第69話・あ~、また問題発生!
幼いライナーにわたし達が惨殺した遺体を見せたくなかったから、みんなを母家に引き上げさせたわたし。
いずれにしても、この死体を何とかしなければと思った。
とりあえずみんなを追って母家に戻ろうとした時だった、裏庭に焼却炉を見つけたわたし。
❝なんだ、いいものがあるじゃない!❞と思った。
早速死体の所に戻ると彼の両手を持って焼却炉まで引きずっていった。
身長175cm位のこの男、手こずるかと思ったが意外と楽に運べた。
どうも、こちらの世界だと体の大きさは殆ど変わらないが力は倍以上になっている感じだ。
でなければ実戦経験の無いわたし達が、マシンガンで完全武装の兵士達をあんなに簡単に撃ち殺せるはずがない。
そんな事を考えながらわたしは男の死体を焼却炉の中に無理矢理押し込んだ。
そして、納屋にあったオイルを持ってきてふんだんにふり掛けて火を付けた。
死体が燃え上がるのを確認して焼却炉の扉を閉めるわたし。
煙突からはもくもくと黒い煙が立ち上る。
死体を処分できてホッとしたわたしはみんなの待つ母家に戻った。
「律子、何やってたの?」と麻美が尋ねてきた。
「裏庭に焼却炉を見つけたから死体を処分して来たのよ。」と答えるわたし。
「そうだったんだ、やっぱ律子さすがよネェ!」と感心する麻美。
すると里奈子が不思議そうな顔をしてつぶやいた。
「そういえば、わたし達ってこっちの世界に来て随分経ちますよね?」
「そうよねェ、考えてみればリミットの1時間どころか半日位いるわよ。」
と麻美も怪訝そうな顔をした。
2人に言われるまで気づかなかったが確かに大分時間が経っているのに扉は出現しない。
「何でだろ?わたし達もこのメカニズムってまだ解明してない訳だし・・。」と応えるわたし。
「たぶん、わたし達の世界とタイムラグがあまり無いから時間軸も変化してるのかも。」
「帰りたくなったら、わたしが手鏡と呪文で扉を呼び出すから心配しないで。」と続ける。
確証はなかったがたぶんそれは可能なんだと感じた。
だからいよいよマズイ場面になったらいつでも元の世界に戻れるように構えておいた方が良いと思った。
ところで、いつまでもここにいるわけにはいかないわたし達。
遺体も処理したし、そろそろ2人に迷惑が掛からない内に出発した方がよいと思い始めたわたしだった。
「死体も処理したし、そろそろ出発しましょ!」と切り出す。
途端に麻美の顔が曇りだす。
「え~!この子と別れなきゃダメってこと?」
といいながらライナーを抱きしめる彼女。
確かにこんなに可愛らしいライナーと別れるのはわたしも辛い。
でもいつまでも関わっていると彼らにも危険が及ぶかもしれないのだ。
「わたしも辛いけど、一緒に連れて行く訳にもいかないでしょ!」とたしなめる。
里奈子は黙ったままだったが麻美よりもさらに暗い表情になっていた。
名残を惜しむ2人を急き立てるようにしてわたし達は銃を肩に掛けて外に出ようとした。
すると、いきなりエンジン音がしてヘッドライトに照らされたわたし。
ドイツ軍のパトロールだとすぐにわかった。
サイドカーを先頭にジープとトラックが1台づつこちらに向かってやって来る。
総勢20名位だから不意打ちを掛ければ全滅させられると思った。
でも、この家の前ではさすがにマズい。
そう思ったわたしは2人に家の中に戻るように促した。
しかし次の瞬間だった、麻美のマシンガンが火を吹いた。
❝バババババババババッ!❞
20m手前まで迫っていたサイドカーに向かって発砲した彼女。
乗車していた2人のドイツ兵はいきなり銃弾を浴びて投げ出された。
ひっくり返ったサイドカーの後ろでジープとトラックが急ブレーキを掛けて停車。
乗っていた兵士達は急いで下車を始める。
❝これは最悪の展開だ。❞と思ったが仕方がない。
わたしも慌てるドイツ兵達の前に躍り出ると機関銃を撃ちまくった。
❝ババババババババババババッ!❞
最初の一撃でジープから降りようとしていた4名をなぎ倒したわたし。
後方の兵士達はトラックの影に隠れてこちらを伺っている。
そこで一旦家の中に戻って態勢を立て直すわたし達だった。
「まだ10人以上残ってるわね。」と麻美。
里奈子はクラウスとライナーの手を取って裏口に向かった。
すると、しばらくして裏口の方から派手な銃声がした。
❝ドドドドドドドッ!❞
あれはわたし達のマシンガンの音ではない。
心配になったわたしは正面を麻美に任せて裏口に向かった。
するとまた銃声が響き渡る。
❝ババババババババッ!❞
焦りながら裏口のある部屋のドアを開けると予想外の光景を目の当たりにした。
呆然としてマシンガンを構えたままの里奈子とうずくまるライナー。
そして足元には射殺されたクラウスと3名のドイツ兵の遺体が横たわっていた。
「何があったのよ!」と叫ぶわたし。
力なく銃を床に投げ捨てた里奈子はライナーを抱きしめて泣き出した。
放心状態の2人を横目に裏口から外を確認するわたし。
すると正面玄関の方からも銃撃音が響き始めた。
麻美が応戦を始めたようだった。