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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
99/124

ep93.帰ってきた日常とうれし涙

 ガッコに入って入学式に出て以来、ボクが式って名の付く行事に出るのはこの終業式が2回目だ。

 1学期の終業式にもお熱出して出れなかったし2学期の始業式は……入院しちゃってたから出てないし。……って言っても、別に式自体にそんなに出たいって思ってるわけじゃないけど……。(あんなかたっ苦しくって退屈なの、出たいなんて思わないもんね)


 ただ、みんなと一緒になんにも出来てない……。それが寂しいだけ……。


 2学期最後の日。

 今日は朝からお母さんが、久しぶりにガッコに行くボクの髪をキレイにまとめてくれた。

 髪型はいつもしてたポニーテールじゃなくって、両サイドの耳の上あたりから編みこみした髪をアタマの上にまわし、カチューシャっぽくする髪型にしてくれた。前髪はさらっと自然に下ろし、余った髪は後にまわし、小さめのピンク色したかわいいリボンでまとめたうえで背中に垂らしてるって感じだ。

 もう、すっごくかわいいくって、しかもちょっとお上品な感じに仕上がってて……、えへへっ、つい鏡で何度も見直しちゃった。

 でもお母さんってすごい! ボクなんて見ててどうやってるのか、さっぱりわかんなかったもん。

 それで、ボクにも出来るかな? って聞いてみたら、「まずは三つ編みを覚えてからね」って言われちゃった。でも、三つ編みが出来るようになれば、そっから編み込みだってすぐ出来るようになるって言ってくれたから……。

「じゃ、とりあえず三つ編みのやり方教えて?」って聞いたら、すっごくうれしそうなお顔になって「いいわよ」って言ってくれた。


 ――ボク、絶対覚えて自分で出来るようになっちゃうもんね。自分でも出来るとこお母さん見せて、喜んでもらうんだ~。

 ボクはめずらしくやる気になって、我ながらささやかな決意をした。



「お姉ちゃん、準備出来た~? って、わぁ、お姉ちゃん、すっごくかわいいよ! 似合ってる。さっすがお母さん、もう美容師さんになった方がいいよ、これ!」


 ガッコに行く準備を整え、リビングでお母さんの支度が済むのを待ってたら、同じく準備が出来たらしい春奈もやってきて、ボクの髪型を見るなりそんなこと言ってくる。


「うん、ボクもすっごく気に入っちゃった。それにこれからこういうの色々教えてもらうことにしたんだもんねぇ、えへへぇ」


 それに気を良くしたボクも自然と笑顔になってそう答えちゃう。


「くすっ、お姉ちゃん。なんかさぁ……すっごく自然だよね。うん、女の子してる。最近、特にそう思うよ。それに、せっかくドレッサーとかも買ってもらってるんだもん、どんどん活用しなきゃもったいないし……あ、そうだ、この際だし、お化粧とかも教えてもらったら?」


 はわっ、は、春奈ったら、な、何言い出すの、もう! また面白がって~。お顔、にやけちゃってるよ。


 ……でも、そうなのかな? 確かにボク、女の子のカッコしてももう全然気にならないし、スカートだって平気になっちゃったし……。っていうか、かわいいお洋服とか着せてもらってキレイになるのって、すっごくうれしいし。(まあこれは最近ってわけでもないけど)


 それにしたってお化粧はまだ早いよ……ね?

 ま、まぁ、それはともかく春奈に反撃しとかないと。


「もう春奈ったら~、からかわないでよぉ! ボクだっていつまでも前のままじゃないんだもん。ちゃーんと努力だってしてるんだもんね。だいたいお化粧なんて校則違反だよ?

 それを言うなら春奈だって……人のこと言えないじゃん! お化粧どころか、日焼けしまくっちゃってさ? ちゃんとスキンケアしてる? あとになってシミ出来たりしちゃっても知らないんだからね?」


 へへぇ、どう? ボクだって言う時は言う女の子なんだもんね~!


「うわっ、お姉ちゃん。言うようになったじゃん? まぁ努力してるってのは……多少は認めますけどねぇ……「ボク」って言ってる人にそんなこと言われたくないよねぇ? にっひひぃ。

 あと、ちゃーんとUVケアはしてますのでご心配は無用です。何しろその辺はすーっごく参考になる人が身近・・にいますからねぇ?」


 ひぐっ! 春奈ったらドヤ顔で言い返してきた……。


「だ、だって……ぼ、ぼ、ボク……って、つい。で、でも、その……、わた、わた、わたしって、私って言おうと思えば、い、言えるもん!」


 はうぅん、やっぱ反撃なんてするんじゃなかった……。倍返しで帰ってきちゃったよぉ……グスン。


「ふーん、言えるんだ? まる2年かかっても未だ、ボクって言ってるのに? ふぅ~ん」


 ボクを値踏みするように見てくる春奈。もぅ、ほんとイジワルなんだからぁ!


「い、言える……もん。言えるんだもん! み、見てなよぉ……」


 ボクはもう半分涙目になって春奈をにらむようにして……でも正直、全然言える気がしない……。でもここで譲ったら負けな気が……。


「2人ともお待たせ。支度出来たから行きましょう……って、何? 蒼空、どうしたの? そんな情けない表情かおして」


 リビングに来たお母さんがボクと春奈の対決の様子に気付き、そんなことを言う。もう、お母さんったら……そ、そんな情けないだなんてぇ!


「ふえぇ、お母さんまでぇ……もう知らないっ!」


 ついにいじけちゃったボク。

 話についてこれず呆気にとられてるお母さん。

 そしていたずらっぽく舌を出す春奈。



 まぁ、朝から色々あったけど……春奈になだめられながらも、お母さんのクルマに乗せてもらって、無事ガッコへ向け出発した。(もちろん春奈も便乗してる。ほんと調子いいんだから……)


# # #


「じゃあ蒼空、学校が終わったら携帯に連絡ちょうだいね? 春奈、蒼空のこと……頼んだわよ。それとお友達にもよろしく言っておいてね?」


 お母さんが車イスをクルマから下ろし、乗れるよう準備してくれながら言う。


「うん、わかった。ぼ……わ、私、HRが終わったら連絡するね」


「お、お姉ちゃん?」

「そ、蒼空?」


 ボクの発言に一瞬固まるお母さんと春奈。


「ぷっ、お姉ちゃんったら……まださっきのこと気にしてるの? もういいよ、無理しなくたって」

 

 春奈がちょっと呆れながら、でもその顔は笑うのを必死にこらえてる。そして、まだ不思議そうなお顔してるお母さんにさっきのことを説明してる。

 むうぅ、ボクがせっかく……なんとか、わ、わたしって言ったのに。春奈のやつぅ……。


「蒼空? あなたまた春奈にそそのかされて……もう、おかしいったら。……でももういいから。そんな無理して変えることないのよ? そういうのは自然に……大人になっていけば自然に変わっていくものよ、ね?」


 お母さんはまだちょっと笑いながらも、そう言ってボクのアタマを撫でてくれる。


「う、うん。……そ、そうかなぁ? ボク……まだボクのままでいい? 女の子らしく言わなくっていい?」


 ボクはアタマを撫でてくれてるお母さんを上目使いで伺うように見ながら言う。


「ええ、大丈夫。それに心配しなくたって蒼空は今でも十分女の子してるんだから。ちょっと前にも言ったでしょ? それから春奈、あなたも悪いクセよ。あんまり蒼空を混乱させるようなこと言わないの。わかった?」


 お母さんはボクを撫でながら大丈夫って言ってくれた後、春奈にも一言注意する。えへっ、もっと言ってやって、お母さん。


「は~い、気を付けま~す!」


 そう返事しつつも春奈の表情はとても反省してるってお顔じゃない。それどころかボクを見てニヤッとした表情を見せるくらいだ。

 ほんと困った妹なんだから……。


「じゃ、お母さん行くから……。春奈、ほんとに頼んだわよ?」

「はーい!」


 春奈のその返事にお母さんは軽く肩をすくめながら……ボクの方を見て言う。


「じゃあね、蒼空。久しぶりの学校、それにお友達といっぱいお話出来るといいわね? 終わったら連絡、忘れずにちょうだいね?」


 お母さんはそう言うとボクたちに手を振りながらクルマに乗り込み、春奈と2人、見送る中、帰って行っちゃった。



* * * * * *



 春奈に車イスを押してもらいながら校舎に向うボク。

 そんな姿は当然、校内にいたみんなの目に入るわけで……。


「お、お姉ちゃん……すっごく注目されちゃってるね?」


 校庭にいる生徒はもちろん、校舎の中にいた子たちまで窓からこっちの方見てる。中にはこっち指差しながら他の子たちに呼びかけたりしてる子なんかもいるし。

 その様子にさすがの春奈もちょっと落ち着きがなくなっちゃってる。


「う、うん……みたいだね。その、は、早く教室に行こ?」

「そ、そう……だね。あははっ……」


 ボクたちは顔を見合わせ……春奈は車イスを押す手を強め、一目散って言ってもいいくらいの勢いで昇降口へと急いで向った。


 はぁ、ガッコ来たら来たで……ほんと大変だなぁ。へへっ、でも、やっぱ楽しいな。


 周りの視線から逃げるように校舎内に入ったボクたちは上履きに履き替え、階段に並ぶように設置されてるエレベータになんとか乗り込んだ。ここまではちゃんと要所要所にスロープが作られてて車イスでも無理なく来ることが出来た。それでも押してる春奈は大変だったと思うけど……。


「春奈大丈夫? その重かったでしょ? 坂とかいっぱいあったし……ごめんね」

「平気! だてに部活で鍛えてるわけじゃないって。それにお姉ちゃん、軽いもん! 全然大丈夫だよ」


 車イスを押しながら、息を荒げてエレベータに乗った春奈は、鍛えてるって言葉にウソはいようで、はぁはぁ言ってた息は、あっという間に普通になってた。

 ボクはそんな春奈を見て……そして車イスに乗ってる、歩くのもまだままならない、やせっぽちの自分を見て……ちょっと悲しくなった。


「お姉ちゃん? どしたの?」


 だまりこんじゃったボクを怪訝に思ったのか春奈がそう聞いてきた。


「えっ、あ、ううん、なんでもない。……ほんと春奈ってさぁ、いつの間にかスポーツ○カみたくなっちゃったね? くすっ、なんか……高橋くんみたいだね?」

「はぁ~? ちょ、ちょっとお姉ちゃん? 私とあんな野球バ○を一緒にしないでくれるかなぁ? もう、ほんとお願いっ」


 春奈ったら、ボクの言った言葉がいたく気に入らなかったみたいで、鼻息荒く言い返してきた。


「えへっ、そうかなぁ? ボクにはなんか、おんなじように思えるけど……」

「お、お姉ちゃん! あぁ、やだもう、さっきの仕返しのつもりでしょ~? もう……」


 春奈が車イスをガタガタさせて憤って見せてたところで、エレベータのドアが開いた。


 そして開いたドアの先には――。



「「「「「蒼空ちゃん、お帰り~!」」」」」



 4-Bのクラスのみんな……、みんながいた。



 な、なにこれ。

 ど、どんなサプライズなの。ボク……こんなの聞いてない……よ。


 一気に目頭が熱くなってきたボク。

 ふと春奈を見上げると、春奈も知らなかったのか、まだキョトンとした顔してる。


「み、みんな……、そ、その、あの……」


 ボクはとっさのことでなんて答えたらいいのか……言葉が出ない。


「ほら、早く降りないとエレベータ、ドア閉まっちゃうよ」


 そう声をかけてくれたのは……えっと、そう、クラス委員の小林さんだ。


「春奈? ほら早く車イス出さなきゃ?」


 今度の声は沙希ちゃんだ。


「へっ? あ、う、うん、そうだねっ。わかった」


 沙希ちゃんに言葉をかけられ、ようやく再起動した春奈。えへへっ、春奈にしてはめずらしいや、ボクもそうだけどやっぱビックリしたんだろーなぁ?


 エレベータから降りた途端……、ボクはみんなに囲まれちゃった。

 春奈は車イスをエレベータから出してから、ボクの耳元で一言、


「良かったね、お姉ちゃん。後はみんなにまかせるよ。じゃ、また後でね」


 そう言って、そして沙希ちゃんにも二言三言いって、自分の教室の方へ走って行っちゃった。


 残されたボクはそりゃもうクラスのみんなに……それこそ、もみくちゃにされちゃうんじゃないか?って勢いで……その……祝福して……もらえた。


 ううっ、まだ教室にも入ってないのに……。


 ボクの車イスを沙希ちゃんが教室に向け押してくれる。

 他のみんなが、そんなボクの周りをぞろぞろ付いて歩いてくれる。その間も次々と祝福、それにいたわりの声が聞こえてくる。


「みんな……ありがとう! こ、こんなボクのために……ふ、ふぇ……」


 ボクに泣かないなんて選択肢……もちろんあるわけ……なかった。


 教室に向う間にもボクはもう、ポロポロ涙をこぼし……それはもうすがすがしいくらい、思いっきり泣いちゃった。きっと赤い目が更に赤くなっちゃって……後でひどいことになっちゃうかも? でも、そんなこと……気になんかしてられないんだもん。


 周りにいる子たちだって、涙もろい子なんかはもらい泣きしちゃってた。

 優香ちゃんたちや、エリちゃん、それに沙希ちゃんなんか……ボク以上に泣いちゃってた。


 み、みんな、ほんとにありがとう!



* * * * * *



 終業式は、入学式とかと同様、中等部と高等部合同で行なわれるわけだけど……きっとボクたち4-Bはすっごく目立ってたに違いない。


 もちろん車イスのボクが体育館に現れたとき、すっごく周りがざわめいちゃってバツの悪い思いしたってのもあるし……、

 車イスを壁際に置き、そこから杖を突きながら(沙希ちゃんに付き添われながら)用意してもらってあった4-Bの自分の場所まで、自分の足で歩いて……なんとか席に付いたってこともあるし……、

(この時はまわりで拍手してくれる人がいっぱいいて、すっごくはずかしかった)


 なによりみんな、目を赤くして……半数以上が泣き顔で入場してきたんだもん。


 きっと周りの人たち、不思議がってるよね? 卒業式でもないのにみんなして泣いちゃってさ。でも……ボク、そんなクラスの一員で良かった。


 こんな真っ白い髪に赤い目をした……変な子、やせっぽちでチビのボクを……みんな……ほんとにうれしそうに迎えてくれた。


 それだけでボク、今日、こうやって無理してガッコに出てきた甲斐あった。


 ほんと……うれしい。


 ボクはようやく落ち着いた会場の中、校長先生の長い挨拶が続く中、そんなことを考え……幸せな気分に1人ひたってた。


 まだまだ体調は万全っていうには程遠いけど……。

 がんばってガッコに来れるようになろう。歩く練習、がんばろう。


 改めてそう思うボクだった。



* * * * * *



 終業式をなんとか無事に終えたボクは、前々からのお話通り、お休みに入ったにもかかわらず登校してる。

 もちろん補習を受けるためだけど……、まだまだバスでガッコに行く事を許してもらえないボクはお母さんの送迎で登校するしかない。(ほんとごめんね、お母さん)


 退院してから毎日、お母さんの作ってくれるおいしいご飯や、かかさず行なってる運動のおかげか、徐々に体力は付いてきてるとは思うんだけど……まだまだ入院前の体力には届かない。(元々たいしてあったわけでもないけど)

 歩くのはずいぶん楽に出来るようになってきたとはいえ、まだまだ校舎の階段の上り下りはつらいし、危ないからさせてもらえない。だから普段なら勝手に使っちゃいけないエレベータも乗り放題なのだ。

 ちなみに車イスは1階のエレベータ脇に置かせてもらってはいるものの……移動はなるべく自分の足でするようにしてる。(まぁもちろん杖は使ってるけど)


 まぁ補習はボク1人じゃなく、一緒に受けてる子たちもいるからそんなに寂しいわけじゃないし……なにより冬休みにもかかわらず相変わらず部活をしてる、スポーツ○カの妹もいるし。


 だからそれなりに……楽しい?っていうのは変だけど、有意義な時間を過ごしてるとは思う。それに、こうやってがんばれば留年しなくて済むんだもん、いやでも気合入っちゃうよ。


 そんなことを思いながら、ボクは補習をしっかり受けた。



* * * * * *



 そしていよいよ明日はクリスマスイブ――。


 ガッコの補習はイブの金曜から日曜日まではお休みだ。

(まだ1日しか受けてないけどさ……あははっ)


 春奈は、未だになにやるか教えてくれない。

 ……まぁクリスマスパーティーやるのは間違いないとは思ってるんだけど……。


 どこでやるかなんて全然わかんないし……そもそも誰が来るのかさえ教えてくんない。


 ほんとないないずくしだ。

 でも楽しみなことに変わりはないんだけど……。


「ふわぁ……」


 ボクはわからないことずくしの春奈のクリスマスイブの企画に思いを寄せながらも、寄せてくる眠気に勝てず……ベッドに入り、早々に眠りについた――。



おめでとうございます。

今年もよければ読んでいただけるとうれしいです。


なかなかお話、すすみませんね……。

次こそイブだと思います。

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