↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日投稿】気弾しか使えない魔導士、ソロ冒険者として戦術を極める  作者: ぱお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

第1話 気弾しか使えない魔導士

 魔物の爪が、鼻先をかすめた。

 湿った風が頬を撫で、次の瞬間には、灰色の牙が目の前まで迫っている。

 俺は半歩だけ後ろへ下がった。

 避けるには、それで十分だった。

 巨大な狼――グレイウルフの爪が空を裂き、勢い余って石畳に食い込む。前脚が止まった一瞬を見逃さず、俺は右手を突き出した。

「気弾」

 手のひらの前で、青白い光が弾けた。

 直径十センチほどの光球が、風を引き裂いて飛ぶ。狙いは狼の頭ではない。爪が食い込んだ石畳、そのすぐ脇だった。

 気弾が地面に触れた瞬間、乾いた爆音が響いた。

 石畳が砕け、狼の前脚が崩れた地面に沈む。巨体が大きく傾いた。

 俺は二発目を撃った。

 今度は、倒れかけた狼の胸元へ。

 青白い光球が毛皮を突き破り、内部で炸裂する。グレイウルフは短く吠え、そのまま地面に倒れ込んだ。

 しばらく待っても、起き上がる気配はない。

 俺は杖も持たず、詠唱もせず、ゆっくりと右手を下ろした。

「……終わりか」

 返事の代わりに、森の奥で鳥が一羽、甲高く鳴いた。

 俺は倒れた狼へ近づき、胸の上下を確認する。完全に息絶えていた。

 気弾は、魔力を圧縮して作る球状の魔法だ。

 火球のように燃え広がるわけでもない。雷のように速いわけでもない。派手な光線を放つこともできない。

 ただ、撃つ。

 圧縮した魔力を、球の形にして飛ばす。

 それだけの魔法だった。

 魔法学院にいた頃、教師たちは俺の気弾を見て、決まって同じことを言った。

『そんな単純な魔法では、上級魔導士にはなれない』

 だから、俺は上級魔導士を目指すのをやめた。

 代わりに、気弾だけを磨いた。

 魔力を小さく圧縮すれば、速度が上がる。

 大きくすれば威力が増す。

 撃つ角度を変えれば、地面や壁に当てて跳ね返すこともできる。

 相手に直接当てる必要すらない。

 気弾は、使い方次第で変わる。

 問題は、それを理解してくれる人間がほとんどいないことだった。

 俺はグレイウルフの魔石を取り出し、布袋へ入れた。

 今日の獲物は三体目。これを売れば、しばらくは食べていける。

 森を抜けると、夕暮れの街が見えた。

 城壁の向こうで、赤い屋根が茜色に染まっている。大通りには荷馬車が行き交い、酒場からは笑い声が漏れていた。

 俺が冒険者ギルドへ入ると、受付の女が顔を上げた。

「また一人ですか、カイルさん」

「他に誰がいる」

「そういうところですよ」

 彼女は呆れたように言いながら、差し出した袋を受け取った。

 中身の魔石を確認し、帳簿に数字を書き込む。

「グレイウルフ三体。討伐報酬と魔石の買い取りを合わせて、銀貨八枚です」

「受け取る」

「相変わらず、気弾だけで倒したんですか?」

「ああ」

「剣も使わず、火属性の魔法も使わず?」

「ああ」

 受付の女はため息をついた。

「カイルさん。何度も言いますけど、冒険者はパーティーを組んだ方が安全です。あなたは魔力こそ多いですが、近距離では――」

「問題ない」

「問題があります。先月だけで三回も治療所に運ばれているでしょう」

「三回だけだ」

「回数の問題ではありません」

 俺は返事をせず、掲示板へ向かった。

 依頼書が何枚も貼られている。

 薬草採取。

 荷物の護衛。

 街道に出た小型魔物の討伐。

 どれも報酬は安い。けれど、危険も少ない。

 その中に、端が破れた一枚の依頼書があった。

『旧鉱山周辺の調査』

 依頼主は街の北にある鉱山組合。

 内容は、三日前から鉱夫たちが戻ってこない原因の確認。報酬は金貨二枚。通常の調査依頼にしては、妙に高い。

 俺が依頼書を剥がすと、背後から笑い声が聞こえた。

「おいおい、気弾屋がそんな依頼を受けるのか?」

 振り返ると、鎧を着た男たちが三人立っていた。

 全員、俺より体格がいい。腰には剣。肩には弓。いかにも冒険者らしい装備だった。

「旧鉱山はやめとけ。俺たちでも断った依頼だ」

「なら、お前たちは何を受ける」

「薬草採取に決まってるだろ」

 男たちは笑った。

「魔法一つしか使えない奴が、鉱山で何をする? 石でも撃つのか?」

「必要なら撃つ」

 俺が答えると、笑い声が少し大きくなった。

 受付の女だけが、笑わなかった。

「カイルさん。本当に受けるつもりですか?」

「報酬が高い」

「それだけですか?」

 俺は依頼書へ視線を落とした。

 行方不明になった鉱夫は、五人。

 最後に連絡があったのは、鉱山の第一坑道。

 そして、依頼書の下の方に、小さく追記があった。

『坑道内で、原因不明の振動を確認』

 振動。

 魔物がいるだけなら、こんな書き方はしない。

「調べる価値はある」

「危険かもしれません」

「だから報酬が高い」

 受付の女はしばらく俺を見つめていたが、やがて諦めたように依頼書を受け取った。

「明日の朝、出発してください。日が落ちる前には戻ること。無理だと思ったら、必ず引き返すこと」

「分かった」

「本当に分かっていますか?」

「分かっている」

 俺は依頼書を受け取り、ギルドを出た。

 空はすでに暗くなり始めていた。

 街の外れまで来たところで、北の山から低い音が響いた。

 ゴゴゴゴゴ――。

 地面が、かすかに揺れる。

 道端の水たまりに波紋が広がり、遠くの鳥たちが一斉に飛び立った。

 俺は足を止め、北の山を見た。

 旧鉱山は、そこにある。

 暗い山肌の中に、ぽっかりと開いた坑道の入口。

 まるで、何かがこちらを待っている口のようだった。

 右手に魔力を集める。

 青白い小さな光が、手のひらの前で明滅した。

「……明日は、少し大きめに撃つか」

 山の奥で、もう一度地鳴りがした。

 今度は、さっきより近かった。

読んでいただきありがとうございます。

毎日投稿のモチベーションのために、応援や評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。