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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
72/124

ep68.合宿へ行こう!

 ボクが部活でへたり込み、お母さんとケンカしちゃったあの日以降……。


 2度あった部活でなんとエアコンの使用が認められ、そのおかげかどうかはともかく、ボクもなんとか無事に部活を続けることが出来た。

 エアコンに関しては、暑さでへばってるボクのことを気にしてくれたのか? 顧問の向井先生が学校側に掛け合ってくれたみたい。 ボク、先輩たちに変な感謝のされかたしちゃった。


 ううっ、なんか微妙……。


 他の部の人たちからは不公平とのブーイングも出てたけど、先輩たちったらボクを盾に正当性を主張したりしてた。 確かにきっかけはボクだけど、なにげにひどいよ。

 もちろん中心となってるのは辻先輩だけど。

 で結局、よその部の人たち、見学という名目でボクたちの練習の場に頻繁に現われ、涼みながら我が部の先輩たちとオシャベリしたりしてる。

 部長さんや副部長さんも、優遇されてることに負い目があるのか、追い出しにくいらしく大目にみちゃってる。 先生も苦笑いだ。 もちろん辻先輩たちを除く……だけどね。

 だけど……よその部の人たち、これじゃ何しにガッコ来てるかわかんないよね? しかもボクも変に見られて緊張しちゃうし、応援とかまでされちゃって、やりにくいったら。


「姫ちゃん、かわい~」

「あっ、こっち見てくれたよ~」

「ほんと、お人形さんみたいだよね」


 あ~ん、はっきりいえば……鬱陶うっとうしいの。


 ああっ、あの先輩、写メなんか撮ってる~! あ、隣りの先輩もっ。

 もう、ボクなんかかまわなくていいのに……。



 と、まぁそんな小さな騒ぎも起こりつつ、それでも夏休みまでにかけて、かなり練習をこなした自由曲に加え、課題曲の練習も始まったこともあり、合宿に向けみんな気分は大いに盛り上がっていった。


 ボクの体調は夏の暑さの続く中、万全とはいかず微妙な疲労感がずっと続いてる感じだ。

 でもお母さんから行っちゃダメと言われるほどでもなく、ヒヤヒヤながらもなんとか過ごしてる。

 あの日転んで出来た青あざのせいで、しばらくひざ小僧にシップ貼って包帯巻きって姿が続いちゃってカッコ悪かったりしたけど。 ――あのあと結局、お母さんや春奈にあっさりばれちゃって、「何ですぐに言わないの!」っておもいっきり叱られちゃったのは思い出したくもないことだよ。

 赤紫色に近い、いやぁな色になったあざはなかなか消えず、2週間ちょっと経った今、ようやく色が茶色っぽくなり薄れてきたって感じだ。 治りまで遅いなんて……自分の弱っちい体にタメ息付くばかりだ。

 まぁこの感じだと痕はなんとか残らずに済みそうなんで良かったんだけど。



* * * * * *



 そして今日は待ちに待った合唱部の合宿の日。


 当初ボクが合宿行くのに難色示してたお母さんだったけど、行くのを認めてくれてからはしっかり準備とかも手伝ってくれて……ほんと感謝するばかりだ。


「蒼空、そろそろ行かないとほんとに集合時間に遅刻するわよ? 早くなさい」


 お母さんが準備に手間取るボクにシビレをきらし、何度目かになるあおりの言葉をかけるため、ボクの部屋を覗きにきた。


「う、うん。 もうちょっと。 あと少しだから」


 ボクはドレッサーの鏡を見ながら、耳の上のあたりから髪をねじりつつ後ろにまわして束ね、ヘアピンで留めたところで仕上げにピンクの大き目のリボンを使ってピンを隠す。 うん、かわいらしくまとまったかな?


 そんなことをなにげに行ないつつ答える。


 ちなみにドレッサーは、夏休みに入り三人でお買い物に出掛けたとき、春奈と一緒にお揃いで買ってもらったのだ。 ボク、お化粧はやったことないし、まだしようとも思わないけど……、春奈も欲しがったし、それに少しでも早くボクが女の子らしくなれば……とでもお母さん思ったのかもしれない。

 で、ボクもお母さんの策略にまんまとハマった感じ、しないでも……ない。

 白い色した、大小の引き出し付きのかわいらしい小さな机に、縦に長い楕円形の大き目の鏡が付いてるドレッサー。

 ほんと、とってもかわいらしくって座り心地のいい、やわらかいクッションのイスに座りつつ、ついつい頬杖ついてその鏡を覗き込んでは、そこに写る自分の顔を見ながらニヤニヤしちゃったりしてた。

 その内小さな引き出しの中、化粧品とかでいっぱいになったりするのかな? まだ想像も出来ないけど……。


 あ、話し横道にそれちゃった。

 ともかくポニテや、今やった後ろでまとめる髪型くらいなら、お母さんや春奈にやってもらわなくても出来るようになったのだ。

 それに今日着ていくお洋服も、お買い物行ったとき自分で選んだんだもんね。

 ガッコの合宿だけど参加時は特に制服じゃなくていいから、何着てくかはすっごい悩みどころなのだ。 とりあえずボクは無難にワンピースを選んじゃったけど。

 襟付きのパフスリーブになってる淡い水色のワンピースで、ボクが好きでよく着ちゃう色なのだ。(春奈やお母さんはピンク系を着せたがるけど)


「お姉ちゃん、準備できた? お母さんもう車のほうに行っちゃったよ」

 

 今度は春奈があおりに来ちゃった。 お母さんはもうクルマで待機してるみたい……まずいよね。 叱られる前に行かなきゃ。


「うん、できた。 待たせちゃってゴメン」


 ボクはそう言ってお財布やコンタクト、それにスキンケアの道具(日焼け止めや洗顔剤、クレンジング剤とかね)が入ったポーチ、それに白いつば広帽を持って部屋から出る。 他のお泊りセットなんかは先にお母さんがクルマにのせてくれてるのだ。


「お姉ちゃん、最近疲れ気味みたいだしほんと無理しないでよ? ダメだと思ったらすぐ休むんだよ?」

 玄関に向かいつつ、春奈が"みみたこ"の言葉を告げる。

「うん。 もうわかってるって。 そう何度も同じこと言わないでよ~」

 春奈ったら今日までに何度おんなじこと言ってきたことか。 お母さんもだけどさ……ほんと過保護過ぎだよ、ボクが言うのもなんだけど。


 そして玄関でスニーカーを履いてるとちーちゃんがようやく起きてきて、その姿を見せてくれた。

「蒼空ちゃん、体に気をつけて楽しんできてね? みやげ話、楽しみにしてるからね」


 眠そうな顔をしつつそう言ってくれるちーちゃん。

 いったい何時に寝てるんだろ?


「うん! ありがと、ちーちゃん。 帰ってきたらいっぱいお話しするね。 楽しみにしてて~♪」


 そう言いながらもボクたちはお外に出てお母さんの待つクルマへと向う。 ちーちゃんも送り出してくれるみたいで一緒に出てきてくれた。

 お母さんのクルマはもうエンジンかけていつでも行ける状態になってた。


「お母さん、待たせちゃってごめんなさい。 それじゃガッコまでよろしくね」

 ボクは車に乗り込みながらお母さんに遅れたコトをあやまりつつお願いする。


「はいはい。 それにしても蒼空、あなた春奈より準備に時間かかるようになってきたんじゃない? そんなところばかり女の子らしくならなくてもいいのよ?」

 お母さんがちょっとあきれたような顔をして言う。

 そんな! 春奈より遅いだなんて……ぼ、ボク、そんなに待たせちゃってた?


「は、春奈とおんなじにしないでよぉ、今度から気をつけるから~」


 そう言って、とりあえずボクはお母さんに抗議しておいた。

 すると案の定、

「ちょっと、お姉ちゃん! なんか聞き捨てならないんですけど? お母さんにならともかく、お姉ちゃんにそんなこと言われる筋合いないんだかんね~」

「あるよ~! ボクいつもならもっと、ささっと準備してるもん。 今回はお泊りに慣れてないから手間取っただけで、たまたま・・・・時間がかかっちゃっただけなんだもんね~」

 そう言うとボクは、車のドア越しに春奈に向かっていーっとしてやった。


「あっ、もう、お姉ちゃんったら、むかつく~!」


 とーぜん春奈が更に文句言おうとしたところで、

「2人ともいいかげんになさいっ! 時間ないんだから、いつまでもバカ言ってないの。

それじゃお母さん、学校まで蒼空送ってくるから、春奈は千尋ちゃんとお留守番よろしくね」

 お母さんはボクたちを一喝したあとそう言うと、クルマを道のほうへゆっくりと進めだす。

 ちーちゃんは一瞬でおとなしくなったボクたちを見て笑いながらも、手を胸の前で小さく振りつつ送り出してくれた。

 春奈もさっきのことなんてまるでなかったかのように笑顔で送り出してくれる。 うれしいけど、ほんとこたえない奴だよ。 うらやましい。 ボクなんてすぐビクッとしちゃうのにさっ。


 なにはともあれ無事家を出たボクは「ふぅ」と大きく息をはきつつ、ぽすんとシートに背中を預けた。 ちょっと疲れちゃったな……。


「蒼空ったら、いきなりはしゃぎすぎよ。 合宿、出発する前からそれじゃ体もたないわよ? その辺ちゃんとわきまえて、落ち着いて行動なさいね」

 お母さん、今日はなんかお小言多いなぁ。 もちろん心配しての言葉なんだけど……。


「うん、わかってる。 お母さんも春奈も心配しすぎだって。 ボクもう子供じゃないんだからね」

 それにボクの体……この8月でやっと13才になるんだ。 何日が誕生日かはわかんないけど……体の上でももう中学生なんだもん、子供じゃないよ!


「ふふっ、そうかしらねぇ? ……まぁそういうことにしておいてあげるわ」

「むうぅ、そうなのっ! 合宿だってキッチリこなしてきちゃうからね? おみやげ話期待してていいよ?」

 ボクはもたれていたシートから体を起こし、前のシートの間から身を乗り出しつつお母さんに笑顔でそう答えた。

 でもそんなボクを見てお母さん、

「あっ、こら、蒼空っ。 だめでしょ? わかったから、ちゃんと座ってシートベルトしてなさい!」


 また叱られちゃった。


「はーい、ごめんなさ~い」


 ボクは舌をぺろっと出してあやまりながら、ふたたびシートにもたれかかると素直にシートベルトをしめた。

 そしてそのあとは特に何もなく無事ガッコまで乗せていってもらえた。



* * * * * *



「蒼空ちゃんおはよう!」


 エリちゃんが、お泊りセットの入ったボストンバック(キャリーバックになるやつで、力のないボクはこれじゃないと、とてもじゃないけど運べない)をコロコロと引きずってきたボクを見つけ、笑顔で挨拶に来てくれる。


「おはよう! エリちゃん」


 ボクもすぐ笑顔と一緒に挨拶をかえした。

 エリちゃん、もう荷物はバスに乗せたみたいで、小さなカバン持ってるだけだ。


 集合場所のガッコの駐車場には、すでにほとんどの参加メンバーが揃ってるみたい。

 合宿へは小型のバスで行くんだけど、なんとバスはガッコのものなのだ! やっぱ有名私立は違うよね。 バスは20人ちょいくらい乗れるやつで、白い色の車体の側面にデザイン化された学校名が印刷? されてる。 みんなそのバスの前で楽しそうに雑談してる。


 合宿へは全員参加することになり部長さんもすっごく喜んでた。 全員参加なら練習もキッチリ出来るし、充実した合宿になるもんね。

 ボクとエリちゃんがお話ししてたら、その部長さんがボクを見つけ早速声をかけにきてくれた。

「柚月さん、おはよう! 早速だけど、みんなの荷物はバスのトランクに載せちゃうから、必要なものだけ出して運転手さんに渡してやってね」

「あ、藤村部長。 おはようございま~す! はい、わかりました」

 ボクは部長さんにそう答え、続けて、

「今日から3日間、どうぞよろしくお願いしま~す!」

 と言って、ちょこんとお辞儀した。 ボクのそのしぐさにエリちゃんも釣られてお辞儀しちゃってる。


 部長さん、それを見てうれしそうに微笑みながら、

「うん。 よろしく! 楽しい合宿になるといいね」


「「はいっ!」」


 ボクとエリちゃんは揃ってそう返事した。


 今日のお天気は幸先良い快晴。

 すっごく暑くなるだろうけど、ほとんど車内だし、行く先は山の上。 涼しいんじゃないかなぁ?

 合宿先まで3時間と少しはかかるらしいし、バスの旅も楽しみだ!

 なにしろバス旅行自体、新入生のオリエンテーリングで行って以来、まだ2度目。 あの時はガッコの行事だったから規則がうるさかったし。

 だから今回、気心の知れたみんなと行くバス旅行も楽しみのうちの1つだったんだもん。


 荷物を運転手さんに渡し、ボクはエリちゃんと一緒にみんなが集まってるところへ混じりに行く。


「先輩、みんな、おはよ~ございます!」

 やっぱ挨拶、肝心だよね。


「あ、柚月さん、おはよう!」

「おはよう、蒼空ちゃん!」

「あっ、姫っちおはよ~!」


 同期の子や先輩……みんな、うれしそうに挨拶を返してくれる。 最後はもちろん辻先輩。

 そのあだ名、もう確定しちゃったんですね……もういいけどさ。


 カッコもそれぞればらばらで、かわいいカッコから男の子っぽいカッコ、Tシャツからワンピ、ショートパンツにミニスカート、それにジーンズまで……ほんと色々だ。

 

「柚月さん、そのワンピースと帽子、すっごく似合ってる。 かわいいっ!」

 先輩たちがそういって褒めてくれて、なんかこそばゆい。

「姫っち、なに照れてんの? そんなのどーせ言われ慣れてるでしょ?」

 つ、辻先輩、な、何言ってくれるの。

「そ、そんな! そんなこと……」

 ボクはなんと言っていいかわからず、言葉に詰まってしまった。


「ほら奈々ちゃん、柚月さん困ってるでしょ! 朝っぱらから、いらないこと言ってないでおとなしくしてなさい」

 副部長の今井先輩がそう言って辻先輩をたしなめる。

「そんな、ひどいですよ和奏せんぱ~い」

 2人のそんな会話に、みんな一緒になって笑う。


 こんな何気ない会話もほんと楽しい。


「みんな、そろそろ出発よ! バスに乗ってくれる~」


 点呼をとったあと熊先生と打ち合わせしてた、向井先生がみんなに大きな声で呼びかける。

 あれ、そういや熊先生と向井先生が揃ってるのって初めて見る気がする。 熊ってしょっちゅう出張行ってるからあんまり見ないんだもん。


 いよいよ出発だ。

 これからの3日間、いっぱい楽しいことあるといいな。


 ボクは期待を胸に、エリちゃんと一緒にバスへと乗り込んでいった。



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