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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
2章
34/124

ep32.蒼空の願い

※話数を修正しました。

「あ、春奈戻ってきたよ」

 優衣が期待した面持ちで亜由美に言う。


「そうね。 でもお姉さんの姿見えないね?」

 そう言って春奈の方を見ると、春奈が廊下に向って何か叫んでる。


「どうやらお姉さん、相当な恥ずかしがり屋さんみたいね? 廊下でぐずってるみたい」

 亜由美がちょっと面白そうな顔をして言う。

 で、それを受けて優衣が、

「まさか春奈ってば、お姉さんに私たちのこと変なふうに話してないよね? 会いたくない なんて思うようなさぁ?」

 などとのたまう。

 

 随分な言われようの春奈。


「そんな訳ないでしょ~、バカなこと言わないの。 きっとすっごい人見知りなだけよ」

 亜由美が優衣をたしなめていると、ようやく春奈が入ってきた。


「ごめんね、待たせちゃって。 もうばかねえが今になって恥ずかしがってさぁ……」

 蒼空もひどい言われようだ。

 苦笑いの亜由美。


「ほら、お姉ちゃん。 そんなトコいないで早くこっちきなよぉ?」

 春奈がじれて手招きする。

 

 するとリビングの入り口にようやく姿を見せる蒼空。

 そしてちょっとふらつき、よたよた歩きながらもようやく春奈の後ろまでやって来た。


 その小さな姿をようやく見せた蒼空に、亜由美と優衣の視線が集まる。

 蒼空はそんな視線を感じてか春奈の後ろにちょこんと隠れ、2人を伺うそぶりを見せてる。


「ちょ、何あのかわいい生き物? それに白い、ほんとに白いよぉ! 写メで見てもイマイチ実感わかなかったけど……ほんとにそうなんだぁ」

 優衣がぼそぼそと亜由美に言う。


「生き物って優衣、失礼でしょ! う~ん。 でもほんと……なんかウサギさんみたいね? うふふっ」

 お互いぼそぼそいいつつ、お姉さんが姿をみせたので挨拶をしようとソファーから立ち上がる。


 2人が立ち上がったのを見て蒼空も観念したのか、春奈の後ろに隠れるのをやめて隣に並ぶように立っている。 でもその手が春奈の服の裾をつかんでいるのが、更にかわいらしさを呼んでいる。


「あ、あれ、あれってほんとにお姉さん? 妹だよ? 妹! 私も欲しいよぉ、アレ」

 優衣が妙に盛り上がってる。 ……優衣、あんたもどっちかっていうと妹キャラだけどね? と亜由美は思ってるが、モチロン口には出さない。


「ほら優衣、落ち着きなよ! お姉さんこっち見てるって」

 亜由美が優衣をつついて注意を蒼空に向けさせる。

 それにしても優衣が興奮するのも無理ない。 まさに反則的なかわいさ! サラサラでキラキラした白い髪に見つめる瞳は深く吸い込まれそうな赤で、お肌も透き通るように白く、ふれれば消えてしまいそうなはかなげな雰囲気。 これなら私だって欲しいよ……。 あら、私まで優衣と同じことを。 い、いけないいけない。


「あ、あの。 こんにちはぁ……」

 蒼空がようやく挨拶し出す。

 2人はささやき合いをやめ注意を蒼空に向ける。


「春奈の姉で、そ、蒼空っていいます。 妹と仲良くしてくれてありがとぉ!」

 そう言ってニッコリ微笑む蒼空。


「「か、かわいい……」」 

 そう言って思わず見入ってしまう2人。


「それに今日は暑い中、来てくれてありがとう! たいしたおかまいも出来ないけど……、ゆっくりしていってくださいね!」

 最後に(もう得意の)首を小さくかしげながら、目を細めての笑顔を振りまく蒼空。


「はぅ!」

 最早、言葉も出ないよう……。


 春奈は横目でその様子をうかがい、我が姉ながらその必殺スマイルの最強ぶりに感嘆の意を表さざるを得ない。

 友人2人はそんなお姉ちゃんを、まだぽーっとした顔で見入ってる。


 ――にひひ作戦どーり! 春奈は人の悪い笑顔を浮かべ悦に入る。 そしてわざとらしくセキをして、2人の注意を戻す。


 「はっ!?」


 亜由美がまず気付き、

「こ、こちらこそ春奈……ちゃんにはいつもお世話になってます」

 亜由美がまず挨拶を返す。

「私は春奈ちゃんと同じクラスで、保坂ほさか 亜由美あゆみっていいます。 今日は突然おジャマしちゃってすみません」

 そう言ってぺこりとおじぎをする亜由美。 優等生っぽい子である。


 続いて優衣が、

「わ、私も春奈や亜由美とおんなじクラスの、森咲もりさき 優衣ゆいって言いまぁす。 よ、よろしくお願いしま~す!」

 優衣は明るく笑顔たっぷりに挨拶する。 蒼空がいなかったら亜由美が言うように妹キャラ一押しで間違いない。


 一通り挨拶が済んだところで春奈が、

「ささっ、挨拶もすんだことだし! いつまでも突っ立ってないでさぁ、みんな座って座って!」

 亜由美と優衣に座るよう促がすと、蒼空にも……、

「さぁ、お姉ちゃんも座って? もう立ってるの疲れてきてるでしょ。 無理しちゃダメだかんね?」

 なんだかんだ言っても蒼空を心配してる春奈。

「う、うん!」

 そう返事すると蒼空は春奈のとなりにとたとたと歩み寄り、ポスンっとおしりから足を伸ばすようにして座る。 そのしぐさがまたかわいかったりする。


 春奈を含め、3人がその姿に呆けてる。


「どうしたの?」

 ちょっとなじんできつつある蒼空が、そんなみんなを不思議そうに見る。

「お姉ちゃん。 ちょっと自粛して!? さすがに連続はくるものがあるから」

 春奈が耐え切れずに言う。

「ん? なにが?」

 知ってか知らずか、蒼空が聞き返す。 ――蒼空にとってあのしぐさは、ある意味、体の小ささからくる必然なのかもしれない。


「あぁん、もう、なんでもないぃ」

 春奈はそう言いつつ考える。 お姉ちゃんってば、どこまで意識的にやってんだろ? 以前と違って全然自覚ないってことはないと思うんだよねぇ……。 これは今度問い詰めないとダメだわ、……お風呂で。

 そう考えるとついにやけ顔になってしまう春奈だった。


「それじゃ、私おやつ用意してあるから持って来るね! お姉ちゃん、2人の相手よろしく~」

 言うや否やさっさと出て行ってしまう春奈。

「ええ~?」

 それを聞いてびくっとする蒼空。


 そしてその蒼空を見て顔を合わせて笑う亜由美と優衣だった。



# # #



 テーブルを挟んで向かい合うソファーに座る3人。

 微妙な沈黙……。


 その沈黙を破ったのは、ガマンしきれなくなった優衣だった。


「あのぉ、お姉さんって来年、高校に入るって聞いたんですけどぉ? ぶっちゃけほんとに高校生になれるんですかぁ?」

 ほんとにぶっちゃけたことを聞く優衣。


「ちょ、ちょっと! 優衣。 あんたなんてこと……それもいきなりっ!」

 亜由美があわてて優衣を止めようとする。 さっきクギをさしたばっかりなのに優衣ったらもう!


「ふふふ、いいの保坂さん。 初めてボクに会った人ならみんなそんな風に思うのは当たり前だもん。 気にしなくていいよ?」

 ボクは気を使ってくれた保坂さんにそう言ってから、森崎さんの質問に答えた。


「ボクはねぇ、ずっと病院に入院してたから中学にもほとんど行けなくて、自主退学っていうのになってるんだって。 それに見た目もこんなだからなかなか15才だって信じてもらえなくって……。 信じろって言うほうが無理かな? えへへっ」


 そこでうんうんとうなずく森崎さん。 正直な子だなぁ……。


 まぁ、体は実際11才だけど……そんな余計なことはいわないのだ。

 15才ってところで森崎さん、目を丸くして驚いてた。 かわいいね。 そりゃいくら事前に春奈から聞いてたって実際見たら驚くよね。 ボクだって逆の立場だったらそう思うもん。

 

「でも、中卒認定試験ていうのを受けてそれに受かれば、高校への入学資格がもらえるらしいの。 だから今、従姉に家庭教師してもらって勉強してるの」


 2人は興味津々って感じでボクの話を聞いてる。


「でね、従姉が言うには中卒認定試験自体はそんなに難しい試験じゃないから問題なく受かるだろうって。 だから今はどこの高校にするか自分の実力みながら検討中ってとこっ」


「あ、ちなみに入院してた関係で1年遅れちゃってるから、春奈と同学年になっちゃうの……お姉ちゃんなのにちょっとカッコ悪いんだけど……」

 

 そう言ったところで保坂さんが言う。


「そんなこと無いです。 入院して1年遅れちゃって、中学も途中でやめなくちゃならなくて……、それでもがんばって高校の入学資格とろうとして。 それで春奈と一緒に高校に行けるようがんばってるだなんて、ステキだと思います。 カッコいいです!」

 保坂さんが一気に思いを口にする。

 ボクはそんなこと言われたのは初めてだったのでビックリした。


「あ、ありがとう……。 そういうふうに言ってもらったのはじめて。 うれしい!」

 ボクは心からそう思い、その思いが自然と笑顔になってあふれてきた。

 満面の笑みを浮かべるボクを見て、保坂さんもちょっと照れながらも笑う。

 森崎さんもつられて笑ってる。 元はといえば君の発言からなんだけどなぁ、ふふふ。


「あ、ボクのことは蒼空って呼んでね? 年のことなんて気にしなくていいし。 それにどっちかっていうと年下に見えるのはこっちのほうだしね、えへへへぇ」


「はい! それじゃ私も亜由美って呼んでくださいね」

「あ、私も私も! 優衣って。 優衣でよろしく~!」


「うん! じゃ、これからも春奈共々よろしくね? 亜由美ちゃん! 優衣ちゃん!」

 ボクはまた友達が増えたみたいだ。

 お家に呼んでくれた春奈にも感謝しなくちゃね!


「それにしても蒼空ちゃん、自分のことボクって言うんだね? そういうのもまたカワイイよね~?」

 優衣がさっそく蒼空のことを名前で呼び、ボク発言につっこみを入れる。

「やっぱりボクって言うの、変かなぁ? つい小さい頃からのくせで言っちゃうの」

 ボクはそう言いわけをした。 でも小さい頃からのってのにウソはないもんっ。


「ううんっ、全然! カワイイからそれもOKだよ。 カワイイは正義なのだ!」

 優衣ちゃんがそう言ってエヘンとのけぞる。 ボクと亜由美ちゃんはそれを見てあきれ顔になり……顔を見合わせて笑ったのだった。


「あれぇ、なんかみんないつの間にそんなに打ち解けちゃったのぉ?」

 春奈がおやつの準備をして戻ってきた。

「うん、もうすっかり仲良しになったよ? あっ! それってもしかして銀月堂の?」

 ボクは目ざとく春奈が持ってきた小箱に気付く。

「えへへぇ、さすがお姉ちゃん! コレに気づくのは早いねぇ?」

 そういってその小箱を軽く振る。


「ああ、そんなに振ったら中身が崩れるよぉ!」

 苺ショートがぁ……。

「お姉ちゃん、ほんと苺ショートに目がないよね? コレがあればお姉ちゃん釣るのって簡単だよねぇ?」

 むぅ! また春奈のイジワル笑いだ。 ほんと良くないよその顔! やめたほうがいい!


「ま、そんな話はともかく、食べよ食べよ! ちゃんと1個づつあるからねぇ~♪」

 そう言って春奈はテーブルの上にショートケーキを並べ、一緒に準備してきた紅茶も入れる。 こういうとこ結構マメだよね春奈って。 お母さんに教え込まれてるのかな?


 それからケーキを食べつつ、亜由美ちゃんや優衣ちゃんが、学校での春奈のいろ~んな話をいっぱい話し出し、春奈は2対1で勝負にならず2人にやり込められていた。 ボクの気分がすっきりしたのは言うまでもない。

 

 そのあと優衣ちゃんが、ずっとさわってみたかったって言って、ボクの髪の毛で遊び出し……、今度は春奈がそれを見てずっとにやけてた! くそぅ、春奈のやつぅ!

 亜由美ちゃんはそんな光景の写メを撮りまくってた……。


 そんな感じで楽しい時間は過ぎて行った――。



* * * * * *



 みんなとは今日初めて会ったけど、ホント楽しい時間が過ごせたよ。 春奈はいい友達持ったよね。

 亜由美ちゃんはしっかりもので頼りになるし、優衣ちゃんは時々暴走しそうになるけど、2人でいるとちょうどいいのかな? 春奈はその2人をいじって楽しんでるみたいな……。


 ボクもそんな中に入っていけるといいんだけど……。


 ボクはこの体のせいか、誰からも一歩引かれた感じで、腫れ物を触るような感じで扱われてる気がする。 ううん、実際そうなんだ……。


 ホントの意味でボクに遠慮なく接してくれるのは家族と、ほんの一握りの人達だけ。


 ボクも早くそうやって接してくれる友達を見つけられればいいのに……。

 それは贅沢なことなのかもしれないけど、いつか実現できればいいな。



 この先実現出来るかもしれない高校生活で、そんな友達が見つけられればいいな。



 ボクはそう願ってやまない――。





蒼空調子に乗ってます?

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