ep48.蒼空の憂鬱と期待
※話数を修正しました。
「せーのっ、かんぱ~い!」
それぞれが手に持ったグラスを掲げ合わせると、その軽く澄んだ音がリビングや食堂に響きわたる。
春奈に沙希ちゃん、それにちーちゃん、……そしてボク。
モチロン3人の清徳大付属入試、合格を祝っての乾杯だ。
今日は合格が決まった3人と、お世話になったちーちゃんの4人で合格祝いのパーティーを開いているのだ。
会場はボクん家、お母さんの全面サポートでのパーティーなのだ!
「あらためてみんな、清徳入試合格おめでとう! 3人一緒に合格出来てほんと良かったね!」
ちーちゃんがみんなにお祝いの言葉をかけてくれる。
「「「うんっ、ありがと~!」」」
みんなでちーちゃんにお礼を言う。
そして、お互い顔を見ながら、それぞれが満面の笑みを浮かべる。
みんなそれはもう幸せ一杯って顔をしちゃってるよ。 まぁボクもそうなんだろうけど? えへへっ。
乾杯が済み、お互い一通りのお祝いの言葉を掛け合ったら、お待ち兼ねのご馳走をみんなでいただく。 ローストビーフやフライドチキン、野菜サラダにポテトサラダ、パンプキンスープにサンドイッチロール、おつまみも色々……そしてお寿司♪
デザートも用意してくれてるみたいだし、お母さん大奮発だ! あっ、もちろん苺ショートは外せないよっ!
……でも、ボク食べきれるかなぁ?
出された料理を食べながらも会話を楽しむボクたち。 お行儀悪いなんて誰も言わない。 せっかくのパーティーなんだもん、楽しまなきゃ!
「ねぇねぇ高校の新入生説明会、みんな揃って一緒に行こうよ? ダメかなぁ?」
沙希ちゃんが提案してくる。
そうなのだ、2月の2週目、祝日の日に新入生を集めて説明会があるのだ! その日は合わせて制服の採寸とかもあるから沙希ちゃんや春奈は楽しみにしてるようだ。
ボクはといえば……、特に楽しみって感じじゃない。 だっておちびさんなボクは、サイズ合わせに苦労するに決まってるんだもん……あ~あ。
「そうだねぇ、一緒に行けたらいいね~! お母さんに聞いてみなきゃ、だけど。 沙希ちゃんとこは大丈夫なの?」
春奈がやっぱりノリノリで沙希ちゃんの話に食いついてる。
これはもう決まったも同然だよね。
「うん、ウチはバッチリだよ。 もう確認済みだし、ママも春奈ちゃんたちのお母さんに会いたがってたよ?」
「そうなんだぁ? よし、それじゃ早速お母さんに聞いてこよっと」
そう言って席を立ち、裏方をやってくれてるお母さんに確認しにキッチンへ向う春奈。
もう……、わざわざ予定合わさなくったって、みんな会場行くんだからきっと会えると思うんだけどなあ……。
「あぁ、でも蒼空ちゃんの制服姿! 見るの楽しみだなぁ。 さぞかしカワイイだろうなぁ……」
沙希ちゃんがなんかボクのほう見ながら、あっちの世界に旅立っちゃってる。
相変わらずだよ……沙希ちゃん。
あっ、春奈戻ってきた。
「沙希ちゃん! お母さんOKだって。 沙希ちゃんママに会うの楽しみにしてる、だって!」
「ほんとっ? やったね♪ じゃ当日の集合時間とか、待ち合わせ場所とか決めないとね?」
「それならさぁ……」
春奈と沙希ちゃん、2人でずんずん話しをすすめちゃってる。 まぁボクはどうでもいいから2人の好きにしてくれたらいいんだけどさ。
なにげにちーちゃんのほうを見ると、ちーちゃん笑顔を返してくれた。
「蒼空ちゃん、いっぱい食べてる? せっかくのご馳走なんだからちゃんと食べなきゃだめよ? いっぱい食べて体力つけて、楽しい高校生活送らなきゃね?」
「うん、食べてるよ! みんなおいしいから食べ過ぎちゃって、お腹ぽんぽんになっちゃてるんだからぁ」
ボクはそう言ってお腹を手でさすって見せて、
「ちーちゃんこそ、いっぱい食べてね? ボク、ちーちゃんにはい~っぱいお世話になっちゃったし、今日はちーちゃんも主役なんだからね~!」
「ふふっ、そうだったっけ。 心配しなくてももう存分に食べさせてもらってるよ! ほんと叔母さんのお料理、おいしいよね~!」
「うん! ボクもお母さんの作ってくれるお料理大好き♪」
「蒼空ちゃんったらカワイイっ。 ほんと、お母さんのこと大好きだね」
「うん、大好き~! でもちーちゃんも好きっ! ほんとに今までありがと~!」
ボクはそう言って出来る限りの笑顔でちーちゃんに感謝の気持ちを伝えた。
ちーちゃんはちょっと何かをこらえるような態度をとりながらも、
「あ、ありがと蒼空ちゃん。 前も言ったけど、そう言ってもらえるだけで家庭教師した甲斐があったよ。 むくわれちゃう!」
「「うふふっ!」」
ボクとちーちゃんは2人顔を向い合わせて笑った。
この後もパーティーは楽しく続き、苺ショートも食べられたボクは大満足だった。
あと新入生の説明会の件……、春奈と沙希ちゃん、それにお母さんや沙希ちゃんママで携帯まで使って当日の打ち合わせしてたよ。
ほんと、こんな打ち合わせしなくたって、行けばいやでも会える思うんだけどなぁ……。
やっぱ今だによくわかんないよ、女の人って。
* * * * * *
「蒼空、春奈、早くなさい! 待ち合わせの時間に遅れちゃうわよ」
「「はーい!」」
今日は清徳大付属の新入生説明会の日だ。
沙希ちゃん家と、清徳の駐車場で9時半待ち合わせなのだ。
開場は10時からなんで30分前集合ってことだよね。
ボクは入試のとき着たスーツに髪型も再びポニーテールにしてもらっての出席。 春奈も同じで中学の制服を着てる。
お母さんはすでに準備万端って感じで表で車のエンジンを掛けてボクたちが出てくるのを待ってる状態だ。 さすが会社の社長してるだけあって時間に正確だよね。
ボクは外出するときのいつもの準備、日焼け止めを塗り、眼鏡をかけ、杖を持って表へ出た。
そして春奈が戸締りをしてようやく準備完了だ。
「お母さんお待たせぇ~」
春奈が悪びれもせず言う。
ボクはと言えば、ちゃっかりもう車の中、リアシートに座ってる。 えへへ!
お母さんは軽くタメ息を付きながらも言う。
「それじゃ行くわよ。 もう忘れ物ないわね?」
「「おっけー!」」
ボクたちは一路、清徳大付属に向けて出発した。
まぁたかだか10分くらいで着くところなんだけどさ。
# # #
「おはよう! 沙希ちゃん。 七海さんお久しぶりで〜す!」
春奈が早速あいさつをしてる。
駐車場にはすでに沙希ちゃんママ"七海さん"と沙希ちゃんが到着していて、ボクたちを待っていてくれたのだ。
「沙希ちゃんおはよう! な、七海さんも、おはようございま、す。 今日はよろしくお願いします……」
ボクも続けて挨拶した。
「や~ん、蒼空ちゃん、春奈ちゃんおはよ~! う~っ、蒼空ちゃんのポニテとスーツ姿、かわいい~! 写メ撮っとこっと♪」
沙希ちゃん、朝っぱらからテンション高いなぁ……らしいけど。
「あらぁ、蒼空ちゃん、春奈ちゃん、おはよう。 お久しぶり! 相変わらずかわいいんだから、2人とも!」
七海さんも相変わらずですね……、沙希ちゃんと挙動そっくりです。
そして遅れてお母さんもクルマから出てくる。
「初めまして、蒼空と春奈の母です。 沙希ちゃんには2人がいつも、お世話になりまして」
そう言ってお母さんがまず七海さんに挨拶とともにお辞儀した。
「あらあら、これはご丁寧に。 こちらこそいつも沙希がご迷惑掛けて……。 沙希の母です。 今後ともよろしくお願いしますねぇ」
七海さんもお母さんに合わせお辞儀する。
一通りの挨拶をすませると、ボクたちは会場になる体育館へ向けて歩きだした。
前を歩くのはお母さんと、七海さん。 そして後ろにボクたち3人で、ボクを間にして左側に春奈、右側に沙希ちゃんって並びだ。 ボクが春奈の腕に手を回し、右手で杖を突いて歩く。 沙希ちゃんも手をつなぎたそうにしてるけど、さすがにこの場では遠慮してるみたいだ。
お母さんたちがそんなボクたちを、振り返って見ては微笑んでる。
いいじゃん別にさ、腕組んで歩いたってさ。 体育館まで距離あるんだもん、体力温存しとかなきゃだめなんだもんね~!
体育館に向って歩いていくと、周りにはボクたちと同じように母親と一緒の女の子たちが、たくさん目に付くようになってきた。(まぁ中には両親と一緒とか、お父さんだけって子もいるけど)
ここでもやっぱ、ボクは微妙に遠慮がちながらも好奇の視線をいっぱい浴びてしまう。
はぁ、こればっかりはどれだけ経験してもやっぱ慣れそうもない……。
ボクは思わず組んだ腕に力を込めてしまう。 春奈はそれに気付くと組んでるボクの手に自分の手を重ねて安心させようとしてくれる。
ありがとね、春奈!
# # #
体育館はすでに新入生でごったがえしてた。
ボクたちは、空いてる席を探し、なんとか3人並んで座ることが出来た。 お母さんたちは保護者用の席があるので今は別れちゃってる。
ここでもボクは周囲からのイタイまでの視線を浴びちゃう。
まぁ、お外と違ってそんな悪し様な視線じゃないのが救いだけど……はぁ、もうほんと疲れちゃうなぁ。
でもそんなボクを気遣ってか、春奈や沙希ちゃんがボクの手をぎゅっと握ってくれたりするからちょっと安心。 ほんと2人ともやさしいなぁ……。
説明会は、校長先生の挨拶を筆頭に数人の先生が説明する内容ごとに交代して説明してくれた。 まぁ正直あんまりアタマには入らなかった。 だってまだ実際体験してないから全然実感わかないんだもん……。
説明会は、結局1時間弱で終わった。 案外短くてホッとしたよ。
そしていよいよ、春奈や沙希ちゃん待望の制服の採寸だ。 制服以外に体操服や運動靴、あと用度品の配布とかもあるらしいけど。
「これより制服の採寸を行います。 各科に分かれて行ないますから、自分の進む科で名前をおっしゃってから採寸するようお願いします」
採寸を仕切ってる先生が、大きな声で会場の新入生に呼びかけた。
そして追加でさらに言った。
「ああ、採寸は今着ている服の上から行いますから、服は脱がなくてけっこうですからね。 ではみなさん順番にね、慌てないでけっこうですから騒がないようにお願いします」
「私たちは普通科だね、普通科は……と、あそこ! あ、4ヶ所もあるよ。 さっ、行こっ」
沙希ちゃんが場所を見つけてボクたちを連れて行く。
普通科は一番人数が多いから多めに振り分けてるんだと思う。
ちなみに、普通科、音楽科があって、その中でさらに細分化されてるみたいだ。
ボクは普通科の中でも普通の進学コースだ。 人数はよく知らないけど全科で120人以上はいるはずだ。
採寸はどうやら先生じゃなくて、学校出入りの業者さんがやってるみたい。
たぶんそこで制服の受け取ることになるんだと思うんだけど……。
「はい、それじゃ次の方」
ボクの番が回ってきた。 なんか緊張しちゃうよぉ……。
「は、はい。 よろしくお願いします」
採寸はいくら服の上からとはいえ女の子だもん、女の人が採寸してくれるみたい。
ボクも今となっては男の人に触られるのいやだし。
「えっ、あ、あなた? え、ええっ!?」
驚いてるこの人の、"うそっ、中学の新入生じゃ?" なんて、ささやき声も聞こえてきちゃう……。
やっぱ、こうなっちゃうんだ。 だからいやなんだ、知らない人の前に出るのって……。
「ご、ごめんなさい! 採寸するわね」
そう言って、ようやく落ち着いた採寸係りの人は寸法を測りだした。
背中や肩周りの寸法、袖丈や、裄丈いっぱい測った。
そしてほんとなら持ち込まれてるサンプルの制服を羽織ってみたりするのだろうけど……。
「ごめんなさい! あなたにあうサイズ、用意してきた中にないの。 ほんとに申し訳ないんですけど……。 そ、その代わり念入りに寸法を測らせてもらいましたので、間違いなく、あなたにあった制服をお作りさせてもらいますから……」
「は、はいぃ……」
終始こんな感じで、やっぱボクの採寸は、予想通りろくなことなかった。
対して、春奈や沙希ちゃんの採寸は順調に進んでいってるようだった。
用度品とかはお母さんたちで購入してくれていたので、これで今日やることは全て終了のようだ。
ボクはなんか気分がすっごく落ち込んできちゃってた。
「お、お姉ちゃん! ま、気にしないでさ。 ね? あぁそうそう、聞いた? ここの制服って色々選べるらしいよ? 夏・冬は当然にしても、ジャケットやセーターやカーディガン、スカートも3種類くらいあるんだってぇ!」
春奈が気を使って色々話しかけてくれてる。
沙希ちゃんはちょっと困った顔してる。 こんなときのボクをどうしたらいいのかわからないんだろなぁ……。 やっぱ春奈のほうがボクの扱いなれてるよねぇ……。
そうだ。 いけない、いけない! せっかくみんな楽しんでるのにいつまでもふさぎ込んでちゃ、2人がかわいそうだ。
「ありがと、春奈、気遣わしちゃってゴメンね。 もうバッチリ復活!」
ボクはわざとらしいくらいに元気な声で春奈に言った。
「それで体操服とかはどんななの?」
ボクがそう言うと、春奈の表情がぱーっと明るくなる。
「あ、それもなかなか良かった! ブルマーとかじゃないから安心して?」
ちょっとにやけながら春奈が言った。
ぶ、ブルマー! ありえない、ありえないから! ボクがそんなの履くなんて。
ボクが口をぱくぱくしてぶつくさ言ってると、
「だからブルマーじゃないって言ってるじゃん。 聞いてる? 人の話ぃ。 普通にTシャツにジャージって感じだよ? 安心して」
そう言った春奈は、やっぱちょっといたずらっぽい顔をして笑った。
沙希ちゃんはボクたちのやり取りをみて安心したのか速攻復活したみたいでこんなことを言い出した。
「でも蒼空ちゃんのブルマー姿、ちょっとというか、だいぶ見てみたい気も……」
「だ、だめっ! 却下、きゃっか、きゃっか~!」
ボクは慌てて言葉をかぶせて即否定だ。
「そんなぁ……」
沙希ちゃんほんとに残念そう。
そんな顔してもダメなものはダメなんだから……。
はぁ、やっぱ採寸はろくでもないや。
――こうして色々あった新入生説明会は採寸の終了ととも終わりを告げたのだった。
制服は後日、今日来ていた学校出入りの服飾店にとりに行くことになるらしい。
サイズ、ちゃんと合うといいんだけど……ちょっと心配。
なんかしまりのない一日だったけど、ボクもいよいよ女子高生。
ボクが女子高生だなんて、なんか不思議な感じだけど、ほんと楽しみだ。
入学式まで、まだまだ1ヶ月以上あるけど、待ちどおしいような、怖いような……。
それまで色々準備することはいっぱいあるし、ボクもちょっとでも体力つけて春奈や沙希ちゃんの足引っ張らないようにしなきゃね!
ああ、どんな高校生活になるのかなぁ?
学校行くの、ほんとに久しぶりだから不安もあるけど……やっぱ、
楽しみっ!
なんとなく2章も終わったようで……
高校生編となる3章との間に、ちょっと話しを入れよかな?
(あれ、それって2章ってことか?)