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5 お相手探しの旅へ

「……おはよう、リアナちゃん」

「あ、おはようございます!ルアンさん!」


「昨日あれだけ飲んだのに……朝から元気ね」

「えへへ、私お酒は強いんですよ」


 私を酔い潰して遊びに行こうとする師匠に、どれ程飲まされてもつぶれないし、二日酔い等もしなかったのだ。

 これは私の数少ない自慢でもある……大きな声では言えない女の子らしくない自慢だが。


「確かにお城での宴会でも全然平気そうだったものね。普通の魔族でもつぶれそうな量を飲んでいたのに」

「おいしかったなぁ、あのお酒……」


「気に入ったのなら、今度魔王様に言ってお土産に持って来てあげるわよ。それはいいんだけど、朝から何をしてるの?」

「本当ですか!? ありがとうございます! って、コレですか? やだなぁ、旅の準備に決まってるじゃないですか」


 キョトンとした顔でそんな当たり前の事を聞いてくるルアンさん。

 私の返事を聞いて、余計に唖然とした顔をしているけどどうしたのかしら?

 しかし、この人は本当にスタイルがいいわね……薄い夜着姿の彼女は、ヴァンパイアというよりはサキュバスのようでもある。

 女の私でも見ているだけでドキドキしてしまうような妖艶さにビックリだ。


「いやいや、ちょっと待って。旅? 旅ってどこに?」


 軽い混乱状態になっているルアンさんにお茶を用意して渡す。

 お礼を言いながらそれを飲む彼女に、まだ説明していなかったのを思い出して話す事にした。


「当たり前すぎて忘れていました。昨日見た相談者さんのお相手のところへご挨拶に行くんですよ」

「ああ、なるほど! 確かに必要ね」


「でしょう? だから旅の準備をしなきゃなんです」

「それは理解したわ。でも、旅の準備にそれが必要なの?」


 リビングにあるテーブルで優雅にお茶を飲みながら指摘するその姿は、実に様になっている。

 本人はきっと何も考えてない行動なのだろうが、やはり美人というのはどうやっても絵になるのだろう。

 ちょっとした嫉妬心を燃やしながら、指摘されたそれを見つめる。


「ルアンさん。私は魔法使いです」

「ええ、知っているわ」


「でも、魔族さん達と違って人間です」

「それも知ってるわ」


「弱い人間の魔法使いなのです。なら、旅の途中に野盗なんかに襲われたら? コレで身を守るしかないじゃないですか!」

「それよ、そこがわからないのよ」


 困ったような、残念なモノを見るような表情で言うルアンさん。

 彼女は私が持つ、黒光りするバルディッシュを指差して言うのだった。

 ……何で? 魔族さんは素手で旅が出来るのかしら?



「いいですか、ルアンさん。このバルディッシュは、師匠が今は亡き初代領主様の奥方様にいただいた、由緒正しい女の子のたしなみなんですよ?」

「……この領地の女の子は、みんなこれを振り回しているの?」


「当然じゃないですか! あ、これ程の逸品ではありませんよ? でも、成人のお祝いにご領主様からバルディッシュをいただけるんです。それを将来振り回すのを楽しみにして、女の子は小さな頃から練習するんですから!」

「そ、そう。なんだかごめんなさいね?」


 何故だか若干引いているルアンさんからバルディッシュを返してもらい、背中に担ぐ。

 やっぱりコレがないと長旅は不安だものね。

 残りのテントや着替えを準備しようと大きなリュックの口を開いた時、ルアンさんが言った言葉がリビングに響くのだった。


「でも、私の転移魔法を使えば一瞬で領都に着くけど……準備は必要なの?」


 すっかり忘れていました。

 そう言葉にできそうもない沈黙が支配するリビングに、私の手から落ちたお気に入りの触手ちゃんエプロンが床に落ちる音だけが響くのでした。

 ルアンさん、そんな可哀想な子を見る目で見るのはやめてください……え? エプロンの柄? えへへ、かわいいですよね?



「おお! 本当に一瞬で領都に着いた!」

「ふふふ、こう見えてもお姉さんは転移魔法得意なのよ?」


「凄いです! ルアンさん!」


 転移魔法を忘れていた事は軽く済んだのだが、私の『かわいいの定義がおかしい』と小一時間程説教されたのはきつかった。

 あのウネウネしている触手や、ネバネバしている本体のかわいさが通じないなんて……やっぱり魔族さん達とは美的感覚が違うのかしら?

 そんなやり取りを済ませて、いざ魔法を使ってもらったらあっという間に到着。

 結婚相談所の一番大変な部分である『面接』がこんなに簡単になるなんて。

 ルアンさんには頭が上がらないわね。


「わかったわよ、喜んでくれるのは嬉しいけど早く中に入りましょう?」

「あ、そうですね。目的の人を探さないといけないですし、行きましょうか」


 転移魔法という大魔法を使ったのに、まるで大した事をしていないという雰囲気のルアンさんにちょっと驚いた。

 やっぱり魔族さん達とは、『驚き』の基準が違うのだろう。

 なら、触手ちゃんのかわいさが伝わらないのも仕方ない事なのだ。

 一人納得した私は領都の入り口へと向かうのでした。



「次の者」

「はいっ! よろしくお願いします!」


 入り口の検問所で兵士さんに声をかけられる。

 並んでいた人影は少なく、さほど待たずに私の順番になったのだ。


「おう、元気のいいお嬢ちゃんだな。通行証を持っているかな?」

「えへへ、順番になったのが嬉しくてつい……はい、これです」


「ははは、確かに自分の番になったと思うと嬉しく……お嬢ちゃん、それ……」

「なんだ、早くしてやれ。真新しいバルディッシュを持っているという事は、成人の祝いに旅行にきたの……お、おい、そのバルディッシュ……」


 通行証を確認するだけの簡単な作業の筈が、私が背中に背負うバルディッシュを見て固まる兵士さん達。

 ああ、この人達は多分新人さんなのだろう。


「ええっとですね……」


 どうやって説明しようかと悩んでいると、詰所の中からちょっと豪華な鎧を着た隊長さんらしい人が飛び出してくる。


「リアナ様! ほ、本日もご機嫌麗しゅうございます! この二人はまだ新人でして!」

「あっ! やっぱり隊長さんだ! 助かりました。いえいえ、大丈夫ですから。もう行ってもいいですか?」


 よかった、何回か顔を合わせている隊長さんなら話が早い。

 この人は私の事を『リアナ様』って呼ぶこと以外はいい人だし。

 何でそう呼ぶのかは結局教えてくれなかったけど……。


「もちろんです! お連れの方もどうぞどうぞ!」

「え? 隊長?」

「いいんですか? 荷物の検査とかいいんですか?」


「やかましい! リアナ様は例外だ!!」


 文句を言った兵士さん達にげんこつしながら通してくれた。

 鎧の手の部分でやったから、アレは相当痛いはず……頭を押さえて転がりまわる兵士さん達を見ながらそう思う。

 でも、兵士さんって鍛えてるから大丈夫なのかな?

 いやいや、頭は鍛えるの無理よね?

 そんな自問自答をしていると、ふと肩を叩かれた。


「ね、ねえ、リアナちゃん。今のはどういう事なのかしら?」

「へ? どうしたんですか? ルアンさん」


 振り返ってみれば顔色が若干悪いルアンさん。

 今の? ああ、あの変わった隊長さんの事かしら?


「あの隊長さんは変わり者なんですよ。私の事を『リアナ様』って呼んで、色々と厚遇してくれるんです。前に『何でそんな風に呼んだり、よくしてくれるんですか?』って聞いたんですが教えてくれなかったんです」

「へ、へえ……変わり者で済まそうって魂胆なのね、リアナちゃん」


「え? だってそれ以外ないじゃないですか」

「まあ、そこは百歩譲ってそうしましょう。じゃあ、アレは何?」


 そう言って彼女が指差した先には、完全武装の兵士……色からして黒騎士達さんがズラッと数十人が並んでいる。

 黒い装備はあの人達しか許されていない筈だから、間違いないわね。

 それに領都に来ると、いつもそうだし。

 今回は来るのが早かったわね、もう来た事がバレてるなんて。


「あの人達も変わり者なんです。私がここに来ると必ず『護衛』とか言って一緒に居たがるんですよ? きっと娘さんが私に似ているとかで……」

「リアナちゃん。何でもかんでも『変わり者』で納得しちゃダメ。どう考えてもおかしいでしょ?」


「……やっぱりそう思います?」

「お姉さんも一緒に理由を聞いてあげるから、ちょっとお話しましょうか?」


「……はい」


 こうして、ルアンさん同伴の元……黒騎士さん達とのお話し合いが始まるのでした。

 やっぱり師匠絡みですよね? 聞くのが怖いです……。

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