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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
7/124

ep6.消えない想い

※話数を修正しました。

 その日は3月も2週目に入ったというのに寒い日だった。



 お昼すぎから降りだしていた雨は夕方前には雪に変わり、辺りは薄い白に覆われだしていた。

 ボクたち兄妹は、その季節外れの光景に大いにはしゃいでた。


 晩ごはんは久しぶりに家族4人で食べに行くことになったからなおさらだ。


 お父さんは、有名な製薬会社でコンピューター関係のお仕事をしてるらしいんだけど、いつも忙しくてなかなか一緒に出かけることが出来ない。

 今日もホントは仕事だったみたいなんだけど、なにかの手違い? で仕事に使う荷物が届かなくなった―― 、とかで急遽出なくてよくなったみたい。


 ……だから今日みたいな日は、春奈と一緒になってついついはしゃいでしまうのだ!


 ボクももう中学2年になるんだからもっと落ちつかなきゃいけないんだけどなぁ。

 春奈にもしめしがつかない……お兄ちゃんの威厳をみせなきゃ!


「雪……、ずいぶん降ってきたようだけど大丈夫かしら?」


 みんなで出かける準備をしている最中、お母さんがリビングの窓から外の様子を伺い言う。

 ボクらは、「え~! 大丈夫っ全然平気だよぉ~」とお母さんにまくし立てていると……


「まぁこのくらい大丈夫さ、車は4WDだしまだ冬用のタイヤが付いたままだしね」


 と、お父さんが頼もしい返事をお母さんにした。


「「そうそう、大丈夫、大丈夫だよぉ~!」」


 ボクたちは、ここぞとばかりにまた大丈夫のコトバを繰り返す。


「はいはい、そうよねぇ……そうだよねぇ……わかりました。じゃ、行きましょうか? うふふっ」


 お母さんは、あんなことをいいながらもやめる気は全然なかったみたいで、もう準備はバッチリみたい。……お母さん子供みたいだ。


「「わ~い、出発、出発っ!」」



 ボクたちは嬉々としてお父さんの車に乗りこみ、郊外にあるファミリーレストランに向け家を出た。運転はモチロンお父さん、その横にはボク。お父さんの後ろにはお母さんが座り、春奈はその横……ボクの後ろって感じだ。


「お父さん、ボクはチーズ入りのハンバーグがいい」

「私はスパゲッティ~! でぇ、イチゴのショートケーキ、それにプリン! あとえっと、えっと……」

「ええぇ春奈、ごはん食べる前からもうデザートの話しなのぉ? しかもデザートのが多いじゃん!」

「お兄ちゃん、ウルサイ! 今日はせっかくお父さんも一緒なんだからお食事もフルコースなの!」

「何なのそれ、わけわかんないよぉ?」


 車の中はボクたちの声で騒々しい限りだ。


「まぁまぁ、二人ともケンカしない。なんでも好きなモノを頼めばいいさ? 今日はお父さんにドンとまかせなさい!」


 えへんといった感じで胸を張るお父さん。


 「「は~い」」 と答えるボクたち。


 それを見て微笑むお母さん。


 背が高くてかっこよくて、いつも優しいお父さん。

 お父さんの横でいつも微笑んでるお母さん。

 そんなお父さんやお母さんに甘える兄妹ボクたち



 あの日、雪がもっと強く降っていたら。


 お父さんの仕事が急にキャンセルにならなければ。


 いつものように家でごはんを食べていたら……。


 結果は違ってたのかな?



* * * * * *




 それは唐突なできごと……。



 ボクたちの乗る車の前方に、雪でスリップしたワンボックスが対向車線から飛び出してきて……。



 ……………………


 ……………


 ……



 気が付くとボクは、車の外に投げ出されていた……。

 目の前は半分真っ赤で……、体の感覚は、全然……ない。


 顔を横に倒す……と、お父さんの車は、ワンボックスが前半分くらいまではまり込んだようになって止まってた。



 クルマの中から春奈の泣いてる声……が聞こえる。良かった。……春奈は無事なんだ?


 ……お母さんは大丈夫かな?



 ボクの頬っぺたの周り。……なま暖かい液体がたまってきてる……。

 目がかすんで……きちゃった……。


 ボク……、死ぬの……かな?


 …………。


「おと……う……さん」


 ……。



 雪がすべてを覆い隠すように……激しく降り出していた……。



 それでも赤い色は隠されることもなく広がっていった。



* * * * * *


 …………。


「蒼空!」


 う……ん?


「蒼空?」


 …………。


「うぅ……うん?」

「蒼空っ? 起きて!」


 ボクを呼びかける……やさしい声が聞こえてくる……。



「んぁ? お、おか……あ……さん?」


 呼びかけられて目が覚めてきたボク。


「蒼空! 大丈夫?」


 心配そうに声をかけてくるお母さん。

 どうやらボクは、リハビリに疲れていつの間にか眠っちゃってたみたいだ。


「お母さん、どうしたの?」

「どうしたのじゃないわ……蒼空、あなた眠りながら泣いてたわ……」


 そ、そうなんだ。

 頬に手を当てると涙でまだ湿ってた……目じりにもいっぱい溜まってる。


「怖い夢でも見た? ん?」


 優しく問いかけてくるお母さん。


 ボクが、さっきまで見ていた生々しい夢。

 つい最近まで忘れていた、いや……忘れようとしていたのかもしれない出来事……。



 思い出してしまった――。



 おとう……さん。



 あえて口に出さなかった……、聞きたくなかったのかもしれない。

 みんなもそのこと何にも言わなかった……。



「蒼空?」


 ボクの目からはまた涙が出てきていた。


「……蒼空?」


 お母さんはそんなボクを見て、だんだん心配になってきたのか……ボクの頬をやさしくなでる。


「お母さん……」

「ん?」


「お父……さん」


「……!」


「もう、いない……んだ……ね?」


「会えない……んだ……よ……ね?」



 ボクは、自分に言い聞かせるように言って……、

 そんなボクをお母さんは抱き寄せて……、


 ボクに頬ずりをしながら、一緒に泣いていた。



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