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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
60/124

ep56.無理した顛末

※話数を修正しました。

 一緒にまわってるメンバーが、体育館での測定を終えたところで、グラウンドに移動だ。 グラウンドは、校舎を挟んだ向こうっ側にあるから、たどりつくにはけっこう歩かなきゃいけない。

 ボクもう、それだけで疲れちゃいそう。 っていうか実際かなり疲れてきてて歩くのもおっくうになってきてるけど……。


 みんなと一緒にグラウンドに向かいつつも、どうしても遅れ気味になっちゃうボク。

 春奈が一緒にまわってたグループは、すでにグラウンドに向ったあとで、ここにはいないから、助けてもらうわけにもいかず……。 かといって友だちに甘えるのもいやだし……。

 ボクはなんとか平静を装ってみんなについていく努力をしてる。


「蒼空ちゃん、大丈夫?」

 沙希ちゃんが遅れ気味のボクを気遣って声をかけてくれる。

「うん、大丈夫。 ごめんね? ボク歩くの遅いからみんなに迷惑かけちゃうね」

 ほんとはだいぶ疲れてだるくなってきてるんだけど……やせ我慢しちゃうボク。

「ううん、そんなことないよ。 別に慌てて行く必要もないんだし、ゆっくりいこ?」

 沙希ちゃんがそういい、みんなも「そうだよ」っていってくれる。

「うん! ありがと~」

 みんなやさしいなぁ。 よ~し、がんばるぞ!

 ボクは今にも根をあげそうな足に力をこめ、ちょっとでも歩みを早めようと努力した。


 ようやくグラウンドに到着したボクたち。

 手始めにまずはハンドボール投げからチャレンジってことになった。 このへんの選択もみんながボクに気遣ってくれた気がする。

 ずっと歩いてきて、いきなり50mじゃボク、マジでもたない気がするもん。 だからすごく助かっちゃう、みんなありがとっ!


 それにしてもここへきて雲が薄くなってきて、だんだん晴れてきてる。 天気が良くなるのはホントなら歓迎なんだろうけど……ボクにとってはあんまりうれしくない。

 せめて測定終わるまで曇ってて欲しかったな。


 ハンドボールってけっこうおっきくてボクの手には余るくらいの大きさだった。 こんなのどうやって投げりゃいいのさ? それに思ったより重いし……。

 野球のボールみたいな投げ方は出来そうもない……、なにしろ握れないんだもん。

 だからとりあえず、ドッチボール投げるみたいな感じで、規定の2回を投げた。

 一回目が7m。 で、2回目が5m。 ま、こんなもんだよね? 飛んだだけマシって思うことにする。

 ちなみにみんなもせいぜい15m前後くらいだったから、そんなにガックリくることもないよね?(でも優香ちゃんは、20mこえた。 すごい!)


 そして、続く立ち幅跳びもなんとかこなし(最低記録の55cmだったけど)、いよいよ50m走。 今日最後にして最大の難関だ。

 ボクがまだ男の子だったころ、一番得意だった種目。 それなのに今のボクときたら……。 ううん、こんなこと考えたって仕方ない、とりあえず今出来ることしなきゃ!

 さっきの20mシャトルランと違って時間に追われるわけじゃないんだから、カッコ悪いけど最後まで走りきることを目標にしよう。 ……もう体もダルダルだし。


「「蒼空ちゃ~ん、莉子~! がんばって~」」

 沙希ちゃんたちの声援が聞こえる。 ボクは声の方を見てなんとか微笑んだ。

「「あっ、姫ちゃんだ! がんばれ~!」」

 あちゃ~、先輩たちにもみつかっちゃった。 だから姫ちゃんやめぇ~!


 声援を気にしながらもスタートラインにつくボク。

 一緒に走るのは莉子ちゃん。 先生、ちっちゃい子でそろえてくれたみたい。 やっぱなるべく同じ条件でってことかな。

 まぁ誰と走っても、ボクはてんで勝負にならないんだから関係ないけど……。

「蒼空ちゃん、あと少しがんばろっ!」

 疲れが見えてきてるだろうボクに、莉子ちゃんが声をかけてくれる。

「う、うん!」

 なんとか返事したボク。


「位置について~」

 ボクたちは、クラウチングスタートの姿勢をとる。

 先生のスタートの合図を待つボクたち。 なんだろ、ドキドキがとまらない……。


「よ~い……」

 腰を上げる。 なんか気分……わるい。


「ドン!」

 莉子ちゃん、勢いよくスタートをする。 ボクはあっという間に引き離される。 っていうかボクが遅過ぎるんだけど。 でもボクも、ボクなりに力いっぱい走ってる。 まぁみんなから見ればとても走ってるようには見えないかもしれないけど……。


「がんばれ~! 蒼空ちゃん」

「姫ちゃんファイト~!」


 みんなや先輩たちの声援が聞こえる。


 前を走ってた莉子ちゃん、ゴールしたみたいだ。

 ボクの足は、もういうこときかなくなってきてる。 すでに歩くのとかわんない速度……。 



 それでもがんばって半分くらいまできたところで……、



「「あっ!」」

「「蒼空ちゃんっ!」」

「柚月さん!」


 ボクは膝から崩れ落ちるように……倒れた。



 その場に倒れ伏したボクに駆け寄る、沙希ちゃんたちやクラスメイト、そして先生。

「柚月さん、しっかり!」

「蒼空ちゃん!」


 遠巻きに様子を伺ってる、よそのクラスの子や先輩たち。


 そしてそんな中、ボクを介抱してくれてるおっきい人影。

「わ、渡里……さん?……」


 すっかり雲がとれ晴れ渡った空の下。

 みんなに囲まれた中、抱き上げられたボクは意識を手放した。



* * * * * *



「ん……、うぅん……」


「あっ、お姉ちゃん!」


 心配そうな顔をしてそばにいた春奈が、うわごとを発した蒼空に安堵の表情を見せる。

 蒼空は保健室のベッドに寝かされていた。


「先生っ! お姉ちゃん、気が付いたみたいです」

 春奈は保険医に声をかけつつ、すぐ蒼空を見つめる。

 ずっと閉じられていたまぶたがぴくぴく動く。 そしてゆっくりそのまぶたが開き、赤い目が外の光をまぶしげにとらえる。


「ううっ、まぶし……」


 保健室の窓には薄手ではあるもののカーテンは引かれており、決してまぶしいとうほどではなかったが……起きがけの、目が慣れていない蒼空にはまぶしかったようだ――。



「お姉ちゃん……、気分どう?」

「んんっ? は、春奈? ぼ、ボクどうして……」

 ボク、どうしちゃったんだろ? なんでベッドで寝てるの?

 それにおでこにアイスパック、当てられてるし。


「お姉ちゃん、50m計測中に倒れたんだよ? 覚えてない?」

「倒れた? ボクが……。 50m走で?」

 ボクはイマイチ倒れる前のことがはっきりしない……。

 ボクが呆けた顔をしながらも、思い出そうとしてると離れたところから声がする。

「うーん、軽い記憶の混濁こんだくがあるみたいね?」

 そう言って近づいてきたのは保険医の三咲みさき先生。

 それに先生の後ろにもう一人……、あれ? 同じクラスの渡里さんだ。 どうしてここに?


 ボク、わからないことだらけで相当戸惑った顔をしてたんだろう。 先生がかいつまんで状況を説明してくれた。


 ……ボク50m最中に倒れちゃったのかぁ。

 そういや、なんか思い出してきた。 莉子ちゃんにどんどん置いてかれちゃって。 それに走る前からだいぶ疲れてて、直前には気分も少し悪くなってたような?


 ボクったら……それをガマンして走ってたような気がする……。

 それにしても渡里さんがここまでボクのこと、おんぶして連れて来てくれたなんて……。


 は、ハズカシイ……。


 はずかしいけど、でも、お礼しなきゃ。

「そのぉ、渡里さん? ここまで連れてきてくれて……、あ、ありがとう」

 そばによって来てくれた渡里さんにお礼をいう。

「ん。 べつにいいよ……。 私、保健委員……だし」

 渡里さんは、無表情で言葉少なげにそう答えた。

 相変わらず、とらえどこなくて無口な人だなぁ……。 ボクは心の中でついそう思っちゃった。

 それにしても保健委員かぁ……、委員って確かボクがガッコ休んじゃった時に決められたんだっけ? 誰がどの委員になったかなんて、学級委員くらいしかちゃんと聞いてなかった……。 ボクはもちろん選ばれてない。


「ほんとお姉ちゃんったら人騒がせなんだから……、渡里さん、お姉ちゃんが迷惑かけちゃってごめんなさい。 私からもも一回お礼いうね、ありがとう!」

 春奈、ボクが眠ってる間にもたぶんお礼いってたんだろなぁ? それにしたってそんな余計なことまで言わなくたってさ……。 まぁ、ボクが悪いんだから仕方ないんだけど。


「いい。 そんなこと……、気にしないで」

 春奈の言葉にも口数少なく答える渡里さん。 

 渡里さん、ほんと口数すくない……、こりゃボク以上だ。 春奈もちょっと苦笑いしてる。

 渡里さんって前も思ったけど、ほんと背が高くって先生たちでもかなわないくらいだ。 ボクをおぶって運んでくれたってのも納得できちゃう。 スタイルもいいし、なによりキレイなお顔してるんだけど、いつも無表情であまり笑わないからクラスのみんなと話してる姿もほとんどみない気がする。


 ボクたちが一通り、挨拶を済ましたのを見計らって三咲先生が声をかけて来た。

「柚月さん、あなたはもうすぐお母さんが迎えに来てくれますから、このままここで寝てらっしゃいね。 それから春奈さん、あなたはお姉さんのカバンとか制服、持ってきてあげて」

「はい、わかりました」

「えっ? そんなこと、ボク自分で教室戻って着替えます……」

 ボクはそういって起き上がろうとしたけど……、

「あれ?」

 意思に反して体が全然いうこと聞いてくれない。 体を起こすこともつらい。 なんだか自分の体じゃないみたいだ。

「ほらお姉ちゃん、無理しないで。 さっき倒れて運ばれたばかりだっていうのに早々動けるわけないじゃん」

「柚月さん、妹さんの言う通りおとなしく寝てらっしゃい。 それからお母さんが迎えにいらしたら、そのあとすぐ病院のほうへ行ってもらいますからそのつもりでいて」


 病院かぁ、またお世話にならなくちゃいけないのか……。


「それとこれ飲んでおいて? かなり脱水症状もでてるから、とりあえずね」

 保健室じゃ点滴できないから……、そういってスポーツ飲料を指しだす三咲先生。

 ボクは受け取りたかったけどそれすら満足にできない……。

 悔しくって泣けちゃいそうだ。


 悲しそうな表情をしたボクを知ってか知らずか、春奈が先生から飲料のボトルを受けとり、

「ほらお姉ちゃん、私が飲ませたげるから……」

「う、うん……」

 ボクは半分泣きそうになりながらも、春奈に飲ませてもらった。


 ……体中にしみ渡ってくる気がした。

 でもやっぱ悔しい……。


 渡里さんはそんなボクたちをちょっと不思議そうな顔をして見ていた。

 渡里さんのそんな表情って珍しいな……、ボクは漠然とそんなこと考えてた。



 春奈と渡里さんが教室へ戻ったあと、三咲先生がボクに話しかけてきた。

「柚月さん、今回はごめんなさいね」

 先生があやまってくる。 なんでだろ?

「学校はあなたの体のこと、前もって聞いてたはずなのに無理させてしまって……。 お母さまにも合わせる顔がないわ」


 そういうことかぁ……。 たしかにスポーツテスト受けることになるとは思ってなかったけど。 

 でも、やってみればやっぱ楽しかったし。 元々運動は好きだったし……。


「ううん、三咲先生。 そんなことないです。 倒れたのは自分が無理したからだし……、ぜんぜん学校や先生たちのせいだなんて思ってないです」

 ボクがそういうと、先生もちょっとほっとした顔になっていう。

「柚月さんがそう思ってくれているのならいいのだけど……。 それにしたってもうちょっと注意は必要だったと思うわ。 私のほうからも先生方に注意しておくわね。 それに、あなたも……自分の体、もうちょっと大事にしないとね?」

 三咲先生はベッドで横になってるボクのアタマを優しくなでながらそういった。

「はい、以後気をつけます……」

 ボクはちょっとはにかみつつそういった。



* * * * * *



 それから30分ほどたったころ、春奈がお母さんと一緒に保健室に入ってきた。

 どうやらお母さんが春奈に電話して保健室まで案内させたみたいだ。 ボクの荷物もあったしちょうどよかったよね。


 三咲先生がさっきボクにいったことだろうか……お母さんにあやまってる。

 そして二人してボクのほうに近づいてきた。

「蒼空、あなたったら……また無理したみたいね?」

 ちょっとこわい顔してにらんでくるお母さん。

「ご、ごめんなさい……」

 あやまるボクのアタマをなでてくるお母さん。 今度は心配そうな表情……。

「先生にも迷惑かけて……、無理しちゃだめっていつもいってるのに。 今は歩くのちょっと無理そうだって春奈に聞いたわよ?」

「うん……、なんか体思うように動かない……。 その、疲れちゃっただけだから、一晩寝ればきっと大丈夫だから」

 ボクは必死にいいわけする。

 お母さんは苦笑いだ。



 結局ボクはお母さんが用意してきてくれた車イスに乗せられ、駐車場まで行くはめになった。 さすがに保健室からボクをおぶって駐車場まで行くのは大変ってことで、見越して用意してきたみたい。

 ちなみに春奈はお母さんに戻るよういわれてた。 一緒に付いて来たがってたみたいだけど。

 途中、みんなの視線がイタかった。 先輩たちがボクを見て何かいってる声も聞こえてくるし……。 ボクはなるべく視線を合わさないようずっとうつむきかげんで通した。


 お母さんに抱かえられ車に乗せてもらい、学校から病院へ向う中、ボクはぼーっとしながらも考える。

 クラスのみんな、それに沙希ちゃんや優香ちゃんたち……。 ボク何も言えずに出てきちゃった。 心配してるだろうなぁ。 ガッコ行ったらあやまんなくっちゃね。



「はぁ」


 それにしてもガッコ、いつ行けるようになるかなぁ?

 そう考えつつ、思うように動かない自分の体を見ていると悲しくなり、タメ息をつくしかなかった……。



体力測定値は雰囲気なので、もし矛盾あったとしたらスミマセン……

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