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【毎日投稿】気弾しか使えない魔導士、ソロ冒険者として戦術を極める  作者: ぱお


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3/3

第3話 気弾は、撃つ場所を選ぶ

 気弾が天井に触れた。

 次の瞬間、岩盤が爆ぜた。

 巨大な岩がいくつも崩れ、蜘蛛の進路を塞いでいく。

 俺はすぐに横へ飛び退いた。

 轟音が坑道を揺らし、土煙が視界を覆う。

 崩落は狙い通りだった。

 坑道の幅を狭めれば、蜘蛛は身体を横に広げられない。

 脚の数が多い相手ほど、狭い場所では動きが鈍る。

「……問題は、俺も逃げにくいことだな」

 煙の向こうで、赤い目がいくつも光った。

 蜘蛛はまだ生きている。

 甲殻の一部が砕けているだけで、動きに大きな変化はなかった。

 魔物が前脚を振り下ろす。

 俺は後ろへ下がりながら、気弾を一発撃った。

 狙いは脚ではない。

 魔物の足元に落ちていた、崩れた岩だった。

 気弾が岩を砕く。

 散った石片が蜘蛛の目へ飛び、魔物が一瞬だけ動きを止めた。

 俺はその隙に、二発目を放つ。

 気弾は右前脚の関節へ命中した。

 硬い甲殻に弾かれ、青白い光が火花のように散る。

 浅い。

 だが、脚の動きがわずかに乱れた。

 続けて、同じ場所へ二発。

 さらに一発。

 同じ箇所に攻撃を集中させると、甲殻に細い亀裂が走った。

 蜘蛛が吠えた。

 八本の脚が、一斉に地面を蹴る。

 狭い坑道を利用したつもりだった。

 しかし、魔物は崩れた岩を踏み砕きながら突っ込んできた。

 予想より速い。

 俺は右へ跳んだ。

 直後、蜘蛛の脚が肩をかすめた。

 鎧が裂け、熱い痛みが走る。

 壁に背中を打ちつけ、肺から息が漏れた。

 右腕が痺れている。

 気弾を撃つには、まだ動く。

 だが、次に避け損ねれば終わる。

 魔物がこちらへ向き直った。

 その腹部が、わずかに持ち上がる。

 白い糸が見えた。

「糸か」

 蜘蛛の巣。

 あれに絡め取られれば、動けなくなる。

 俺は魔力を右手へ集めた。

 いつもの気弾では足りない。

 小さく、速く。

 威力ではなく、形を変える。

 気弾の表面を薄く削り、回転を加える。

 青白い光球が、鋭い音を立てて震え始めた。

 魔力の制御が難しい。

 集中を一度でも乱せば、手の中で暴発する。

 蜘蛛が糸を吐いた。

 俺は気弾を撃つ。

 光球は糸を切り裂き、そのまま蜘蛛の左側を通り過ぎた。

 直撃はしていない。

 だが、狙いは別にあった。

 気弾は壁に当たり、斜めに跳ね返る。

 さらに反対側の壁へ当たり、今度は蜘蛛の背後へ回り込んだ。

 蜘蛛が振り返る。

 その動きで、腹部が露出した。

 俺は三つの気弾を同時に作った。

 胸の奥が焼けるように熱い。

 三つ同時の制御は、今の俺には無理がある。

 それでも撃つ。

 一発目が、蜘蛛の残った前脚を弾き飛ばした。

 二発目が、腹部の甲殻を砕いた。

 三発目は、その内側へ潜り込む。

 爆発。

 狭い坑道の中で、衝撃が何度も反響した。

 蜘蛛の身体が大きく跳ね、壁に叩きつけられる。

 赤い目が一つ、また一つと消えていく。

 それでも魔物は立ち上がろうとした。

 俺は足元の石を拾い、蜘蛛の目へ投げつけた。

 石は簡単に弾かれる。

 だが、魔物の注意がわずかに逸れた。

 俺は残った魔力を、最後の気弾へ込めた。

 大きさは拳ほど。

 威力は足りない。

 だから、狙う場所を変える。

 砕けた腹部。

 その奥に見える、赤黒い核。

「そこなら、届く」

 気弾が飛んだ。

 光球は崩れた甲殻の隙間を抜け、魔物の体内へ入った。

 直後、内部から青白い光が膨れ上がる。

 蜘蛛の身体が大きく震えた。

 脚が力を失い、巨体が地面へ崩れ落ちる。

 今度こそ、動かなかった。

 俺は壁に手をつき、荒い呼吸を繰り返した。

 右肩から血が流れている。

 魔力もほとんど残っていない。

 勝った。

 そう思った直後、坑道の奥から声が聞こえた。

「……誰か、いるのか?」

 人間の声だった。

 俺は魔力を使わず、腰から火打ち石を取り出した。

 小さな明かりを頼りに、声の方へ進む。

 蜘蛛の巣を切り払い、崩れた岩の隙間を抜けると、そこに男が倒れていた。

 鉱夫だ。

 片脚を岩に挟まれ、顔は泥と血で汚れている。

「生きているか」

「ああ……あんた、冒険者か?」

「そうだ」

「助けてくれ……仲間を……」

「他にもいるのか」

 男は震える手で、坑道の奥を指差した。

「あいつらは……地下へ連れていかれた」

「蜘蛛にか?」

「違う」

 男の顔から血の気が引いた。

「蜘蛛は、あれを恐れていた」

 俺は黙って、暗闇の奥を見た。

 坑道のさらに先。

 そこから、低い音が響いている。

 ドクン。

 ドクン。

 まるで巨大な心臓が、地面の下で脈打っているようだった。

「地下には、何がある?」

 男は答えなかった。

 代わりに、震える声で呟いた。

「あれは鉱山じゃない」

 ドクン。

 また、地面が揺れた。

 坑道の奥で、赤い光がゆっくりと灯る。

 俺は右手を握った。

 魔力は、ほとんど残っていない。

 それでも、足を止める理由にはならなかった。

「……なら、確かめる」

 男が目を見開く。

「正気か? 今の魔力で、あの奥へ行くつもりか?」

「問題ない」

 俺は倒れた蜘蛛を見た。

「撃つ場所を選べばいい」

 暗闇の奥で、何かが動いた。

 今度の音は、蜘蛛のものではなかった。

明日は2話投稿予定

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