ですよね。


「半ば無理矢理、任務につかされた。

 初めてお会いした時、ベネット侯爵令嬢は恐縮していてね。私に申し訳ないと思ったのだろう。お気持ちをお聞かせくださった」


 私の胸はきゅんと痛みました。


「ベネット侯爵令嬢にはずっと意中の人がおられるが、その人は身分差もあってか、少しも気持ちを見せてくれないそうなんだ。

 でも、ずっと慕っていて諦めきれないと仰っていたよ」


 それって、もしかしたら。


「だから私も、ずっと意中の人がおります、と正直にお話ししたんだ」


 また胸が締め付けられました。

「ジョシュア様の意中の人…」


 そんな方がいらしたのですね。

 涙が溢れ落ちそうです。


 そんな私を見てジョシュア様は苦笑いしながら仰いました。

「困った人だ。本当に。

 私の心の中にはアリアしかいないのに」


 びっくりして目を丸くした私の額に、ジョシュア様はそっと口づけました。


「アリア、ずっと私と共に歩んで行って欲しい。結婚してくれないか」


「でも」と言いかけた私の唇にそっと人差し指を当てジョシュア様は仰いました。


「身分差なんて関係ないし、

 アリアはしっかり自分の道を歩いていける人だ。でもその隣は私でありたい」


「おじ様やおば様は反対されませんか?」


「父も母もずっとアリアを娘のように可愛がってきたから、両手をあげて喜んでいるよ」


「もうご存知なのですか?」

 ちょっとびっくりしてお尋ねします。


「うん、アリアのところのおば様にも話してあるよ」


 外堀が埋まっています。


「でもローズ様はどうなるのですか?

 ジョシュア様が私と、その、」

 顔を赤くしている私にジョシュア様が仰いました。


「この任務とやらは副団長の独断だったらしくてね。何処からか団長の耳に入り、処断されたんだよ。団長は陛下とは旧知の仲だから、あの陛下の甥については心配無くなったと思うよ」


「何処からか?」

 それはもしかして…


「騎士として言うべき事を言っただけだよ」

 やはり。


 ジョシュア様はきちんとお気持ちをお聞かせくださった。

 今度は私の番。


「ジョシュア様、私はずっとジョシュア様をお慕いしておりました。でも自分に自信が持てませんでした。そんな私はジョシュア様に相応しくないとも思っていました。今私は事業とは言えないかも知れませんが、新しく小さな商いを始めました。成功するかもわかりませんが、私の自信になりました。

 こんな私ですが、ジョシュア様さえ宜しければこれから共に歩ませてください」


 一気にお話したので息が切れます。

 そんな私をジョシュア様は優しく抱きしめてくださいました。 

 思いが叶ったのでした。



 それから直ぐにジョシュア様と私は婚約しました。

 来春には結婚式を挙げる予定です。

 ジョシュア様がもう待てないと仰るからです。


 アイザック様は未だ行方不明です。

 そしてローズ様はどうなさるのでしょうか。


 そう、それはまた別のお話で。


このお話は二部作です。

近日、ローズの場合をUP予定です。

アリアの場合で回収されなかった部分も

ローズの場合にて回収予定ですので、

宜しくお願い致します。

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