小さな家で(完結)
本日二話投稿しています。
ご注意ください。
そして今、ミアとフランは、王都から離れた地にある小さな家に二人で暮らしていた。
あれから一年が経ったが、学園は今も休校のままだ。
卒業はすべきだとエリックが言うので、ミアもフランも学校に戻る準備をしてはいるが、学園内で違法な麻薬が流通した事実が子どもを預けている貴族たちに重く受け止められ、警備体制をすべて見直して、教師や警備員、食堂の調理人にいたるまで身辺調査が済むまで休校となっている。
この家は王が二人の結婚祝いに用意したもので、一見ただの田舎にある小さな家だが、この周辺一帯に探索魔法がしかけてあり、それにかかると術が発動し侵入者を捕獲する仕組みになっているので、許可の無い者は家に近づくこともできない。
ミアが再び他国に狙われないとも限らないとして、厳重に警備されているが、フランは『体のいい軟禁』と揶揄している。
ミアはこの家が気に入ったようで、また学園に戻る事になるかもしれないと言っても、嬉しそうに庭に花を植えたり、畑を作ったりして過ごしている。
フランはまだ決めかねているが、ミアは卒業後、この家で暮らすと決めている。王都からも離れていて、たとえ竜化しても人々を危険に晒す危険がない。活計をどうするかは考えなくてはいけないが、いつか自給自足で暮らせるようになりたいと考え、畑作りに全力を注いでいる。
「ミアちゃん、そろそろお昼だよ」
「あ、もうそんな時間?ごめんねすぐ準備するから」
「大丈夫だよ、もう用意してあるから一緒に食べよう?あ、今の会話新婚さんぽくてなんかいいね」
「そうなの?すごい、ありがとう、フラン。ああ、気が付いたらとてもお腹が空いていたみたい」
ミアは手を洗って部屋へと入る。こじんまりしたダイニングテーブルには、豆のスープと薄焼きのパン、そしてミアが育てたベビーリーフのサラダが乗っていた。
「フランってなんでも上手にできちゃうのね……すごく美味しそう、いただきます」
フランもミアの向かいの席に座り、一緒に食事を始める。
スープはいろんな種類の豆と野菜がたくさん入っていて、食べごたえがあってとても美味しい。とれたてのベビーリーフもシャキシャキして瑞々しく、新鮮な香草が食欲をそそる。
食事の美味しさを噛みしめていると、フランが嬉しそうな顔でミアに話しかける。
「ミアちゃん、よく笑うようになったね。今も食べながらニコニコしているよ。ミアちゃんはこの生活を気に入ったの?毎日とても楽しそうだよね」
「うん、とても楽しい。ねえフラン、昔、フランに借りた絵本を私が気に入ったからってそのままプレゼントしてくれたのを覚えている?私ね、あの絵本が今でも好きで、あんな風に暮らせたらなあって、ずっとあこがれていたの。でも、そんな普通の生活なんて、私には絶対叶わない夢だと思っていたの」
そう言ってミアは、お話を思い出すように目線を宙に投げる。
ミアのいう絵本は、田舎の小さな家に住む、羊飼いの家族のお話。
大草原にぽつんと建つ赤い屋根の小さなお家で、仲の良い家族が毎日一生懸命働きながら時折おこるハプニングに見舞われながらも、家族みんな力を合わせて解決していくという、子ども向けの可愛い物語だ。
お話を思い出していたのか、ミアは自然と顔がほころぶ。
表情を取り戻したミアは、感情を顔に出せなかった頃よりも魔力が安定するようになっていた。
素直に気持ちを表に出すことで、無理に抑えつけようとしていたあの頃よりもずっと容易に自分の魔力をコントロールできる。今では、ごく普通の魔力持ちの人間と変わらないくらいに自分の力を扱えるようになっていた。
もしかしたら、あのような感情を抑えろと虐待まがいの指導を受けずにいれば、成長とともに普通に魔力をコントロールできるように自然となっていたのかもしれない。今の安定した状態をみるとそれが真実のように思えるが、それももう確かめようがないので、推測の域を出ない。
今の状態ならば、王都で仕事を持ち働くことも不可能ではないのかもしれないが、ミアは誰かを危険に晒す可能性はゼロにはならないから、王都に行くつもりはないと言った。このまま、この田舎の土地で生涯を過ごしたい、とミアは望んでいた。
「絵本のお話のように、田舎の小さな家で、大好きな家族を大切にして、日々の糧に感謝をして生きていく。こんな生活が送れるようになるなんて、本当に夢みたい。フラン、私と結婚してくれてありがとう。私、幸せよ」
「ミ、ミアちゃん……ッ。俺こそ、俺こそ幸せだよ!ミアちゃんと家族になれて、夢が叶った。あっ……でもさ、あの絵本は八人家族の子だくさんだったよ?ほら、まだ叶えたい夢があるね。
八人家族かあ、早く子ども作らないと、ね?」
フランがにっこり笑ってミアの手を握る。ミアは首をかしげて不思議そうにフランに問い返す。
「まだ私たち、身分的には学生よ?まだお金を稼ぐこともできないし、畑も自給自足にも程遠いわ。子どもを飢えさせるわけにはいかないのよ?親になるには責任が伴うんだから。いつも冷静なフランにしては無計画な発言ね」
全くの正論で冷静に切り返されて、フランはガックリとうなだれた。
「そ、そうだね。無責任な発言だった、ごめん。ミアちゃん、なんか少し変わった?前よりも自分の意見をはっきり言えるようになった気がする」
「あ……そうかな。うん、そうかも。なんか今の自分が好きになれたから、ちゃんと気持ちを言えるようになったのかも。……変わっちゃった私は、フランは嫌……?」
少し不安そうに声が小さくなるミアを、フランは立ち上がって抱きしめた。
「どんなミアちゃんも大好きだよ。今も昔も、これからも、俺はずっとずっとミアちゃんが大好きなんだ」
フランはそう言ってミアの目を見つめる。
ミアもフランを見上げて、二人は頬を寄せ合いキスを交わす。
すこしだけ恥ずかしそうにミアは笑い、俯く。フランはちょっと逃げ腰のミアに顔を寄せ、強く抱きしめながらもう一度キスをした。
おわり
これにて完結です。最後までお付き合いいただいてありがとうございました!
途中色々ありまして、完結できないかと思いましたが、最後まで書けて本当に良かったです。
それもこれも、読んでくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。