夜を超えて
黒いローブの男は、僕に背を向け、三歩先へ進んだ。
そのまましゃがみ、硬い土の上に円を描き始めた。
一発で見事な円を描くと、再び立ち上がり、僕の方へ視線を向けた。
「さぁ、この円の上に立ってくれ。そうすれば、魔法界に行くことができる。」
「本当に?」
「あぁ、嘘はつかないさ。まぁ、疑っておかしくない。しょぼくれた転移方法だ。ただ地面の上に円を書いただけの、つまらん装置だ。」
男は急かすように、手で合図を送る。
ゆっくりと円に近づいた。そして円の上に立つとゆっくりと地面が光出した。自分を囲むように緑色の炎が燃え上がった。
しかし、熱は感じない。言い方は悪いかもしれないが、見せかけの演出のような、そんな感じがする。
「んじゃ、先に行ってくれ。俺も後から続いて行く。」
炎が全体を包んだ。視界は炎で揺らいでおり、いい気分とは言えない。吐き気がする。
パチパチと音が鳴りながら、一分弱程度の時間が過ぎた。炎の勢いが少しづつ弱くなっていく。
少しづつ瞼を開ける。
そして、視界の先に映ったのは、レンガや石で積み上がってできた、重厚感のある家が並んだ、住宅街が広がっていた。
そして、今いる自分の場所は、クラシックで、歴史的雰囲気を感じさせる、綺麗な街灯の下だった。
ここは…
ここはなんというか、イギリスの雰囲気を感じさせる。
と言っても、自分は日本以外の国を実際には、見たことがない為、正確なイギリスの雰囲気は分からない。
それでも、これだけは言える。
ここは絶対、日本ではないという事だ。
「流石に気づいたみたいだね。」
ローブの男の声が、後ろから聞こえた。
驚いた反動に、声が出そうになったが、ぐっと堪え、後ろへと体を向ける。
「ここが、魔法界ですか?それともイギリスですか?」
「ここがイギリスなら、今頃、太陽が俺達を見下しているだろうね。だが今は。」
そう言うと、ゆっくりと空を見あげた。
それに釣られるように、僕も空を見た。
月が、僕達の事をじっと見ている。
星が、僕達をじっと見つめてくる。
僕はその月に、違和感を感じた。
「君は本当に、敏感だね。君の違和感は正しい。今、空に見えている月も星も、ただの映像だ。」
やっぱり。
僕の違和感は正しかったようだ。
これも魔法か何かの技術なのか?
それにしてもこの人、なんで僕の考えをこんなに察知できるんだろう?
「そりゃあ、そう言う魔術が得意だからだ。君の考えは、何となく分かるさ。」
「は?」
「だから、そう言う魔術だ。相手の考えていることが大体分かる魔術。心理魔術とでも言おうかな。」
「…」
「まぁ、そうなるのも無理はないな。あんまり好かれない魔術だ。考えていることを勝手に言われるのは、気持ち悪いものだ。」
と、言っているものの、本人は満更でもない顔をしている。なんだか、上手く言えないが、すごくぶん殴りたい気持ちだ。
「まぁこれ以上、君に嫌われたくないから、そろそろ、自己紹介をしよう。俺は『シンダー』。君もよく知る、紫恩旋の弟子であり、この魔法界の案内人だ。」
真っ暗な夜に溶け込める程の、真っ黒い髪をかきあげながら、自信に満ちた表情をしていた。




