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辺境の異剣使い  作者: 無依
学園編
9/13

第9話

お待たせしました

 

 午後は剣の授業だ。一般教養レベルの授業なので、元々やっていた人達はちと、物足りない。王国剣術を基本としているので、違う流派の人もやらない。だから生徒同士で研鑽、自習するものが多数だ。


 特にすることも無くどうしようか悩む。どっか消えて木に打ち込んでもいいが、この時間じゃあれだし、誰かに見られるのも好かない。


「リオン君、付き合ってもらっていいかな」


 今日で3度目のお誘い。本当もう、なんと言ったらいいか...。感謝の気持ちでいっぱいだ。

 エミルが木剣を二本たずさえてやってきた。


「いいよ。俺も暇してたし。」

「やった。他の流派の人とやってみたかったんだよね。」






「...行くよ」


 剣を構え立ち会う。キッとエミルの顔が引き締まると周りの温度が下がる気配がした。やる時は練習でも真剣、みたいな感じだ。それに応えて俺も剣を前に出し正眼の構えを作る。


 なんと言っても辺境伯家、女子だろうと剣術を学んできたんだろう。構えのの隙のなさが如実に分かる。イレイナルの剣術、しっかり見させて頂こう。


 レーベアス流は全てにおいて受け身だ。だからこそエミルの息遣い、腕や足元の機微、力を込める瞬間を感じ取って先回りして相殺するように迎え打ち防御する。


 エミルが剣を引く。地面を蹴る音が鳴る。一見ゆっくりな動作でも、こうまで無駄がなく綺麗だとそれなりに早い攻撃となる。横薙ぎの一閃。


 それに合わせて剣を置いて待って、受け止める。

 木の独特の接触音が耳に響く。

 勢いを入れて振ってきたはずの攻撃なのに俺は体勢を崩すことはなく、むしろ勢いを入れて振ってきたエミルの方が勢いを殺され止まってしまった。


「!」


 鍔迫り合い、動いたのは敏感に気配を察したエミルだった。


 エミルのイレイナル流は攻撃を主としたもの。エルスティア流ほどの速さはないがそれ以上に威力が高い。場面場面に最適解の攻撃をし、常に最大火力を叩き込む。

 攻撃のイレイナル、守りのレーベアス、速さのエルスティアのこれらは実質三すくみの関係にあると言えた。だからこそレーベアス流はイレイナル流に若干だが有利に立ち回れる。


 このまま力比べに入っていたら俺が勝っていただろう。鍛え方次第で何とでもなるが、女子は体のつくり的にやはり男子に力が少し劣ってしまう。

 勢いを殺されてしまったことと、一瞬硬直があったにも関わらず素早く動けるのは評価に値する。


「やっぱリオン君強いね。」

「まあ、それなりってとこ。」


 距離をとったエミルが再度攻撃を仕掛けてくる。先ほどより連撃を重視した攻撃。速いといっても疾くを極めるエルスティアには及ばない。それどころか威力も分散されて防ぎやすい。だからこそ、そのことごとくを弾く。


 しかしこの連撃はフェイクだった。それに注意を向けさせつつ、エミルは最善の一撃が打てる好機を窺っていた。連撃が来ると思わせ、溜めを作る時間を得た。基本受けの姿勢のレーベアス流だからこその弱点。


「もらったっ!『白桐(しらきり)』」


 イレイナル流の美しく、狂いのない高尚な一の(つるぎ)。綺麗な半月を描いた横一文字が襲い掛かる。今までよりも強い一撃。


 その華麗さに敬意を表す。相対するは


「『獅子刀』」


 レーベアス流の数少ない攻撃、『獅子刀』。獅子のごとく威厳と強大さをもち、溜めに溜めた鈍重なる上段からの一閃。


 確実に迫る二つの剣技。衝突で一瞬拮抗したかのように思えたが、こちらのほうが重い。「くっ」と小さな苦痛を上げる声が聞こえた。エミルが抵抗を試みたものの、その手首で耐えれるはずもなく剣を支える手を放す。細い手からこぼれた剣は力の方向に沿ってそのまま下へ叩き落とされる。エミルもエミルで後ろへ軽く尻餅をつく。

 刹那の決着。


「リオン君強いね。一回攻撃されただけで負けちゃった。」

「基本の動き方がこうなだけだよ」


 手を差し出すと、エミルも気づいて手を取ってくれる。


 ほかにも自分とやりたいと言ってきた者がいたがなかなか骨のあるものは居なかった。エミルがこのクイーンクラスの中で跳びぬけて一番強い。

 そうして午後の授業?、自習もこなし、一日が終わった。

 初の登校日は友人もできて、充実した学園生活を謳歌できそうだった。






 学園の寮のはずれにある森のどこか。速い拍子でリズムを刻む音が森に響いていた。ぽつりぽつりと汗がゆっくりと地面に落ちる。裏腹に響く音は段々と加速していく。


「リオン様」


 ああ、この感じも1年ぶりだな。何もかもが懐かしく感じる。木の枝を振る手を止めて答える。


「よくここがわかったな。」

「いえ、懐かしい音が聞こえたものですから。」

「そうか?」

「はい、とても心地いいです。」


 昔、1年前のようにテレサがタオルを手渡してくれる。ゆっくりと流した汗を拭いていく。ふわふわと肌触りのいい上質なタオル。しっかりと手入れされていて、完璧な仕事に感無量である。


「夕食の準備が出来ました。冷めないうちに頂きましょう」

「ああ」


 2人揃って家、寮に戻る。


「...また速くなりましたね」


 夕焼け道、唐突に切り出してくる。それがなんのことかは明白だ。


「分かるか?」

「はい去年よりもずっと。ずっと見て聞いていたものが1年もないと寂しいと思っていましたが、そのおかげで顕著に分かります。」

「頑張ったかいがあるってもんだ」

「私も去年初めて剣を触りました。分かっていたつもりではありましたが、やればやるほどリオン様がどれほど凄いことなのか痛感しました」







 テレサがテーブルに料理を並べていく。

 家とは違って一緒に食べる食事。テレサは遠慮したのだが、俺以外誰もいないし、俺が気にする訳でもない、それに二度手間だろう。だから一緒に食べようと言ったのだ。


 普段一緒に食べることはないから、テレサはおずおずといった感じでテーブルを挟んだ向かいの席に座った。そんな様子が珍しくて、思わず吹き出した。


「な、なんですか?何か変なところでもありましたか?」

「いや、テレサがわかりやすく緊張しているものだからさ」

「やっぱり、私は後から食べるので...」

「遠慮しなくていい。それに1人より誰かと一緒の方がいいだろ?だめか?」


 立ち上がろうとするテレサに向かって食い気味に制止する。


「別に俺しかいないんだ、何も気にしなくていいよ」

「リオン様はお優しいですね...」


 テレサが座り直してまた食事を再開する。テレサが作ってくれた温かい料理だ。


「そう言えば、テレサのクラスはどこなんだ?」

「私は今年クイーンクラスです。去年から一クラス昇格しました。」

「すごいじゃないか、じゃあ俺と同じだな」

「リオン様がクイーンクラスなんですか...?」

「まあそんなもんだよ。世界は広いって言うだろ?」

「そんなことないです、リオン様はいつも凄いです。試験官の見る目が節穴なだけです」

「そこまで言うか」

「はい、断言します」


 はっきりとした言葉に苦笑する。

 テレサは俺が卑下するとすぐに否定してくれる。これにいつも元気付けられているのも確かだが、そんなに言ってくれると照れてしまう。

 でも、とテレサ。


「でも、学年が違くても同じクラス同士なら合同授業、実習があると聞きます。もしその時が来れば私もお供させてください」

「ああ、その時はよろしく頼むよ。」

「はい」




 夜も更け辺り一面が闇に染まっている。食事もテレサのメイドとしての仕事も全部終わった。


「では私はこれで」

「今日もありがとうな」


 恭しく一礼をして自分の寮に戻っていく。

 俺はその後ろ姿が闇に消えるまで見送っていた。


 見えるか見えないかのギリギリところでテレサが微かに頭を下げたように見えた。






お読み頂きありがとうございますm(_ _)m


雑談ですが、獅子刀って考えついてから調べてみたところ、実際に獅子刀っていう刀が存在するんですよね。技ではなく刀ですけど。思わず笑ってしまいました。

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