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CVW-19 空母航空団  作者: F.Y


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3/3

パキスタン

 2029年 4月14日 0917時 ワシントンDC


「それで、アンワル首相は何と言っていたんだ?」

「通常の緊急展開訓練だ、とだけです。大統領。自分たちに攻撃の意図は無い、と」

「全く、信用できんな。奴め、何を考えてやがる」

 ヴィンセント・バークレー合衆国大統領は、足早に執務室へと向かっていた。隣で歩くのは、ジェームズ・アークライト国家安全保障問題担当大統領補佐官だ。

 バークレーは48歳という若さで、今年の1月に大統領に就任したばかりだった。共和党に所属し、かつてはアメリカ海兵隊でAV-8BハリアーII戦闘機のパイロットをしていた。

 バークレーの政治姿勢は単純明快。外交に於いては、同盟国との関係を強化し、内政に於いては『強いアメリカ』を打ち出す。それだけだった。

「モーガン、日本に輸出する予定のミサイルはどうなった?」

「今週中には発送されます。JASSM-ERとAMRAAMです」

「あと、議会には、日本がわが国のミサイルをライセンス生産する権利に関する法律を早く承認するよう、ケツに蹴りを入れておけ。ただでさえ、ヨーロッパやオーストラリア、カナダ、韓国からミサイルの注文が舞い込んでいるんだ。日本はライセンスさえ与えれば、生産する技術はあるんだろ?わが国のミサイル工場だって、生産ラインはパンク寸前なんだ。自国で生産できる国には、ライセンスを与えて、それでまかなって貰うべきだ」

「大統領、昨日のニュースは・・・・」

「ああ、見たさ。あの劉のクソッタレが。北朝鮮が違法に手に入れたイラン産の石油の輸送を手助けしていた、だと?常任理事国が、堂々と国連決議を破りやがって」


 バークレーは、執務室のドアを開け、足早に席についた。続いて、国防長官、国務長官、国家安全保障問題担当大統領補佐官が着席する。

「さて、諸君。前置きは無しにしよう。パキスタンは何をしている?」

 これには、モーガン・ファラガット国防長官が答えた。

「大統領。中央軍司令官からの報告によりますと、パキスタン空軍の活動が活発化しています。特に、昨日はパキスタン空軍のF-16戦闘機が8機、オマーン領空ぎりぎりまで接近しました。これに対して、オマーンとUAE、カタール、バーレーンの4ヵ国が、戦闘機を連続してスクランブル発進させています。中央軍司令官は、現在、デフコン3の体制を取っていましたが、今朝、早くにデフコン2に格上げすると報告が入っています」

「あの辺りに展開している空軍部隊は?」

「2個戦闘機飛行隊がバーレーンのイサ空軍基地に展開中です。他には、ディエゴガルシア島に1個爆撃飛行隊と1個空中給油飛行隊が展開中です」

「空母は?」

「実は、現在のところ、あそこは空母の空白地帯です。現在、活動中の空母艦隊は、沖縄近海にいるジョージ・ワシントンのみです。ですが・・・・・」

「モーガン、第7艦隊の空母は動かす訳にはいかない。沖縄に張り付けておかないと、中国の山東艦隊が良からぬ行動に出かねない」

「その通りです、大統領。しかし、近く、空母ドリス・ミラーが出られます。ドリス・ミラーに搭載される第19空母航空団は、ほんの3日前に全ての飛行隊が着艦資格取得訓練(CQ)を修了したとの報告を得ました。元々、ドリス・ミラーは第5艦隊管轄区域に向かう予定になっていました」

「よし、ならば、空母はドリス・ミラーを貼り付けよう。海兵隊遠征部隊はどうだ?」

「第26遠征部隊がオーストラリア北部で活動中です。強襲揚陸艦ブーゲンビルとドック型輸送揚陸艦アンカレッジ及びサマセットから成ります」

「ドリス・ミラーとブーゲンビルを合流させ、ペルシャ湾をパトロールさせるんだ」

「了解です、大統領」

「パキスタンのアンワルは信用できんな。全く、タリバンの幹部や中国の外務大臣とニコニコ顔で記念写真ときてやがる」

「ええ、ですからパキスタンに対するF-16戦闘機のスペアパーツの販売を差し止めたのです。立法がやや間に合わず、その前にFMS販売1バッチ分のスペアパーツや増槽、ミサイルなどがパキスタンに到着してしまいました。現在、パキスタン向けに製造されたF-16のスペアパーツとミサイルが宙に浮いた状態です」

「どこか、欲しがっている国は?」

「台湾が欲しがっています。先月、議会の決議通りに、台湾へF-16戦闘機やM1A2戦車などの補修部品が発送されましたが、台湾は更なる戦闘機のパーツとミサイルを要求しています」

「ならば、台湾に販売するよう、手を回しておこう」

「劉主席はおかんむりでしょうな」

「劉がそのことで文句を言ってきたら、北朝鮮への国連決議違反の件で叩きのめしてやる。おまけに、中国人の核技術者がイランへの入国を繰り返している件も問いたださないといかんな」

 中国が北朝鮮に対して、レアアースとその他戦略物資を移送したことが確認された。それは、嘉手納から飛び立ったRC-135VコブラボールとRQ-4グローバルホークによる航空偵察によって証拠を押さえたのだ。

「大統領、中東方面での軍の活動についてはどうされますか?」

「そうだな。まずは偵察と情報収集を中心にしてくれ。だが、空軍の戦闘部隊をサウジアラビアとディエゴガルシア島にも追加で置いて、不測の事態に備えさせるんだ。それと、アンワルには釘を刺しておく。もし、オマーンを攻撃したら、単なる経済制裁で済ます気は無い、とな」


 2029年 4月15日 18時22分 パキスタン カラチ マスルール空軍基地


 夕暮れが迫る中、4機の戦闘機が滑走路へ向けてタキシングを開始した。単発のエンジンに胴体の下に配置されたダイバーターが無いエアインテーク。そして、特徴的なクローズカップルドデルタ翼。中国製のJ-10Cだ。J-10Cには、増槽の他、LT-2レーザー誘導爆弾の模擬弾とFILATレーザー照準ポッドを搭載していた。

 J-10Cは、最近、中国からパキスタンに引き渡されたばかりの新鋭機で、現在は30機程度を導入しているが、パキスタンは更なる導入を計画していた。と、言うのも、アメリカ製の戦闘機であるF-16は、予備部品と兵装が輸出制限を受けて稼働率が一気に低下し、各タイプ合わせて70機以上あったF-16は、共食い整備の影響から今や20機程度しか飛行可能な状態に無く、アメリカ製のミサイルはもっと入手しにくくなっている。

 パキスタン政府としては、引き続き、アメリカへF-16の予備部品や兵装の販売を要求しているが、アメリカ政府は頑なに拒否を続けている。その代わりとなっているのが、このJ-10Cと中国と共同開発したJF-17サンダーという訳だ。


 アブマット・カーン中佐はJ-10Cの操縦桿を引いた。これから射爆場に向かい、夜間の対地攻撃訓練に向かう。J-10CやJF-17サンダーのパイロットは、十分な飛行時間を確保できているようだが、F-16のパイロットは予備部品の入手性から飛行時間の制限が始まっていた。

 旧式のF-7やミラージュⅢ、ミラージュ5のパイロットはもっと悲惨である。これら3種類の旧型機は、機体の大幅な老朽化に加え、予備部品の入手の困難さにも直面し、飛行時間の大幅な制限も始まっている。おまけに、先週は、F-7がエンジンのトラブルからなる緊急着陸を2件起こしている。軍は原因についてはまだ調査中としているが、大方、部品の老朽化から来るものだろうと予想されていた。

『マスルールよりジラフ51、高度8000フィートで射爆場に進入してください。その後、標的を目視確認し、その後、爆撃訓練に移ってください』

「ジラフ51、了解した」

 カーン中佐は41歳。戦闘機パイロットとしては、やや高齢になる部類に入る。19歳で空軍に入隊し、25歳の時に戦闘機パイロットの選抜訓練に合格した。そして、16年間、F-16AからJ-10Cに乗り換えつつ、戦闘機を操縦してきた。


 カーンは射爆場に到達すると、機体を傾けて標的を確認した。だだっ広い荒れ地に、天井が赤く塗られたコンテナを見つけた。これが、今回の訓練で攻撃するターゲットだ。

 カーンは戦闘機の多機能ディスプレイを操作し、FILAT標準ポッドのカメラ映像を映し出した。画面の白い十字グリッドの中心に、ターゲットのコンテナが入るように調整し、スロットルレバーに付いているボタンを押し込む。ディスプレイのグリッドが赤くなり、右上に『TARGET LOCK』の文字が表示された。カーンはすかさず操縦桿のボタンを押した。


 レーザー誘導爆弾の問題は、自らレーザーを標的に照射する場合、ターゲットを捉え続けねばならないという点だ。しかし、これは簡単に解決できるものではある。レーザーを照射する機体と爆弾を投下する機体を別々に用意する。地上部隊にレーザーを照射して貰うという手段だ。


 J-10Cから投下されたLT-2は、見事に標的に命中した。勿論、訓練用の模擬弾なので、LT-2自体はコンテナにぶつかって勢い良く跳ね返っただけで、爆発することは無かった。

「ジラフ51、標的に命中」

 続いて、3機の僚機からも次々と標的に命中させたとの報告が入った。今回の訓練は成功裏に終わったと言えるだろう。


 今の中国製兵器は、3、40年前のものと比較すると、比べ物にならないくらい進化したものだ。未だに空軍に残っているJ-7のパキスタン向け輸出型であるF-7Pと比較したら、エンジンのパワー、機動性、レーダーやECM装置の性能、どれを比べても大きく上回っており、2000年代前半頃にアメリカから買ったF-16CJブロック52+と比較しても遜色無い性能だ。


 カーンは僚機に帰投する、と通信し、事前のブリーフィング通り、最短距離でマスルール基地に戻るコースを辿った。今日の訓練の成績は上々だ。

 パキスタン空軍、いや、全軍の兵士の間で、有事が近いという噂が流れていた。しかし、カーンにとっては、やることは変わらない。政府が敵を攻撃せよ、と命令してきたら、そうするまでなのだ。

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