ep59.楽しい時間 ☆
※話数を修正しました。
「それで蒼空ちゃん、入ることにしたの? 合唱部」
優衣ちゃんが大きく口をあけてハンバーガーをほおばりながらボクに聞いてくる。
「え? う、うん……。 実はまだお返事してない」
「えぇ~、まだ返事してないの? 誘われたの月曜なんでしょ? もう連休入っちゃったじゃん」
優衣ちゃんがあきれてボクに言う。
だって……、合唱だなんて小学校のとき音楽の授業でちょっとやっただけだし(それも男の子の体で)、それにエリちゃんも休み明けでいいっていってくれたし。
お母さんに聞いても自分で決めなさいっていうし、春奈は勧めてくれたけどなんか面白がってるだけな気がするし……。
「いいの! 休み明けまで待ってくれるって言ってたもん。 それまでにはちゃんと決めるもん」
ボクはそういって、ごまかすようにハンバーガーをぱくりと口にした。
「ほんとお姉ちゃんって優柔不断なんだから……、さっさと決めちゃえばいいのに。 渡里さん、きっとやきもきしてるよ。 この休み中ずっともやもやな気持ちのまま過ごさせるなんてお姉ちゃんもイジワルだよねぇ?」
そんなボクに春奈がにやけながら突っ込みをいれてきた。
「もう、うるさいなぁ春奈はぁ。 本人がいいって言ってくれてるんだからいいじゃんかぁ」
ボクと春奈、いつもの口ゲンカが始まる。
それを優衣ちゃん、亜由美ちゃんがまたかと呆れ顔をして見てる。
ゴールデンウイーク3日目。
今はいつもの駅前のマックで待ち合わせを兼ね、お昼を食べてるのだ。
待ち合わせしてるのは、これもいつものメンバー、青山くんたち3人だ。
ちなみにボクたちは男の子たちよりちょっと早めに集まり、軽くショッピングを楽しんだあとマックにきたのだ。 まぁ特に何を買うって目的もない、いわゆるウインドウショッピングなわけだったけど……。
とはいうもののちょっとした小物とかを買ってみたりした。
ボクは長くなった髪をまとめるのに髪留めを買ったんだけど、よくわかんなかったからみんなに選んでもらった。 買ったのは紫色のリボンバレッタでメッシュに細かいスパンコールが付いててキレイでかわいいやつなのだ。
ボクはガッコ行くときはポニーテールにしてるけど、お外に出かけるときなんかは長い髪を生かして、お母さんが色んな髪型にしてくれる。 ボクの髪をいじってるときのお母さんはすっごく楽しそうだし、それに出来上がったカワイイ髪型を見るとボクもなんかすっごくうれしい! こんな気分は女の子じゃなきゃ楽しめない♪
今日もモチロンお母さんがかわいくアレンジしてくれた髪型で、前髪は自然な感じに下ろし左右は耳の前で長めに垂らしてる。 そして耳の上あたりからは後ろに流し、その上半分は髪留めで後頭部にまとめ(このとき上にちょっと持ち上げるようにしてふわっとした感じにしてるのだ)、残りはそのまま下ろしてるって感じだ。 今つけてる髪留めも花柄のカタチにキラキラしたビーズが付いたかわいいやつなのだ。
最近はみんなと出かける分にはあまり周りも気にならなくなってきて、普通に歩けるようになってきた。(もちろん見てくる人はいっぱいいるけど)
いつまでもオドオドしてるわけにはいかないもんね! ボクも成長してるのだ。 だから周りなんか気にしないで、かわいいカッコも押し付けられるだけじゃなくて、どんどんしちゃうんだも~ん♪
「まぁ、とりあえず今日は蒼空ちゃんの合唱部入部? の予行演習もかねてカラオケにしたんだし、どんどん歌ってもらうからねぇ?」
「そうね! 蒼空ちゃんのカワイイ声、聞くの久しぶりだから楽しみ! 前は恥ずかしがってほとんど歌ってくれなかったから」
優衣ちゃんと亜由美ちゃんがプレッシャーかけてくる。
「お姉ちゃん、今日は逃げられないからねぇ? 覚悟しといてよね」
春奈も追い討ちかけてくる。 前は大目にみてもらってたけど、今日はどうやら逃げ場はなさそう……。
「う、うん。 わかったけど……、ボクそもそもあんまり歌知らないもん。 だからそんなに歌えないと思うなぁ」
「大丈夫です。 歌なんて探せば必ず歌えるものありますから! 最新カラオケなめちゃだめです」
亜由美ちゃんったら、自信たっぷりだ。 そういや前もいっぱい歌ってたなぁ、とっても上手だったし。
……まぁ最初のうちだけなんとか歌っとけば、みんなそのうち自分ので一生懸命になってボクのことなんて忘れてくれるよね。
「あっ、あいつら来たよ」
ボクがハンバーガーをもぐもぐしながら、ぐだぐだ考えてたら優衣ちゃんがいう。
どうやら男の子たち、来たみたい。
まだ待ち合わせ時間の15分前だ。 ボクたち買い物した後、そのままここに来てたから待ち合わせ時間より早めになっちゃってたのだ。 それを考えるとなかなか優秀だよね、青山くんたち。 きっと亜由美ちゃんとかから言われてるんだろうなぁ? 待ち合わせで女の子待たせるなんて……とかさ。
「あれぇ、なんだよもう食べちゃってんの? オレたち遅刻してないよなぁ?」
青山くんがそういって山下くんや高橋くんの顔を見る。
うんうん、とうなずく2人。
「悠斗、男は細かいこと気にしないの。 私たちもうほとんど食べちゃったから、早く食べてね? 女の子待たせるなんてヤボはだめなんだからね?」
う~ん、亜由美ちゃん、なにげにひどいです。
「なんだよそれ、オレたち何も悪くねえのに。 なぁ?」
青山くんは亜由美ちゃんにグチりつつ、最後は山下くんと高橋くんに同意を求めるように見た。
山下くんと高橋くんは苦笑いしつつ肩をすくめてる。 まぁここで文句いう間違いは犯さないってことだよね、なかなかわかってるよね2人とも。
「なんか納得できねぇ~! ……ちぇ、まぁいいや。 そーいうことなら早く食ってさっさと行こうぜ」
青山くんは2人にぶつくさ言いながらも声をかけ、3人そろってオーダーに行った。
# # #
「ほんとにタクシー使わなくてよかったの?」
並んで歩いてる優衣ちゃんが念を押してくる。
「うん、もう大丈夫だから。 こうやって歩かないといつまでたっても足、強くならないし」
ボクは前行ったカラオケ店まで歩きたいってみんなにいったのだ。 みんなはタクシーでもいいって言ってくれたんだけどね。 やっぱ歩かないと強くなれないもんね!
まぁそうは言っても春奈に手をとってもらって歩いてるんだけどさ。
「でもちょっと歩くの遅いから迷惑かけちゃうかも? そこはゴメンしてね」
「そんなことは全然かまわないんだけどさぁ。 前倒れたっていってたじゃん? だからほんと無理しないでよね」
「うん! わかってる。 ぜったい無理しないよ、ボク」
ボクは心配してくる優衣ちゃんにそう答えた。 同じ失敗2度はしないのだ、うん。
「えっ、蒼空ちゃん倒れたって……、大丈夫だったの?」
山下くんが驚いたのか、めずらしく前を歩くボクに直接話しかけてきた。
男の子たちはボクに遠慮してか、未だになかなか直接話しかけてこない。 まぁボクもそのほうがまだ安心なんだけど。
ちなみに今は亜由美ちゃんと青山くんが並んで歩いてて、その後ろをボクと春奈、それに優衣ちゃんが並んで歩き、更にその後ろに山下くんと高橋くんがついてきてるのだ。 ボクは日よけのため、つば広の白い帽子をかぶって歩いてる。
「あ、うん。 ガッコのスポーツテストのときちょっと……。 でも大したことなかったの、今は全然大丈夫だし」
ボクは振り向いてそういうとニッコリ笑って見せた。
「うっ、そ、そうなんだ。 そっか、そりゃよかった」
――うわぁ、蒼空ちゃんの髪の毛、日差しでキラキラ輝いてる。 なんか銀髪みたいに見えるなぁ……、キレイだ。
山下くんはボクと目が合うと慌ててうつむきながらそういった。 どうしたんだろ? なんか様子ヘン……。 ボクはどうしたのって聞こうとすると……、
「ほら、お姉ちゃん、ちゃんと前向いて歩いてよ。 ふらついてるよ」
「あ、うん。 ゴメン」
ボクは気になりつつも慌てて前を向き、ちゃんと歩くようにした。 春奈はちょっと後ろを見てなんかしたみたいだ。 なんだろ?
――もう、お姉ちゃんは無意識なんだろうけど……山下のやつ、思いっきり意識しちゃってるよね。 今日のお姉ちゃんってば一段とかわいらしいし。 ふふ、感謝しなさいよね山下! お姉ちゃんの気をそらせてあげたんだからね?
そして男の子2人、山下と高橋も前のグループからちょっと離れ、ヒソヒソ話しをしている。
「おい、晶。 おまえ何急に照れてんだよ? 蒼空ちゃん、不思議がってたぞ」
にやけて、(高橋)智也が(山下)晶に言う。
「そんなこと言ったってさ。 智也も蒼空ちゃんにニコッと笑って見つめられてみなよ。 とてもまともに顔合わせてらんないよ、絶対。 それになんかすごく……」
――キレイだったなんて言えないよ……。
「ん? なんだよハッキリしねぇなぁ。 まあ確かに、今日の蒼空ちゃん、めっちゃかわいいけどなぁ」
「おーい、そこの2人~、早くこないと置いてくぞぉ!」
優衣ちゃんが、ちょっと離れて話し込んでる2人におっきな声で呼びかけてる。 もうそんなおっきな声出したら他の人の注目あびちゃうのに……、優衣ちゃんったら。
「あ、わりい、わりい! すぐ行くって。 そんなでっかい声だすなよ」
高橋くんが苦笑いしながらそう言い、2人して走ってきた。
「次また離れるようなら置いてくから、そこんとこよーく心しておくよーに!」
優衣ちゃんがえらそうに言う。
「わかったって、そううるさくいうなよ、森崎~」
ふふっ、なんだかんだ言ってこの2人仲いいんだよね。 ガッコも同じだしけっこういい感じなんじゃないかな?
そんなこんなで、おしゃべりしながらゆっくりと……、みんなボクのペースに合わせてくれながらカラオケ店に向った。
# # #
「vvdvdpkpokpijhi~!」
青山くんがなんだかすごい勢いで熱唱してる。 でもすっごい早口で何いってるかさっぱり。
歌ってるのは、出す曲が全部ヒットチャートの1位になってる有名なロックユニットの曲のようで、さすがにボクも聞いたことある。 高橋くんなんか、一緒になって叫んでる。
亜由美ちゃんと優衣ちゃんは仕方ないからとりあえず聞いてるって感じ、でもしかめっつらしてるよ。 春奈も知ってるみたいだけど、さすがにちょっと呆れ顔をしてる。 でも自分の曲探す方が大事みたいであんまり気にしてないみたいだ、あはは。
山下くんも自分の曲探しの方に集中してるようで、ようは青山くんと高橋くん……浮いちゃってるよね?
今日はこの前と違って普通の部屋を借りて歌ってる。
部屋はそんなに広くなく、テーブルを囲むように3面にベンチソファーが置いてある。 ボクと春奈はちょうど画面の正面になる短めのソファーに座り、向って左側のソファーに奥から高橋くん、優衣ちゃん、山下くん。 右側の奥より青山くんと亜由美ちゃんが座ってる。 一番画面寄りに青山くんと高橋くん2人が揃ってるわけで、さっきのノリにも繋がってるかも? 結局、盛り上がるのにどんな部屋か? なんて関係ないんだよね。
それに、そうやってみんなが楽しく歌ってるとボクもつられて楽しくなっちゃう♪ いいよね、こういう雰囲気って!
でもボクはさすがに20分近く歩いてちょっと疲れ気味。 やっぱ無理せずタクシーで来ればよかったかな……。 けどそんなこととても言えない。 特に春奈には!
「お姉ちゃん、これ歌ってよ?」
春奈がボクが歌う曲選んで、それを見せるのにリモコン押し付けてきた。 ボクに任したままだとずっと決まらないと思ったんだろうなぁ? まぁ実際そうなんだけど。
「う~ん、リモコンの画面見づらい……」
画面暗いや。 そーいや眼鏡つけっぱなしだし、さすがに暗めの部屋だと見づらくなっちゃうみたい。
「お姉ちゃん、室内なんだし眼鏡とったら? いいでしょ、みんな知ってる子たちなんだし。 それに視力は付けても付けなくてもほとんど一緒なんでしょ?」
「うん。 そうだね、そうする」
ボクは眼鏡を外してポーチにしまった。 うん、やっぱ眼鏡外すとちょっと明るくなった。
「マシになった? じゃ、そーゆうことでその歌よろしくネ!」
「えぅ……」
むぅ~仕方ない、とりあえずいうこと聞いとこう。 1曲歌っておけばみんな納得してくれるよ、きっと。
ボクの番が来てみんなの目がボクに集中する。 は、恥ずかしいよぉ。
「蒼空ちゃん、かわいいよ~!」
高橋くんったら、みんなの前でよく平気で……。
そんな中、春奈の選んだ女性ボーカルの歌を歌った。 歌うからには精いっぱいがんばって歌った。
まぁさすがに春奈。 ボクでも知ってるちょっと前にはやった歌だったし。
「蒼空ちゃん、前も思ったけどやっぱり歌上手! それにキレイで透き通るような声。 合唱部、向いてるんじゃないかな?」
亜由美ちゃんがなんかやたら褒めてくれる。 春奈も笑顔でうなずいてる。
うーん、なんか釈然としないような。
「蒼空ちゃん、なに疑わしそうな顔してるの? 誰もウソなんていってないよ? ほんとキレイな声してるって。 ねぇ、山下~?」
と、突然山下に振る優衣。
「えっ? う、うん、そうだね。 ほんとかわいいよね、蒼空ちゃん」
「はぁ? 山下、あんた何言ってんの? 人の話、全然聞いてなかったでしょう? それにしても、にひひぃ。 山下、あんたやっぱり?」
「あのっ、その、いやっ、別に何もないって。 ははっ、ちょっとぼーっとしてただけで。 ほら、高橋もいってたじゃない同じコト、さ、さっきさ」
苦しい言い訳をする山下。
――しまったなぁ、つい蒼空ちゃんに見入っちゃってた。 眼鏡とったところ初めてみたけど、あの赤い瞳。 すっごくキレイで吸い込まれそうだ。 あの目では苦労してるみたいだからこんなこと考えるのは不謹慎なのかもしれないけど……、やっぱりキレイだもんなぁ。
そして山下のいきなりの発言にまっ赤になってる蒼空。 さっきの歌の中での高橋の軽いノリの言葉とはちょっと違うため戸惑ってしまってるようだ。
「ま、カンベンしといてあげるよ、山下。 変わりにガンバって歌ってよねぇ?」
まだまだはやし立てるには時期尚早よね? と考える優衣。
そして優衣に開放された山下は、悠斗や智也に背中をおもいっきりはたかれたりと、からかわれまくっていた。
「ふふっ、お姉ちゃんもこれから色々大変かもね? がんばってよ」
「な、何いってるのかなぁ? 春奈。 そ、それより早く歌いなよ? まだまだ時間あるよ」
もう、春奈ったら。 またからかわれるネタが出来ちゃったよぉ。 それにしても山下くん、急にあんなこと言うからビックリしちゃった。 まぁ男の子なんだし、あんなこと思うのも普通だろうけど? 高橋くんもおっきな声でいってたし。 でも……、ああやって改まって言われると恥ずかしい。
もんもんと考える蒼空をよそに、みんなカラオケで盛り上がり、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
そして蒼空はいつしか春奈の肩に寄りかかり寝息を立てていた。
「蒼空ちゃん寝ちゃったね? ふふっ、なんかプールのとき思い出すね」
亜由美がそういって春奈に声をかける。
「うん。 でもこのうるさい中でよく寝られるよねぇ、お姉ちゃんったら」
春奈はかわいい寝顔で寄りかかっている蒼空を見ながら答える。
「疲れちゃったのね、ここまでガンバって歩いてきたし、ここでもけっこうはしゃいでたし」
「ほんと体力ないから……、お姉ちゃん。 まぁでも以前に比べたらだいぶマシになったほうだけどね」
騒いでた優衣や悠斗たちもいつしか蒼空を見ている。
「がんばってるよね、蒼空ちゃん」
優衣がちょっとマジメにそんなことを言う。
悠斗たちはなんといっていいかわからず、とりあえずダンマリ作戦のようで、かわいい蒼空の寝顔を見て癒されることに専念中だ。
「そだね。 ……でも、みんなも色々ありがとね。 お姉ちゃん面倒いっぱいかけちゃってさ」
春奈がみんなにお礼をいう。 蒼空が起きているときには言えないことだ。
「気にしないで。 みんな蒼空ちゃんのこと好きなんだから、そんなの当たり前よ」
「そうそう、気にしない気にしない!」
亜由美と優衣が口々に言う。 悠斗たちも同意するようにうなずいてる。
春奈はそんなみんなの気持ちがうれしくて感極まってくるのをガマンするのに必死だ。
そしてもう一度いう。
「ありがとう、みんな!」
こうして楽しかったカラオケの時間は終わりを告げたのだった。
そしていつものごとく寝入ってしまった蒼空は起きることはなく、しかたなく春奈がおぶって、タクシーで帰ることになるのであった。
今までで一番字数が多かった……




