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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
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ep66.夏休み……部活のゆくえ

 沙希ちゃんたちが帰った後、すっかり体調も良くなってたボクは、リビングでガッコの通知表をお母さんと春奈、3人で一緒に見てる。

 ちなみに通知表は春奈が預かってきてくれてたんだけど、忘れてたとかいって、晩ごはん後にリビングでゆっくりしてたときようやく渡された……。 まったく困った妹なんだから、ほんとに。


 まあそれはともかく、ボク1学期すっごくがんばったし、その甲斐あってそれに見合うだけの結果出てた。


 えへへっ、すっごく褒めてもらっちゃった~♪

 まぁ英語と体育はちょっとあれだったけど……かなり自慢できる成績だったんだもんねぇ!


 それにひきかえ、一緒に見せてた春奈はといえば……、通知表見るなりお母さん、あきれはてて天井見上げちゃってた。 そりゃあんだけ陸上一筋じゃ、そうなっちゃうのも当然だよね? ある意味予定調和だ。

 でも、だからといって許してくれるほどお母さん甘くない。 春奈ったら、さんざんお小言聞かされちゃってた。 ご愁傷さまっ!


 ……なんて事が一通り済んだあと、ボクはいよいよ本題に入るため、居住まいをただして伺うような眼差しを向けつつ問いかけた。


「ねぇお母さん、ちょっとお願い……あるんだけど?」


「ん? どうしたの、蒼空」

 春奈に小言を言ったあと、今は普通にガッコでの出来事やクラブの話しを聞いていたお母さんがボクの方に注意を向ける。

 すかさずボクは、用意してたエリちゃんが部長さんから預かってきてくれたプリントを、おずおずと差し出す。

「あの……これ、見て?」

 お母さんはそんなボクをちょっと訝しげに見ながらもそのプリントを受け取り、目を通す。

 ボクはお母さんの反応が心配で気が気じゃない……。

 中身を知ってる春奈もちょっと緊張気味の表情してる。


 お母さんの表情が微妙に曇ってくる。

 それを見て、ボクはがまんしきれず自分から話しかける。


「が、合唱部の合宿なの。 10月の終わりのほうに合唱コンクールがあって……ね、それの県予選がもうじきはじまるの。 だから、その……」

 ボクがたどたどしく説明し出すと、お母さんがそんなボクを見てため息をつきつつもアタマをなでてくれ……、そして話し出す。


「蒼空、お母さん……正直にいえばあまり賛成できない。 長野県は遠いし、それに3日間かけてコンクールの練習するのも体に負担、かけるだろうし」


 お母さんのその言葉にボクは悲しくなって、つい今にも泣きそうな表情を見せてしまう。 ほんとボク泣き虫な子になっちゃった……。

 そんなボクを見てお母さんは慌てて話しを続ける。


「蒼空ったら、早とちりしないで? 行かせたくないのはホントだけど、……でも、蒼空に色んなこと体験して欲しいとも思ってるわ。 だからね、行くのはいい。 許してあげる。 だけど、その代わり約束して? 絶対無理をしないって。 それが守れるのならハンコもちゃーんと押してあげる」


 ボクはお母さんのその言葉に、泣きそうな顔から一転、笑顔を浮かべる。


「ほんと? ほんとに、ほんと~?」


 こないだの競技会のときのこともあるし、ダメって言われること覚悟してたから、うれしさ倍増だ!

 ちなみにプリントには合宿参加の申し込み用紙も付いてて、保護者の名前とハンコを押してもらわなきゃ、合宿には参加出来ないことになってる。 そこんとこは未成年者を預かる顧問の先生たちとしては、キッチリしとかなきゃいけないみたい。


 めんどくさいけど。


「ええ、ほんとよ。 だからしっかり練習してらっしゃい。 部活のお友達ともいっぱい楽しんでくるといいわ」

 ――日向はそう言いながらも、ちょっと精密検査のことが頭をよぎるが、そううまい具合に日程が重なることもないだろう、と自分を納得させ蒼空に笑顔を向ける。


「ありがと~お母さん。 ボク約束するよ? 無理、絶対しないから。 えへへっ、楽しみだ~」

 ボクもう、顔の表情緩みっぱなしだ。

 そんなボクを見てお母さん、またアタマをなでてくれる。

 ふふっ、気持ちいい♪

 ボクはもっとなでてという風に小首をかしげて、お母さんのほうにアタマをよせちゃう。


「あ~あ、また甘えちゃってさぁ。 お姉ちゃんもう高校生なんだよ~? 自覚ある?」

 そんなボクを見て春奈がいつものごとくイジワルなこと言ってくる。 でもその顔は笑顔でいっぱいだ。

「いいんだも~ん。 ボク、体はまだちっちゃいんだから、甘えちゃってもぜんぜん問題ないもんね~」

「あっ、なによそれぇ? こんな時だけちっちゃいこと利用しちゃって~! いつもなら、『ボク子供じゃない』とかなんとか言ってくるくせに~」

 さっきまでの笑顔から一転、春奈の目が釣りあがる。

 やばっ、春奈のイジワルモードへのスイッチ入れちゃったかな? と思いきや、今度はニヤリと笑い、


「お母さ~ん、私もなでて~!」


 そういうなり春奈ったらお母さんに抱きついちゃった。 そう来たかぁ!

「春奈~、春奈こそ高校生のくせになに甘えちゃってるのさ~?」

 ボクはほっぺをぷくっと膨らませて文句を言う。


「いいじゃん、たまには私だって甘えたいんだもん」


 そう言いながらいーって顔をする春奈。

 お母さんはそんなボクたちをみてちょっと呆れ顔をしてたけど、すぐにこやかな笑顔を見せてくれて、今はボクと春奈、2人のアタマを優しくなでてくれてる。


 えへへっ、幸せ♪



* * * * * *



「でもよかったね、蒼空ちゃん」

 エリちゃんがボクにそういって笑いかけてくれた。


 夏休みに入って最初の部活。

 ボクは合宿参加の申し込み用紙を顧問の先生に提出し、一通りの発声練習もこなしたあと……、今は休憩で4年生で集まって雑談してる最中なのだ。


「うん、ダメって言われないか心配しちゃったけど、なんとか許してくれたんでほっとしちゃった」

 ボクはそういって笑みを浮かべる。

 他のみんなも口々に良かったねって言ってくれた。 そしてひとしきり合宿の話しで盛り上がったあと、誰とはなしにつぶやくこの禁句……、


「はぁ、それにしても暑いよねぇ」


 1人がそれを言うと"あぁ、言っちゃった"って顔をしたあと、みんなして声を合わせ「そうだよねぇ」と気だるげに答える。

 今はまだ午前中の比較的涼しい時間帯……のはずなんだけど、もう気温はどんどん上がってきてる。

 みんな、夏服の白い半袖シャツの首元やスカートをパタパタさせたて、少しでも涼を取ろうと努力してるけど、まぁほとんど何の足しにもならない。 でもみんな、あんまり激しくするとパンツ見えちゃうって。

 エアコンは備え付けられてはいるものの、世の中の節電のあおりでそう簡単には入れさてもらえない。

 扇風機もいくつかあるにはあるんだけど、そこはほら、やっぱ先輩たちが優先なわけで。 うん、世の中きびしいのだ。


 ボクも夏の暑いのは苦手。 人より汗が出にくいから一見、暑そうに見えないかもしれないけど、実際はすぐほてってきてのぼせそうになっちゃう。

 みんなでそんな中、それでも負けずに雑談してると、


「はい、みんな~! そろそろパート練習始めるよ? 暑いのはわかるけど、あと少しがんばって練習しよう」


 部長さんの言葉で、ボクたち4年生や先輩たちは各パートごと、グループに別れる。


 練習は涼しい午前中のみ。 だからあと1時間弱ってとこ。

 がんばろう!


 ところでボクはソプラノだから、当然ソプラノパートのグループだ。

 ソプラノパートは全部で6人。 パートリーダーは音楽科5年の大野おおの 直美なおみ先輩で、あの辻先輩もソプラノだったりする。 ちなみに部長の藤村先輩もソプラノなんだけど、抜けることの多い部長さんはパートリーダーにはならないみたい。 まぁ全体もみなきゃいけないしね? 大変だよね、部長さんって。


 それにしても……個性的なメンバー多いよね? ソプラノパートって。 まぁボクも含めてだけど……えへへっ。


 パート練習は各パートのメロディをキーボードで弾いたり、CDをかけたりして練習するんだけど、今はパートリーダーの大野先輩がキーボードを弾いて、それに合わせて歌ってる。 ボクはとうぜん楽譜なんて読めないから、この練習はすっごくわかりやすい。

 もちろん楽譜読めるようにはなりたいけど……何よりボクの目がネックになっちゃう。 歌詞はなんとか覚えられるからいいけど。


 それにしてもおかしなところがあれば、キッチリ音が取れるまで、それこそ何度でも納得いくまで歌うことになっちゃうからほんと大変。 ただでさえ暑い中、マジ倒れちゃいそうだよ。

 ほんと、倒れないようにしなきゃ。

 ここで倒れちゃったらせっかく合宿参加のOKもらったの、ダメになっちゃうもん……間違いなくさ。


 

 今練習してるのはコンクールで歌う自由曲。

 この曲は、昔飛行機事故で亡くなった歌手の人が歌ってた歌謡曲らしいんだけど、この曲の歌詞を聞いているとボクは何ともいえない気持ちになる。 切なくなっちゃう。 好きな人や家族への気持ちをつづった歌……。


 そしてつい思い出してしまう。 お父さん……のこと。



 ボク自身は、まだ愛だの恋だの……ぜんぜんだけど。


 ボク、将来どうなるんだろ。 こんなボクでも結婚とかしちゃうのかな?

 

 男の人……と?


 まだまだ先のことだけど、でも女の人と結婚なんてありえないし……。


 

 歌いながらもそんなことを考えてた……その時、急にその感覚が訪れる。

 ああ、なに?


 なんかアタマくらくらして……。


 ……。


 ううっ、ま、まずい。

 ゾクゾクする……そ、それにうるさいくらいの耳鳴り。 まるで波の音だ……。



 た、立ってらんない……。

 全身から冷や汗が出る。


 ボクは耐え切れず、膝からくずれ落ちるようにして床にへたりこんでしまった。


「「ゆ、柚月さん!」」


 部長さんや大野先輩の声が遠くで聞こえてる。 ああ、心配かけちゃってるなぁ。

 ついさっき、倒れないようにしようって思ったばかりだったのに……。


「蒼空ちゃん! 大丈夫?」


 あ、エリちゃん。 練習中なのに、今度もまたすぐ来てくれた……。

 周りのみんなもボクの周りに駆け寄ってきてくれてるみたい。


「だ、大丈夫。 ご、ごめんなさい、いきなりへたりこんじゃって……」

 へたりこんだことでちょっと落ち着いてきた。

 ああ、でもまだ体がすごく冷たい。 さっきまであんなに暑かったのに……。


「柚月さん、顔色真っ青よ! とりあえずそこのイスに座って」


 顧問の向井先生も慌てて駆け寄ってきて、そう言ってくれた。

 真っ青? ただでさえボク白いのに、そんなに顔色変わっちゃってるのかな? 

 そして今回もまたエリちゃんがボクを抱き抱えながら起してくれ、そのまま壁際のイスまで連れていってくれた。


 みんな心配そうにボクを見る。


「どうやら貧血起したみたいね。 どう? 少しは楽になった?」


 向井先生が座ってしばらく経ち、なんとか落ち着いてきたボクに問いかけてくる。

 そっか、貧血かぁ……。

「はい、だいぶ楽になりました……。 あははっ、ビックリしちゃった」

 ボクはバツの悪さからちょっと笑ってごまかした。 青い顔して言ってもあんまし説得力ないかもしんないけど。


 そんなボクの様子に、ざわついてたみんなもようやく静まってきた。


「もう姫っち、驚かさないでよねぇ? でも、あれよね、この暑さじゃ姫っちじゃなくても倒れちゃうよねぇ。 ほんと、たまんないもん今日」

 辻先輩がちょっとおどけたように言う。

 みんなもそれをきかっけに多少笑顔が戻ってくる。 こういうとき辻先輩のキャラは大助かりだ。


「ごめんなさぁい、心配かけちゃって。 でもほんと、おかげさまでだいぶ良くなりました」

 実際、さっきまであんなに冷たかった体も体温が戻り、耳鳴りもウソのようにしなくなった。

「ほんとに大丈夫?」

 エリちゃんがまだちょっと心配そうに聞いてくる。

「うん、へーき! ほんとにほんと」

 ボクはそう言ってニッコリ微笑んで見せた。

 エリちゃんはじめ、それを見たみんなはなんともいえない表情を見せ、でもようやくみんなの雰囲気も通常のものへと戻っていく。


「みんな、ちょっと早いけど今日の練習はこれでおしまいにしよう。 あ、次は3日後だから、みんな忘れないようにね?」

 

 部長さんがそういって今日の練習の終了を告げる。

 予定の終了時刻まであと10分とはいえ残ってた。 あ~あ、みんなに迷惑かけちゃったなぁ。 ほんとボクっていつもこう。


 こうして夏休み最初の部活はなんとも情けないものとなってしまった。

 ほんと、自己嫌悪……。



* * * * * *



 しばらく休んですっかり回復し、なんとか無事帰宅したボク。

 お家にはまだ誰もいない。


 ボクは汗で気持ち悪くなった体をさっぱりさせるべくシャワーを浴びる。

 そのあとは、Tシャツにショートパンツってラフなカッコでリビングのソファーにだらしなく寝そべり、なんとなく見るでもないTVをつけてぼーっとしてる。


 そんな中いやでも思い出すのは部活での出来事。


 このことはお母さんにはナイショにしとこうと心の中で決意する。 ただの貧血だし、大丈夫、ばれるはずないもん、平気だ。

 そんな黒いことを考えつつ、外とは違いエアコンの効いた部屋の中、いつしか心地良い眠りの世界へと旅立っていく。


# # #


「蒼空、蒼空? 起きなさい。 そんなカッコで寝てるとカゼひいちゃうわよ?」


「むにゅ?」


 だ、だぁれ? せっかく気持ちよく寝てたのにぃ。


「蒼空! ほら、起きて」

「んぅ……ん。 ん? お、お母さん?」


 ボクいつの間にか寝ちゃってたみたいだ。


「お母さん、おかえりなさい」


 ボクはちょっと、微妙にうつむきながらお帰りの言葉をかけた。

 だって部活でのことがあってちょっと顔、合わせずらいんだもん……。


「ただいま。 蒼空ったらどうしたの、なんだかちょっと変よ?」

「え? ううん、なんでもないよ、なんでも」

 ボクはあわてて否定する。 余計あやしいよ、これじゃ。

 案の定ちょっと訝しげな表情を浮かべるお母さん。


「まぁいいけど……。 ほら蒼空、口元によだれ! もういつもいつも。 あなたも年頃の娘なんだから、いいかげん身だしなみにも気をつかいなさい?」

 でも、そういいながらもハンカチでボクの口元を拭ってくれる。


「えへへっ、ごめんなさい。 以後気をつけるぅ」

「ふふっ、ほんとかしらね? まっ、期待してるわよ?」


 そういって微妙に肩をすくめるお母さん。

 むぅ~、信用されてない。


 だよね? やっぱ。 そういう自覚バッチリだもん。



 そしてボクがしゃっきりしてきたのを確認すると、お母さんが思いがけないお話しをしだした。




 う、うそでしょ? お母さん!



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