第71話・わたし達の新しい仲間?
扉が出現するのと同時に覚悟を決めて扉を開けるわたし。
不安そうな表情のライナーがわたしを見上げている。
❝きっと何も起こらないからわたしを信じて!❞
そう心の中で叫びながらライナーを抱き上げるわたし。
わたし達が扉の中に入ると麻美と里奈子も駆け込んできた。
そして、扉を閉めるわたし。
一瞬、緊迫した空気に包まれたがいつものように何も起こらなかった。
そして、次の扉を開けて外に出たわたし達。
扉が消えると思いっきりライナーを抱きしめていた。
「もう、安心だよ!ここは安全だからね。」と思わず彼の頬にキスをした。
「ちょっと~、わたしにもォ~!」そういって麻美が駆け寄ってきた。
もちろん里奈子もである。
2人は代わる代わる彼を抱きしめて頬にキスをした。
里奈子はよほど嬉しかったのかギュッと抱きしめると、自分のほっぺたを彼の頬にくっつけては何度も何度もキスをした。
元の世界に戻ってきてやっと落ち着いてきたわたし達。
「これから、どうする?」と麻美が尋ねてきた。
「とりあえず、この子はわたしが預かるわ。」と応えるわたし。
さすがに、いきなり子供の面倒を見るのは大変そうだ。
なので自信のない麻美は無言でうなずいた。
ところが、里奈子が強い口調でこう言った。
「わたしには責任があるんです!だから、わたしがこの子を育てます!」
この言葉にちょっとビックリしたわたし達。
わたしだってとりあえずはしばらくの間この子の面倒を見ようと思っていたが、その先はどうしようかと悩み始めていたから。
ところが里奈子は目の前でクラウスが殺され事に強い責任を感じているようだった。
彼女の出身は北海道で1人っ子、ご両親が釧路で暮らしているらしい。
ここ最近は殆ど実家にも戻っていないと言っていた。
だから、ライナーと2人暮らしを始めても不都合は無さそうだった。
ひょんな事から始めたトリップ。
初めは遊び半分で小人の世界を行き来していたが、友人2人を巻き込んでその人生にも影響を与えるような事になろうとは思ってもみなかった。
里奈子の固い決心にわたしも麻美を同意するしかなかった。
それにお互いのマンションはそれ程離れていないから、わたしも麻美も里奈子を手助けすることはできる。だから、わたし達は里奈子にライナーを託すことを決めた。
わずか半日の間に人生が変わるような出来事に見舞われたライナー、こちらの世界にトリップした後はすっかり疲れた様子だった。
「とにかく、この子を早く休ませなきゃ。」
そういうと里奈子はライナーの手を引いて歩き出した。
「何かあったらいつでも電話してよね!」と麻美が声を掛ける。
そして、2人を見送るわたし達。
里奈子達と別れたわたし達はとりあえずわたしの部屋で少し休むことにした。
2人でコーヒーでも飲みながら一息入れると麻美がおもむろに切り出した。
「もう、里奈子は連れて行けないよね。」
「だって、あの性格だよ!子供の面倒見ながら人を踏み殺すなんてできないよ。」と続けた。
「そうよねェ、元々優しい性格の子だしね。あんなSな部分があるのは意外だったけど・・。」とわたし。
「ちょっとォ、それってわたしに影響されたって事?」と不満顔の麻美。
「誰にだって、Sな一面はあるってばァ。」
「麻美は極端なだけだよ!」となだめる。
核心をつかれた彼女はちょっとムッとした表情だった。
「この闘い、わたし達2人で続ける?」と問いただすわたし。
「わたしは、まだまだ暴れ足りないわ!」
「今回みたいな等身大の冒険も楽しかったけど、また巨大になって街で大暴れしたいの!」とこの冒険の世界から抜け出せそうもない彼女だった。
今回のトリップで向こうの世界にもわたし達と同じ普通の暮らしをしている人達がいることを改めて思い知らされたわたし。
❝この先も今までのように無慈悲に街を踏み荒らすことができるのかなァ?❞と感じ始めていた。
すると「里奈子の代わりに誰か誘ってみようよ!」と麻美が言い出した。
「えっ?そんな人いるかなァ。」と意外な提案に困惑するわたし。
麻美と里奈子は本当に仲がいいから誘ったけど、トリップの事は3人だけの秘密にしておきたい気持ちが強かった。
ところが、やる気満々の彼女。
「っでさあ、Sっぽい感じの友達とかを上手くだまして連れてくのよ。」
「それでェ、散々暴れさせて、帰ってきたらシコタマ飲ませてさァ。」
「そんでもってェ、後で“アレは夢でした!”・・みたいな。アッハッハッ、コレッて受ける!」
手を叩いて自画自賛する麻美。
完全にふざけているがちょっと面白いかもって思った。
「そうねえ、人によっていろんな反応が見られるからァ、わたし達が暴れるだけじゃなくてウォッチングするのも面白いかも。」とわたし。
「それそれっ!それで決まりじゃん!」
と激しく同意する麻美だった。
「まずはァ、バイト先関係でいくと誰がいいかなァ?」と考え始める麻美。
「サチエさんなんかどうかな?」とわたし達より少し先輩格のパート女性を指名するわたし。
Sっぽい感じはしないが、清楚で優しくて生真面目な38歳、でもちょっと美魔女的な雰囲気の女性だ。
「あっ、それってイイかも、巨大熟女現る!・・みたいな。」と麻美。
早速、次回のトリップのゲストを決めたわたし達。
具体的な作戦を立てなければ・・。