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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
80/124

ep75.募る不安

ちょっと遅れましたがとりあえず投稿します。

 窓から入る日差しのまぶしさからか、ボクはめずらしく自然に目が覚めた。

 昨日、あの騒ぎのあと、散々寝まくったせいか……今日は多少ましな気分な気がする。 とはいえ寝起きで、まだまだアタマもぼーっとしてるけど、横になったまま辺りを見回してみる。


 白っぽい壁ばかりが目につく、何もない部屋。


 目立つものといえば、ベッドの近くにあるTVくらい。 寂しいくらいになんにもない部屋……。

 でもこの景色は以前、散々お世話になった……ボクにとってはなじみの景色、なじみの部屋。


「やっぱボク、また病院に来ちゃってるんだ……」


 夢じゃなかった。


 合宿を途中で抜けて帰ってきたことや、それに目が覚めたらお家じゃなくて病院で、血の検査……されたちゃったことも。

 そして周りの人にいっぱい迷惑や、心配かけちゃったことも……。

 

 そういや結果、どうだったんだろ?

 また入院しなきゃなんないのかな……?


 合宿……ボク抜けちゃって、きっと部長さんたち大変だろうな? ただでさえ人数……少なめなのに。 


 ボクはぼーっと横になりながらも、いつものごとく、ついつい色んなことを考えてしまう。 こんなの良くないってわかってるんだけど……でもだめ、つい考えちゃう。


 あぁ、なんでボクはこうなんだろう……。


 ボクはもう一度眠ってしまおうと目を閉じる。

 だ、だめ、まぶしい。

 ……カーテン開けっ放しなんだ、閉めなきゃ。 ボクがそう思って起き上がろうとしたとき、入り口の方に人が入ってきた気配がした。


「蒼空、起きたの?」


 入ってきたのはお母さん。

 お母さん……お家、ちゃんと帰ったのかな? もしかしてあのまま寝ないでここに?


 そ、そんな……こと。


「どうしたの、蒼空。 気分悪い? ん?」


 ボクが黙って考えこんでしまったのを具合が悪いって勘違いしたお母さんがそう聞いてくる。

「えっ、ああ、そんなことないっ。 昨日に比べたらずっとか楽。 いっぱい寝たし、たぶんもう平気!」

 ボクは慌ててそう答え、めいっぱい笑顔を見せて元気になったことをアピールした。


「そう、それならいいんだけど……。 あっ、ゴメン蒼空。 カーテン閉めてなかったわね、慌ててたし夜だったから気付かなかったわ」


 まぶしそうにしてたボクの表情に気付いたんだろう……、そう言いながらお母さんがカーテンを引いてくれる。

「ありがとう、お母さん。 ……でも、そのぉ、お母さん? もしかしてお家、帰ってないの?」

 ボクがお母さんを窺うようにしながら聞くと、

「あら蒼空、心配してくれてるの? ありがとう。 そうね、ちょっと遅かったし、帰ってる時間もなかったしね。 でも大丈夫、ちゃーんと仮眠とってるし、心配しなくていいのよ。 ね、蒼空」


 お母さんは、そう言うといつもの優しい笑顔をボクに向けてくれ、そしてこれもいつものように優しくアタマを撫でてくれる。


「いつもごめんなさい……。 お、お母さんもあんまり無理しないでね? 迷惑かけてるボクがこんなこと言ってもあんまり説得力ないけど……」

 ボクのその言葉にお母さんは笑みを深めると、アタマを撫でる手に力が増し、思わず目を細めちゃう。


 お母さん……ほんとありがとう。



* * * * * *



 お母さんが病院の売店で買ってきてくれた朝食を食べ、ちゃんと歯磨きして、顔を洗い、人心地ついた頃……ボクは再びお母さんに連れられ、Tシャツにショートパンツって姿(もちろんまた着替えた)で村井先生の元へと向った。

 そういや、眼鏡もお母さんが忘れず持ってきてくれてたから、キッチリ掛けて出る。 まぶしさと人目、これで多少はごまかせるや……。



「おはよう、蒼空ちゃん。 よく眠れたかな?」


 指定された部屋に入ると、優しく微笑みながらボクを迎えてくれる村井先生。

 そばには若い女性の看護師さんが控えてるけど、初めて見る顔だ。 そりゃいっつも香織さんってわけにいかないよね、科も違うし。 ……でも今日は石渡先生はいないんだ。


「お、おはようございます。 先生……」


 ボクは丸イスに座りながら、ちょっと探るような表情で先生に挨拶を返す。 だって、今から何言われるのか……心配なんだもん。


「あら、ずいぶん警戒してるわね? うーん、とりあえず昨日の検査の結果のお話ししようかと思うんだけど……聞いてくれるかな?」


 村井先生、ボクの表情に苦笑いしながら問いかけてくる。


「は、はい。 よろしくお願いします」


 ボクがそう返事すると、村井先生は軽くうなずき、机の上に置いてあった検査結果が書かれてるシート? を手に取るとお話を始めた。


「それでね、検査の結果なんだけど……蒼空ちゃん。 血液には赤血球と白血球っていうのがあるのは知ってる?」


 それくらいならボクも知ってる。 先生の問いかけにボクがうなずくと、


「うん、いいね。 それで、それ以外にも血小板っていうのも含まれてるんだけど……、昨晩、蒼空ちゃんに血液を採らせてもらって検査したのは、そんな血液中のいろんな成分の値を見るためだったのね」


 先生がまた見てきたのでボクは小さくうなずく。 で、話しはまだ続き、


「どうしてそんな検査をすることになったかっていうと、蒼空ちゃんも、もうわかるかも知れないけど……、アザがなかなか消えないとか、貧血。 それに、軽い疲れがずっととれない状態が続いてるってお話しも聞いてるわ。 そして昨日の鼻血がなかなか止まらないって症状……」

 そこまで言って、先生はお母さんをちらっと見てからまた続ける。

「その話しをお母さんが石渡くんに相談してすぐ、あなたを病院になるべく急いで連れてきて検査するべきってことになったわけね」


 村井先生の説明に、ボクは思わず横にいるお母さんの顔を見上げる。

 お母さんは一瞬悲しげな表情に見えたけど、すぐいつもの笑顔になってボクを見ると軽くアタマを撫でてくれた。


「ということで、蒼空ちゃん。 検査の結果、単刀直入に言うわね」


 村井先生の言葉に、息をのみながらうなずくボク。



 ……その結果を聞いたとき、正直ボクは、いまいちどんなことなのかわからなかった。


 赤血球や白血球、それに血小板の数……、数値は聞いてもよくわかんなかったけど――、普通の人よりかなり少ないらしく、やっぱ、このまま入院だって言われてしまった。


 で、『再生不良性貧血』の疑いって聞かされたんだけど、そんなの聞いてもぜんぜんピンとこない。 でも先生の表情や口ぶりから軽い病気じゃないのははっきりしてるし、お母さんの表情も心なしかすぐれないように見える。


 でも……。

 入院してまでして、治療しなきゃいけないものなのかな? つい最近まで普通に生活してたし、今も多少疲れはあるにしても普通に動けるんだし……。 それにガッコや部活だってあるのに。


 ボクはそう思い、つい先生にそんな言葉を漏らしてしまった。

 そしてそんなボクの懲りない、考えなしの問いに対する、先生の答えに絶句すしかなかった。


「蒼空ちゃん? あなたの体はね、さっきも言った通り血小板がかなり減少しているの。 血小板は出血を止める作用を持ってるから、減少してるってことは出血しやすくなるってことでもあるの。 でね、もし脳や内臓から出血があったとしても、なかなか血が止まらないわけね。 そう、昨日の鼻血みたいにね。 ……わかるでしょ? それこそ命に関わってくる。 それでもいいの?」


 ボクは先生のその言葉に、ようやく自分のかかってるだろう病気の大変さに気付き、またじわりと不安な気持ちが頭をもたげてきた。

 そんなボクの気持ちを察してか、やさしくアタマを撫でてくれる村井先生。 でもさすがにお医者さんは甘くなく、続けてこう言った。


「じゃ、今からもっと詳しい検査するから、そこのベッドで横になってもらえる?」

 

 詳しい検査。

 先生のその言葉にボクはいやな予感がし、お母さんの方を見て、すがるような目をしてみたけど、お母さんは苦笑いとともに、こう言った。


「蒼空、観念して言われた通りになさい。 それに春奈ももうすぐ来るから、しっかりしてないと春奈に笑われるわよ?」


 ううっ、春奈も来るんだ?

 そりゃそうか……、あの春奈がボクのこの状態聞いて、じっとしてるわけないもん。 でも、うれしいけどなんか複雑。 ボクってほんと、みんなに色々してもらばかりで、何の役にも立ってない……。


 ボクがうだうだ考えてるとお母さんがボクの背中を押す。

「ほら、蒼空。 いいから早くベッドの方に行きなさい」

「う、うん。 わかった……」


 ボクはもうあきらめて検査を受けるしかなかった。

 

 ベッドの方を見ると看護師さんが、なんか防水のシーツみたいなのを広げ、ベッドに敷いていて、余計いやな予感が止まらなくなる。


「蒼空ちゃん、じゃここにうつ伏せになって寝てくれる? 服はそのままでいいからね」

 

 ボクはもう恐る恐るベッドに近づき、言われたとおり横になる。


「今からするのは骨髄穿刺こつずいせんし、マルクって呼んでるんだけど、腰の腸骨ってとこから骨髄液を採取して、それから骨髄の造血状態を調べるわけね。 そして昨晩やった血液検査の結果も踏まえて、病気を診断するのよ。 ……その、マルクはちょっと・・・・痛いかもしれないけど、必要なことだから我慢してね?」


 横になったボクに、これからする内容を説明してくれる先生。 骨髄液の採取? ちょっと痛い? ボクはその言葉に思わずカラダを起こしそうになったけど……、あえなく看護師さんに押さえつけられちゃった。


 そして作業は機械的に進んでいく。

 パンツをちょっとずり下げられ、腰にいっぱい消毒液を塗られ、その上に穴の開いた布をかぶせられる。 それから、「ちょっと痛いからね」って言葉とともに局所麻酔っていうのを打たれる。 麻酔がいるって、そ、そんなにひどいことされるのかな?


 局所麻酔は、皮膚、それから骨にもするらしいんだけど、ほんとチクっとするくらいで、そんなに痛くなかった。

 でも麻酔が効いてくるのを待つ間にも、この後の骨髄液採取っていうのを考えるとボクはどんどん不安になってくる。 だって、骨に穴を開けて中から骨髄液っていうのを注射器で吸い取るっていうんだもん……ぞっとしない。

 

 そんな中、いつの間にかいなくなってたお母さんが、春奈を連れて戻ってきた。

 いつもと違いちょっと緊張した面持ちで入ってきた春奈は、ボクの様子を見てそうとうビックリしたみたい。

 それにしても春奈ったら、ほんと真っ黒で……青白いボクの肌と対照的だ。

 ボクはそんな春奈に、ちょっと嫉妬を覚えてしまう。 なんていやな子なんだろ、ボク。 そんな考えを追い払おうと軽くアタマを振る。 春奈はそんなボクの考えなんか気付くはずもなく、心配そうにこっちを見てる。


 そしていよいよ骨髄液の採取。

「ちょっとグリグリするけど、ビックリしないで、じっとしててね」

 先生のその言葉にドキッとしつつもうなずく。 ほとんど同時に、腰のほうからずんずん違和感が伝わってきて、多少圧迫感もあるけど、身構えるほどのこともなく、ことは進む。 これで骨に穴が開いちゃってるの?


「じゃ、吸い取るわね」


 その言葉と同時に先生が、注射器で骨髄液を吸い取りだす。


 はう~っ、い、痛い~!


 吸い取られるときのなんともいえない痛み。 それにカラダの芯からわき上がるいやな感覚が重なり、自然と涙がにじみだしてくる。


 ボクは思わずシーツをぎゅっと握り締め、その感覚をじっとこらえる。

 目を閉じてこらえてたら、その握りしめてた手にあたたかいものが添えられてきた。


 目を開けるとそこには、ボクを心配そうに見つめてる春奈が立ってて、ボクが見上げるとちょっと照れくさそうに笑った。 その顔を見て、そして添えられた手のあたたかさに、ボクはなんとも安心した気分になる。


「はい、終わり。 蒼空ちゃん、よくがまんしたね~えらいねぇ」

 

 先生や看護師さんが褒めてくれる。 そしてやっぱ子供扱い。

 ボクの表情が、ついむくれちゃうのはしょうがないよね?


 看護師さんが、針を抜いた跡を消毒し、厚めのガーゼを押さえつけながら貼り付け、テープで固定、そのあと、ようやく仰向けになって寝かせてもらえた。

 ちなみに仰向けになることで患部を圧迫して止血するみたい。


 処置が終わり、先生がこれからのことを色々説明してくれた後、看護師さんを伴って出て行った。


 あとにはお母さんと春奈が残る。

 ベッドの周りにはカーテンが引かれ、ちょっとした個室みたいになってる。


「お姉ちゃん、大丈夫? 痛い?」


 春奈がまず開口一番聞いてくる。


「ううん、今はまだぜんぜん。 麻酔きいてるから……」

「ふーん、そ、そうなんだ……」


 なんだか妙な間があいてしまう。

 なんかいつもと春奈と違う雰囲気に調子が狂っちゃう。


「は、春奈? どうしたの?」


 うつむいて黙り込んでしまった春奈に、ボクは心配になって声をかけた。


「……お姉ちゃんのばか……」


 春奈が小さい声で何か言ったけど、うまく聞き取れない。 だから聞き返した。


「なに春奈? なんて言ったの?」


「なんでもな~い! ったく、ほんとお姉ちゃんったら私たちに心配ばっかかけて。 こんなに青白い顔になっちゃって……。 いい? ちゃんと先生の言うこと聞いて、ちゃっちゃと病気、治しちゃってよ……ね。 お願い……」

 

 春奈はそう言うとうつむいて、また黙り込んでしまう。


「は、はる……な。 春奈……ごめんね、ボク心配ばっかかけて。 ごめんね」


 春奈は泣いてるみたいだった。

 いつも元気いっぱいな春奈が今は背中を丸めてうつむき、まるで昔の……、ボクがまだ男の子だったころ、……その頃の小さかった妹、あの頃の春奈みたいに。


 ボクはただただ春奈の気が済むまで、泣き止むまで、待つことしか出来なかった。


# # #


 あの後、圧迫して止血していたものの、患部からの出血がなかなか治まらず、急遽血小板の輸血をすることになったりして、余計春奈に心配をかけることになってしまった。

 ボクはといえばその時、村井先生が言ってたことを思い起こし、いやな汗が出てくるのを感じたのだった。



* * * * * *



 入院の準備はもう慣れたものでお母さんがキッチリ進めてくれて、今は検査の結果が出るのを待ってる状態だ。

 あれからお風呂はまだ入らせてもらえず、毎日お母さんか春奈にカラダを拭われ、ほんと恥ずかしい目にあってる。 再びこんなことになってしまうなんて、2年前より成長してる分、余計恥ずかしい。 自分で拭くからって言っても、危ないからダメって取り合ってくれない。 ボク別に普通に動けるのに……。 お母さんはともかく――いやお母さんもこないだの一件以来ちょっとあやしいかも?―― 春奈は絶対楽しんでやってるよ……はぁ。


 でもまぁ、なるべくカラダをぶつけたりしないよう気をつけなさいって、言われてるのも確かで、それも周りが過保護になってしまう一因なのかもしんない。


 ボクの入院した血液内科のある病棟は、以前の病棟とは違うため、残念ながら香織さんに見てもらうことは出来ないみたい。 石渡先生に話しを聞いたらしい香織さんが一度様子を見に来てくれて、そんな話しをして残念がっていた。

 まぁ、残念がるっていうのもちょっとアレだと思うけど、そんな香織さんの気持ちはうれしかった。 ちなみに今、ボクの世話を主に見てくれてる看護師さんは香織さんの後輩らしく、なんかあったらすぐ言いなさいねって耳打ちされた。


 それって陰口っていうか、チクるっていうか……あんましいい感じじゃないような?

 


 そんなこんなで数日が過ぎ……、


 いよいよマルクの結果が出る。


 結果はやはり、『再生不良性貧血』で間違いなく、重症度もお母さんが最初に聞いていた症状とほぼかわらず、重症ってことらしい。


 ボクの骨髄の中は、造血幹細胞っていう血を作る細胞が減少してて、ほとんど脂肪細胞に置き換わってるんだって……。


 なんか実感、なかなかわかない。


 お母さんは村井先生たちとこれからの治療の進め方を相談するとかで忙しそうにしてる。 春奈はまた昔みたいに、ボクの世話をする気満々みたいだけど……。


 結局いつもこう。

 ボクは家族の足を引っ張ってばかり……。


 ボクどうなっちゃうんだろ?


 合唱コンクール……もう出られないよね?

 せめて応援だけでも行きたいけど……、その頃のボクはどうなってるんだろ?



 ボクは先の見えない状況に不安だけが募り、だんだん気分が落ち込んでいくのが自分でもわかった……。


 

早く進むかも? と以前後書きしながらも結局遅々として進まず。


文章力、構成力、なにもかも未熟。 反省……。

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