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V・A・R on D・K

「ちょっと待て向日葵! ちょっと落ち着け!」


「何!? 智輝、こんな事されて落ち着けるわけ!?」


「違う!」


「何が違うのよ!!」


「アイツ、キャラクターじゃねぇ! たぶんだけど」


「はぁ? どう見たらキャラクターじゃないってわけ? じゃあ何だって言うのよ!?」


「それを確める。向日葵はちょっと待機しててくれ……」


 智輝はおもむろに、空間から薙刀を取り出すと、相手に向かって走り出すと、相手に自分が触れないような間合いで斬り付けた。しかし、薙刀は何にも触れなかったように相手キャラクターをすり抜け、空振りしたような状態になった。その後も智輝は、何度も相手を斬り付けたが、何度やってもそこには何もないかのように、薙刀は宙を舞うようになるだけだった。


「ど、どういう事?」


「ヤベェ! 向日葵、逃げっぞ!!」


「逃げるって!?」


「リアルに逃げんだよ! コイツ……夢自我だ!!」


「え!? ……夢自我……夢自我ぁ!!」


「ログアウトだ!!」


「え? あ、うん」


 慌ててログアウトしようとした二人だったが、何故だかログアウト出来ずにその場に留まるかたちになってしまっていた。


「クソ!! どうしてログアウト出来ねぇんだ!!」


「コントロールチューブも取れないわよ!」


「あ!!」


「何!?」


「もしかして!!」


「何なのよ!! だから!」


「……」


「どうしたの!? 急に黙りこんで……」


「ここ……」


「何?」


「夢時間……」


「夢時間?」


「夢の中だ!!」


「ウソ!!」


 慌てる二人を見て、目の前の青年は肩を震わせて笑っている。


「そう。君の推測通り。もうここは、僕達の夢の中だよ。そこから抜け出そうとは、悪足掻きもいいトコだよね」


 青年は「僕達」と言った。二人は顔を見合せ、「僕達?」と言った後、ハッとした。相手の夢自我もプラグinしているという事の証明だったからだ。


「クソォ!! そういう事かよ!! 向日葵!」


「うん。わかった!! 夢自我発動!」


 これこそ阿吽の呼吸になるのだろうか。智輝が向日葵を呼ぶのと同時に、向日葵は夢自我の発現体制に移行していた。その途端、二人のキャラクターはその場から消え去り、そこには黒い蟻が立っていた。


「あれれ? 蟻が出ちゃった。間違えた?」


「マジかよ……。頼むぜ信也しんや


「ゴメン。伸也しんや、本当に間違っちゃった」


「……って、コイツ、今、巷で噂の昆虫コスプレじゃねぇの?」


「あ、そう言われてみれば、そうかもしれないね」


「もう、本当に頼むぜ信也……」


「だから、ゴメンだって。ね。伸也?」


「あ〜!! うっせぇ!! 信也、伸也って、話し方が違わなかったらどっちがどっちかわかんねぇよ!!」


 まさか、相手の名前が同じなど思ってもみなかった。二人で「しんや」と呼び合っているのだ。智輝だけでなく、向日葵もかなりイライラしていた。しかも人違い……。そして、向日葵の怒りは限界を超えた。


「どっちの【しんや】か知らないけど、さっさと消えてくれる!? 智輝!! 行くわよ!! 全開で!! 一気にぶっ潰す!!」


「向日葵?」


「うるさい!! 智輝!!」


「あ……はいぃ!!」


(向日葵、キレたら恐ぇぇぇ。逆らわないでおこう……)


 そして黒蟻は、黄金の輝きを放つとその姿を黄金蜂に変えた。二人は呼吸を合わせると、そのまま相手に駆け寄った。


(フェイントとアクションは、向日葵頼む!!)


(わかってる! 必殺の一撃は智輝に任せるからね!!)


(ああ、任せとけ!!)


(うん。任した。じゃあ、こっちの事は任せてよね!)


(当然じゃねぇか!!)


「あ〜あ、Dream knight相手に勝つつもりみたいだよ? 伸也……」


「バカだぜ!! こちとら、Dream knightだっつーの!」


 伸也と信也がファイティングポーズになろうと構えた瞬間、その身体は宙に浮いていた。(え?)そう思った信也だったが、(何だと!?)と伸也が思った時には、智輝の渾身の一撃が【しんや】の身に打ち付けられていた。地面に打ち落とされた身体はバウンドし、また少し浮き上がる。体制を立て直そうとする【しんや】に隙を与えず、向日葵がまた、地面から両足で蹴り上げると、そのまま両手を地面に着き、足を上にしてジャンプすると、その背中の羽を羽ばたかせ、蹴りやパンチで上方へ上方へとその身体を持ち上げて行った。


(今よ智輝!!)


(了〜解!!)


 かなり上空迄上がった所で、向日葵が智輝にバトンタッチすると、智輝は、その青年の身体の中心に拳を当て、そのまま飛翔とは逆向きの勢いで、地面に叩き付けたのだ。青年の身体は地面にめり込み、地面にヒビが入った状態で身動きをしなくなった。


「ど、どうしてDream knightに……」


「Dream knightに……物理攻撃が……」


「物理攻撃が……当たるの……」


「Dream knightだ……ぞ……」


 【しんや】の絞り出すような声に「そんな事知るか!!」と飛翔した向日葵が、止めの一撃とばかりに爪先を尖らせ、腹部の中心に突き刺すと【しんや】達は、声もなく霧散した。


「Win!!」


 向日葵はガッツポーズを決めている。


「なるほど。鈴置の言う通りか……」


「何をブツブツ言ってるの?」


「いや、別に何でもねぇよ……」


「ふ〜ん」


「……てか、向日葵!! ヤベェ! 夢時間が解除された可能性が高い!」


「あ!!」


 その一言で二人は覚醒し、元の【バーチャル・アタック・リアル】のキャラクターに戻っていた。


(そう言えば、あの二人……、巷で噂とか言ってたな……。何の事だ?)


「どうしたの? 智輝?」


「いや、ちょっと気になった事があって……」


「巷で噂?」


「ああ」


「気になるよね」


「確かにな」


 この時になって、先日、殺人犯を倒した時の記憶が蘇ってくる。(確かあの時)写真やビデオを撮られていた記憶が、鮮明に智輝の脳内を駆け巡る。(確かあの時)野次馬に取り囲まれていた事実を向日葵は、思い出し戦慄した。そしてこれまで、時事に興味が無かった自分達の愚かさを気付かされたのだった。

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