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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
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ep3.日向の苦悩と再会

※ep5.とep6.を合わせました。 それに伴って話数を修正しました。

 しばし石渡が出て行った方を、ぼーっと見ていた母親だったが、はっと我に返り蒼空を見やる。


 蒼空は先ほどの話……を聞いて、ちょっと考えるこむそぶりをみせていたのだが疲れたのだろうか? まだ目覚めて間もないというのに、いきなりの説明だったせいもあるのだろう……、すでにうとうとしだしている。

 そんな蒼空のそばに静かに近寄り、かわいらしい頭を再びやさしくなでてあげる。


「うぅ……ん……」


 気持ちよさそうな表情をみせる蒼空。そしてそれが、その安心感がさらに眠気を誘ったのか、いつしか眠りにおちていく。



日向ひなたさん」


 看護師の西森が母親に声をかける。

 名前で呼びかけるあたり、二人はずいぶん気心が知れているのだろう……。

 声をかけつつ近寄ってくる西森。


「日向さん。蒼空ちゃん目が覚めてホント……よかったです!」


 そう言いながら母親の手をとる西森。


「ありがと。ありがとね……香織ちゃん! 今までいっぱい助けてもらって、……どれだけ感謝してもたりないくらいだわ。ホント、ありがとう」


 話しているうちにまた感極まってきたのか目が潤みだす。


「ううん……、そんなことないです! 日向さんやご家族の苦労に比べたら……、私なんてほんと大したことしてないです」


 手を振ってそんなことないと言う西森。そんな西森も目が涙でにじんでいる……。

 母親……日向は、先ほどまで石渡が掛けていたイスにすわり、穏やかに眠る蒼空を見やる。

 そして西森も、日向の横で同じように蒼空を見る。

 二人の目はやさしく蒼空を見つめ、しばらく感慨ぶかげに蒼空を見つめていたが……。


「蒼空ちゃん……、気付きますよね?」


 西森が言う。


「そうよねぇ……」


 日向がちょっと困ったふうに答える。

 更に続けて、


「石渡先生にはさっき大見得きって言っちゃったけど……、やっぱり話しずらいわ……」


 日向が悩ましい口調で言い、最後に「はぁ……」と、ため息をつく。


「さっきはまだ目覚めたばかりだし、状況もつかめない状態だったから自分のことに気付く余裕もなかったでしょうけど……今度起きたときにはさすがに……」


 う~ん……と、考えながら話す西森。

 それにと続ける。


「目が覚めたからには食事もあるし、それに顔を洗ったり、体も綺麗に拭いてあげたいし。 なによりおトイレ……の問題とかもありますよね?」


 それを聞いて更に悩ましい顔になる日向。


「やっぱり早く伝えておかなきゃいけない……わよね。……でもこの話しを聞いた時の蒼空の気持ちを考えると……」


 と言いながら蒼空を見る。

 西森もつられて蒼空の方を見る。


 つい半日前までの、身動きしない人形のようであった蒼空と比べると……全然違う。

 やわらかい雰囲気が出てきて、その白雪のようにキレイな白い髪、透き通るかのような白い肌、そのかわいらしい顔はまるで天使のようだ。


 二人はそう思う。

 そんなかわいらしいも綺麗な姿。 人が見たら皆がうらやましがるような女の子、なのではあるが……。


 蒼空は男の子。


 そう、あのいまいましい事故、いや事件―― までは、13才の『男の子』だった。

 あれから1年以上たって今は14才。そしてもうじき15才にもなろうかという年頃の男の子なのだ。


 対して今の姿は普通に小学生と言っても通用する女の子。 無理に見てもせいぜい6年生がいいところ。

 それにひとつ下の妹の春奈が今13才……、外見では逆転してしまうのも悩ましい限り……。


「ああ、もう!」


 日向が顔を仰ぎつつ小さくも叫ぶ。


「蒼空が目を覚ましたら言うわ! 先送りしていい問題でもないし、本人が気付く前にきっちり説明してあげるが家族の……、母親としての務めだわ」


 開き直っていう日向。

 そして、


「私、春奈に蒼空のこと伝えなくては! あの娘もずっと心を痛めていたんだもの……(それに一緒にいてもらえた方が私にも蒼空にもいいだろうし)……よし!」


「香織ちゃん。ちょっと携帯で連絡してくるから蒼空のこと……お願いできる?」


 日向の決意にガンバレという表情を浮かべながら、


「はい! まかせておいてください。それにベッド周りの整理とかもありますから……」


「気にせず行ってきてください」と言いつつ、早速動きだす西森。


 それを見て、それじゃお願いね? と、日向は病室を出て行くのだった。



* * * * * *



 うぅん。

 なんだかいい匂い……がするなぁ。


 懐かしい。

 いつの間にか、ふと湧き上がってきた想いとともに……。


 そして今度は、心地よい……なんともいえない感覚が、ボクの心を満たしてくる……。


 あぁ、暖かい気分、気持ちいい……。

 その感じ……は、ボクのアタマのほうから来ているみたいだ……うぅん。



 ――だんだん覚醒してくる蒼空。

 そこには静かに眠っている蒼空の頭を、やさしくなでている日向がいる。

 結局、蒼空は眠りこんでその日は目覚めず……、翌朝を迎えていた。


 日向は病室に入り蒼空を見るとその愛らしいアタマをなでずにはおられず……、蒼空が目を覚まさないよう、やさしくなでていたりする。


「うぅ……」


 蒼空のそのかわいらしい小さな唇から、これもかわいい声が漏れる。


「う、う~ん……」


 あら、と日向は軽くしまったという表情を見せる……が、すぐうれしそうに微笑み、蒼空を見る。もちろん、なでる手はそのままに。


「お母さん?」


 蒼空が問いかける。

 昨日よりもその声はしっかりしているよう。


「ええ、そうよ。蒼空、おはよう!」

「うん、お……はよう? ……今は朝なの?」


 日向の挨拶に、蒼空は目を瞬かせながらもそう問いかける。


「そう、朝よ。 お天気もよくて気持ちのいい朝よ」


 ふーん、そうなんだぁ……と、蒼空は言いながらも外を確認することは出来ないのであまり関心はもてない。

 そして自分の頭をなでている日向にさきほどの起きがけの感覚の答えを得ると、その心地よさに満足げに微笑む。

 蒼空はふと軽く体を起こそうとしたが、肩を浮かせるのがやっとであり、全然思うようにいかない。

 その様子に、慌ててなでていた手を蒼空の肩にやり、


「そ、蒼空! まだ無理して動こうとしないで? ……あなたの体はずっと寝たきりだったんだから動くことに慣れていないのよ」


「う、うん……」


 蒼空は相変わらずの自分の体のふがいなさに、悲しくなってくる。


 ボクの体……全然いうこときいてくれないや。まるでボクじゃないみたい……、声もなんだかちょっと違うし、これも事故のせいなのかなぁ?


 さみしげに考えこむ蒼空に、日向は慌てて声をかける。


「蒼空っ、それじゃちょっとベッドを起こしてあげるわ。そうすればお話しもしやすいでしょ?」


 そう言って、ベッドの背中の部分を起こそうとベッド脇のリモコンをいじりだす……が、あれっ? と、頼りない声を漏らす。

 どうやら使い方がわからないらしい。


 蒼空はちょっとあきれた面持ちになる。

 お母さん、ちっとも変わらないなぁ。相変わらずのメカ音痴だ……と、思いながら "くすっ" と笑う。


そこにうまい具合に病室に入ってきた西森……と、もう一人。

 そして日向の様子を見て察する。


「日向さん、私がやりますよ?」


 そう言うと、小走りにベッド脇にきてリモコンを日向から受け取り、


「体を起こしてあげたいんですよね? 蒼空ちゃん、ちょっとベッドが動くけど驚かないでね?」


 操作とともに、寝床の上半身側が腰あたりを軸にせりあがり、そこが背もたれになる。


「はいできた」

「あ、ありがとう……」


 蒼空が看護師に感謝のことばを伝えると……。


「うっ……」


 いきなり動きが止まる西森。

 いぶかしげに見る蒼空。


「そ、蒼空ちゃんが私に……、あ、ありがとうって……。ううっ、話しかけてくれただなんて……」


 そう言いながらも感きわまって泣き出す西森。


「えっ、なに? 何なの?」


 急に泣き出した看護師に蒼空があたふたしていると……、

 日向がやさしく蒼空の肩に手を置き、


「蒼空? 彼女はね、あなたがこの病院に転院してきてからずっと献身的に……、それはもう一生懸命お世話してくれていたのよ。私たちもどれだけ彼女に励まされたか」


 動かない、目が覚めない蒼空……をずっと世話してきて、そんな蒼空が目を覚まし自分にコトバをかける。軌跡が起こった! そんな想いが、感情が……彼女を泣かせてしまったのだろう。


「ごめんなさいね……、急に泣き出しちゃって」


 と涙を指でぬぐいつつ蒼空を見る看護師……、まだちょっと涙声だ。


「私は看護師の西森……、西森 香織っていいます」


 と自己紹介を始める西森。


「病院での蒼空ちゃん担当の看護師だから、何かあったらいつでも私に言ってくださいね」


 やさしく微笑みながら、かるくお辞儀する。


「よ、よろしくお願い……します」


 蒼空もあいさつをする。

 それにまた西森が喜び、ニコニコしているのを見ながら……。



 ――かわいくてキレイな人だなぁ……、背の高いお母さんよりはちょっと低いけどスタイルも良くて。やさしそうだし、お母さんよりメカにも強そうだし(病院の人なんだから当たり前か)……ふふ。


 お母さんとも親しそうだ――。


 ボクはそんなたわいもないことを考えつつ、起こしてもらって視界の良くなった周囲を何気に見渡そうと努力する。(まだ体が動かしずらくて大変なのだ)


 すぐもう一人の……小さめの人影に気付く。

 その人影? は、ボクのまだ頼りない記憶をたどると、でもすぐに出てくる……。


 女の子は……ボクの見知ってる女の子で……、ボクの記憶よりちょっとだけ大人びてる。

 ……いつもそばにいた女の子。


 そう……。


「は、はる……な?」


 ボクがそう問いかけるとその人影……が、駆け寄ってきてベッドへ飛び込んできた!


「お兄ちゃん!」


 その声もまた涙に濡れていた……。


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