ep52.蒼空のやりたいこと
※話数を修正しました。
昨日の対面式は体育館で、先輩と新入生が各クラス横一列に並び、お互いが向かい合って挨拶するって感じだった。 ボクは体育館にクラスごとに並んで入場する際、中で並んで待ってる先輩たちにいやというほどの注目あびちゃったみたい……。
なんか、ひしひしと先が思いやられる感がした……。
そして登校2日目。
今日もバスに乗るとボクは席を譲ってもらっちゃった。 でも譲ってくれたのは昨日とはまた違う先輩だった。 昨日の先輩はちょっと離れたトコにいてなぜか悔しそうな顔をしてる。 変なの。
そして春奈はそんなボクを見てまたニヤニヤ笑ってる。 でも、いいかげんボクはその顔にも慣れちゃったしっ、べーだっ!
2日目ともなると教室でも……、みんなようやく初対面同士の緊張も抜け、お互い遠慮みたいなものが少なくなってきたのか、そろそろ、そこら中からお喋りをする声が聞こえるようになってきた。
ボクの周りもそう。 周りの席の子たちが次々ボクに声をかけてきてくれる。
「柚月さん、困ったことがあったらいつでも声かけてね!」
「私、入試のとき横に座ってたんだよ? なんかすっごく心細そうにしてて、すっごくかわいい子だなぁって思ってたんだぁ」
最初に声をかけてくれたのが、松本 莉子ちゃん。 ボクの後ろに座ってる子で、背の高さはボクよりは大きいけど今まで会った子の中じゃ一番小さくて(これはボクの中では高ポイント!)、ふんわりとしたボブカットの髪に、大きくてくりっとした目がかわいらしい。
そしてもう1人が、若村 陽菜乃ちゃん。 ボクそんな風に見られてたのかぁ……。 若村さんの背は160cmちょっと越すくらいあり沙希ちゃんや春奈よりおっきい。 細めの黒縁フレームの眼鏡に、短めの三つ編み、前髪は眉毛ちょっと下辺りで切り揃えてて、耳の前にちょっと髪をたらしてる。 とっても優しそうな雰囲気のする女の子。
「ああん、みなさん、柚月さんとお友達になったのは私が最初です~」
杉山さんが、隣りから乱入してきた。(最初もそうだったけど人見知りしないなぁ、うらやましい)
話しをしてみると元々、松本さんと若村さんがボクに声をかけるキッカケを作ったのは、杉山さんらしい。 ボクにいつ声をかけようかとそわそわしてたら杉山さんに先をこされたみたい。 なんかボクはどんな顔していいかわからない。 ボクに気をかけてくれるのはすごくうれしいけど……、なんか照れくさいんだもん。
そうそう、杉山さんだけど、彼女は背丈は沙希ちゃんと同じくらいで、セミロングの髪をツーサイドアップにしてて、前にもいったように笑うと八重歯が見えてすっごくかわいい!
この3人が高校生活の最初、初めて出来たお友達になった。
ボクたちはお互いの中学の話とか、対面式の話しとか、これからのこととか色々話をして親睦を深めた。(まぁボクは中学の話は出来ないけど……)
そんな中ふと気になって沙希ちゃんのほうを見ると、同じように周りの子達とおしゃべりを楽しんでた。 どうやらあっちでも友達作りは着々と進んでるみたいだ。
やっぱいいなぁ、学校に来るって。
こうやって新しい友達、いっぱい出来るんだもん!
この日のメインはクラスの集合写真だった。
ボクは友達になったばかりの3人や、沙希ちゃん、そして沙希ちゃんの新しい友達とかと、なんとなく出来た小さなグループで校庭まで一緒に出て撮影に望んだ。
その時、階段の上り下りではみんなが必要以上に気にかけてくれるから、ボクはちょっと戸惑うくらいだった……。
ボクは、最前列の真ん中に座らされちゃってすっごく恥ずかしかった。
まぁ、クラスで一番のちびだから仕方ないけど……。
あ、ちみにボクの隣りは松本さんね! にひひっ。 ちび同士心が通じあった気がしたよ!
そういや入学式で隣りに座った渡里さんは、やっぱ一番後ろだった。 あの子すっごく背が高いんだもん。 170cm軽く越えてるよね。 まだあんまりお話ししてないけどお友達になれるかな?
この他にも違う場所で、いくつか写真を撮ったおかげで、けっこうお外にいることになっちゃった。
キレイに晴れた春の陽気はポカポカで気持ちいいんだけど、いくら眼鏡を掛けてるといっても、あまり長く外にいると、お日様の日差しはあんまり目にやさしくない。 つくづくメンドウなんだ……ボクのからだ……。
「蒼空ちゃん、大丈夫?」
まぶしそうにしてたボクを見て沙希ちゃんが声をかけてくれた。
「うん、だいじょうぶ。 ありがと、心配してくれて」
沙希ちゃん、ほんとよく気付いてくれるなぁ……。
クラス写真を撮った後は、そのまま学校内の説明があり、みんなぞろぞろと付いて回って見学した。 それが終わると教室に戻り、生徒手帳や教科書の支給などを受け、色々こまごまとした話しが続いた。
「はぁ……」
なんか、あっち行ったりこっち行ったり……、案外疲れちゃった。
つい席でぐったりしてしまうボク。
知り合って間もない杉山さんや、松本さん、若村さんが気遣ってくれて、すごくうれしかった。
* * * * * *
SHRが終わり、ボクにとってはすごく長かった半日がようやく終了し(今はまだ午前中でガッコは終わりなのだ)、帰り支度をしてたら沙希ちゃんが声をかけてきた。
「蒼空ちゃん、今日はなんだかいっぱいお友達できたね?」
「うん、おかげさまで!」
ボクはそういって周りを見る。
みんながボクのほうを見てニッコリ微笑んでくれた。
「沙希ちゃんも周りの子といっぱいお話ししてたね?」
「うん! そうなの。 なんかねぇ、私と同じ趣味の子がいたりしてぇ、クラブ活動とかの話で盛り上がっちゃたの」
沙希ちゃんの趣味かぁ……、漫画やアニメが好きっていってたよね、確か。 なんかマニアな世界っぽい……。
そんな話しをしてたら杉山さんがまた乱入してきた。
「どうも~! クラブといえば、さっき先生が部活動や委員会の紹介があるっていってましたよね?」
沙希ちゃんにもみんなの紹介は済んでいるとはいえ……、ほんと人見知りや、物怖じしない子だなぁ……、つくづくウラヤマシイ。
「うん、そうだよねぇ! 私すっごく楽しみなの~、さっきもそれで盛り上がってたんだあぁ、綾ちゃんと。 あっ、綾ちゃんは私の後ろの席の子だよ」
そういや沙希ちゃんも杉山さんに負けず劣らず物怖じしない子だった!
綾ちゃんかぁ、いきなり名前で呼んじゃってるし……。
「沙希ちゃんはやっぱ、漫画とかアニメに関係するクラブがあったら入るの?」
ボクは一応聞いてみた。
「もっちろん! っていうか事前調査であるのはわかってるんだぁ! あとは実際にどんなのか確認するだけなのぉ~、えっへへぇ」
さ、さすが沙希ちゃん。 そういうのの動き、素早いね……。
「蒼空ちゃんはどうなの? なんかやりたいクラブとかあるの?」
沙希ちゃんの問いかけに、帰り支度してた松本さんや若村さんまで興味津々って感じで顔を出してきた。
そ、そんな! みんななんでボクのクラブのことなんか気にするかなぁ……。
「ぼ、ボクは、まだ特に何も決めてないよ? 運動部は無理だから……入るなら文化部になると思うけど」
そういえば、ボクって何もやりたいって思えるものがない。 考えたことすらないのかも? ……だって今までガッコに行くことだけを目標に、ずっとがんばってきてたんだもん。
ボクのやりたいことってなんなんだろう?
「ダメダメ、入るならじゃ、なくて入るの! ね? 蒼空ちゃん。 っていうか私と同じとこ入ろうよ~♪」
考え込んでるボクに沙希ちゃんがごり押ししてきた!
「ちょ、そ、それはまだ、その部活の紹介とか見てから決めるから~! そ、そうだ、他のみんなは? 何か決めてるのあるの」
ボクは慌ててそう言い返し、話しを杉山さんたちに振った。
「うーん、残念。 私はテニス部に入るつもりだから柚月さんとはご一緒できません……」
杉山さんはテニス部かぁ、なんかすごく似合ってる感じだ。 それにしてもほんとに残念そうだ。
「私まだ決めてないです。 でもたぶん文化部かなぁ?」
松本さんは、文化部かぁ。 ふふっ、ボクとおんなじでちっちゃいから運動部だとつらそうだなぁ。 ボクはちょっと失礼なこと考えちゃった。
「私は弓道部に入ろうかと。 中学からやってるので……」
若村さん雰囲気ぴったりだ。 なんかかっこいい!
「じゃあ、蒼空ちゃんと、そのぉ、松本さん? 一緒に漫画とアニメの世界にごあんな~いっ! ってことでどう? どう? どうかなぁ!?」
沙希ちゃんってば、初対面の松本さんまで勧誘してるよ。 まだ部員にもなってないのに。
「えっ、そ、そんな、私まだ、あの」
松本さん、たじたじだ。
「さ、沙希ちゃん、落ち着いてっ! とりあえず部活紹介見てからだよ~! もうっ!」
ボクはめずらしく大きめの声を出して沙希ちゃんを押しとどめた。
「は、はいっ! ごめんなさい……」
あ、あれ? 沙希ちゃんったら"しゅん"としちゃった。
みんなも驚いた顔してる。
「ど、どしたの? みんな」
ボクは誰ともなしに問いかけた。
「ゆ、柚月さん、意外とおっきな声出せるんですね? お、驚きました……」
若村さんがそう言うと、"うんうん"とみんながそろって大きくうなずいた。
ボクはそういわれて、はっとして……、さっき大きな声を出したことが急に恥ずかしくなって、ついうつむいちゃった。
「蒼空ちゃん、ごめんね? 私ちょっと興奮しちゃって。 てへっ」
「う、うん……」
ボクは沙希ちゃんのその言葉で顔をゆっくりと上げた。
「それにしても蒼空ちゃん、顔まっ赤だよっ? か、かわいいっ!」
そういうなり沙希ちゃんったら久しぶりの抱きつき攻撃してきちゃった。
さ、沙希ちゃん! みんな見てる、見てるよぉ~! そ、それに沙希ちゃん、また胸大きくなってない? く、くるしいぃ……。
「な、なんてうらやましぃ……」
す、杉山さん! そんなコトいってないで助けてぇ……。
「ええっ、柚月さんと渡辺さんて、そんな関係だったですか? ええぇ~」
ちょ、松本さんっ、な、なにいってるのぉ? なに考えてるのぉ?
「あのぉ、渡辺さん? あんまり抱かえたままだと……柚月さん、大変なことに……」
な、ナイスです……若村さ、ん。
「えっ? あっ! そ、蒼空ちゃん!?」
沙希ちゃんがボクを開放したときにはボクはもう、息も絶え絶えでぐったりだった。
「し、死ぬかと思ったよぉ……沙希ちゃん……」
ボクはそういって机の上に、顔を横にして置きながらも沙希ちゃんをにらみつけた。
「ご、ごめんなさい。 つい……。 ああ、でも今の蒼空ちゃんもかわいい!」
「もう! 沙希ちゃんったら……ほんとに反省してるっ?」
# # #
みんなとさよならし、隣りのクラスの春奈と落ち合う。
「どしたの? お姉ちゃん。 そんなふくれっ面して?」
ボクはまだ不機嫌面の真っ最中だった。
「えへへぇ、その、ゴメン! やっちゃった」
沙希ちゃんが春奈に向ってそういってペロっと舌を出す。
春奈はそれを聞いて察したみたいだ。
「まったく、沙希ちゃんも学校でまでよくやるね? ある意味尊敬しちゃうよ」
そういってニヤッと笑う春奈。
「ほら、お姉ちゃんもいつまでもふくれてないで帰ろっ?」
そういって春奈はボクのアタマをなでる。
「もう、春奈! ボクを子供扱いしないでよぉ」
抗議するボク。
「だって、そんなふくれっ面するなんて子供以外の何者でもないじゃん? ねっ、沙希ちゃん」
そういって沙希ちゃんに振る春奈。
「えっ、そ、そうかな? そうかもね? でもかわいいから……」
そういって"えへへ"と笑い、デレた顔になる沙希ちゃん。
「まったく、あきれちゃう……もう好きにして。 ほらっ帰るよ、お姉ちゃん!」
「あっ、わかったからそんな、引っ張らないでよ〜」
春奈たっらボクの手をとるとずんずん歩き出しちゃった。
沙希ちゃんはまたもペロっと舌を出すと、うれしそうに後を付いて来る。
ボクはいつの間にか、ふくれっ面から笑顔に変わってた。
手をとってボクを引っ張って歩く春奈。
やっぱ安心する。 それを見て歩いてると笑顔がどんどん溢れてくる。 ボクは思わず春奈の手をぎゅっと握り返しちゃった。
後ろからは沙希ちゃんが、変わらず楽しそうに付いて来てくれてる。
新しい友達も出来てきたし、ガッコもまだ少しずつとはいえ慣れてきた気がする。
これが幸せってことなんだろう。 うん、幸せ!
それにしても……、ボクのやりたいことってなんなんだろう?
ほんと、考えたことなかった……。
やりたいことかぁ。
やりたいこと……。
ああ、もうわかんないや。