少年、少女と出会う②
「・・・ごめんなさい。無神経だったね」
ラルカは少女に深く頭を下げた。少女は答えない。
「じゃあ、お詫びに、その武器修理させてくれない?」
「・・・?」
少女はいぶかしげに顔を上げた。
「直す?お前が?」
もしやドワーフなのか。だとすると、背が低いだけでやはり年上なのだろうか。いや、桃色の髪のドワーフなど聞いたことがないし、ドワーフはもっと筋肉質なはずだ。でも女のドワーフはこんな感じなのだろうか。
「ううん、僕じゃないよ。彼女にやってもらおうと思って」
そういうとラルカのそばに突然、魔力の素であるマナが集まった。そのあまりの強さと量に少女は思わず後ずさった。マナは徐々に形どり、人型になり、そして長い髪の半裸の女性の姿になった。
(精霊!?)
精霊と契約する魔法使いは見たことがある。しかしその数は非常に少なく、それも今まで見てきたのは下位か中位の精霊だけだ。しかし、目の前にいる精霊はそれとは比べ物にならないほどの存在感を放っている。少なくとも上位、いやそれ以上の高位の存在だ。いくら魔法に疎くてもそれぐらいはわかる。
「ねえガイア、彼女の持っている武器なんだけど、どうにかならない?」
ラルカが自分の使役精霊、ガイアに話しかけた。上位以上の高位の精霊は、人語を解するが発声能力がない。ガイアは無言でうなずくと、両手を口に添えて、少女の武器に息を吹きかけるようにマナを飛ばした。
「え」
少女の持っていた武器の刃こぼれや傷が徐々にふさがっていく。それどころか折れてしまった柄もくっついてしまった。一見すると新品に見えるほどだ。
「ありがとうガイア、助かったよ」
ガイアはやはり答えず、母のような優しい笑みを浮かべ、消えていった。
「い、いま、何をしたんだ?」
少女の声は震えている。武器が直った喜びが混乱でかき消されていた。
「うん、今のは地の精霊のガイアって言うんだけど、マナで金属を生成したり変形することができるんだ。そこでその武器の金属を操って傷をふさいだり、足りないところは鉄を作って埋めたりしたんだよ」
当たり前のようにラルカは言ったが、少女は言われたことが信じられないようだった。地属性の魔法は本来、地面の土や石を操るものだ。魔法で具現化するなんて聞いたことがない。どれだけの量のマナが必要なのか想像もできなかった。
「でも、所詮は補修だから、まったく元通りじゃないんだ。ごめんね、お姉さん」
「・・・ライラ」
「え?」
「わたしの名前だ。その、助けてくれて、礼もいっていなかったからな。それにこれまで直してくれて、感謝している」
ライラは視線を合わせず横を向いているが、その目に先ほどまでの悲しみはなかった。ラルカは笑顔で「どういたしまして」と答えた。
「ところで、お前は一体どこから来たんだ?何をしにこんなところに来た?」
ダークエルフの少女ライラが訪ねると、ラルカはうれしそうに、
「ラルカって呼んでよ。えへへ、お姉さんの名前のライラとラルカ、なんだか似てるね」
(変な奴)
と思いながらも、ライラは悪い気はしなかった。
「僕、ずっと西の国から来たんだ。今度この国の学校に入学するためにね」
「学校に?お前も?」
「え、じゃあお姉さんも?」
ライラは頷いた。
「じゃあお前、わたしと同じ十五歳なのか」
「ううん、僕十二歳」
「十二歳!?」
ライラが驚いたのはラルカがその年齢に見えないからではない。学校は通常十五歳で入学する。事情があり遅れて試験を受ける者もいるため、二十五歳までは入学可能だ。しかし十五未満で受験可能なんて聞いたことがない。そのことを訪ねると、
「なんかね、お姉ちゃんが推薦状を書いてくれたんだ。それをもっていけば、入学試験を受けられるって」
そう言ってヨミからもらった推薦状を見せる。
(推薦人、ヨミ・ミオソティス!?本物か!?)
ライラはおろか、全世界にその名は知られている。学校の所有者であり、学長であり、何より英雄・七星使徒の一員だ。偽造かと思ったが、入学試験時に確認されるだろう。何よりこの子が嘘をついているように思えない。
「あ、でも、本当のお姉ちゃんじゃないよ。そういわないと怒るけど。これナイショね」
ラルカはウインクして舌を出した。
「ねえ、それより、この魔物どうしよう。ライラいる?」
はっとした。見たことない魔物だが、これほどの強さだ、少なくともコアは高価で売れるだろう。しかし、
「それはお前が仕留めたんだろう。わたしがもらうわけにはいかない。ギルドから盗人認定されてしまう。だが、どうやって持っていくんだ、このデカブツ」
ラルカが切り落とした腕の部分だけでライラの身長ほどある。もったいないが、体からコアだけ取り出して持っていくしかないかもしれない。
「だいじょうぶ。これがあるから」
ラルカが手を空間にかざす。すると空間に黒い穴のようなものが広がった。それはどんどん大きくなる。
「!?」
「よいしょっと」
ラルカはその黒い穴に向かって、魔物の腕を放り投げた。すると魔物の腕はその穴に吸い込まれ、消えてなくなったしまった。
「な、なんだそれは」
「これ?空間魔法の童子の宝物庫。生き物は入れないけど、それ以外のものなら色々入れられるんだよ。便利でしょ」
そう言いながら今度は頭を、続いて胴体まで放り込んでしまった。ライラはその怪力にも驚いたがそれ以上に、
(空間魔法?)
魔法使いは何人もあったことはあるが、空間魔法の使い手なんて見たことがない。それほど高難易度の魔法だ。初級の空間魔法でも、他の上級魔法に匹敵する難易度と聞いたことがある。しかも今、無詠唱で唱えていなかったか?
「あ、そうだ、そういえば忘れてた」
そういうと、ラルカは黒い穴改め童子の宝物庫の中に手を入れると、何かを取り出した。
「これ、ライラのじゃない?」
「あっ」
それは先ほどの魔物から逃げるとき、捨ててきた荷物だった。
「こ、これ、どこで」
「さっきライラを追いかける途中で見つけたんだ。後で渡そうと思ってたんだけど、今まで忘れちゃってた」
「・・・何から何まで、すまない」
「えへへ、いいよそんな。それより、日が落ちてきたよ。そろそろ野営したほうがいいんじゃない?」
見上げると太陽がもう沈みかけ、月が淡い光を放っている。
(しまった、ここからじゃあ安全な街道に戻るまで、どのくらいかかるか・・・)
焦るライラの耳に、ラルカの詠唱が聞こえた。
――――魔が跋扈するこの現世において、我らに一時の安らぎの場を求めん。
「二次元の隠し部屋」
ライラの眼前に今度は光の穴が現れた。ラルカはライラの手を握り、呆然とする彼女と一緒にそこへ飛び込んだ。
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