第十一話 お肌がツルツルスベスベになった気がします
おはようございます(^o^)
今日は更新出来るタイミングが今しかないので更新しておきます。
「前進だ!」
オオクボ国王は皇帝暗殺成功との報せを受け、全軍に号令した。すでに帝国軍は各部隊に指揮官がいるとは言え、総指揮官を失い浮き足立っている。この機に乗じない手はないのだ。
前衛部隊が大きな足音と共に国境までの距離を詰め始めると、それに気づいた帝国軍がさらにどよめく。指揮命令系統が破綻しているため、彼らは進むことも戻ることもままならないようだ。
「帝国軍に告ぐ! 余はオオクボ王国国王、オオクボ・タダスケである! 皇帝キノシタはすでに首から上を失った! よってお前たちに号令する者はない! 速やかに兵を引かれよ!」
オオクボ国王は国境まであと一町のところで進軍を止めると、数騎の騎馬と共に前に出てそう叫んだ。一町なら帝国軍が矢を射れば十分に敵将を狙える距離である。しかし今や彼らにはそんな気概も残されていなかった。
「一刻の猶予を与える! それまでに刀を捨て家に帰れ! さすれば我らは追わん! 一刻を過ぎて残る者はタケダに仇なす者として、我ら十八万の軍がお相手致す!」
すると前方の大軍から一部が横に逸れていく。数にして一万といったところか。
「我らエッチュウ軍はこれよりオオクボ陛下にお味方致す!」
すると反対側にも横に逸れる一軍が現れた。
「我らヒダ軍もオオクボ陛下にお味方致す!」
「よくぞ申された! お二方には追ってタケダの王より褒美が与えられるであろう!」
これが決め手となり、次々と集められた属国の軍が寝返りを宣する結果となる。もはや二十万の帝国軍は完全に瓦解し、その場から逃げ出した者もいたので残りは五万にも満たない兵力のみだった。
「申し上げます!」
「許す!」
「オオクボ国王陛下率いる我が軍、完全勝利!」
「子細を述べよ!」
イサワから駆け付けた早馬の伝令によると、帝国軍二十万のうち、こちらに寝返った者は総勢約十三万。逃げ出した者が約三万で、残った約四万の兵も十三万の寝返り軍が討ち果たし、約二千が投降したとのことだった。当然そのままコウフは占領したそうだ。
「我が軍の死者はなし! 寝返った者たちの死者は約二万とのことにございます!」
「最後まで抵抗した敵軍と合わせて死者は約六万か……」
俺はそれを聞いて憂鬱になった。むろん顔に出すことは出来ないが、死した者は怨親とも平等に扱わねばなるまい。
「相分かった。戻ってオオクボ陛下に伝えよ。明後日、コウフに参る」
「陛下、それにはまだ早いかと存じます。帝国兵の残党がどこに潜んでいるか分かりません」
横で聞いていたマツダイラ閣下が驚いた顔で進言してくる。だが俺はそれを制した。
「この戦で命を落とした者たちを一刻も早く弔ってやりたいのだ」
「ですが陛下……」
「それにコウフの領民も安心させてやりたい。余の護衛はアカネとスズネ、それにウイに申し付ける。これなら異論はあるまい?」
「ま、まあそれでしたら……」
「聞いたな。明後日だ」
「ははっ! 確かにお伝え致します!」
それから俺たちはすぐに支度を整えてコウフに旅立つこととなる。余談だがこの一行にユキたんとサッちゃん、アヤカ姫に次いでミノリ姫も加わったのは言うまでもないだろう。
「コウフとはどのような領地なのでしょう」
「元は皇帝の甥であるキノシタ・ヒデカツが治めていた領地だな。領民は圧政に苦しんでいたことも十分に考えられる」
コウフに向かう馬車の中で、俺の隣に座っているユキたんが興味津々という感じで聞いてきた。それに他の六人も目を輝かせている。
「言っておくが今回は物見遊山ではないからな。戦死した兵士たちの弔いが目的だ。それにモモチとヤシチも……」
「陛下……」
ヤシチの死はサナとリツの二人にも大きなショックを与えていた。彼女たちは泣きじゃくり、今回のコウフ行きに同行を希望したほどである。もちろん二人を連れて行くわけにはいかなかったが、俺はコウフが安全と分かれば彼女たちに休みを与えるつもりだ。
「それにしてもあのモモチがのう……」
「ツチミカドの話では、あの時コウフ兵はモモチが皇帝の首を掲げた直後に矢を放ってきたらしい」
「ご主人さま陛下、それが何かおかしいのですか?」
「考えてもみろ。彼らにとっては総大将の首だ。それなのに矢を射ったのはモモチが刎ねた首を掲げた直後」
「え? ということは……?」
「奴らは初めから皇帝を殺すつもりでいたのではないかということだよ」
問題はそのコウフ兵たちが有志だったのか、背後で糸を引く者がいたのかということになる。しかしいずれにしても、彼らは逃げ出した三万の中に紛れたと考えるのが妥当だろう。
「ところで父上の兵はどうするつもりなのじゃ?」
「しばらくはコウフに留まってもらおうと思う。今回寝返ったスルガやトオトウミに加えて、いくつかの軍も寝返っているからな。だが兵を引いた瞬間に再び寝返られては目も当てられないだろう?」
「そうか!」
「コウフはイサワやエンザンと同様に温泉も豊富だと聞いている。義父上とゆっくりしてくるのもよかろう」
「何だかこのところずっと温泉に浸かっているので、お肌がツルツルスベスベになった気がします」
「私もです!」
これには発言したミノリ姫とユキたん以外の五人の女の子たち全員が大きく肯いている。
「ミノリ殿、それにユキも。其方らはまだ若いのだから」
俺は思わず苦笑いするしかなかった。もっとも男の俺でも肌がツルスベになった気がするけどね。
そんな会話が続き、俺たちはその夜イサワで一晩を過ごすのだった。




