少年、少女と出会う④
「どう?」
ラルカが聞くが、もう答えはわかっているとばかりにニヤニヤしている。
「・・・旨い」
ライラはそれが少ししゃくにさわったが、否定もできない。
「よかった!ねえ、ご飯も食べてみて」
ライラはさらに大盛りになっているご飯をフォークですくい、匂いを嗅いだ。
(わるくないな)
米とはこのような匂いだっただろうか。以前に食べたのは米と一緒に芋と豆を煮込んだもので、匂いがきつくとても美味とは言えなかったが。
(味はどうだ)
口に入れてみる。あまり濃い味ではない。しかし噛めば噛むほど、米の甘みがどんどんと強くなっていく。
(なんだこれは。こんなに旨い米があるなんて)
ライラが思うのも無理はない。ラルカの米は父イズミの故郷、“緋野”産のものであり、このあたりの国々にある米とは全く異なる。七星使徒が冥府で主食にしていたのもこの米だ。ヨミの二次元の隠し部屋の大きさはラルカのそれを遥か上回り、田畑を作ることも可能だ。しかしそれでも面積は限られる。主食として小麦も検討されたが、面積に対し収穫量も多く、カロリーも高くさらに長期保存も可能な米が選ばれた。そのおかげで余った面積で野菜もそだてることができた。水はヨミやフロートの魔法で生成し、肉は冥府で魔物を倒せば調達できたため、食料に困ることは基本なかった。
「ねえ、こうしてもおいしいんだよ」
ラルカはステーキを小さく切り、ご飯の上に乗せた。テーブルに置いてあった小さい瓶を取り、傾けると黒い液体が出てくる。
「それは・・・?」
初めて見るものだった。しかしそこから香ばしい香りが漂い、ライラの鼻孔をくすぐる。
「これ、醤油って言うんだ。お父さんの故郷の調味料なんだけど、お肉にも魚にも合うんだよ」
ラルカが醤油のかかった肉ごとご飯を口に入れ、幸せそうに咀嚼している。ライラも同じように醤油をかけ、食べてみた。
「うおっ!」
思わず声が出た。肉のうまみを、この醤油が何倍にも増幅させてくる。しかも肉と醤油の香ばしさが合わさり、食欲が抑えられなくなる。こんな調味料があったとは。そして、ご飯の優しい味がその強さを包み込む。肉とご飯と醤油の調和がライラの口いっぱいに幸せを呼び込んだ。
「すごい、旨い。こんなの初めてだ」
「やった、ライラが喜んでくれて、僕もうれしいよ」
ラルカが本当にうれしそうな笑顔を見せた。
「この肉、なんて魔物の肉なんだ?」
ライラは先ほどから気になっていたことを尋ねた。決して照れ隠しではない、と自分に言い訳をしながら。
「これね、ワーギュっていう魔物だよ」
「・・・聞いたことがないな」
「あんまり強くはないんだけど、肉がとにかくおいしいんだ。普通の肉と違って、脂がまるで霜のように細かく肉全体にちりばめられているの。だからジューシーで、やわらかいんだって」
ライラはもちろん、ラルカも知らない。ワーギュは世界でも最高峰の肉であり、王族でも食べられることはほとんどないということを。
「このスープも上手いな」
「いろんな野菜が入っているからね。あと、鳥の魔物の骨からうまみも出るんだって」
スープは薄味で、肉の脂分をさっぱりさせてくれる。体だけでなく心も癒される味だ。二人はお腹いっぱいになるまで食事を楽しんだ。
「ごちそうさまでした」
ラルカが手を合わせて頭を下げる。そういえば食事前もしていた。何かの習慣だろうか。
「すまない、こんなに高価な食事までごちそうになって」
「どういたしまして。ねえ、ライラ、最後に、とっておきのものあげる」
そう言ってラルカが童子の宝物庫から取り出したのは、二つの丸い物体だった。
「これは?」
「これ、お母さんの得意料理。僕の一番の好物なんだ」
ライラに一つ手渡す。ふわふわした触感だが、思ったより重く感じた。
「ドーナツっていうお菓子。だけど、中にとっておきのものが入っているの」
お菓子なんて、ライラはほとんど食べたことがない。砂糖は高級品だし、食事は楽しみと言うより生きるために摂取するものだった。もちろんこれはライラに限った話ではない。
「いいのか、こんなに高級なもの」
「もちろん。食べてみてよ。きっとおいしいよ」
ラルカが頬張る。途端この日一番の笑顔になる。そんなにおいしいものなのだろうか。ライラは正直先ほどの食事だけで大満足だったが、ラルカに促されるような形でかぶりついた。
(甘い)
こんなに甘いものは初めてだ。果実を食べたことはあるが、それとは比べ物にならない。酸味もなく、甘みが舌を直撃する。
(こんなに、おいしいなんて)
はじめてに近いお菓子の味は、堕落させるほど甘味だった。ふわふわの生地を食べ進めると、中に茶色いものがある。
(豆?)
豆をすりつぶしたものはこちらでもよく食べる。あまりおいしくはないが。しかし、ラルカの渡したこれはきっとおいしいとの確信があった。
(・・・これも、甘い!)
先ほどの生地よりさらに甘みが強い。しかも食べ応えもあり、ふわふわの生地とのアクセントが素晴らしい。
「中のこれ、あんこって言うんだ。これもお父さんの国の食べ物なんだよ。お母さんがこれをドーナツの中に入れたんだ。名付けてあんドーナツ!最高においしいでしょ」
確かにこれはうまい。先ほど腹いっぱいになったはずなのに、食べるのがやめられない。ラルカの母は料理上手なようだ。二人はむさぼるように食べてしまった。
「うまかった。こんなに甘くておいしいものは初めてだ」
「うん、僕もうれしい。友達と一緒に食べられて」
「と、友達!?」
ライラが素っ頓狂な声を上げる。
「僕、今まで周りにいたのが、年上の人たちがほとんどだったんだ。一人だけ姉弟みたいに育てられた人はいたけど、最近別れることになっちゃって。だから、ライラみたいに年が近い友達ができたのがうれしくって」
ライラの胸に小さな痛みが走る。友達と言われた。しかも人間に。人間なんてみんな嫌な奴のはずだったのに。一人で生きていく、あの日からそう決めたはずなのに。こいつのことも頼りたくはなかったのに。しかし、命を助けられ、あまつさえ温かい食事と安全な寝床まで提供されてしまった。
「この借りは、いつか必ず返す」
「別にいいよ、友達だもん」
ライラの胸の痛みが、さらに大きくなった。
(しかし、風呂まであるのか)
食事を済ませたライラは、うろうろと二次元の隠し部屋の中を歩いた。中は宿屋の部屋3つ分ほどの大きさがあり、二人が休息をとるのには不自由しない。その中でも風呂は特に魅力的だった。食事中ラルカは竈でお湯を沸かしており、風呂の準備をしていた。ラルカは毎日入浴しているため、風呂が贅沢という感覚がない。しかし、貴族や一部の金持ち以外は水浴びで済ませることがほとんどで、温かい風呂に入れるのは大変なぜいたくだった。しかもこの風呂の石、見たこともない美しさだ。緑色だが苔のような不潔さがなく、まるで宝石のようにもみえる。
「お風呂が沸いたよ。ねえライラ、一緒に入らない?」
お湯をかき混ぜながらラルカが提案をした。
「わ、わたしも入っていいのか!?」
「うん、もちろん」
「だ、だが、魔物から助けられ、食事もごちそうになり、あまつさえ風呂なんて――」
「でも、もうお湯沸かしちゃったよ。僕一人じゃ使いきれないもん」
あまりにも厚かましい、とのライラの言葉はラルカにさえぎられた。
「ほ、本当に、いいのか?」
「僕、お湯の温度調節しているから、準備してて」
「あ、ああ」
ラルカが浴槽にお湯を入れている間、ライラは服を脱ぎ、生まれたままの姿になった。
「ライラ、きれいだね。僕のお母さんと同じぐらいきれい」
いつの間にかラルカが振り向いていた。ライラの彫刻のような見事なプロポーションに見とれている。それは、世界一の美女と名高い母にも決して負けていない。
「?・・・そ、そうか」
ライラはその言葉に少し違和感を感じた。
「じゃ、僕も準備しよっ」
ラルカが来ているものを一気にすぽーんと脱ぎ捨てた。ライラはその姿を上から徐々に下げ、下腹部を見るた。そこにはライラにはないものがついていた。
「~~~~~~~!!!!!!」
声にならない絶叫がこだました。
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