番外編.優衣と春奈
結局番外編にしました。
初めて蒼空ちゃんのことを知ったのは、春奈が私の左斜め前の席で、一人携帯を見つめてニヤニヤしてるのを見かけ、からかいに行ったときだった――。
思えばそれ以前から春奈の行動には怪しいことが多かった。
春奈とは2年になった今年から同じクラスになり、席も近いことからすぐ打ち解け、1年のときから(優衣と)同じクラスだった亜由美も巻き込み、みんなしてすぐに友達になった。
学校では3人でいつも行動を共にする仲になったんだけど、放課後になると春奈はすぐ帰っちゃって学校外で一緒に遊ぶことなんてほとんどなく、ちょっとさみしい気もしてた。
亜由美に人には色々事情があるんだからって、言われてたから無理に誘ったりもしなかったけど……。
そんな春奈の様子が変わったのは夏休みが明けて学校に出てきてからだった。
夏休中も遊びに誘っても全然のってこなかったから、学校でその変わり様を見たとき、私も亜由美も正直驚いた。
……あんなに明るく、よく笑う春奈を見たのはもしかして初めてだったかもしれない。 ううん、絶対初めてだったんだもん。
そして今、携帯を見てのにやけ顔だ。
「はっ!」
も、もしや、春奈のやつ抜け駆けして夏休みに……、
「カレシでも作りやがったのか~!!」
もしかして今まで放課後付き合いが悪かったのもそのせいかぁ~?
私はお門違いな憤りを胸にした。
「なに? どうしたの優衣。 突然変なこと叫んで」
右隣の席の亜由美が突然声を上げた私を訝しんで声をかけてきた。
しまった、つい心の声が表に出てしまった……。
「えっ、いやぁ、なんでもないっすよぉ。 にひひぃ」
私は笑って誤魔化したけど、今だ、にやけ顔して携帯を覗き込んでる春奈が気になり、まだ私のことを変な風に見てる亜由美をスルーし春奈の背後に忍び寄った。
そして勝手にカレシが出来たと思い込んだ私は、その憤りの矛先をある場所に定め……、行動に打って出た!
「は~るなっ! なににやけて携帯見てんの!?」
そう言って私は背後から、春奈のちょっと成長してきた胸を両手で揉むようにつかんだ!
「きゃぃ!」
春奈がかわいらしい声で叫び、ビックリしたはずみに手に持っていた携帯を床に落としてしまった。
昼休み、教室にいるみんなの視線が集中する。
「ちょ、ちょっと優衣~! い、いきなりなにすんのよぉ!? 携帯落としちゃったじゃない〜!」
みんなの視線が集中した春奈は、赤い顔をしつつも胸をつかんでる私の手をひっぺがし、そう言った。
「ご、ごめぇん! ちょっと驚かそうと思っただけだったんだけどぉ、えへっ。 携帯大丈夫?」
私は手を顔の前であわせ、素直にあやまってから聞いた。
落とした携帯を拾い画面を確認し、ホッとした表情になりながら春奈が答える。
「う、うん、大丈夫みたい。 それにしてもひどいよ優衣ぃ〜! いきなりさぁ」
春奈がちょっとふてくされた顔をして私をにらんでくる。
「え、えへへぇ……、ほんとゴメン! でも春奈、案外胸成長してんじゃん?」
「ゆっ、優衣ぃ~!」
赤い顔をした春奈が手を上げて、たたくポーズをとる。
「ご、ゴメン、ごめん~! (たぶん)もうしないから~許してぇ?」
「ほんとにもうっ! 今度やったらひどいんだからね?」
そう言いながらも春奈の顔はもう笑顔に戻ってる。
「で、なに? なんか用があったんでしょ?」
春奈が改めて聞いてくる。 お~、そうだったそうだった!
「そ、そうよ! 春奈。 あんたもしかしてカレシできたんじゃないでしょうねぇ?」
私はメンドクサイのがきらいだ。
だからいきなり直撃で聞いちゃった。
「へっ? か、カレシ? どうしてそうなるわけぇ?」
春奈がすっとぼけてるのか、ホントにわからないのか……、聞き返してきた。
敵は手ごわいぞ。 でもこっちは押し込むのみ!
「だって、春奈っち放課後はいつも早く帰ってたし、夏休みもほとんど一緒に遊んでないし……、とどめは休み明け以降やたら元気で、今も携帯見てニヤニヤしてたじゃん?」
私は単刀直入、ズバリ聞いた。
「えっ! そ、それはぁ……」
すぐ切りかえしてくるかと思いきや春奈は言いよどみ、携帯の画面を見ながらちょっと考えるそぶりを見せる。
そんな私と春奈の様子を見かねた亜由美が口を挟んできた。
「ほらぁ、優衣。 あんたもあんまり春奈困らせちゃだめじゃない。 プライベートをあんまり詮索するもんじゃないわよ?」
「えぇ、そんな、私別に詮索って……、ただ春奈がうれしそうに携帯みてたから……」
う~、亜由美に出てこられると私の押しの一手もすかされてしまうぅ!
ここまでか? ここまでなのかぁ~!
……そう思って、私があきらめると口にしようとした矢先、以外にも春奈のほうから口を開く。
「いいよ亜由美ちゃん、私も今までせっかくの2人の誘い、断ること多かったし……」
そういって話しだした春奈。
私と亜由美は意外な顔をしつつも春奈の話しを聞く。
「でも優衣ちゃん、まじでカレシとかじゃないから。 その、2人には今まで話してなくてゴメンナサイなんだけど……。 私、実はお姉ちゃんがいるんだけどね。 そのお姉ちゃんがね……」
春奈はお姉さんのことを私たちに話してくれた。
体が弱くて小さいころから病気がちだったこと。
事故で意識を失い1年半近く目が覚めず、寝たきりだったこと。
そしてこの夏休み、8月に入ってすぐ……お姉さんの目が覚めたこと。
「だから放課後や夏休みは、いっつもお姉ちゃんのお世話、しにいってたんだぁ。 ゴメンね、なかなか2人と一緒に遊べなくって……」
私と亜由美は呆然としてその話しを聞いた。 お、重いよ……。
でも……、やっちゃったなぁ、私。
話しを聞いてひるんだ私たちの空気を読んでか春奈が言う。
「それでぇ、さっき優衣が気にしてた私が見てた携帯の中味なんだけどぉ、見たい?」
春奈がちょっといたずらっぽい顔をして私に聞いてきた。
「えっ? う、うん。 春奈がいいんなら、その、見てみたい……かも?」
私はてっきりカレシの写メか、メールでも見てたんだとばっかり思ってたから、なにを見せてくれるのか? とちょっと考えてしまった。
でも、話の流れからいって見てたのってやっぱ……お姉さんの写メだろなぁ?
「はい、これよ♪」
ほんとにうれしそうな顔で、携帯の画面が見えるよう差し出してくる春奈。
私と亜由美は差し出された携帯の画面を見つめる。
写っていたのは春奈と……、車イスに座ってる小さな女の子。
春奈はその車イスの女の子の横で腰を落とし、顔を並べるようにして写メを撮ってもらっている。 その女の子はつやつやした真っ白い髪に透き通るような色白の顔で、ウサギの目のように赤い、つぶらな瞳が輝いていて、どこか儚げな雰囲気のするかわいい子だった。 でもどう見ても春奈のお姉さんには見えないような?
それにしても白い髪に赤い目って? 私はかわいいけどそのあまりに特異な容貌に驚いてしまった。 亜由美も同じみたいで画面を食い入るように見つめてる。
「は、春奈? この子、すっごくかわいらしいんだけど、まだ小学校の5・6年くらいの子だよね? あんたの妹さん? てっきりお姉さんの写メ見せてくれるのかと思っちゃったじゃない~! そ、それにちょっと、ねぇ……」
私は春奈に疑問を投げ、ついで亜由美のほうを見て同意をもとめるそぶりを見せる。
亜由美は無言でうなずいた。
「ね、ね、かわいいでしょ? 目の前で見たらもっとかわいいんだからぁ!」
は、春奈……、あんたってシスコン?
「で、やっぱお姉ちゃんにはみえないかぁ? だよねぇ……」
「だよねぇって春奈。 そう言ったのはあんたでしょうがぁ?」
「うん、そう! で、マジでこの子が私のお姉ちゃんなの」
私と亜由美は、春奈の言葉に思わず顔を見合わせた。
「お姉ちゃんって病気で成長に障害があって……、それと、その、見た目の白いのも遺伝子の病気で色素が無い状態で生まれたっていうか……。 まぁ、そういうことなの」
(※ 脳移植のことを誤魔化すため作った設定です。 ep15.参照 )
春奈がそういって理由を説明してくれた。 まぁ私にはいまいちよくわからなかったけど。 要は病気が原因でああゆう見た目になっちゃったってことよね?
「そ、そうなんだ……ゴメン、立ち入ったこと聞いちゃって」
「お姉さんって、その……"アルビノ"って病気? の人なんだね?」
亜由美にしてはめずらしく突っ込んだことを聞いてる。
「う、うん、そう。 亜由美よく知ってるね? そうなの、お姉ちゃん"アルビノ"って遺伝子の病気なの」
「うん、ちょっと、漫画とか小説でそういう話よくあるから……。 ごめんなさい、変なたとえで」
「え、いいよいいよ、そんなこと気にしないで。 でもけっこう大変なんだよ? アルビノって。 お姉ちゃん外出るにしても、いろんな対策しなきゃならないみたいだし……。 まぁ、まだ外には出れないんだけどね」
「でねぇ……」
春奈のお姉ちゃん話はこの後も続き……(マジ春奈ってシスコンだよ。 それも超の付く!)、結局昼休み終了のチャイムが鳴るまで聞かされた。
でも私と亜由美は、うれしそうにお姉さんの話しをする春奈の姿を見て、なんだかとっても心があったかくなった気がした。
そして私たちは、お姉さん(あっ、蒼空って名前らしい)が退院したときは紹介してもらうって約束をした。
その時がきたらお姉さんには春奈のこの"シスコンっぷり"を、ぜったい思いっきり暴露してやろっと!
にひひっ、春奈!? 覚悟しといてよね?
p.s.
それからというもの、春奈のやつ新しい写メ撮ってくるたびに私たちに見せびらかしにくるようになった。
正直、マジ勘弁って感じよね。
ほんとにもう、このシスコン娘!!