ep53.春奈のお悩み相談所
※話数を修正しました。
「新入生のみなさん、清徳入学おめでとうございます! 入学して1週間と少し経ったかと思いますが、当校での生活にはなれましたか?」
落ち着いて、透き通るようにキレイな声が体育館に響きわたる。
ボクたち新入生は今、体育館に集まってステージ上に立つ6年生であり生徒会長である笹宮 優希奈さんの挨拶を、クラス別に並べられたイスに座って聞いてる。
生徒会長さんの後ろには副会長さんが2人、そして各委員の委員長さんたち10人ほどが並んで立ってる。 会長さんの挨拶のあとはたぶんその人たちの挨拶が続くのかな?
ボクたちが集まってるのはもちろん生徒会の説明と……その後に続くクラブ活動の紹介を聞くためなのだ。
「……わからないことがあったら先生はもちろん、先輩や、私たち生徒会や委員会のメンバーに、遠慮なしに質問や相談をしてくださいね!」
生徒会長さんは、色白のキレイな顔立ちに、銀縁の細いフレームの眼鏡をしてて、キリッとした表情も相まってすごく頭が良さそうな雰囲気を漂わせてる。 キレイな黒髪は、耳の上辺りから左右で三つ編みを作り、それを後ろに流して残った髪と一緒にシュシュを使って一本結びにしてまとめてる。 160cm後半の身長に、出るとこは出てるうらやましいスタイルにくわえ、すごく女性らしいやわらかさも感じるステキな人だ。 でも挨拶を聞いた感じだとすごく気さくな感じもするから、近寄りがたいって感じはしない。
ボクがそんなことを思いながら会長さんのほうを見てると、ふと会長さんと目が合った気がした。 ボクは慌てて見つめていた目をそらし、うつむいちゃった。 まぁ向こうはこっちのことなんか気にしてないと思うけど……。
会長さんの挨拶が終わると、やっぱり後ろの人たちの挨拶が続いた。 副会長さんたちはともかく、各委員の"いいんちょ"さんたちの話しは案外長かった。 このあと各クラスから委員選出とかもしなきゃいけないから、どんな委員会なのかけっこうマジメに一生懸命説明してくれてた。
終わってみれば小1時間ほどかけての各委員の紹介がようやく終わり、いよいよクラブ活動の紹介が始まるみたいだ。
「待ってました~♪」
後ろからそんな声が聞こえてきた。 ボクはあきれてその声の主、沙希ちゃんを振り返って見つめる。 沙希ちゃんはボクに気付き、"ニッ"っと屈託のないかわいらしい笑顔をボクに見せた。
ボクは小さくタメ息をつきつつも愛想笑いをして、さっさと前を向いた。
クラブの紹介は、さっきまでの委員会の紹介と違ってなかなか面白かった。 運動部、文化部、それぞれの代表が体育館のステージに上がり制限時間がある中、慣れないながらも懸命に自分たちのクラブをアピールしてるのは見ていて楽しい。
運動部の人たちは実際にジャージやユニフォーム姿で、軽く(でも真剣に)実演して見せてくれたりした。 サッカー部の先輩のリフティングには驚いちゃった。 だってずっと蹴りっぱなしで結局床に一度も落とさなかったんだもん! でもその先輩、紹介そっちのけでリフティングに夢中になってて一緒に出てたサッカー部の人にジト目で見られてたなぁ……くすっ。
新体操部はすごく華やかでキレイだったし、変わったところでダンス部なんてのもあった。 ダンスにもいろんな種類があるって初めて知った。 杉山さんが入るっていってたテニス部の紹介もあった。
それにしても運動部の先輩たち……、まだ春だっていうのに日に焼けてまっくろだ。 ボクは自分の真っ白な、毎日欠かさず日焼け止めを塗らなければすぐに赤くなっちゃう肌を見て、少し悲しくなった……。
文化部の紹介に移ると生き生きしだすのは沙希ちゃんだ。 ボクも入るなら文化部だから身が入っちゃう。
文化部も運動部同様、色々実演しながら紹介をしてくれる。
吹奏楽部や、合唱部の紹介は短いながらもきれいな演奏や合唱を聴かせてくれてすごく楽しい紹介だった。 そのあと華道部や茶道部、書道部に美術部……色々あったけど実演見てても動きがないんでちょっと、うん、ちょっとだけ……退屈だった。 各部の先輩ゴメンナサイ。
あと料理部なんてのもあって、作った料理を実際見せてくれた(写真が多かったけど)んだけど……ケーキがあったよ!(これはホンモノ) 残念ながら苺ショートはなかったけど……おいしそうだった♪ ボクはちょっと惹き付けられちゃった、えへへっ。
そしてとうとう沙希ちゃん目当てのアニメ・漫画部。 沙希ちゃん、隣りの渡部さん(友達になった綾ちゃん)と盛り上がってる声が聞こえてくる。
アニメ・漫画部の紹介は……個性的、だった。
みんな何かのアニメに出てくるらしい女の子の服装を真似たカッコ(コスプレっていうの?)で出てきて、たぶんそのアニメの中の話しを再現した短い劇をやってた。 沙希ちゃんと渡部さん、それ見てなんか、ボクの知らない名前をいっぱい言いながらはしゃぎまくってる。 それにしても先輩たちが着てる服って、お店とかで売ってるのかな? かなり現実離れした服で、ボクはふと疑問に思っちゃった。 あとで沙希ちゃんに聞いてみよっと。
でもボク、この部に入るの……ちょっと、考えちゃうかも。 ……沙希ちゃんゴメン。
結局ボクはこの日になっても入りたいクラブ、自分がやりたいことを見つけられないでいた。 クラブの紹介を見れば何かやりたいこと見つかるかも? って思ってがんばって見てたけど……これはっていうのは見つけられなかった。
見てると楽しそうだな? とは思うんだけど、自分がやりたいって思うほどには惹き付けられない……。
やりたいって思ってもやれないモノもあるし……。(サッカーとか)
ホントどうしよう……、もういっそ入るのやめちゃおっか?
ついにはそんなことを考えだすボク。
そんな自分に嫌気がさしちゃう。
終始盛り上がってた沙希ちゃんとは対照的に、楽しかった気分から、終わりが近づくにつれてどんどん落ち込んでいったボクなのだった。
そして結局なにも決められないうちに、クラブの紹介も終わりを告げていた。
* * * * * *
「お姉ちゃん、入るクラブ決めた?」
リビングのソファーに座ってボーっとしながらTVを見てたら、春奈が話しかけてきた。
「え? う、うん……」
ボクは答えられず言葉を濁した。
「決められないんだ? それにしてもずいぶん落ち込んでない?」
むぅ、さすが春奈。 ボクの考えてることバレバレみたい。
「ボク、何やったらいいかわかんない。 何やりたいかもわかんない。 ボク……」
だからつい思ってたことを口にした。
「お姉ちゃん、マジメだね?」
春奈は微笑みながらそう言うと、ボクの後ろに来てアタマをなでだした。
いつものボクだったら子供扱いしないでっていって文句いったかもしれないけど、今はおとなしくなでられてる。 つっかかる元気が出ないんだもん。
「そんなに考えこまなくたっていいじゃん? しょせんは学校のクラブ活動なんだし、それに途中からでも入れるんだしさぁ。 慌てなくたっていいじゃん」
春奈は自分の意見をボクに話す。
そして更に……、
「やりたいことなんてこれからどんだけでも出てくるって? だいたい、お姉ちゃんはまだちっちゃいんだから、やりたいことなんてわからなくて当然じゃん?」
は、春奈め~、ボクのアタマをなでながらなんか聞き捨てならないこといった!
ボクは後ろにいる春奈に文句をいおうと、アゴをあげ首を後ろに傾けて見ようとした。 けど無理な体勢だったため、そのままソファーの上で横倒しになっちゃった。 つくづく体力ないなぁ……ボク。
「あ~ん、もう、お姉ちゃんなにやってるの? かわいすぎるよ、そんな子犬みたいなしぐさしちゃってぇ!」
春奈がたたみかけるようにまたいった。
「も~、春奈ったら~! ボクを子供扱いしないでっ。 こ、子犬ってなにさっ、子犬ってぇ!」
ボクは横倒しになった体を起こそうとジタバタ手と足を動かした。
「お、お姉ちゃん! まだやるっ? それが子犬だっつうのぉ」
――なっ、なにこのかわいい生き物ぉ、お姉ちゃん! 高校生にもなってまだそれほどの威力発揮しちゃう? 我が姉ながら恐ろしい攻撃力だ。 そういや……あの話もしといてあげよっかなぁ? むふふっ♪――
春奈はそれこそ満面の笑みでもってボクを見ながらも、ボクの手をつかんで体を起こすのを手伝ってくれた。
「あ、ありがと。 でも、でも春奈ったらほんとイジワルなんだからぁ! 仮にもボクはお姉ちゃんなんだからね! わかってる?」
――プッ。 か、仮にもって……お姉ちゃん、自分のいってることわかってんのかなぁ?
「はいはい、わかってますよぉ。 お姉ちゃんはお姉ちゃんに決まってるじゃん。 まぁ、お姉ちゃんの気分もそこそこ良くなったようだし良かったよ」
そういいながらボクの隣りにボスンと勢いよく座ってきた春奈。 その拍子にボクの体がちょっと浮きあがる。 なんかふわっとして一瞬気持ち良かった♪
思わずにやけ顔になりそうなところをなんとか抑える。 春奈に見られたら大変だもん。
それにしても春奈ったら、落ち込んでるボクを励ますつもりであんなこといってきたのかな? 確かにいい気分転換になった気がするけど……、なんか悔しい。
「と、とりあえず、クラブはあせらずゆっくり考えてみるよ。 確かに慌てて決めちゃう必要ないもんね? うん。 ……で、そういう春奈はどうなの? どっか入るとこ決めてるの?」
「私? 私はぁ……一応考えてるとこあるよ♪」
そういってニヤつく春奈。
「えっ、そうなの? どこどこ? もったいぶらずに教えてよっ」
ボクはもう決めてる口ぶりの春奈を追及する。
「どうしよっかなぁ? 教えちゃおっかなぁ? むふふ」
もったいぶる春奈。 ボクはそれをジト目で見る。
「むぅ~。 お、し、え、てっ!」
「うわぁ、お姉ちゃん、だからそれやめてって! はいはい、教えま~す。 私は陸上部に入ろうかと思ってま~す!」
ついに白状した春奈。 それにしても……、
「り、陸上部? 走るの?」
「うん! 希望は短距離。 100mさせてもらえたら最高かも」
「ふ~ん、そっかぁ……」
春奈、活発だし運動神経よさそうだしいいかもしんない。 一緒にいれる時間が少なくなっちゃうかもしんないけど……。 今までずっと春奈のお世話になりっぱなしだったし……、ここは応援しとかなきゃ!
「かんばってね、春奈! ボク応援しちゃう。 春奈なら絶対すっごく早い選手になっちゃうよ!」
「えへへぇ、ありがと、お姉ちゃん。 がんばるよ。 でも、まだ入部届けも出してないんだけどね?」
「あっ、そっか。 ちょっと気早すぎ?」
ボクと春奈は顔を見合わせて笑った。
そうやってボクの気分もすっかり良くなったところで、春奈が次の話題を振ってくる。
「ところでさぁ、お姉ちゃん?」
「ん? なに春奈?」
なんかまたあやしい雰囲気だ……ちょっと警戒。
「最近学校で友達に聞いた話なんだけどさぁ……」
またもったいぶる春奈。
「なにさ? 早くいいなよぉ~」
「ふふっ、はいはいっ。 それで、あのさぁ、その話によるとお姉ちゃんねぇ……」
ふんふん。 ……えっ、ボク?
「なんか上級生の間でちょ~有名になってるらしいよ?」
有名? な、なにそれ?
え~!?