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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
2章
48/124

ep46.決戦=入試

※話数を修正しました。

 清徳大付属はボクん家から10kmほど行ったところにあって、クルマで行けば10分少々ってところだ。 ボクが通うことになれば、スクールバスを利用することになるのかな?

(普通のバス会社のバスもあるけど、清徳はスクールバスがあるからそれを利用できるのだ)


 今回ボクはお母さんのクルマで試験会場に向かっちゃってるけど、ホントならバスで行かなきゃいけなかったんだと思う。 ボクの入試に至るまでの事情、あとこの容姿もあり、朝の混雑するバスで、変なトラブルとか起きてもまずいってことで特別に学校の駐車場を使ってもいいってことになったのだ。

 ちょっとズルい気もするけどボクはホッとした。

 知らない人とのストレスをちょっとでも少なくできるもん……。


 清徳の駐車場に7時50分くらいに到着し、ボクはお母さんにあらためて身だしなみと持ちものチェックをされる。

 普通入試のときには中学の制服で行くんだと思うけどボクにはモチロン中学の制服は無いからごく普通に女の子用のスーツを着て来てる。 ブラウスにベスト、下はプリーツスカートで、ジャケットを羽織り、首元のネクタイはボタンで留めるだけのやつ、足元はニーハイにローファーって感じだ。


 それに今日は髪型もポニーテールにしてもらってるから、なんかいつもと違う改まった気分になっちゃう。


「うん、服装はバッチリ決まってる! どこに出してもおかしくないわ。 蒼空ほんと見違えるようよ」


「ほんと? 良かったぁ。 お母さん、色々準備してくれてありがとう!」


 面倒ばかりかけてしまってるお母さんにお礼する。 お母さんにはどれだけ感謝してもしきれいないほど、いっぱい面倒かけてるもん。

 でも、スーツ姿にアタマはポニーテール、眼鏡をかけたボクって少しはかしこそうな子に見えるかなぁ?


「どういたしまして。 持ち物も最後にもう一度確認して?」

「は~い」


 お母さんのくどいほどのチェックを受け、いよいよ会場となる高校の校舎へと向う。

 校舎へは駐車場から一度外の道へ出て正門から入り直すみたい。 さすがに学校の敷地内を大胆に横断なんて出来ないし……。


 お母さんに手を取られ歩き出すボク。

 片手に杖、もう一方で必要な持ち物を詰め込んだカバンを肩から下げて歩くボク。


 ボクは杖を持つ手がかすかに震えてる。

 どうしよう……、すごく緊張してきちゃった。


 周りを見るとちらほら同じように歩いてる子がいる。 一人でいる子、友達同士でいる子、ボクみたいに保護者と一緒にいる子……。


 お母さんたち保護者の人は視聴覚室でお話を聞くみたい。 保護者の参加は任意なんで一人で来てる子とかもいるのかな?


 そんなたくさんの知らない子たちの中で、ボク今からずっと一人でいなきゃいけないんだもん……、不安でたまらないよぉ。


「蒼空ったら、もう今にも泣きそうな顔してるわ? 緊張するなっていうのは無理でしょうけど……、誰も蒼空のことイジメたりなんかしないし、ここには男の子も来ないんだし? だからほら、しゃきっとなさい!」


 そう言うとお母さんはボクの背中を軽くポンッとたたいた。


「う、うん……」

 とは言ってもやはり不安なものは不安。 こればっかりはどうしようも無いもん。

 ああ、もう早く始まって早く済ませて……お家へ帰りたいよぉ。


 そんな調子で小さい歩幅でゆっくり歩くボクの横を幾人もの受験生が追い抜いて行く。


 杖をついて歩く、小さくて白い髪のボクに気付くとみんな一様に驚くけど、それでも誰も騒ぎ立てたりしない。 

 そりゃそうか? 今日は大事な入学試験の日。 ボクがいくら変わってるっていっても、みんな同じ入試を控えた子たち……、騒いでる余裕なんてないはずだもん。


 ボクはそんなことを考え、ちょっとでも気が楽になるよう努力してみたりした。


 でも……やっぱ、ダメ。 緊張するよ~!


 そんなボクの様子を見て、もう何も言うことないっといった感じのお母さんは、ただつないでいる手をぎゅっと握ってくれる。


 ボクはそのお母さんの手のぬくもりが、ただただ心強かった……。



 そしてとうとう正門前。


 正門の門柱には、"清徳大付属女子中学校・高等学校 入学試験会場" って書いてある大きな立看板があった。

 清徳大付属は中学から大学まで一貫教育が売りで、中学の入試も違う日にあるから同じ看板使ってるみたいだ。

 ボクは高校からだけど、エスカレーター式に中学から高校に上がってくる子たちも居るってことだよね。

 なんか途中から入るボク、なじめるかどうか心配……って、入る前からそんな心配してもダメだよね? えへへっ。


 ここからは一段と人通りも増え、門の周りでたむろってる人達とかもいる。 でも今日は推薦入学の学生だけだから、それほどいっぱいってわけでもないはずだけど。

 それでも正門前にはいろんな人達がいて、中学や塾の先生?みたいな人たちがその生徒を激励する姿なんかも見れたりする。


 それだけの人がいると、やっぱりボクに集まる視線がイタイ……。 それにウワサ話もそこら中から聞こえてきちゃう。


「うわぁ、あの子の髪の毛真っ白っ、それにすっごい色白だよぉ」

「ほんとだぁ、あれ天然~?」


「ねぇねぇあの子、ちっちゃくってかわいいねぇ? でも、中学入試と間違ってないのかなぁ?」

「あっほんとだぁ、かわいぃ~」

「中学は昨日だよ? そんな間違いしないでしょ~」


「杖突いて歩いてるなんて、小さいのに足悪いのかなぁ……」


 そんな中を二人して歩いて抜けていると、お母さんが気にしないでいいのよって気遣って声をかけてくれる。


 それにしたって、ボク中学入試と間違ってなんかないもん……、高校入試受けるのにさっ!


 正門から奥へ進むと校舎の昇降口が見えてくる。 入り口手前は14・5段ほどの階段になってて、お母さんが支えながら一緒に上ってくれる。 まぁこれくらいならなんとか上れるけどね?


 そして上りきり、昇降口の下駄箱のところまで来たところで、

「蒼空? お母さんはここで別行動になっちゃうけど、一人でもしっかりがんばりなさいね? それと、終わったら携帯に連絡入れてね」


「う、うん……。 がんばる、よ」

 ボクは心細くてたまらないけど、お母さんにこれ以上余計な心配かけたくないからなんとかお母さんを見送ることに成功した。


「じゃあ、また後でね?」


 そう言うとお母さんは胸の前で小さく手を振ってボクから離れ、視聴覚室へと向っていった。


 ボクは上履きに履き替えると脱いだ靴をビニール袋に入れカバンに押し込んだ。

 そして壁に貼ってある案内に従い試験会場へと向う。

 会場は1Fみたいで階段を上らなくていいからラッキーだ。 試験前から余計な体力使いたくないもんね。


 廊下を進み試験会場まで来ると会場は普通に教室だ。

 教室の出入り口の上、普通クラス名が付くプレートに受験番号の書いてある紙が貼り付けてある。 印刷されてる番号は大きめで、ボクでもちゃんと確認できるから好印象だ。


 推薦の入試は人数が少ないようだから教室は3つ、20人ずつくらいで使うみたい。


 ボクは受験票を取り出し番号を確認して、自分の番号のある教室へ緊張しドキドキしながら、恐る恐る入っていった……。


 教室に入るなり、ボクに気付いた子はやっぱ驚いた顔をする。 ほとんどの子はそれでも気を使ってか、感心がないのか、すぐ目をそらすけど中にはじっと見てくる子もいる。 まぁボクもそんなのにはもう慣れちゃってるからスルーしちゃうけど……。


 席は受験票の番号で指定されてるから自由には選べないみたいだ。


 ボクの席は……、通路側より2列目の一番前の席だった。 これってやっぱ視力の弱いボクのために、学校側が配慮してくれたのかなぁ? それとも偶然?

 でも前の席は後ろの子達がみんなボクを見てるような気がしてきちゃうからあんまりいい気がしない……。(ちょっと自意識過剰かもしれないけど)

 でも実際ひそひそ声も聞こえてきて、やっぱボクのこと話してる声も混ざってる……。 ウワサするのは勝手だけど、せめて本人に聞こえないようにしてよね、もう!


 受験票と筆記用具を机上に出し、余計なもの(杖も折りたたんじゃった)はカバンにしまい、カンニングとか変に疑われないようにしてとりあえず準備はOKだ。


 あとは周りの子達の様子にドキドキしながらも、何とか試験を受けるため心を落ち着かせようと努力するボクだった。

 

 同じ中学同士って子も多いのか、オシャベリの声があちこちから聞こえてる。 ボクにはモチロン誰も知ってる子なんていないから、ずっと一人ぽつりと座ってた。 まぁそんな子も多いんだけど……。


 そうして待つこと数十分……。

(やっぱ集合早過ぎだよね? いくら遅刻するよりはマシっていってもさ……)


 開け放たれたままだった教室の前のドアより、とうとう試験官の先生? が現われた。


「みなさんおはようございます。 試験を始める前に注意事項から説明させてもらいます」


 その試験官、30代後半くらいの女の先生が現われるなり早速、試験の注意事項を説明しだした。

 ボクは聞き漏らさないようしっかりと聞く。 まぁありきたりのこと言ってるだけなんだけどね。


「……試験の時間割は黒板に書いてある通りです。 休憩は20分みてありますが、トイレなどは早目早目に行っておくようにしてください。 基本的に試験中に出ることは許可できません。 もしやむおえず出た場合、入室はその科目の試験が終わるまでは出来ませんのでそのつもりで。 最後に問題用紙ですが、試験終了後に回収しますので持ち帰らないように!」

 

 その先生はひと通りの説明をしたあとボクの方を見て聞いてきた。

「黒板の字は見えますか? 大丈夫?」


 ボクびっくりしちゃった。 まさかそんなこと確認してくれるなんて思ってなかったから。


 黒板には、試験科目が国語、英語、数学と時間割りに沿って書いてあった。


「はい、大丈夫です。 大きい字で書いてもらってあるので」

 ボクはそう答え、ありがとうございますとお礼を言った。


 周りの子たちは不思議そうにボクと先生のことを見てた。 先生、ちゃんとボクのことは聞かされてるみたいだ……。


「はい、それでは問題と答案用紙を配ります。 私が許可するまで表を向けないようにしてください」

 そう言って先生は用紙を裏向きでそれぞれの机の上に配っていく。


 はぁ、いよいよ始まっちゃう。 もうここまで来たらあとは勢いだ! 後悔しないよう目一杯がんばるぞ。



「それでは答案用紙を表にして受験番号と氏名を記入してください」


 みんながそれにしたがってカリカリと記入する。 もちろんボクも。

 先生は全員がちゃんと書いたか見回して、確認が終わると時計を睨みながら……そして言った。


「では問題用紙を表にして試験を始めてください」



 一斉に問題用紙をめくる音がして……、ボクの高校入試が始まった。




* * * * * *




 11時50分。


 とうとう3科目すべての試験が終わった。

 ボクの高校受験もやっと終了だ!(もちろん合格すればの話だけど……)


「はぁ~!」

 問題と解答用紙が回収された後、ボクは大きなため息と共に思わず机に突っ伏してしまった。

「つ、疲れたぁ~」

 もう精も根も使い果たしちゃった感じだよぉ……。


 そーだ、お母さんにも携帯で連絡しないと。

 そう思いながらも疲れて、ついぼけーっとしてしまうボクだった……。



# # #



「蒼空、お疲れさま! よくがんばったわね」

 昇降口を出たところで落ち合うなり、お母さんがねぎらいの言葉をかけてくれた。


 ボクはお母さんを見ると思わずホッとして、つい力が抜けてしまい転びそうになる。


「そ、蒼空、危ない!」

 慌ててボクの腕をつかんで支えてくれるお母さん。


「ご、ごめんなさい。 ありがとうお母さん! えへへっ」

「もう、気をつけなさい。 こんなところで転んで怪我なんていやよ」

 そう言ってボクのおでこをコツンとたたく。


「ついホッとしちゃってぇ……、でもやっと終わったよ!」

「そうね、終わっちゃったわね? 試験結果は二日後には中学に送付されるんだって」


「そんなに早くわかるの? でも中学に送付って、ボクも?」


「そうね、蒼空も一応中学から推薦もらったしね。 ご挨拶もかねてお母さん受け取りに行くわね」


「そっかぁ……。 ごめんなさいお母さん、最後まで面倒かけちゃうね?」


「またそんなことを言う。 蒼空? 子供がそんなこと気にしちゃだめって、いつも言ってるでしょ? さぁ、それより早く帰りましょう! 春奈や千尋ちゃんが首をなが~くして待ってるわよ、きっと」


 お母さんはそう言ってボクの手を取り歩き出す。

 ボクの持ってたカバンも取られちゃった。

 

 そしてボクは足取りも軽く(なったつもりで)お母さんと、クルマのある駐車場へ向うのだった。



 長かったボクの高校入試。

 それも二日後にはすべてが終わるんだ……たぶん。


 試験は一生懸命やったけど、合格するかどうかなんてボクにはさっぱりわからない。


 

 どうか合格しますように。

 ボクはそう思いつつ冬晴れの空を仰ぎ見た。






 ま、まぶしかった……。



今回長かった……。

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