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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
66/124

ep62.蒼空と学校生活と穏やかな日々

※話数を修正しました。

「あぁ~ん、最近蒼空ちゃん成分が足りないよ~!」

 食堂でいつものメンバーとごはん食べてたら、いきなり沙希ちゃんが、なんとも微妙なことを言い出し、なおも続ける。

「クラブも結局、勧誘作戦……失敗に終わっちゃったし。 はぁ、せっかくおんなじ学校に入ったのにぃ! まさかの伏兵、渡里さんに横取りされちゃうなんて~」

 よ、横取りって。 沙希ちゃん……ボクなんて言っていいかわかんないよ。 もう……、最近一緒にお昼食べるようになったエリちゃんも困った顔してるよ。


「沙希ったら、まだ言ってる。 よっぽど蒼空ちゃんとクラブ一緒にやりたかったみたいだけど? もうほんっと、いい加減あきらめなよ?」

 ひなちゃんが、そんな沙希ちゃんに苦笑いしながら声をかける。

 

「ふぇ~ん、そんなこといわれたってぇ。 あ~ぁ、蒼空ちゃんが入ったら魔法少女のコスプレとか……、かわいいキャラのコスいっぱい着てもらおうと思ってたのにぃ~」


「「「はぁ~?」」」


 その場にいたみんなが一斉に声をあげる。

「ちょ、沙希ちゃん、何なのそれ? こ、コスプレぇ?」

 ボクは結局入らなかったんだからもう関係ないとはいえ、思わず聞き返しちゃった。

「そうそう! 蒼空ちゃん、ただでさえカワイイのに、なおかつお気にのキャラのコスプレなんかしてもらったりなんかしたら……」

 あぁ沙希ちゃん、なんか目が遠いところにいってる。

「沙希……クラブ入ってからあんたってほんと、どんどんマニアな道に進んでってるよね?」

 そういったのは、春奈。 みんなはその言葉に強くうなずく。

 春奈も最近はクラスの友だちの方で一緒になってごはん食べてるから、ボクたちとは1列ずれた席に座ってる。 けどすぐ隣りだから沙希ちゃんの話ももちろん聞こえてるわけで。

 そして近頃じゃ周りのみんなと同じく"ちゃん"付けじゃなく呼び捨てと化している。 春奈にとって沙希ちゃんはもうほんとの友だちになったんだよね? きっと。

 そしてそれは沙希ちゃんもおんなじみたい。

「えっへへぇ、お褒めに預かり光栄デス! 春奈もやってみる? いつもと違う自分になれる気がするよ~!」

「けっこうです! それに褒めてない。 ったく、やるのは勝手だけど人巻き込まないでよ」

 春奈がいつものようにブツクサいうけど、沙希ちゃんには全然効果ないのは、これもいつもの通りだ。

 ちなみにボクは、今んとこ沙希ちゃんどころか誰も呼び捨てにするなんて出来ない……。 まぁ、春奈は妹なんだからとーぜん別だけど。 でも……、いつかはみんなのことも呼び捨てで呼べるようになるのかな? そうなれるといいな。


「まぁ渡辺さんのことはともかく、蒼空ちゃんもクラブうまくいってるようでよかったね。 渡里さんも一緒だから安心だしね」

 優香ちゃんがそういって話しをまとめにかかる。 沙希ちゃんはまだ何かいいたそうだったけど、優香ちゃん、それにひなちゃんが揃って視線を向けると「うっ」といいつつガックリうなだれ、ようやくあきらめたみたい。

 エリちゃんはあきらかにホッとした表情だ。 ごめんね、沙希ちゃんの暴走止められなくて。 でも無理なの、あの沙希ちゃんの暴走とめるの……ボクにはとっても。



 こうしてみんなと過ごす、いつもの楽しいお昼の時間が過ぎていく。


 これがここ最近のいつもの風景。

 ボクがようやく手に入れることが出来た新しい日常。


 長い眠りから目が覚めて、変わってしまった体に戸惑いながらもリハビリし病院で暮らした日々、そしてお家に帰ってから過ごした……、お母さんや春奈、ちーちゃんもいない一人っきりでいる空虚な時間。


 

 ずっとあこがれ夢見ていた……ガッコでの生活、友だちと過ごすたわいもないごく普通の……ありふれた日々。


 そんな簡単な、でもなかなか手に入らなかったコト。


 ボクは今ようやく手にすることが出来た。


 ハンデも色々背負った体だけど、それでも今こうやってみんなと過ごせるようになって。 ここ以外でも亜由美ちゃんや優衣ちゃん、山下くんたち……。 色んな子たちとかかわりを持つことが出来るようになって……。


 ボクは生きてるって実感できる。


 女の子として生きるのもごく普通で、なんの違和感もすでになくて(というか男の子のときのことがイメージ出来なくなってきた)、それどころかかわいいお洋服着たり色んな髪型にしてもらったり……と、楽しいと思えることのほうが多くて困っちゃうほどなんだもん。


 これから先もいろんなことがあるんだろうけど、きっとなんとかなる。 大丈夫。 そんな気がするんだ……。 もちろん、それは家族や友だち……みんなが助けてくれてこそのことなんだけど。


 でもほんと、最近ボクは楽しくってしょうがないんだ……こうやって普通の毎日を過ごすことが……。



* * * * * *



「そうそう、そんな感じ。 その調子で続けて」

 

「「はい!」」

 今ボクたちは、副部長の今井先輩の指示の元、発声練習のための準備運動をしてる真っ最中なのだ。

「「Shhhhhhhh……!」」

 前歯を軽く噛み合わせ、その歯のスキマから「Shhh……」っていう感じで息を出す。 息を出すときもただ出すんじゃなく、お腹が背中にくっつくような感じで息を絞り出すって感じ? 途中で息を切らしちゃだめなのは当然だね。

 ボクとエリちゃんは向かい合わせて一緒に「Shhhhh!」と続ける。 その唇を開け前歯を合わせたその表情は、真剣にやればやるほど、逆にどこかユーモラスでお互いのその表情を見ていると……、

「ぷっ」

「くすっ」

 思わずふき出しちゃうのだ。

「コラっ、そこマジメにやる!」

 他の4年生の子たちのほうに移っていった副部長の今井先輩が、こっちを見て注意してきた。

 ボクたちは肩をぴくっと上げ、お互いを見つめると揃っていう。

「は~い!」

 叱られちゃったけど、そんなこともなんか楽しい。 ボクにとってはやること全て新鮮なんだもん!


 部活動に出るようになって1週間。

 来てまずすることは柔軟、そして筋トレ……。 柔軟は得意だからいいんだけど、筋トレは体力のないボクには難題だ。 とはいえ、体力をつけるのは大事らしいしボク自身、体力はつけなきゃいけないと思ってるからちょっとづづ、地道にトレーニングに励んでる。

 筋トレは主に、腹筋と背筋をそれぞれ30回ずつ、V字バランスを30秒……とかをやるんだけど、2人ともまだそこまで出来てない。 特にボクなんか、ようやく5回出来るようななったくらいなのだ。(それでもスポーツテストのときよりはマシだもんね)

 まぁ運動部じゃないから、出来なくてもモチロンなんの問題もないんだけど……、やっぱくやしい。


 ボクとエリちゃんはいっつもペア組んでその柔軟や筋トレをやってるんだけど、周りの先輩や同じ4年生の子たちにおかしがられちゃう。

 そんなボクたちはおしゃべりな辻先輩のかっこうの的だ。


「あんたたち見てるとおっかしくて。 ほんと凸凹コンビでさー、うふふっ」


 ちょっと幼いぽっちゃり顔の先輩が笑うとすっごくかわいらしいんだけど、言うことはけっこう毒舌入ってる。

「なんか小さい"姫っち"が、大きい"わたりん"を必死に抑えようとしてる姿がおっかしいんだよねー。 それに結局抑えきれてないしー?」

 そういう辻先輩の顔はほんと楽しそうな、笑いをこらえてるような表情で満ちてた。 それにさっそくあだ名、付けられちゃってるし……。 はぁ、これがみんなに広がらないこと祈りたい。


「ほら辻さん、あなたもちゃんとやらなくちゃダメでしょ?」


 部長さんがめざとく見つけ、辻先輩を注意する。

「はーい! でも残念、今日私のペア来てないんですー」

 そう言いながらも全然残念そうじゃない辻先輩。

「何いってるのよっ、そんなの誰でもいいし、それに1人でもどうとでも出来るじゃない、もう……。 仕方ない、それじゃ私がペアになったげようかぁ?」

 藤村部長、そういってちょっとイジワルそうな顔をする。

「へっ、いやぁそんな、部長様じきじきだなんて恐れ多いっ! マジメにやりまーす」

 辻先輩そう言うと、すでに筋トレが終わってる5年の人に声をかけ、手伝ってもらいながら筋トレをはじめだした。


「まったく、隙あらばすぐサボろうとするんだから……」

 部長さん、あきれちゃってる。 でもほんと辻先輩って面白い人だ。 この1週間でかなり笑わせてもらっちゃったもん。 それに部長さんや副部長さんとのやりとりとかも面白いんだよね。 まぁ2人にとっては頭がいたいのかもしんないけど? えへへっ。

「まぁまぁ、萌。 そんな最初から気合入れてると小じわ増えるよ? いつものことじゃない。 さぁ次のメニューにいこうよ」

「もう、小じわなんてないわよ! ったく和奏、辻さんに甘いんだから……」


 そんな感じで合唱部の練習は和気あいあい? といった感じで始まるのだ。

 うん、楽しい雰囲気♪



「Shhhhhhhh……!」

 数度めかの、お腹から息を絞り出す練習。

「はぁ……、これ一生懸命やってるとなんか酸欠になっちゃいそうだね?」

 ボクは繰り返しやったことで、ちょっとこわばってきたお腹をさすりながらいう。 筋トレしたあとのこれはボクにとってはかなりきついよ……。

「うん、けっこうくるね。 でも蒼空ちゃん、あんまり無理しないでね。 自分のペースでいいって今井先輩も言ってくれてるんだし」

「うん、わかってる! でもなんか今は何するのも楽しくって♪」

 ボクは心配してくれてエリちゃんにそういって笑顔を見せた。

「そ、そうっ、それならいいんだけど」

 エリちゃんもそういってはにかみつつ笑顔を返してくれた。 エリちゃんったら今だにボクと話すときこんな感じになっちゃうことがある……。 いいかげん慣れてもいいと思うんだけどなぁ? ほんと恥ずかしがりやさんなんだもん。


「はい、それじゃ次ね。 今度はさっきの要領で、でも断続的に「Sh! Sh! Sh!」って感じでやってみて? ちゃんとお腹意識して、胸で呼吸しないようにね」


「「「はーい!」」」

 今井先輩の指示に4年生全員がそろって返事する。

 うん、ほんとにいい雰囲気♪


 次々新しいことに教えてもらったり、出来るようになったりするのってほんと楽しい。

 まだボクやエリちゃん、新入部員である4年生はどのパート……っていうの? になるかとかも決まってない。 っていうかそもそも合唱自体よくわかってないし……。

 そんなことも含めて教えてもらうのもとっても楽しみなのだ。


 周りのみんなのボクに対する好奇の目も、ほんと最初の紹介のときくらい。 そりゃボクの病弱ぶりはここでも知れ渡ってたからそれなりに気を使われてはいるけど……、それでも居心地はそんなに悪くない。 それどころか落ち着く感じすらする。


 音楽ってきっとボクの気持ちを癒してくれてる。


 先輩たちが新入部員のボクたちのためにと、顧問の向井先生が弾くピアノを伴奏に今までにやった歌を聞かせてくれたときも……。


 最初はエリちゃんに誘われて、そして何かやらなくちゃっていう脅迫観念にも似た想いから入部することにしたボクだったけど……。


 今じゃここにこうしているのは当然のことだったんじゃないかって思えるほど。


 

 ここ(合唱部)に入ってよかった。



* * * * * *



「お母さん、ただいま~! はぁ~疲れたぁ。 ほんとクラブのしごき、はんぱないよ~」

 帰ってくるなり疲れた雰囲気を全身にまといつつ、キッチンで夕飯の準備をしている日向に向ってグチる春奈。

「あらあら、ずいぶんお疲れのようね? なに春奈、もう弱音?」

「だって~、私たちまだ新入部員なのにさぁ、もういっきなりきつ~い練習メニューさせられてるんだよ? 顧問の長坂の野郎~、そのうち後ろからケリいれちゃおうってみんなでいってるんだから」

「まぁ! ……ほどほどにね?」

 ちょっとあきれつつも、笑顔で軽く流す日向。

 もちろん本気で言ってるわけもない春奈は続いて聞く。

「お姉ちゃんは? まだ帰って来てないの?」

「あら、ちょっと前に帰ってきてリビングのTV付けてたはずだけど? いない?」

 日向の言葉にリビングを覗き込む春奈。

「TVは付いてるけど……、お姉ちゃんの姿はぁ」

 目で探しつつもふとひらめく春奈。


 そーっとソファーに近づき、のぞきこむ。


 そこにはソファの座面をベッド代わりとばかりに横になり、でも片足はだらりとソファからこぼれ落ち、何よりそのかわいらしい口の、その端からちょっとばかりよだれを垂らし……、それはもう無防備に安心しきって眠っている蒼空の姿があるのだった。


「まったく、年頃の女の子がだらしないったら……」

 春奈はそういうとブレザーのポケットからハンカチを出し、蒼空のよだれをそっと拭う。 目を覚まさせないよう慎重に……。

 いつの間にか横に日向も来て、2人して蒼空の無防備な寝顔を覗き込む。


「合唱部ってさ、なんか筋トレとかあるんだって。 それでお姉ちゃんも腹筋や背筋させられてるんだってさ。 でもまだ5回もできないらしいよ? ほんと弱っちいんだから……」

「ふーん、なるほど。 それで疲れきって寝ちゃってるわけか」

 日向は春奈の説明に納得する。


「それにしても幸せそうな顔して寝ちゃって……。 うまくいってるみたいね? 部活」

「そうだね」


 しばし蒼空の顔を覗き込む2人。 しかし無情というか、まぁ当然ながら、

「もう夕飯だから春奈、蒼空を起して食堂にきてね」

 日向はそういってその役を春奈に押し付け、そそくさとキッチンへ戻っていく。


「はぁ、仕方ない。 起すかぁ」

 寝起きがめんどくさい蒼空。 部活で疲れてる今、出来ればかかわりたくないところだった。


「お姉ちゃん! おきて。 ごはんだよ~」


 春奈の遠慮ない声がリビングに、そして蒼空の耳にも響き渡る……。



 柚月家の夜は今日もこうして更けていくのだった。


内容については実際と違うところもあろうかと思いますが、お話ですのでご容赦ください……

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