第四話 お強いですね?
「陛下、お待ちしておりました」
現在のエンザン領を治めるトリイ・タダモト侯爵は、側近のマシタ・コノミ子爵を伴って城に着いた俺たちを出迎えてくれた。この城はかつてシバタ・ゴンロクが使っていた物だが、トリイ侯爵が何やら改装を加えたらしい。ただ、俺は前の城の姿を知らないので、どこがどう変わったのかは全く分からなかった。
「神殿建設の進み具合は?」
「来月には完成するかと」
「ずい分早いな」
「人材も多いですし、何より重い石材も軽く感じられるそうですから」
なるほど、アザイの人たちが手を貸しているというわけか。
「それと陛下にお見せしたい物がございます」
「例のあれか」
「御意」
「あれ、とは何です?」
ユキたんが不思議そうな表情で尋ねてきた。彼女を始めとする妻たちには、まだこの地に眠る金鉱石のことを知らせていなかったのである。
「見れば分かる。皆も付いてくるがいい」
侯爵に案内されたのは、常に四人の衛兵が出入りを見張る城の宝物庫である。そこにはシバタが集めていたと見られる骨董品やら絵画やらが所狭しと並んでいた。
そんな中、目的の金鉱石は一番奥にひっそりと置かれていた。ロウソクの灯りを近づけるとところどころ輝いて見えるが、全体的には普通の石とあまり変わらないように思える。大きさは手のひらに乗る程度だ。
「これは?」
「金鉱石だよ」
「え?」
ユキたんは石を見てもよく分からなかったようで、顔を近づけてみたり匂いを嗅いだりしていた。だが、それが金鉱石だと俺に教えられ、目を丸くしながら手に取ってさらにじっくりと眺め始める。
「その石から金を取り出すのだ。この地は温泉だけでなく、宝の山だったということだな」
「ご主人さま陛下、私も見せて頂いてよろしいですか?」
「構わんよ。皆も興味があれば好きなだけ見るがいい」
「妾はこちらの方が興味があるな」
言いながらアヤカ姫が指差したのは、細かな細工が施された美しい茶器だった。
「トリイ殿、これらはどうするつもりなのじゃ? 飾っておくだけでは勿体なかろうに」
「はい、妃殿下の仰せの通りなのですが……」
「うん?」
彼女は茶器を持ち上げて、色んな角度から眺め始めた。どうやらかなり気に入ったようだ。しかしトリイ侯爵の次の言葉で、一瞬にして青ざめることとなる。
「これらにはシバタ殿の怨念がこもっているそうでして、ここから出さない方がいいと……」
傍らでウイちゃんがクスッと笑ったので、大方アザイ王が侯爵を脅かすためについた嘘なのだろう。だがアヤカ姫はガタガタと震えながら茶器を元に戻すと、慌てて俺の腕にしがみついてきたから役得である。ウイちゃんを除く他の妻たちも、何となく俺に体を寄せてきていた。
「も、もう石は十分ですから、早くここから出ませんか?」
ユキたんの言葉に四人の妻たちが何度も首を縦に振る。ウイちゃんは声こそ出さないが、必死に笑いを堪えているようだ。
「分かった分かった」
「では陛下、マエダ殿が待っておりますので、応接室にご案内申し上げます。妃殿下方は居間にてお寛ぎ下さい。コノミ、ご案内を」
「はっ!」
「私とアカネ殿は陛下にお供させて頂きます」
「うん? 皆とゆっくりしていてくれて構わんぞ」
「いえ、そのマエダという人、聞けば馬上から槍でスノーウルフを倒せるほどの猛者とか。今回のことが陛下の暗殺を目的としているならば、御身が危険に晒されますので」
「そうか。では良きに計らえ」
イヌカイからの報せではそのような心配は無用だと思うが、ユキたんが言ってくれているのに断る理由もない。俺はそのまま二人を従えて、トリイ侯爵の先導で応接室に入った。
「マエダ・トシマサにございます」
彼は俺の姿を見て、その場に恭しく跪いた。刀は腰に差しておらず、部屋の隅に立て掛けられている。俺に対する敵意を持っていないことの証とみていいだろう。
「久しいな。余の城でキノシタ皇帝と共に会って以来か」
「御意にございます」
「紹介しよう。其方から見て右が第一王妃ユキ、左が第二王妃のアカネだ」
「はっ! マエダ・トシマサと申します」
「どうぞ、面をお上げなさい」
マエダがすぐに手の届かない位置に刀を置いているのを見て安心したのだろう。ユキたんの口調は静かで柔らかかった。
「王妃殿下のご尊顔を拝する栄に浴しましたること、恐悦至極にございます」
「あなた……」
ところがアカネさんはそうではなかった。彼女の声にふと横顔を覗き込むと、何やら獲物を見つけたような表情になっている。アカネさん、ダメだからね。
「はい?」
「お強いですね?」
その言葉でマエダも何かを察したようだ。彼はアカネさんと同じような顔で彼女を見つめるのだった。




