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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
62/124

ep58.誘いのコトバ

※話数を修正しました。

 スポーツテストの日以来、ボクは先輩やクラスメイトたちから病弱認定されてしまったみたいだ。 ボクが倒れたことも瞬く間に広まったらしい。

 まぁ目撃者もいっぱいいたらしいし、メールもあるし。 でもボクなんかの話、広めたって仕方ないと思うんだけど……。

 それにボクが渡里さんにおんぶされてる写メとかまで出回ってるとか……、人が倒れて運ばれてるとこの写メなんて不謹慎だよね?

 で、その話の情報源は春奈の友だちの成瀬さん(生徒会副会長の妹さんらしいんだけど)で、副会長のお姉さんに聞いたらしい。 もう! 生徒会の人たち、なにやってるんだろ? ちゃんと生徒会の仕事して欲しいよ……。

 そういや沙希ちゃんが、自分が保健室まで連れて行けなかったことをすごく悔しがってたっていうのは後から莉子ちゃんに聞いた。 ったく沙希ちゃんまで……。


 ただこの件がきっかけで渡里さん、クラスのみんなからよく声をかけられるようになったみたいで、ちょっと前みたいに孤立してる感じじゃ無くなったのはいいことだと思う。 まぁ無口なのは相変わらずのようだけど。

 更には先生をさしおいてボクをおんぶして運んだ姿がカッコ良かったと、一部の女子から人気が出てるとか……。 確かに背が高くてキレイだからカッコいいっていうのもわかるけど、何それ? あやしいなぁ。

 ちなみにこれも生徒会情報……、ほんと仕事して? 生徒会の方々。


 3日ぶりに登校したときとかも大変だった。

 あの時ボクは、まだちょっと足元に不安を感じてたから恥ずかしいけど杖を突いて、春奈に手を引かれつつ登校した。 それもいけなかったのか……、バスの中からすでに先輩たちから「姫ちゃん大丈夫?」 の声がかかり、それはボクがバスを降り、校門から教室に入るまで……幾度となく繰り返されることになってしまった。

 声をかけられたら「大丈夫です」って答えるだけっていっても、何事も限度ってあるよね?

 ボクもう教室の自分の席に着くころにはヘトヘトになっちゃった。

 だいたい声をかけてくれた中で知ってる人って、バスの先輩くらい(その先輩も名前は知らない)で、ほとんど知らない人ばかりだった……。 春奈もさすがにあきれてた。

 久しぶりに登校し教室に入ってきたボクに、クラスのみんなは「大丈夫?」って聞いてくる子より、「お疲れさま」って苦笑いしながら声かけてくれる子のほうが多かった。

 同じクラスなだけあって、まだ短い付き合いながらもみんなわかってくれてるようで、ちょっとうれしかった。


 その日は、沙希ちゃんたちに「心配かけてごめんね」とあやまったり、渡里さんに改めてお礼を言ったり、色々疲れることばかりあった1日だった。 お昼休みも放課後も、それはもう大変だったんだから……。


 ほんとクタクタで、また休むことになったらどうしようって思ったくらいだ。


 それにしてもクラスのみんな、ボクのことどう思ってるんだろ?

 ボクは1年遅れてるからみんなより1歳年上で、ほんとなら5年生……。 そしてそのことはみんな知ってるはずなのに……。(まあ先輩たちまでは知られてないと思うけど? たぶん)

 普通クラスに留年とかで年上の人がいる時って、どうしてもよそよそしくなったり、近寄りにくいって雰囲気になったりするもんだと思うけど……。 ボクの場合そんなふうになるどころか、逆に年下扱い……、ううん、はっきりいえば子供扱いされちゃうのだ。 今はそれに病弱認定も加わったし。


 ……ほんとはわかってる、いやっていうほど。 ボクのこの外見のせいだってことくらい……。

 この、実際は12才でしかない体(みんには内緒だけど)見て、年上って思える人なんていないよね? いくらボクが16才、ほんとなら5年生なんだって主張してもさ……。

 でも、今どき12才でももっとおっきな子いっぱい居るのに……ボクってほんと、いつまでたってもチビのまんまだ。



 ボクってこの先どうなっていくんだろ?


 この体で、こんな体で……なにが出来るんだろ?



* * * * * *



 春奈はかねてからの宣言どおり陸上部に入部した。 同じクラスの成瀬さんと一緒に入ったらしい。(友だちと一緒に入れば心強いよね)

 おかげでガッコの帰りはボク一人になってしまいすっごくさみしくて心細い。

 沙希ちゃんや優香ちゃんたちとは方向が違うし、そもそもみんな部活に入りだし帰りの時間も合わなくなってしまったのだ。


 ボクは相変わらずどこの部に入るでもなく、帰宅部状態のままだ……。 そしてやりたいことも特にみつかるわけでもなく。

「あ~あ、ほんと何のとりえもないや……ボク」

 SHR後のお掃除が終わり、帰り支度をしながらつい声に出してしまう。

「はぁ……」

 そしてタメ息。

 どうしよう……、春奈や沙希ちゃん、他のみんなも部活だし、お家に帰っても誰もいないし。 かといって一人で街に出かけるのも怖いし……。

 そういや莉子ちゃんは結局、美術部に入ったみたい。 沙希ちゃんの勧誘はなんとか振りきれたようでなによりだよね。 ちなみにボクはまだまだ勧誘されてる真っ最中だけど……。


 ボクは一人、また一人と帰っていき人影がまばらになった教室の中で、まだぼーっとたたずんでいた。

「柚月……さん?」

 ん? 誰だろ今頃声かけてくるなんて。 そう思って振り向くと……、そこには渡里さんがいた。

「あ、渡里さん。 どうしたの?」

「う……ん。 なんか柚月さん……、さみしそうに、してた……から」


 うぅ、ボクそんな風に見えちゃってたのかな?


「そ、そうかな? まぁすることないし、妹も友だちもみんなクラブ始めちゃったし……、これからどうしよっかなぁ? とか考えてたけど。 渡里さんこそ、クラブとかは?」

「私はまだ……どこにも入ってない……。 柚月さん……も?」

「うん、ボクもまだ。 なんかやりたいこと、見つかんなくて……」

 ボクはつい沈みがちな声で答えちゃった。

「そう……、なんだ。 でもそんな、あせらなくても……いいんじゃ?」

「……みんなにもそういわれる。 けど、やっぱ、みんなが始めだしちゃうと……」

 ボクはそう答えつつ反撃に出る。

「渡里さんもやっぱやりたいことが見つからないとか? 渡里さんおっきいから、バレーとかバスケとかどうなの?」

 見たまんまイメージどおり、思ったコトを聞いてみた。

「よく言われるけど……私、こんなだけどスポーツとか、あんまり好きじゃない……の。 中学の時も誘われたけど……やってない」

 渡里さんはそういって、ちょっと困ったような表情を見せた。


 ボクとおんなじだ。


 みんな見た目で判断して決め付けてくるんだよね……。 そういうボクも背が高いからって思ったわけだし……。 だから更に親近感を覚えちゃった。

「そうなんだ? ゴメンね。 なら文化部のどっか入りたいとことか? 中学のときはどっか入ってたの?」

 ボクはだんだん話に身が入ってきて次々質問しちゃう。

「う、うん。 中学のときは入りたい部がなかったから……何も。 でも……、ここにはある」

「あ、入りたい部あるんだ? どこどこ?」

 ボクは更に聞き、それと一緒にイスに座るようすすめた。 だってもう首が痛くなりそうなんだもん。 もちろん見上げるのに疲れて……ね。

 渡里さんは、隣りのひなちゃんの席に遠慮がちに座り、そしていった。


「合唱部……」


「はぇ?」


 ボクは思わず変な声で聞き返しちゃった。


「合唱部に、入りたい……の」

 渡里さんがもう一度いった。

 が、合唱部って……また。 渡里さん見る限りすっごく口ベタで、しゃべるの苦手そうなのに? あ、でも合唱と普段の会話は関係ないかも? うーん、でもなんかイメージがぁ。


 だめだめ、さっきも反省したばかり。 見た目で判断はいけないんだ。


「あのぉ、合唱部って……、普通科でも入れるの? なんか音楽科の人ばっかのような気がするんだけど?」

 とりあえず当たり障りのないトコで質問し、そのボクの質問に渡里さんはちょっと表情を明るくして答える。

「大丈夫……、普通科でもOK。 むしろ大歓迎っていわれた」

「い、言われたって。 だ、誰に?」

「顧問の先生。 合唱部の……。 最近合唱部に入ってくる子、少ないって言ってた」

「そうなんだ。 先生が……」

 渡里さん、案外積極的なんですね。 ん? なんか考え込んでる……。

 あ、こっち見つめてきた。


「あの。 そ、それで……もし、もしよければ……」


 むむ、なんか雰囲気あやしい……。


「一緒に合唱部、入らない……ですか?」


 や、やっぱり!


「ええっ? ぼ、ボク?」

 なんかそう来る予感してたけど、あらためて確認しちゃった。

 だって合唱部だなんて……ボク考えたこともないよ。 確かにクラブの紹介のときは聴いててキレイだな……とは思ったけど。

「うん。 柚月さん、よく通るキレイな声してたので……。 それに、まだクラブ決まってないってことだし……」

「そりゃ、まだ決めてないけど……。 そ、それより渡里さん! ボクって人前で歌とか歌ったことないと思うんだけど。 ど、どうして声のことわかるの?」

 亜由美ちゃんたちとカラオケ行ったことはあるけど、ガッコではそんなこと"とーぜん"したことないし。 一体どこで?


「それは、その……、以前、柚月さんが渡辺さんや杉山さんたち……とオシャベリしてたとき、大きな声を出したこと、あった……でしょ?」 (ep52.です)


 んーと、あぁ、あの沙希ちゃんに抱きつかれたとき? あれ、みんなに注目されて恥ずかしかったんだよね……。 渡里さんも聞いてたんだ、やっぱ。


「あ、あんなちょっとのことなのに?」

「うん、あれで。 キレイな……いい声、だった」

 渡里さん、そういってなぜか顔をちょっと赤らめる。 それにしてもちょっと話し方が滑らかになってきたような? ボクに慣れてきてくれてるのかな?


 ボクは正直、人にそうやって褒めてもらうことなんてなかったからすっごくうれしかった。 そりゃ見た目でカワイイとかキレイとかいってくれる人は多いけど……。 そんなのどこまで本心かわかんないし、実際は白いのキモイ……とか思われてるかもしんないんだ……。 だけど、

「ちょっと今すぐ答えらんない……、今返事いる?」


 ボクはすぐ断れなかった。 すぐ断るのは話すのが苦手な中、せっかく誘ってくれた渡里さんに悪いと思ったのと、やっぱちょっと気になったのかもしんない……。

 合唱部ならボクの体力でもなんとかなるかもしんないし、目が悪くてもなんとかなりそうな気がするし……。 それに、いるのは自分の声だけだし。


 そしてなにより、ボクは何かしたかった。 何もせずにこのままぼーっと過ごしていくのは耐えられない。

 ボクはいつの間にかすっごく前向きに考えだしてるのに気付いて、我ながらびっくりした。


「大丈夫、ゆっくり考えてみて? でも、出来たら一緒に入ってもらえると……うれしい」

 考え込んでるボクに、渡里さんはそういってニッコリと笑顔を見せてくれた。

 やっぱ渡里さん、しゃべり方滑らかになってる。 えへへ、なんか認めてもらったみたいでうれしいな。

「ありがと。 帰ってからジックリ考えてみるね。 それでお返事早くするようにするから」

 ボクも渡里さんを見て微笑みを返しながらいった。


「うっ……うん。 いい返事もらえるの期待してる」

 

 渡里さん、お顔まっ赤になってる? うーん。 ……ま、いっか。


 あ、そうだ、

「渡里さん、ボクのことは蒼空でいいからね? ボクも絵梨香ちゃんって呼んでいい?」

「え? う、うん! 蒼空……ちゃん。 私のことはエリって呼んでくれるとうれしい。 中学までそう呼ばれたてから……」

 ……絵梨香だから、エリちゃんか。

「うん、わかった! エリちゃん。 じゃ、今日は色々ありがと。 ちゃんと考えて返事するね」


 そうしてボクたちは放課後で、人影もまばらな教室を後にした。

 ボクは話しかけられるまでの鬱々とした気分から一転し、なんだかとっても楽しい気分になっていた。


 帰ったらお母さんに相談しよう。 お母さんなんていうかな?


 ボクは久しぶりに足取りも軽く(なったつもり)、うきうきした気分で家路を急いだ。



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