少女と占い
その街は、この国においても大きな街であった。
そして、その街は今、賑わっている。
それもそのはず、年に一度の祭りだからだ。
街の創立記念式典に当たるこの祭りは、五日間に渡って行われる。
今日はその五日目、最終日だ。
「ささ、アデレイド様。 チャンスですよ、今の内です。 ジョシュアが彼らの気を引いている内に」
「待って、ヴェロニカ。 足が…」
その街の一角にある、とある屋敷で二人の少女が大人の目を潜り抜けて、街へと抜け出そうとしていた。
「早く行かないとお祭りが終わっちゃいますよ~」
年上の少女が年下の少女を急かす。
「わ、分かってるから急かさないで…あ、取れた」
足に絡み付いていた塀の蔦が取れると、年下の少女は漸く塀を越える事が出来た。
少女は身なりを正すと年上の少女に告げる。
「ヴェロニカ、ここからは言葉遣いに注意して下さい。 いいですね」
「はーい、わっかりましたー。 でもアデレイド様もですよ~?」
「う…分かっています」
どうやら、この二人は訳有りのようだ。
「ジョシュアも一緒に来れれば良かったのですけど…」
「仕方ないで…よね。 誰かが門兵の気を引かなきゃいけなかったし」
――アディの役に立てたんだから、アイツも本望でしょ
そう言って突き放す年上の少女――ヴェロニカ。
「いくら弟だからって、その扱いは酷過ぎないかしら」
弁護する年下の少女――アデレイドだが、その言葉には勢いが無い。
すでに、心ここに在らず。
関心は祭りに向いており、周囲をキョロキョロと見渡している。
(ジョシュア…ご愁傷さま。 アデレイド様は、あんたよりお祭りの方が大事だってさ)
ヴェロニカは心の中で、弟にお悔やみの言葉を投げ掛けていた。
その後、少女二人はお祭りを堪能した。
祭り自体は最終日も終わりに近付いており、盛り上がりに欠けていると言えた。
だが、そんな事は二人には関係が無い。
アデレイドは無邪気に楽しんでおり、反対にヴェロニカは余程普段の暮らしに不満でもあるのか、半ばやけくそ気味に楽しんでいた。
「あら? あれは…」
そんな中、アデレイドが街中で何かを見つけた。
「ん? ああ、あれは占い小屋だね。 アディも何か占って貰う?」
見付けたのは占い小屋だったらしい。
小屋と言うか、目の前のそれはテントであるが。
「占い…それは魔法で? それとも魔術かしら?」
「アディ、そんな高尚な占い師が祭りに合わせてこんな隅っこで店開く訳無いでしょー」
――そう言うのは占いじゃなくて予言って言うのよ
アデレイドの言葉に呆れ気味に返すヴェロニカ。
だが、アデレイドは本気で不思議に思っているようだ。
「え…じゃあ、どうやって占うの?」
「水晶とかカードとかが主流かしらねー」
そんな質問の答えにも納得がいっていないようで首を傾げている。
なぜ水晶やカードで占えるのか想像出来ないようだ。
「だからさ、実際に占って貰えば解るってば」
「え、でも…何を占って貰えばいいのかしら」
「そんなの、まだ見ぬ恋人との出会いに決まってるじゃない!」
「え!? そうなの!?」
「そうよ! ああ、もう、これだから世間知らずの箱入りは…」
なってない! と言わんばかりに腕を組み、仁王立ちのヴェロニカである。
しかし、すぐに組んだ腕を解くと、
「さあ! そうと決まったら入りましょう!」
そう言いながらアデレイドの背を押して占い小屋へと向かう。
「え!? きゃあ! ちょっと、待っ…」
そのまま一緒に占い小屋の中へ入ってしまったのであった。
「いらっしゃい。 おや、可愛らしいお嬢ちゃん達だねえ」
中に入ると、占い師と思しき老婆が迎えてくれた。
「こんにちは! 今日は、この子を占ってください!」
そんな老婆にヴェロニカが元気に答える。
「ちょっと、ヴェロニカ」
困惑しながらも、どんどん話を進めてしまうヴェロニカに注意するアデレイド。
「こっちのお嬢ちゃんかい? …ふぅむ」
何か思う所でもあるのか、意味深な目でアデレイドを見ながらカードを出す老占い師。
(あ、カード)
先ほどヴェロニカに教えてもらったカードでの占いが行われるようだ。
俄然興味が湧いて来たアデレイド。
「よろしくお願いします」
それで気持ちが切り替わったのか、素直に占って貰う姿勢を見せた。
「ああ、そこにお座り」
正面の椅子を勧める老占い師。
アデレイドがその椅子に座ると、占いが始まった。
老婆によるカードの占いは、当たりに当たった。
占いの最中、アデレイドには魔力の揺らぎは感じられなかった。
だと言うのに老婆の指摘が当たるのだ。
「あんた箱入り娘だねぇ」
「今日は家を抜け出して来たね。 やんちゃは程々にしておきなよ」
等と当たり障りの無いものから始まって、
「あんたの背後に沢山の、それはもう大勢の祈りが見えるね」
「神様にも愛されているね、羨ましい事だよ」
等と核心を突く事まで様々だ。
(す、凄い。 どうしてこんなに判っちゃうんだろう)
この僅かな時間で、アデレイドはこの老占い師に心酔していた。
そこに脇から声を掛ける不届き者が現れる。
「お婆さん、出会い。 今後の出会いはどうなってますか~?」
「ちょっと、ヴェロニカ! 占いの最中に失礼でしょう!?」
「出会いかい? そうさねえ…近い将来に重大な転機を齎す出会いがあるよ」
「え!?」
ヴェロニカを窘めたつもりが、老占い師はヴェロニカの言葉に従って結果を口にしてしまった。
驚いたのはアデレイドだ。
まさか自分にそんな出会いがあるとは思っていなかった。
「おおお、運命の出会い! 運命の出会いだよ、アディ!」
「運命の出会い…私に?」
「そうだよ、漸く潤いのある日々がやって来るんだよ」
本気か冗談か判らない態度と口調で揶揄するヴェロニカ。
「もう! すぐ、そうやって揶揄って!」
(そういう意味の出会いじゃないんだけどねえ。 でもまあ相手が異性なら、それが切欠でそうなる事もあるかもしれないくらいの一大事ではあるかねえ)
二人を眺めながら、老占い師がそんな事を思っていたとは露知らず、アデレイドとヴェロニカは、それから暫く燥いでいた。
占いを終え、その後もお祭りを堪能すると夜も遅くに帰宅する二人。
当然のように、こってりと絞られた。
アデレイドとヴェロニカだけで無く、手引きしたジョシュアも一緒だった。
いつもならアデレイドは申し訳なさで一杯になるのだが、この日は違った。
「運命の人かあ…」
「何か言いましたか!? アデレイド!」
「い、いえ、何も言っていません、バーバラ司祭」
咄嗟にヴェロニカがフォローするが、バーバラ司祭と呼ばれた女性には通じなかった。
「全く、お説教されていると言うのに心ここに在らずとは。 あなた達は、明日から修行を倍にします!」
(うわあ、最悪…)
項垂れるヴェロニカ。
だが、その原因を作ったアデレイドはと言うと…
(運命の人かあ…)
全く懲りずに、まだ見ぬ“運命の人”に思いを馳せていた。
(あー、明日から修行が倍なんて…ツイて無いわあ)
夜、ベッドに横になりながら、明日からの地獄を思い、落ち込むヴェロニカ。
「ちょっと、やり過ぎたかしらね」
あれから、事ある毎に「運命の人」を連呼したのは彼女だ。
そのせいでアデレイドに刷り込んでしまったのかもしれない。
だが今までの生活に潤いが無かったのも確かだ。
アデレイドに思いを寄せるジョシュアには悪いが、彼女はもっと世間を知るべきだと思うのだ。
――それが例え“聖女に男が出来る”と言うスキャンダルに繋がったとしても
とある街の一角には、大きな神殿が建っている。
その神殿は“癒しの女神ダナ”を信奉する一派の本山で、戒律を重んじることを重視している宗派だ。
――重視していた、のだが。
その日、その宗派の聖女――二百年ぶりに現れた――が規律を破って司祭からお説教を喰らうという珍事が起きていた。
戒律を破った訳では無いのだが、戒律を重んじると言う事は、押しなべて規律を守る事を良しとするものである。
そんな宗派の聖女が規律を破ったのだから珍事と言われても仕方あるまい。
そして、その珍事を起こした聖女はと言うと。
「私の運命の人…」
お説教を喰らった事などすっかり忘れて、出会ってもいない思い人に心奪われていた。
こっそり更新。
二章のプロローグ的な感じで。
本編はしばらく先になりそうです。




