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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
67/124

ep63.がんばる姿

 季節は進みふたたび暑い夏がこようとしてる。


 学校生活も3ヶ月が過ぎ、その間、新入生のオリエンテーリング(県外の高原避暑地に二泊三日で行ったのだ)に授業参観、それに中間考査……それなりに行事もこなし、ボクもなんとかなじんでいけてるような気がしてる。(オリエンテーリングで疲れて熱出しちゃったのはもうお約束? ……はぁ、自己嫌悪)


 そうそう、ボクこう見えてもガッコのお勉強はかなりがんばってて、4年生の中で20番以内に入る成績を収めちゃってるのだ!

 これはひとえにちーちゃんのお陰ってのもかなりあると思う。 授業でわからなかったことや、宿題、それに受験勉強でやりきれなかったところとか……色々教えてもらっちゃってるんだ。

 それに対して春奈ったら……もうあきれてかける言葉もないよ。 学年で下の上、あえて順位はいわないけど……ひどいんだもんこの成績。

 部活に一生懸命になるのもわかるけど、勉強もちゃんとやらなきゃダメなのにさ……。

 ボクが一言いってやったら、「勉強はお姉ちゃんにまかせたから~」なんて、はなからやる気全然ないんだもん。 ほんと春奈、陸上一筋って感じで最近帰ってくるのも暗くなってからだし、体とかも日に焼けてまっくろだし。

 春奈と並んで歩いてると、なんかほんっと、ボクの白いのがやたら目立ちまくっちゃうんだもん。


 でもここまでがんばるようになったのはやっぱ、インターハイの地区予選で敗退しちゃったのが大きいと思う。 春奈は高校から始めたんだし、いきなり上位の成績収めるのって難しいんだとボクは思うけど、出場した春奈にとってはやっぱ違うんだろう。 元々負けずぎらいな性格もあって春奈の心に火をつけちゃったんだ、きっと。

 その気持ちはわかるからボクもしっかり応援したいって思うけど、やっぱ勉強もちゃんとしなきゃいけないと思う。 まっ、無理だろうけどさ……。


 ボクの方はといえば、始めは色々戸惑うことも多かった部活動だけど、部長さんや副部長さん、それに多くの先輩たち……そしてもちろんエリちゃんに支えられ、今も楽しく合唱部の一員として日々練習に励んでる。

 この体だからあまり無理もできないけど……ボクなりに精いっぱいやってるよ。 筋トレは相変わらず苦手で、どれだけやっても力はなかなか付かない……。 それでも発声練習のお陰もあってか、ずいぶん声が出るようになったって先輩や先生にも褒められちゃったもんね。


 余談だけど、ボクたちが入部したあと、なんか入部希望で見学したいって先輩たちが、何度か続けて押しかけてきたけど、えっと……、ボク見たさ……だったみたいで、「まじめにやらない人はお断り!」って部長さんに追い返されてた。

 10人以上来てたと思うけど結局1人も残らなかったみたいで……ほんと何考えてるのやら? 先輩たち。


 話戻すと……、ボクたちの合唱部は女子高だから当然女の子だけの構成になるってことで、女声三部合唱っていうのになるんだって。 で、三部っていうからには声を出すグループ(パートっていうの)も三つに別れてて、それぞれソプラノ、メゾソプラノ、アルトっていうらしい。

 で、ボクはどれになったかというと……ソプラノだった。 ソプラノは三つあるパートの中で一番高いほうの音で、メゾソプラノ、アルトの順に低くなってく。

 まぁ、ボク低い声でないしね。

 あ、それとエリちゃんはアルトだった。(エリちゃんってなんかイメージ、宝○歌劇団の人みたくなってきた気がする)

 とはいってもちゃんと顧問の"熊先生"がボクたちの声聞いて判断してくれたんだけど。

 熊先生は、入部のとき部長さんが言ってたひげ面の山中先生のことで、ほんとーに熊みたいにおっきくて、顔半分がひげ面の先生だった。

 熊先生は、部長さんが楽しそうに話してた小ホールでの練習のときひょっこり現われて、先輩たちが普段パート練習してた成果を合わせて聞いたりしてた。 その頃にはボクたち新入生もそれなりに発声練習してたし、その場で練習の成果を聞いてもらいつつ、とりあえずのパート決めもしてくれた。

 なんかおっきな大人の男の人の前で声を出すのは恥ずかしかったけど、みんな一緒だったし先生は顔に似合わず、すごくやさしかったし……で、なんとか先生に聞いてもらえた。


 そしてそこでも辻先輩にからかわれちゃった。


「"わたりん"とが凸凹コンビなら、"熊"とは、もうなんとかと野獣みたいだよね? まぁまだちょっと姫っちじゃ幼なすぎかもだけどさ」

「むぅ~先輩、先生にそんなこと言っちゃだめです。 それにボクそんないいもんじゃないし」

「くすっ、姫っちマジメなんだから! そんなこと熊は気にしないよ? むしろ喜ぶかもよ?」

 随分なことをいう辻先輩。

「辻さん! またサボって。 もう一度最初から合わすから早く戻って」

「はーい!」

 辻先輩が後輩であるボクたち(特にボクだけど)にちょっかいかけてきて、部長さんが怒る……。


 こんな光景が普通になっちゃった。


 まぁ、それはともかく小ホールは部長さんがここでの練習を楽しみにするのもわかる場所だった。 30人以上は楽に並べそうなステージの脇にはグランドピアノが置いてあって、そのステージを照らす照明設備もコンサートが出来そうなくらい整ってる。 客席は階段状に後ろに行くほどせり上がってて、部長さんが言ってた通り400人は楽に収容できるそうだ。 音響設備もしっかりしてるそうで、ここでは実際年に何度か楽団を招いて小コンサートとかを開いてるみたい。

 合唱部でも演奏会とか開くこともあるそうで、だとするとボクもそのうちここで歌っちゃうことになるのかなぁ?


 うう~、なんか考えるだけで緊張しちゃいそう……。



 そんな感じでボクも春奈もお互い忙しい学校生活を送るようになってきて……、特に春奈は最近、朝錬まで始めちゃって、ここ何日かはまともに顔も合わせてない気がする。

 もちろん夜には顔合わせてるんだけど、お互い疲れててろくに会話もなかったりする。 それにボクは元々寝るの早いし、春奈も朝錬するようになって早く寝るようになったみたいだし。(ボクは先に寝ちゃってるからわかんないんだけど)


 朝のバスも当然ボク1人。 そりゃガッコのスクールバスだから乗ってるのは見知った先輩や同級生ばかりで不安はないんだけど……。


 やっぱ、さみしい。


 考えてみると、ボクが目を覚まして以来……ううん違う、ボクが眠り続けてるときからずっと春奈がそばに居た。 そしてボクが心配だからって、ガッコまでおんなじとこに来てくれた。


 でもようやく春奈は自分のやりたいこと、出来るようになってきたんだよね。

 やりたいことやりなよって何度言っても聞いてくれなかったけど……、ようやくその気になってくれたのはいいことなんだ……。


 だから今さみしいなんていって、やっと自分のことやりだした春奈を困らせたりしちゃだめなんだ。


# # #


「はぁ、なんかつまんない……」

 湯船につかりながらボクはひとりごちた。


 ボクはガッコから帰って夕飯をお母さんと2人で食べたあと、リビングでTVを見てたんだけど何を見てもつまらない。 楽しい気分にもなれない。

 そもそもどーせTV見たって細かいとこまで見れないから雰囲気だけなんだもん、ふんっ。


 春奈は帰ってくる時間、夏が近づくにつれ更に遅くなってきて、今では夜も8時をまわらないと帰ってこない。

 ちーちゃんも近頃は大学が忙しいのかどうなのか? 帰ってくる時間遅いから、なかなか顔を合わせる機会がないし。


 結局ボクは早々にお風呂に入って寝ることにした。

 最近はこのパターンばかりだ。


 うちのお風呂は結構広めで浴槽も2人で入っても余裕があるほどの大きさがある。 それもあって歩くのに不自由していた頃は毎日お母さんか春奈、どちらかと2人でお風呂に入ってたっけ。

 あの頃のボクは自分の体はともかく、女の人、それも妹の裸なんて当然見なれてなんかなく、一緒に入るたびにあたふたしてた……。

 でもそのおかげかオリエンテーリングでみんなとお風呂入ったときも、なんとも思わなくなってたけど。(っていうか、みんなのほうがボクのこと見てきて恥ずかしかった)


 最近はさすがに一緒に入ることもなくなっちゃったけど、あの頃に比べるとボクも少しは成長してきた。 そう思いつつ湯船に沈んでる自分の体を見る。

 ブラジャーをするようになった体は胸もそうだけど腰まわりもふっくらしてきてる。 体つきも柔らかくなって自分から見ても女の子らしい体つきになってきたなって気がする。

 以前からちくちくしたり痛かった胸のさきっちょ、その……乳首もなんだか最近おっきくなってきて、ブラも今じゃちゃんとカップつきのブラを付けるようになった。


 ただ……背だけはほとんど伸びてくれない。


 一番背が伸びるはずの年頃のとき、寝たきりだったボク。 もしかして背が伸びることはもうないのかもしんない……残念だけど。


 そうやってボクが自分の体の成長についてもやもや悩んでると……外でバタバタ騒がしい音が聞こえてきた。 誰か脱衣所にきてなんかしてるみたい?


「お母さん?」


 ボクがとりあえずの確認のため、身をちょっと乗り出しつつ声をかけるのとほぼ同じくらいに……。


 ドアが開いた。 それも勢いよく!


「お姉ちゃん、入るよ~!」


 ボクの返事を聞くまでもなく勢いよく入ってきたのは、春奈だった。


「は、春奈ぁ?」

 ボクはドアが開いて思わず湯船の中に体を沈めちゃったけど、その声を聞いてつい変な声をあげた。 そしていやでも目に入ってしまう春奈の体を見つめる。


 まず目に付くのはそのまっくろに日焼けした肌。

 でも当然のことながら焼けてるのは顔から首までと、腕と足で……胸から腰にかけては白い肌のまんま、くっきり境目ができちゃってる。 なんかちょっとかっこわる~い。 つうか春奈、前隠す気ぜんぜんないよね? ……はぁ。


 それにしても春奈の胸……、ボクなんかと比べものにならないくらい成長しててほんと、うらやまし……って違うし。

「もう、いきなり何入ってきてるのさぁ、春奈!」

 ボクは突然の春奈の乱入に文句を言ってやった。


「えへへぇ、そりゃ部活から帰って来て汗いっぱいかいてるし、まずはお風呂って思ったからにきまってるじゃん! で、たまたまお姉ちゃんが先に入ってただけってことで」

 春奈ったら、悪びれもせず堂々と言い切っちゃったよ。

 そりゃあ、いっぱい走って汗かいてるだろうから早くお風呂入りたいだろうけど、ボクが出るの待つくらいさっ……。

「そんな、だからって……さ、いきなり……」

「もうお姉ちゃんったら、いつもまでもグジグジとうるさいっ。 いいじゃん、お風呂は2人くらい余裕なんだし、だいたいちょっと前までいつも一緒に入ってたじゃん? それともお姉ちゃん、一緒に入りたくない理由でも?」

「ううっ、そ、そんなことは、ぜ、ぜんぜんないけどって、ちょっと春奈なにを~?」

 ボクがちょっとうろたえ気味に答えてる最中、春奈ったら、ニヤリと笑ってあろうことかボクの腕を掴んで強引に湯船から引っ張り出しちゃった。


「や、やぁ~ん。 は、春奈っ! な、なにすんのさ~」


 ボクはつい胸と大事なトコ隠そうとしたけど、片腕は春奈にとられてるから大事なトコしか隠せなかった。 まぁ、あんまり意味はないんだけど……つい。 だって春奈の態度がなんかやーらしいんだもん。


 じーっとボクを見てくる春奈。 そして、

「お姉ちゃん、ちょっと見ない間にずいぶんふっくらしてきたね? 胸ももうほんとブラなしじゃまずい大きさになっちゃってるし……。 まぁ、まだ下のほうは全然だけど」

 そう言った春奈の表情はいつものイジワル顔だ。


「ううぅ~、ほっといて! どうせボクはまだ春奈みたいに"○じゃも○ゃ"じゃないもんね~!」

「ひっど~! お姉ちゃん、どこをどー見たらそんなこと言えるのぉ、キレイで上品なんだからね~私のは」


 一通り言い合うと見つめ合うボクたち。 でもとーぜん長くは続かない。


「くふっ」

「ぷふふっ」


 堰を切るように笑い出すボクたち。

 そして春奈がぼそっと言った。


「ごめんね? お姉ちゃん。 さみしい思いさせちゃって」

「春奈?」

「朝も私、先行っちゃうし、昼はお昼寝しちゃってるし、夜も帰るの遅いし……」

「はる……な?」

「でももうちょっと、もうちょっとだけ、17日にある学年別競技会まではこのまま続けてみたいんだ……、ごめんね」


 春奈ったら……、あやまる必要なんてなにもないのに。 自分のやりたいこと好きなだけやればいいのに……。

 でもそれは言っちゃだめなんだよね。

 ボクを、こんなボクのことを大事に思ってくれてる春奈の気持ちを否定することになっちゃうもん。


「もうしょうがないんだからぁ。 その代わりがんばって、今度は悔いを残さないよう、おもいっきり走っちゃってよね?」


 ボクはありったけの笑顔と一緒にそう言った。

 そして春奈もボクに負けないくらいの笑顔でこう言った。


「あったりまえ! まかせてよっ」


 そしてちょっとうつむいて……、顔を上げたときはすでにいつものいたずらっぽい表情に変わってて。


「さっ、久しぶりに私が背中流したげる。 座ってすわって~!」

 言われるままに背中を見せるように座り、おとなしく背中を流してもらうボク。

 そしてお約束のように春奈の手が前にまわって……、

「ふぁ、あん、春奈ぁ! そこは自分でやるからいい~!」

「ふ~ん、やっぱお姉ちゃん胸おっきくなったねぇ、ずいぶんさわり心地変わったよ~?」

 そういって「にひひっ」っと笑う春奈はいつもの春奈。



「もうっ、春奈のいじめっこ~!」



 やっぱ春奈はイジワルだ。



春奈……、勉強する気はまったくないみたいですね(笑)

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