少年、少女と出会う③
「こ、ここはどこだ!?」
今日は何度も驚いたが、今までで一番の驚きだった。先ほど光の中に飛び込んだと思ったら、目の前に現れたのはベッド、竈、テーブルにイス、それに食料、風呂まである謎の場所だった。
「空間魔法で造った、こことは違う世界にある部屋だよ。ここなら魔物に襲われる心配ないから安心して寝られるよ」
開いた口が塞がらない。こんな魔法聞いたことがない。一体この子供は何者なんだ。
「でも、ヨミお姉ちゃんのはもっともっと広くてすごいんだよ。なにしろこの空間の中におっきな家と、畑と、井戸まであるんだからね」
ヨミのこの魔法には、冥府にいるとき数え切れないほど他の使徒たちも助けられた。これがなければ赤子のラルカを育てることもできなかったに違いない。
「・・・お前、一体何者なんだ」
ライラの疑問ももっともである。これほどまでの高度な魔法を使用し、目に見えぬほどの高速の剣技を持っているなど只者ではない。死んだ両親も手練れではあったが、比較にもならないほど強い。
「何者って言われても。僕はラルカ。それだけだよ。それより、食事にしない?」
ライラの腹が、ぐ~っと鳴った。ラルカがにっこりと笑う。ライラはほほを染めた。
「ちょっとまってて、今準備するね」
ラルカは食料の入った箱をあけ、料理の準備を始めた。
(米か)
ライラはラルカが取り出した白い粒に心当たりがあった。このあたりではあまり主食としては食べられていない。獣人の国や東方の小国ではパンの代わりに米を主に食べていると聞いたことはあるが。ライラの知っている米は黄色がかって匂いがきつく、貴族や金持ちには好まれていない。ラルカは手慣れた様子で米を洗い、鍋で炊き始めた。また別の鍋には鳥型の魔物の骨がぐつぐつと煮えている。その間に野菜を切り、野菜を鍋の中に入れた。どうやらスープを作っているらしい。
(贅沢だな)
普段ライラは野営の時は、保存食だけで済ませることがほとんどだ。温かい食べ物はそれだけでありがたい。
「よいしょっと」
次にラルカは魔物の肉を取り出した。
(お、おい、それは贅沢過ぎないか)
ライラも仕留めた魔物の肉を食べることもあるが、匂いで他の魔物が寄ってくることも多いため、よほどのことがない限り難しい。それに自身で食べるより、換金したほうが稼ぎになる。肉は月に二回食べられればいいほうだった。ラルカはその肉をナイフで二枚切り取った。面積は大人の掌より大きく、厚みは指二本分もある。ラルカはその二枚の肉に塩を振りかけ、胡椒を削る。熱したフライパンに魔物の脂身を入れて、十分に溶かし、先ほどの肉を入れた。さらに肉の上にローズマリーを乗せる。油のはじける音と、こうばしい香りにライラはよだれを落としそうになる。肉をひっくり返し、ラルカは瓶に入った酒をふりかけ、炎を立ち上がらせた。炎がおさまると同時にまだ熱いままのフライパンをかまどから外す。いつの間にか炊き上がった米を皿によそい、熱々のスープと一緒にテーブルに運ぶ。最後にまだ音がするフライパンからやっと肉を取り出し、メインディッシュとばかりに皿にのせた。
「できたよ。一緒に食べよう」
「わ、わたしも肉を食べていいのか」
「?そりゃそうでしょ」
ラルカは質問の意味が一瞬わからなかった。食卓に並んだものはみんなと一緒に分け合って食べるのが当たり前とラルカは母から教わっている。
「本当に、いつかこの借りは―」
「ねえねえ、早く食べようよ。せっかくの料理が冷めちゃうよ」
ラルカは右手にナイフ、左手にフォークを持って稚児のように駄々をこねだした。ライラが慌てて席に座る。
「いっただっきまーす!」
ラルカは元気よく肉にかぶりついた。ステーキは単純な料理に見えて、実は奥深い。料理人は肉の焼き方だけで一晩語り合えるほどだという。ラルカは今回のステーキの焼き加減、塩の塩梅、休ませる時間、どれをとっても過去一番の出来だと思った。
「ほら、ライラも食べてよ。おいしいよ?」
ライラは遠慮がちに、ステーキをナイフで切り、口に入れた。
「!!」
その瞬間、口の中いっぱいに肉のうまみが広がり、続いて脂の甘みがはじけ、塩が脂の甘みを増幅させ、ローズマリーと胡椒が肉のしつこさをさわやかに洗い流す。そして噛むたびにそれが繰り返されるのだ。肉とはこんなにも旨いものだっただろうか。今まで食べた肉と言えば、嚙み切るのも一苦労なほど固く、脂は皮付近にしかなく赤身の部分はパサついていた。さらに臭みも強くて鼻をつまんで食べることさえあった。しかしこの肉は、ナイフの手ごたえからして違う。表面だけは固いが、そこを抜けると吸い込まれるようにナイフが沈む。断面を見ると脂がにじみ出てきている。口に入れると溶けてなくなるくらいに柔らかい。こんな肉は初めてだった。
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