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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
86/124

番外編.生徒会とお姫さま

 お正月がすぎ、世の中では普通に仕事が始まり、学生である私たちも新学期がスタートした。 とはいえまだまだお正月気分が微妙に残ってる……1月第2週目の月曜日。

 この日は世の中では成人式で盛り上がるわけだけど、私たちの母校、清徳大付属では世の中とは違う、別のイベントで盛り上がる。

 まぁ盛り上がるって言葉が妥当なのか? ちょっと意見が分かれるところではあるけれど……少なくとも今、このイベントに強制的に駆り出され不満たらたらだった私たち生徒会のメンバーの中では、ある1人の女の子によって確実に盛り上がっていた。


 ちなみにイベントというのは、つまるところ入学試験な訳だけど……私たち生徒会メンバーは、会長を筆頭に、副会長の1人である私から書記に会計、さらには各委員会の委員長まで……総勢20余名、せっかくの休みにもかかわらず学校側から駆り出され、試験会場の運営の手伝いをさせられているわけ。

 しかもそれだけならまだしも、結局のところ体のいい作業者確保っていうのが正しいところで、私たちは前日の日曜日、試験会場になる教室の準備から、机への受験番号の貼り付け、昇降口から教室までの案内板設置、果ては保護者の方の案内などなど……やること山積みでそれはもう大変だったよ。

 そして今、試験が始まり……ようやく一息つけられる時間となり、私たちは生徒会室を休憩所にして、みんなでくつろいでいた。


「ねぇねぇ、今年の受験生の中にさ、す~っごく、変わった子がいたんだけど見た?」


 会議用の長机を囲み、先生方が差し入れてくれたペットボトルのお茶を飲みながら雑談を交わす中、書記の麻倉あさくら 奈緒美なおみが目を輝かせながらみんなに問いかける。

 それにしてもずいぶん漠然とした聞き方だよ。 そんなんじゃよくわかんないよね……私はついそんなことを考えてたんだけど……以外や以外、


「あー、私も見た見た! あの子、ほんとすごかったわ~。 もうあの見た目! 始め見たときはビックリしちまったよ!」

「私も見ましたっ! なんかぁ、お母さんにすがり付くように歩いてて、手もしっかり握ってもらってて……それでもずっと心細げで。 ほんと、すっごくかわいいんです。 それに足が不自由なのか、杖突いて歩いてて……もう、おぼつかない足取りで、それがまた保護欲かきたてられちゃいました!」


 奈緒美の言葉に間髪いれず、私と同じ副会長をしてる氷室ひむろ 京香きょうかと、会計の世良せら 清音きよねがそんな感想を口にする。


「あっ、それって真っ白な髪をポニテにしてて、赤いフレームの眼鏡かけた、お肌なんかも真っ白な、華奢でちっちゃな女の子のことですよねっ? 私、最初中等部の子が間違えて来ちゃったのかと思って、思わず確認しそうになっちゃいましたもん」


 もう1人の会計、清水しみず 祐子ゆうこまでもがそんなことを言い出し、それに追従するように委員会の面々まで賛同の言葉を入れてくる。 私はみんなが騒ぐその子のことに興味がわき、つい聞いてしまう。


「へぇ、なんだかほんと変わった子みたいだけど……結局どんな子だったの? 聞いてるととても高校生になる子とは思えないし、そもそも白い髪って何なのって感じなんだけど」


「ふふっ、奈津美なつみ。 あんたは直接見てないからわからないだろうけど、あれは強烈だよ! そうだなぁ、見た目は良くて1年生……ぶっちゃけ小学生って言っても通用する背格好だったな。 で、さっきゆうちゃん(清水 祐子のこと)が言ったみたく、髪の毛がそりゃもう見事に真っ白だった。 私もあれにゃビックリして、あれ染めてんじゃないの?って先生に確認しちまったくらいさ。 でもって、先生にあれは地毛だから問題ないって言われて2度ビックリ! そんな子が母親に連れられてよたよた歩きながら試験会場に現れたもんだから、そりゃもう会場の注目浴びまくってたさ」


 京香がそんな風に説明すると、続いて名前を出された清水さんも言う。


「まだあります! その子、薄い色つきの眼鏡してたんですけど、ごみでも入ったのか、目を拭おうとして眼鏡外したとこ見ちゃったんです。 その子の目、きれいな赤でした。 もちろん白目のとこじゃなくって黒目のとこですよ? 私ほんと驚いちゃって。 まぁ、すぐお母さんに手でこすっちゃダメなんて叱られちゃってましたけど……それがまたかわいくって」


 清水さんはそう言うとまた思い出したのか、一人ニヤニヤ笑いだす。 ……ちょっと不気味だからやめて欲しい。


「その子ってきっと、アルビノだよっ」


 委員会の子がそんなことを言い出し、聞きもしないのにアルビノに関する知識を披露してくれた。 まぁそれなりに理解できたけど……アルビノ萌えます! とか、わけわからないこと言ってるし……あまりかかわりたくない人種のような気がする……。


「ううっ、はいはいわかりました! もういいから。 みんなありがと」


 私はこれ以上聞いても同じことを繰り返し聞かされそうな気がして、聞き込み調査を早々に切り上げた。 

 それにしても、見た目1年生な……真っ白な髪に赤い目をした、みんなが言うには驚くほどにかわいい女の子か……。 話聞くだけじゃイマイチよくわからないけど、そんな子が試験に合格してウチに入学してきたとしたら……。 なんとも頭痛の種が増えそうな気がしてきた。

 私がそんなことを考えてると、


「奈津美? 今からそんなこと気にしてたら身が持たないんじゃない? みんなみたいに気楽にしてればいいよ」


 私の考えを読んだかのように、声をかけて来たのが我らが生徒会の会長さま――

 笹宮ささみや 優希奈ゆきな嬢。

 去る9月に行なわれた生徒会選挙ではダントツの人気をもって当選した、我が高きっての秀才で美少女、おまけにスタイルも抜群な5年生。 いわゆる才色兼備な完璧少女なわけ。 そしてなぜだか優希奈と私、それに京香は中等部のときからの腐れ縁ともいえる間柄で、生徒会活動も3人でずっと一緒にやってきた仲なのよね。 美少女な優希奈に、背が180近くあって整った綺麗な顔をしてるにもかかわらず男勝りな京香、それにまぁ、普通だと自負している私、成瀬 奈津美。  

 そんな笹宮と氷室、それに不本意ながら成瀬、3人の名前は中等部のころから清徳ではけっこう知れた存在ってやつで、ごく普通な私的にはちょっと勘弁して欲しいところなんだけどね……。


 で、優希奈が目で示す方を見てみると、さっきの委員会の子たちを中心に、まだまだ例の女の子の話が続いてるようだった。


 うーん、失敗した。 あんな話しを振るんじゃなかった。

 本来、人のことを影であーだこうだ言うのは趣味じゃない。 例えそれが悪口じゃないにしても。 なのに、つい興味本位に聞き返してしまって、みんなの好奇心をあおってしまった……。


「ふふっ、なんか相当変わった子みたいだね? 入学試験……無事受かって4月から新入生として入ってくると面白いかもね。 ……そういえば、奈津美。 あなたの妹さん、亜理紗ちゃんも中等部から上がってくるんだよね? ああ、楽しみが多くてワクワクするなぁ」


 ったく、優希奈ったら。 私が自分の行動に自己嫌悪になってるっていうのにのん気なこと言ってくれちゃって。

 でもまぁ、いずれにしても……どんな子であれ試験に受かればいいなとは素直に思うよね。 それに話題の女の子が受かったかどうかなんて、新入生説明会の時にはいやでもわかるだろうし、どうせ私たちもまた駆り出されるのは目に見えてるし。


 せいぜいどんな子なのか……楽しみにしておくこととしますか。

 


* * * * * *



「奈津美、もう見た? ゆうちゃんがさっき見かけたって、すっごくうれしそうに言ってたよ? なんでも今度は女の子3人組で登場らしいよ。 両脇に友だちか誰かがその子を守るように付いて歩いてたって話さ!」


 新入生説明会当日、例のごとく私たち生徒会の面々は運営を手伝うようにと、先生方に駆り出されていた。 とは言っても、今回は体育館で会場の設営さえしてしまえば、あとは特にすることもなく、要所要所に立って何か聞かれれば答えるとか、そんなレベルの気楽なお手伝いだったわけなんだけど……。

 そのせいで例の女の子の話が生徒会メンバー内で再燃していたのだった。


 で、京香ったら私に発見報告を律儀にしてきたってわけだね。 ったく、何やってるんだろ、こやつらは?


「もう京香。 そんなことはどうでもいいから、ちゃんと持ち場に戻って仕事しなさいよ。 ほんと、何しに来てるんだか?」

「何しにって、奈津美。 そんなの例のお姫さま見物に決まってるさ。 それに他にも、かわいい子入って来てるかもしれないし。 じっくりチェックしないとね!」


 私は京香のそんなセリフにもう呆れるしかない。


「お、お姫さまって……京香。 あんたって子は、ほんとに……」

 

 それにしても……いつのまにお姫さまになったのやら? まったく京香たちにはついていけない。 そして私が文句の一つや二つ、言ってやろうと口を開いた矢先、


「おっ、奈津美! 見なよ、ウワサのお姫さまの登場だ!」


 京香の急なその言葉に、私もつい指された方を見てしまう。


 体育館の入り口に向って歩いてくる女の子たち3人。 その前を歩いてる大人の女性2人は保護者の方なんだろう。 それにしても2人と3人じゃ、数合わないよね? 私がふと疑問に思ってると……、


「なんでも例のお姫さまは姉妹でここに合格したんですって。 だからあそこの3人のうち1人はお友だちってわけよね」


 後ろから声をかけてきたのは、優希奈。 まったく、生徒会長自ら持ち場を離れるとは……ほんと京香といい、たるんどるっ!

 とは言え……、


「姉妹? じゃ、そのうわさの子は双子だったわけだね」


 私はそう言ってから近づいてくる3人の女の子たちを見つめる。 真ん中の子がみんなの言ってるお姫さまとやらで間違いないのは確かだ。

 うーん、かわいい……それにほんと真っ白だ。 肌も白くて、ほんとあそこまで見事に白いとは思わなかった。 これじゃみんながお姫さまっていうのも分かる気がする。 それにしてもマジ小さい子だね……両脇の女の子たちより頭一つ分くらい小さいんじゃないの? なんだか両脇の子たちがお姫さまを守る騎士ナイトさまみたいで、なんとも微笑ましいよね。


「うーん、それが双子じゃないんだなぁ。 後からみんなにもお話しするんだけど……真ん中のお姫さま、彼女がお姉さんで、腕組んで歩いてる女の子が妹さんなんですって。 だから反対側のツインテールの子がお友だちってことになるかな?」


 私は優希奈の言葉に耳を疑い……そしてすぐ聞き返す。


「ちょっと優希奈。 それって逆じゃないの? どう見たって真ん中の子が妹でしょう? 普通に3、4才は離れて見えるよ、あれ」


 私のその言葉に京香も相槌をうちながら言う。 


「おいおい、優希奈。 いくらなんでもそれはないだろ? お姫さまはどう見たって妹だろ? ……つうかさ、そもそもそんなに歳が離れててなんで同じ4年で入学出来るんだ?」


 京香がもっともなことを聞き、私も同じ疑問を感じてたから大きく頷き、優希奈を見る。


「まったく、2人とも私のお話し少しも信じてくれないんだから……いやよね。 だからさっきも言ったとおり、あなたの言うお姫さまがお姉さんなの! それで、なんで同じ学年かって聞かれば……はっきり言えば、お姉さんは1年遅れで入学したから……結果、妹さんと同じ学年での入学になったってことよ。 understand?」


 優希奈は京香の目の前に人差し指を突き出して、そう言い切った。

 けど、それを聞いて京香も私も更に混乱する一方だ。


「は、はぁ~? なんだそりゃ! 余計わけわからんくなったじゃん!」

「確かに……余計わからなくなったよね」


 優希奈は深くため息をつくと、周りを一瞥し、素早く私と京香の腕をつかむと体育館の隅っこまで引っ張って行き、そこで更に詳しい話しをしてくれた。


# # #


「すっごく自己嫌悪なんだけど……どうしたらいい?」


 京香が私に聞いてくる。


「知らないよ、そんなこと。 ……でも、まぁ別に本人に聞かれてたわけでもなし……気にすることでもないんじゃないの?」

「そりゃあ、まぁ、そうなんだが……なんか自分が許せないっていうか……。 なぁ優希奈、おまえならどうする?」


 今度は優希奈に聞く京香。 京香は優希奈から聞いた、お姫さま……名前は蒼空っていうらしいんだけど、その子の入学までの事情を聞かされて……自分がついさっきまでしてたミーハーな行動にさすがに恥じ入るものを感じたみたいだね。 まぁそう思える京香はまだまだ捨てたもんじゃないと私は思うけど。


「ふふっ、ずいぶん落ち込んじゃって、らしくないですよ。 奈津美も言ってたじゃない、本人に聞かれてもないことそんなに気にしなくてもいいと思うけど」


「ううっ、優希奈、お前までそんな……」


 やたら落ち込む京香を見つめる私と優希奈。 ほんといいやつだね、京香。

 私は助け舟を出してあげることにして、意見を言ってみる。


「例えばさ……学校は彼女が学校生活に無理なくなじめるよう、生徒会にも協力して欲しいって話しを優希奈にしてきたってことなんだから……」


 京香ったらいつもと違って神妙な面持ちで私の話しを聞いてる。 ったく、普段もこれくらいマジメに聞いて欲しいものだよね。


「彼女、さっき見たところまだまだ足が不自由みたいだし……でも家からは徒歩や、バスで来なきゃいけないわけでしょ? その辺り、生徒会から……特に彼女の通学経路にあたる生徒たちにそれとなくサポートしてもらうよう、頼んでみるとか? どう、京香。 その辺の根回し、あなた主体でやってみるとか?」


 正直けっこうめんどくさいと思うけど。

 まぁ案外、彼女見ればそんなことしなくても自発的に助けてくれる子たちもいると思うけど……。 それでもやっておいて無駄にはならないと思うんだよね。


「な、なるほど! それはいいかもな! さすが奈津美。 よっしゃ! あの子の通学経路のバス乗ってる子たちにサポートしてもらうようキッチリ頼んでみる」


 京香ったら途端に元気になっちゃって。 ほんとゲンキンな……。


「あらあら、京香ったら。 あんまり気合入れると逆にひかれちゃいますから気をつけてくださいね。 それにあんまりむきになってやらなくてもいいんですから、気楽にね」


 優希奈も京香の気合の入りっぷりが気になったのか、そんなアドバイスしてる。

 ま、京香は生徒間でもなかなか人望あるし、案外うまくいくかもね?

 私はそんなことを考えつつ、今はもう体育館の中へと消えていった、見た目と違って色々つらい経験をしてきたであろうお姫さまのこれからを思って、がんばれって気持ちを胸にした。


 …………。


 きっと彼女が入学したら、学校中で大騒ぎになるんだろうし……。

 それが悪い方向に向わないよう、きっちり生徒会で手綱にぎっておかなきゃね。


 それにしても、ほんと彼女は無事学校生活送ること出来るのかな?


 歳だけ聞けば16才ってことだから問題ないんだろうけど……。 どれだけ16才だって思い込もうとしても……あの外見みればそれもすぐ霞んじゃうんだよね。 あの小さい、可愛らしい姿みて、16才だなんて思えないもの。


 体力だって優希奈の話を聞く限り、はなはだ怪しい。 通学は京香がうまいこと動いてくれれば少しはましになるかもしれないけど……。 学校のなかは思ったよりずいぶん広いし、階段も多い。


 ほんと心配だよね。

 妹さんとお友だちもいるとはいえ……。


 ……まぁ今から心配しても仕方ないことか。

 せいぜいあの子が楽しく学校生活送れるよう、しっかりサポートしてあげよう。



 私が1人そう考えてたら、その横にいた優希奈が私に向ってそのきれいな顔で優しく微笑んできた。

 うう、優希奈。 あんたにそうやって見つめられると、なんか自分の考えてることみんな見透かされてそうな気がするんだけど……。



「ふふっ、奈津美。 彼女が楽しい学校生活送れるよう……しっかりサポートしてあげましょうね?」



 ひぇ~、な、なによそれ!

 


 …………。



 ゆ、優希奈……マジ恐ろしい子。



ちょっと息抜きしてみたり……


次回はまた本編です。

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