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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
61/124

ep57.無理は禁物ってこと

※話数を修正しました。

「症状としては軽度の熱中症のように見受けられますね」

 日向は、久しぶりに会う石渡医師から、診察室で病状の説明を受けている。

 本来内科医の仕事かと思われる症状ではあるが、蒼空の場合、これまでのいきさつから念のため石渡が診るようになっていた。


「熱中症……ですか?」

 まだ春で、外の気温も20度にも届かないという時期だというのに? そんな疑問が頭をよぎる日向に石渡が話しを続ける。

「熱中症といっても、なにも真夏の暑い中だけで起こるものではありませんからね? 蒼空ちゃんは慣れない、というか初めてといってもいい運動をけっこう長時間にわたり行なった? ということで、発汗による軽い脱水症状を起こしていました。 それとこれが重要なんですが……」

 そういうと一度日向を見る石渡医師。

 更に真剣な面持ちになる日向。


「今回の場合、熱中症のなかでも熱失神という、まぁ比較的軽度の症状ではあるんですが……。 その熱失神を引き起こした原因として、先ほどいった脱水症状のほかに、運動したことで末端血管が拡張し体全体の血液の循環量が減少し、それにより脳への血流も減少して結果失神してしまったということが考えられます」

 そして尚も続ける石渡医師。

「通常今の時期で、そこまで至ることは少ないのですが蒼空ちゃんの場合……、末端の血管の未発達というのが一つ、それと汗腺の数が非常に少ないというのも原因として考えられます」


「汗腺の数……ですか?」

 日向がちょっと怪訝な顔をする。

「そう汗腺です。 汗腺は生まれてから成長する際、汗をどんどんかくことで発達するのですが……、蒼空ちゃんは残念ながらその機会を与えられることがなかった……。 そして汗腺は機能しなくなって減ることはあっても増えることはないんです」

 石渡医師は微妙にくやしげな口調でいう。


「そ、それってどういうことになるんでしょう?」

 日向が不安げに問う。

「うーん、汗腺が少ないから今すぐどうのってことでは全くないんですが……、汗をあまりかくことができませんので当然体温調節がうまく出来ず、運動した場合、今回のようなことも起こりやすいかと思われます」

 一息つけ、ちょっと考えると更に続ける。

「でもまぁ、末端の血管の未発達はこれからの生活や、少しずつでも運動を増やすことで改善されていくでしょうし……。 それに汗腺が少ないといっても汗はかきますから、こまめな水分補給をしてもらうのはもちろん、涼しい場所で休憩するなどして体温調節や、体調管理をキッチリ行なうってことでいいんじゃないかと思います」

 結論めいたことを言う石渡医師をまだちょっと不安げに見る日向。 それを見てさらに言う石渡。

「そう心配されなくても大丈夫、あまり激しい運動さえしないようにすれば、普通に生活する分にはなんの問題もないですよ?」

 そういって不安げな表情を見せていた日向に微笑む石渡医師。


「はぁ、わかりました。 今日はいろいろご迷惑おかけしてすみませんでした。 蒼空にも注意するよういい含めます」

 日向はまだ微妙に納得出来ないところもあるものの、これ以上はいっても仕方ないこととあきらめお礼を言った。

「……いえ、こちらこそ後手になってばかりで申し訳ないです。 これからも何か気になることとかありましたら遠慮なく相談してください。 あ、それと蒼空ちゃんは、今日は念のためこのままこちらで安静にしてもらって、明日自宅に帰ってもらうってことですすめさせてもらいます」

「はい、すみませんがよろしくお願いします」

 日向はそういうと診察室の席を立ち、石渡に礼をしつつ立ち去るのだった。



* * * * * *



「蒼空ちゃん、姫ちゃんなんて呼ばれてるんだ?」

「そ、そんなこと! ……あ、あるけど、さ」

 もう春奈ったら、余計なことを~!


 ボクは久しぶりの病院で石渡先生の診察と、念のためにとされた精密検査を受けたあと、あてがわれた病室(相部屋じゃなくて個室なのだ)のベッドに寝かされてる。

 そしてボクの側にいるのは、これも久しぶりに会った看護師の香織さんと……、ガッコが終わってすぐ駆けつけてきた春奈の2人だ。

 ボクの病状自体はすでに全然問題ないくらいに回復していて、ボクはもう今すぐにでも帰りたいくらいなんだけど……、今日はどうやら帰らせてもらえないみたいだ。 そりゃ、まだ体のほうは全然力が入らなくって歩くのは無理だけど……。

 そんなボクが寝かされてるベッドの脇で香織さんと春奈は久しぶりに会ったせいか、やたらと話が盛り上がってて、ついさっきの話になっちゃうのだ。


「それにしても蒼空ちゃん、ほんと女の子らしいやわらかさ出てきたよね? お姉さんはうれしいわ」

 そういっていたずらっぽい顔をしてボクを見る香織さん。 ボクは恥ずかしさで思わずシーツで顔を隠す。 春奈もニヤニヤ笑ってる……、2人ともイジワルだ。


 そう、それは病室に案内されてすぐのことだった。

 ボクはその時、上下ジャージっていうスポーツテストのときのカッコのままだったから強制的に着替えさせられちゃったのだ。

 それに汗もけっこうかいてるってことで、その、体も拭かれちゃったのだ。 ボクそんなことしなくっていいって主張したけど、病院でそんな不潔な状態は許されないとかなんとか……、香織さんに有無を言わさずジャージを脱がされ、ブラとパンツだけの姿にされちゃった。 入院してた頃はいつもされてたこととはいえ……はずかしい。


「あら蒼空ちゃん、スポーツブラしてるのね? それにかわいいショーツはいてるね? ふふ、ほんとかわいい!」

「ううっ、そんな……」

 香織さんったらボクの体を拭きながらそんなこと言ってくる。 そ、それはお母さんと春奈が選んでくるんだもん。

「あっ、いや」

 そしてついにはブラも外されちゃった。

「蒼空ちゃんもちゃんと成長してるのよね……、なんかうれしいな……」

 ボクの体、入院してた頃の華奢でガリガリっていっていいほどの細さと違って、それなりにふっくらしてきたし、胸も……。

「か、香織さん……」

 そんなしんみりされたらなんにも反論できないじゃん、もう。


「でも背は全然伸びないんだよねぇ? お姉ちゃんって」

「は、春奈ったら、ほっといてよ! もう」

 ボクと春奈のやり取りを久しぶりに見てクスクス笑う香織さん。

 そしてそんな中、ボクに患者服を着せてくれて、まだ体が思うように動かせないボクをベッドに優しく寝かせてくれた。

 こうやって香織さんに寝かしつかせてもらうのも久しぶり……。 なんか懐かしさに目元が熱くなってくる気がした。


 ……でもそれからが最悪だった。

 春奈ったら、香織さんが聞きたいって言ったのをいいことに、ガッコでのボクのこと何でもかんでも話しまくってくれちゃってさ……。

 ついには例の先輩たちの"姫" 扱いの話までしてくれて。

 あーあ、感傷にひたってたボクの気分、台無しだよ!


 そんなことから、ボクは香織さんと春奈にニヤニヤされながら、恥ずかしさのあまりベッドの中で悶えてるわけなのだ。


 そうやって2人が盛り上がり、ボクが悶えてる最中、お母さんが先生とのお話しが終わったみたいで病室に入ってきた。

「あらあら、ずいぶんお話しが盛り上がってるみたいね?」

「あ、お母さん、お話終わったの?」

 春奈がちょっと心配そうな表情を見せながらお母さんに聞く。

「ええ、終わったわよ」

 お母さんは安心させるように笑顔でそう答えながらも、ベッドに寝かし付けてもらってるボクを見る。

 そして香織さんに声をかける。

「香織ちゃん、また面倒かけちゃってゴメンなさいね? もう着替えとかも済んだのかしら?」

「いえ、そんなこと……。 とりあえず着替えは済ませました。 それと汗もかいてたみたいだし、体のほうも拭かせてもらいました」

「あら、ごめんなさい、そんなことまでさせちゃって」


 そんな会話をしつつお母さんがボクのほうに近づいてくる。

 ボクはシーツに半分顔を隠したままでお母さんの様子を伺ってる。

「蒼空? どうしたの? ずいぶんいじけちゃってるみたいね」

 さすがお母さん、ボクの様子にすぐ気付いてくれた。 ボクは春奈の方をジト目で見つめてやった。

 ボクの目線を追い、その先の春奈を見やるお母さん。

 そしてあきれたように言う。

「まったく、あなたたちったら。 こんな時ぐらいおとなしく出来ないのかしら?」

「ボクはいっつもおとなしいもん。 春奈がいけないんだもん、いっつもさ」

 ボクはふくれながらお母さんに抗議する。

「愛情表現よ、ひょーげん! にひひっ」

 春奈ったらいけしゃあしゃあと、そんなこと言う。


 そんなボクたちにお母さんはタメ息をひとつつくとお話をはじめる。


「まあ、その話はもういいから……。 蒼空、今日は様子を見るってことだから、あなたはここで安静にして寝てらっしゃい。 なにもなければ明日は帰っていいそうだから。 春奈、あなたも蒼空をからかうのもいいけどほどほどにね。 疲れさせちゃだめよ? わかった?」

「うん、わかった……」

「は、は~い」

 お母さんのきびしい口調にボクも春奈も素直に返事する。 ボクたちは、お母さんを怒らせちゃいけないのは充分承知してるのだ。

 香織さんはそんなボクたちをみて、ちょっとバツの悪い顔をしてる。 そりゃそうだよ、春奈と一緒になって盛り上がってたんだもん。

 でも安心してよね、ボクお母さんにチクッたりしないから。 ボクはそんな仲間を裏切るようなことはしないのだ!

 ボクが目でそんな合図を香織さんに送ると、香織さん、ペロっと舌を出してゴメンって表情をした。 けっこうお茶目だなぁ、香織さん。


「それでね、蒼空。 あなたの病状なんだけど……」

 お母さんがお話しの続きを始めた。

「う、うん」

 なんだろ、なんか悪いことあったのかな? ボクはちょっと不安になる。

 そんなボクの表情に気付いたのか、

「ああ蒼空、そんな顔しないで。 別に病状が悪化するとか、そんなのじゃないんだから」

 安心させるようにお母さんが言ってくれる。

「蒼空の今日の病状は、軽い熱中症だそうよ」

「熱中症? まだ春で、曇ってると肌寒いくらいだったのに?」

 春奈が不思議そうにお母さんに聞く。

「ええ、そう、熱中症なんですって……」


 お母さんは春奈の質問に答えたのを皮切りに、石渡先生から話されたことについて、ボクたちに話して聞かせてくれた。

 ボクと春奈はわかったようなわからないような顔をし、香織さんは「なるほど」といった表情を見せる。

 でもそんなわからない中でも、なんとかボクは質問した。

「じゃボク、人より汗が出ないから運動したとき体に熱がこもりやすいってこと?」

「そうね、でも、運動しちゃダメってことじゃないのよ? 運動したとき熱中症って気付きにくいから、早め早めに対処しなきゃダメってことなのよ」

「早めの対処?」

「そう。 蒼空、あなた今日倒れる前、もうすでにくたくただったとか、ドキドキしてた、気持ち悪かったとか、色々先生に話してたわよね?」

「ううっ、うん。 そう話した……」

「それだけ予兆があったのに無理して走って、倒れちゃったわけね?」

 お母さんがそう言うとボクの顔を軽くにらむ。


「はぅぅ……」


 ボクはその視線に耐えられずシーツを目深にかぶって顔を隠す。

 お母さんはやれやれといった表情しつつ、春奈にもいう。

「春奈、蒼空はこんなだからすぐ無理しちゃうだろうし、なるべく目をかけてやってね? あと、学校のお友達で協力してくれそうな子たちがいるんだったらそれとなくお願いしてみてくれる? あ、でも無理じいはだめよ」


「了解。 まかしといて! お姉ちゃんが無理しそうになったら力づくでも止めちゃうよぉ」

 は、春奈、力づくって……、まじ勘弁して欲しいよぉ。

「うん、頼むわよ」

 お、お母さん。 そんな、公認だなんて……。


 このままではまずいと思ってボクは思わず……、

「そんなぁ、ボク無理なんかしないよぉ~」

 シーツから顔を出してみんなに主張した。



「「信用できません!」」



 春奈とお母さん、ハモって返された。



病状については素人が雰囲気で書いてますので……ご容赦いただければ幸いです。

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