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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
93/124

ep87.友だち以上?

 喜多村姉弟と知り合ってからのボクは、お散歩の日課の中に瑛太の病室訪問が加わった。っていうか、どうせそれくらいしか行くトコないんだけどね……えへへ。

 瑛美さんは、わざわざボクが来なくても、瑛太に行かせるのにって言ってくれたけど……ボク自身がお散歩したいんだし、病室に寄るのはそのついでだからって言って納得してもらった。

 瑛太は、「なんだ。ついでかよっ」って言ってちょっとふて腐れた顔をしてた。ふふっ、ほんと子供だよね? 瑛太ってば。

 ボクはいっつも自分が子供扱いされてばっかだから……瑛太っていう、ボクより子供な弟分を見つけてすこぶる機嫌がいいのだ!


「お姉ちゃん、なんかすっごく機嫌よくない? なんか顔がにやけちゃってるよ?」


 そんなボクの気持ちが顔に出ちゃってたのか、ガッコ帰りに様子を見に来てくれた春奈が突っ込みいれてきた。


「ふぇ、そ、そう? 別にいつもと変わんないと思うけど?」


 ボクは勤めて普通に、さりげなーく返事を返した。


「ぷっ、すっ呆けちゃって……聞いてるんだからね? 瑛太くんっていうんだっけ? お姉ちゃんも隅に置けないよねぇ、病院に戻ってすぐ、男の子の友だちなんか作っちゃってさ?」


 春奈がおもいっきりニヤけた顔をしてボクを見ながら、更にそう切り返してきた。


「はぅ! な、何でそれを? ……め、恵さん? 恵さんだよね? もう、オシャベリなんだから~」


 ボクは速攻で春奈にばれてた瑛太のことをばらしたのは恵さんに違いないと見当をつけ……思わずふて腐れる。


「お姉ちゃん、そーやってほっぺ膨らましてふて腐れるから、みんなから子供扱いされるんだって? ほんと、いつまで経っても子供気分、抜けないんだから~」


「むうぅ、そ、そんな、ボク、今でも十分大人だよ! 17才なんだもん! み、みんなボクの見た目がこんなだから、子供扱いしてくるだけなんだもん!」


 ボクは春奈にそう言って必死に抗議したけど、あんまり効果があった感じはせず、相変わらずニヤニヤ笑ってる……ちぇっ、いいんだもん、分かる人にはわかるんだもんね、ボクの大人っぷりは!


「……まぁそれはともかく、瑛太くん……今度私にも紹介してよ? どうなの、カッコイイ子なの? どこが良かったの?」

「そ、そんな! そんなのじゃないもん。瑛太はまだ中1の13才なんだからっ、弟みたいなもんなんだからね? ほんと、すっごく子供みたいなやつなんだから~」


 春奈ったら変に勘ぐったこと聞いてくるから、即否定して……弟みたいなもんだってとこと、子供だってとこを強調して言ってやった。なのになぜか……、


「ふーん。じゃ、余計お似合いじゃん? "見た目"的にもばっちりだし、精神年齢的にも……あちゃ〜、こっちこそばっちり! お姉ちゃん、ほんとどうしよ? マジお似合いじゃない? あ、でもそうなると、山下……困っちゃうだろうなぁ?」


「ひぐっ!」


 くう~、春奈のやつぅ、なんて小憎ったらしい顔してボクのこと見るんだろ。く、くやしすぎ~! あのニヤけた顔、ぎゃふんと言わせてやりたい~!


 そ、それにしたって瑛太とはほんと、そんなんじゃないのに……。でも、もういいや、これ以上言ったって春奈が調子に乗るだけで、ボクが疲れちゃうだけだ。


 言わせとけばいいんだもん。……っとにさっ!


 ボクはベッドの上でカラダを起こして春奈とお話ししてたんだけど……さすがにちょっと口論に疲れてしまい、上半身をぽすんとベッドに預けるように倒した。


「あっ、お姉ちゃん……大丈夫? ご、ごめん……ちょっと私、調子に乗りすぎちゃった……。まぁ、瑛太くんのことはさ、マジここでも友だち出来て良かったじゃん。お姉ちゃん、いっつも1人で寂しい思い……してたんだもんね? そう考えると私も安心だよ」


 そう言いながら横になったボクのアタマを撫でてくる春奈。

 ったく、調子いいんだから。でも……気持ちいい。


 やっぱボク、春奈にはてんで弱い。

 ほんと、困った……でも大事な妹なんだもん……。


 ボクは春奈に撫でられながら、自然と顔が笑顔になっていくことを止めることなんてできやしないのだった。



* * * * * *



 オレと姉ちゃんがゲームしてたら突然現れた、ちょっと……っていうか、かなり変わった女の子。

 名前は蒼空そらっていうらしい。

 蒼空は、この病院ではけっこう有名な子みたいで、姉ちゃんも看護師さんと世間話とかしてたとき、話には聞いたことがあったみたいだ。

 ったく、個人情報、そんなに簡単に漏らしていいのか?って思ったけど……もちろん、口になんて出さない。姉ちゃんや看護師さんに睨まれたくないもんな。ま、もっとも、ほんとにまずい話なんか実際することはないだろうから……まぁ、蒼空の見てくれのことが出るくらいらしいけど。


 蒼空はほんと変わってる。


 車イスに乗って、病室にひょっこり現れた蒼空は真っ白な長い髪を、おさげ(っていうんだっけ?)にして胸の前に垂らしてて、小さくてびっくりするほど色白な顔は、すっごくかわいくて……もっと驚いたことに、その目はマジうさぎみたいにまっ赤な色をしてた……。(あとで、ちょっとふて腐れた言い方でそのことを蒼空に向って言っちゃって……姉ちゃんにこっぴどく叱られた……)

 それに、患者服に身を包んだその体は、すっごく小さくて華奢で……オレも入院生活で相当痩せたと思ってたけど、そんなな比じゃなく、まじ細い体で……触れば折れちゃうんじゃないかって思ったほどだ。

 蒼空もオレと同じで再生不良性貧血で入院して、無菌室生活をずっと送ってたんだよな。こんな小さいなりして、こんなに細っこくなるまでがんばったんだよな。(まぁ、背に関してはオレもあんまり人のこと言えないけど……それでも蒼空より・・・・は、まだでかいんだからな)


 車イスに乗ってるのも気になって……足が悪いのか?って聞いたら、ほとんど寝たきりだったから弱ってるだけって言ってたから、そのうち歩けるようになるんだろ。

 ま、これはオレもよくわかるよ、オレだってけっこう体力落ちて、ちょっと歩いただけで息切れして大変だったもんな。それを思えば、蒼空じゃ、そりゃあすぐには歩けないのも納得だ。


 そんな蒼空だけど、驚くことにオレのこと……弟分扱いしてくる。


 ありえないし。


 あんなちっちゃい女の子に弟扱いだなんてさ。

 なのに姉ちゃんのやつ、蒼空のがオレよりお姉さんだとか言うし、呼び捨てにしたら怒るし。

 まぁお互い、"くん"付けや"ちゃん"付けはやめようってなったから、まだマシだけど……。


 とりあえずオレは姉ちゃんから半強制的に、蒼空に友だちになって欲しいって……言わされた。(あくまで姉ちゃんに言わされて、だからな? オレ的には、別に、どうだって良かったんだからな?)

 

 でも、その時見せた蒼空の笑顔はとてもかわいくて……オレは顔を合わせてるのが恥ずかしくなり、ついうつむいてしまった。くそぉ、あんな顔するなんて反則だよ……。


 で、結局、蒼空は最後までお姉ちゃん風を吹かせてた。


 ったく、これだから女ってやつはめんどくさいんだよなぁ……。



 翌日、また散歩のついでと言って、遊びに来た蒼空と軽く話しをするうちに、恐ろしい事実が判明してしまった。


 オレはもう混乱の極地だ。


 だって蒼空のやつ、言うにことかいて自分は高校1年だ! なんて言うんだから。

 そんなありえないだろ? あの姿……どう見たってオレとタメかそれ以下。初めて会ったときもそう言ったと思うけど……。


 でもマジで17才なんだそうだ。

 オレは世の中、何を信じたらいいのかわからなくなってきたよっ。



 蒼空が帰って夕方、姉ちゃんが来たときその話しをしたら、「だから最初に言ったでしょ?」って……オレの悩みをあっさり笑って流された。


 そして更に真面目な顔をしてオレに言った。


「瑛太、蒼空ちゃんはね、生まれつきの病気で……すっごく成長が遅れてしまったんですって。だから外見は中1の瑛太と同い年くらいにしか見えないんだそうよ?

 それにあんたがデリカシーの無いこと言った、あの目にしたって先天性白皮症アルビノっていう生まれつきの病気なんだそうよ。真っ白な髪や赤く見える目、それにあの白い肌だってみんなそのせいらしいの」


 姉ちゃんはそう言ってオレに説明してから、よりいっそう真面目な顔をしてオレを見て言った。

「だから蒼空ちゃんはお外に出るのだって直射日光は天敵だし、視力だってすっごく弱い。元々病弱で入院生活もずいぶん長い間してたそうだし、そこから更にあんたと同じ病気にまでかかって。……ほんとに、ほんとにかわいそうな子なの……」

 

 あれ、姉ちゃん……まさか泣いちゃってる? ったくほんと涙もろいよな、姉ちゃんって。それにしてもやけに蒼空のこと詳しく知ってるみたいだけど……。


「瑛太? ちょっと、ちゃんと聞いてる? だからね、瑛太。あんたが蒼空ちゃんと一緒にいるときはしっかりあの娘のこと守ってあげなきゃだめよ?

 年齢的には確かに蒼空ちゃんの方が上かもしれないけど……心はそう単純に 、年を取った分だけ成長出来るってわけじゃないのよ。だからあんたは、同い年の女の子を相手にしてるくらいのつもりで……しっかり守ってあげるのよ? わかった?」


 ううっ、ほんとなんだよ? この姉ちゃんの迫力。一体何が姉ちゃんにここまで気合を入れさせたんだぁ? オレは姉ちゃんのその迫力に気おされて、ただただ頷くしかなかった。


「わ、わかってるって。オレだって、あんな華奢で弱々しい女の子、ほっとけないし。それにいくら年上だって聞かされたってさぁ……なんかとてもそうは思えないし。

 で、でもさぁ、そもそもお互い近いうちに退院するんだし、この先、蒼空と会うことなんて無いかもしれないじゃん。そんなに気合いれなくたって……」

 

 オレは姉ちゃんの言うことに、うなずきつつもそうやって指摘すると、軽く首を振りながら、なんとも生ぬるい表情をしてオレ言う。


「まったく、瑛太。あんた男でしょ? 退院した後だってお互い通院はしなきゃいけないんだし、会うキッカケなんて色々あるじゃない? がんばんなさいよ、ね!」


「は、はぁ? ね、姉ちゃん、な、何言ってんだよ~!」


 なんか、途中で話しの流れ、おかしくなってないか? なんで、お、オレが、退院のあとも蒼空と会うだなんて……。そ、それってまるで……。


 オレはそこまで考えて余りの恥ずかしさにきっと耳まで赤くなってたに違いない。


 ――それじゃまるで、オレと蒼空、つ、付き合ってる……みたいじゃないか。


 オレはそんなことを考えることすら恥ずかしく……机の脇に置いてあった携帯ゲーム機を手に取り、姉ちゃんを半ば無視するように、そして気持ちを誤魔化すように、ゲームを始めた。


 そんなオレを見て姉ちゃんも、軽くタメ息をつくと、


「ったく。でも、まっ、そこまで言うのは瑛太にはまだ早いか。お子様だもんね、瑛太も……それに蒼空ちゃんも。何にしても、瑛太が一緒にいるときはしっかり目をかけていてあげてね。男の子っ!」


 そう言って姉ちゃんはオレの頭をグリグリと撫でた。


 うぐっ、ほんといつまでも子供扱いするんだから……。でも姉ちゃんに撫でられると気持ちいい。あったかい気持ちになれるのは確かなんだよな。


 こんなこと絶対、姉ちゃんには言えないけどな……。オレはついついそんなことを考え、自然と顔は笑顔になってしまうのだった。


 ちぇ、恥ずかしいなぁ。



* * * * * *



「うっわぁ、亜由美、一大事だよ!」


 優衣が携帯をちょこちょこいじってたかと思えば、いきなり私に大きな声で話しかけて来た。


「ちょっと何よ優衣、お店の中でそんな大きな声出さないでよ、恥ずかしい……」


 私と優衣がいるのはいつもみんなで遊ぶときに集まる、駅前のショッピングセンターの中にあるパスタ屋さんだ。以前春奈に聞いて入ってみたらおいしかったから、それ以来よく来るようになった。近くにはマックやミスドもあるし、なかなか便利なんだよね。

 優衣とは高校に進んで離れ離れになったけど、腐れ縁なのか、私の人徳なせる業なのか、今でもキッチリ友だち関係は続いてる。

 まぁ、春奈と蒼空ちゃんもいるし、この交友関係はなかなか捨てがたいものがあるのも確かね。蒼空ちゃんにいたっては、ハラハラし通しで放っておくことなんて出来ないし、今も大変な病気にかかって入院生活を送ってるわけだし……ほんと心配なのよね。


「で、何なの? 一大事って」

「春奈から今メール届いたんだけどさぁ、男が出来たんだって!」


 え? お、男? 春奈に? まぁ、春奈ならかわいいし、いつ彼氏が出来たって不思議じゃないけど……。でも春奈に今、そんな余裕、あるのかな?


「ちょっと優衣、ちゃんとわかるように説明して? 男が出来たって……なんなの?」

「にひひっ、知りたい? どうしよっかなぁ……。これ、ハッキリ言ってすっごい情報だよ? 特大フルーツパフェに相当するくらい……」


 優衣がなんともうざいこと言い出したときに私の携帯が鳴った。


「あ、ちょっと待って、私にもメールきたみたいだから……」


 差出人は春奈からだった。

 ふっ、やっぱりね、春奈が優衣だけに出すなんておかしいと思ったのよね。たぶんキャリアの違いかサーバーの差で、着信にずれが出ちゃったのね。


「あ、優衣、もう教えてもらわなくて結構ですからね? 特大パフェは自分で注文して、自分で支払ってね?」

「ちっ、残念。春奈めぇ、律儀に亜由美にまで送らなくてもいいものを……」


 優衣がなんか理不尽なこと言ってるけど無視して春奈からのメールを見る。

 そんな私を優衣が興味深げに見つめてくる。

 もう、鬱陶しいわねぇ……でも、今はメールに集中集中。


「……ええっ! う、うそぉ! あ、ありえない……」


 私のその言葉に優衣がなんともうれしそうな顔をして相槌をうつ。


「だよね、だよね! 信じらんないよね? まさか、あの・・蒼空ちゃんに男が出来るだなんてさ。しかも病院で……しかも蒼空ちゃんが自ら会いに行ってるっていうじゃん。もう奇跡だよねぇ」


 優衣が信じられないって連呼してるけど、正直私もビックリした。あ、あの蒼空ちゃんが彼氏作るだなんて……以外すぎる。そもそもあんな大変な病気のさなか、恋愛なんてする余裕があったなんて思えないんだけど……。

 それに……相手のことがなんにも書いてないのよね、このメール。春奈ったら、これってきっとわざとよね? ったく、何たくらんでるのやら。


「「あっ」」


 色々考えてたら春奈からまたメールが入った。今度は私と優衣、ほとんど同時だ。

 私はなんだかもう落ちが見えてきた気がする。とは言うもののメールを見てみる。


「はぁ~、チュウイチ〜? まだガキじゃん。な、なんなのよ~、ったく。春奈のやつめぇ私のことおちょくりおって~!」


 優衣が春奈のメールを見て怒り狂ってる。


 ふふっ、中学1年生の男の子か。


 同じ病棟で、同じ病気を患った子なのね。……そりゃ病院のあの寂しい環境じゃ、男の子とはいえ、お話し出来る子が出来ればうれしいよね。

 それに蒼空ちゃん、お姉さんぶって偉そうにしてるって書いてあるし……。


 きっといつも自分が子供扱いされてるから、自分より年下の子と知り合えてうれしいんだろうなぁ……なんだか、うれしそうな顔してその子の相手してる姿、想像出来てしまう。

 なにしろ妹の春奈にまで子供扱いされてるんだもの……相当うれしいに違いないよね? 4つも年下とはいえ、あの蒼空ちゃんが男の子とお話しするんだもの……。


 まだ騒いでる優衣を無視しつつ、私は春奈のメールに再び目を通す。

 メールの一言一言に春奈の気持ちが伝わってくる。

 そして、その言葉を通じて……蒼空ちゃんのうれしそうな様子が目に浮かぶようで……なんだか小さな幸せを胸に抱けた気がする。


 うん、またその子も紹介してもらわないとね。

 蒼空ちゃんが退院してからの楽しみがまた増えたね。そんな風にこれからのことを考えると自然と笑みが浮かんでくる。


 優衣は相変わらずだ。ほんとに……もっときっちりメールを読めばいいのに……。

 私は笑みから一転、タメ息をつく。


 あ、そういえば山下くん……この話を聞いたらどう出るだろう?


 ふふっ、もう一つ楽しみ発見。



 そんなことを考える私の笑み……今度はちょっと小悪魔っぽいかもね?



また0時に間に合わず……

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