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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
2章
31/124

ep29.いない世界といる世界  ☆

※話数を修正しました。

 3月。


 ボクにとって、そしてお母さんや春奈にとって――忘れることが出来ない特別な月。


 2年前の3月10日――。 


 ボクたち家族を巻き込んだ身勝手な事件を起こされた日。


 今の……ボクの世界の始まった日。 



 あの事件後のボクの周りの世界の始まり――。


 

 お父さんのいない世界。


 男の子だったボクがいない世界、そして……女の子のボクがいる世界。


 ボクのことを心配し助けてくれる、やさしい人達がいる世界。


 ボクの大好きなお母さんや春奈、瑞穂伯母さんやちーちゃん……大切な家族のいる世界。


 女の子になってから初めて出来たお友達……沙希ちゃんがいる世界。



 

 ボクがどんなに望んでも、3月以前の世界に戻ることは出来ないし、お父さんが帰ってくることもないし……男の子に戻ることもない。


 そんなのあたり前のこと。

 それどころか時間はどんどん流れていっちゃうし、周りの世界も同じままで居てくれない。 どんどん変わってく。


 いつかお父さんのことも……男の子だったボク自身のことさえも……、まるで水のように流れてゆき、いずれ忘れていくのかな?


 でもそれは……きっと悪いことじゃないんだよね。



 ボクは生かされた、そして生かしてもらったこの命を大事にして……お父さんに、幸せに生きてるよ! ってお話し出来るように……。


 がんばって生きて行かなくちゃ!




 今までずっと会いにこれなくてゴメンね、お父さん。


 …………。


 あの事件からまる2年。 


 今はお父さんのお墓の前。 ここにいるのはボクとお母さん、春奈の3人だけ。

 ボクは初めて来たお父さんのお墓の前で、いろんな想いにかられ感傷的な気分にひたってしまっていた。


 最近のボクはこうしてすぐもの思いにふけったり、考え込んだりしてしまって春奈によく注意されちゃう。 ボクが考えこむとまた以前のようにトラウマの症状が出やしないか? と心配になっちゃうのだろう。

 そんなことないよって言いたいけど、この前の夢のこともあるからあまり強く否定できないのがツライところだ。

 

 先週から始まった勉強も、ちーちゃんが大学の講義に出るため今日は無しだ。 ちーちゃんも一緒にお参りしたがってはいたものの、どうしても外せない講義? があるらしく来るのをあきらめたのだ。 まぁここはお家から10分もかからず来れるところなんだから無理しなくてもいいと思う。

 それにしてもここはすごく大きな霊園で、お父さんのお墓まで車で直接これちゃう。 おかげで車イスのボクでもすごく楽に来ることができちゃった。 お父さん、横着でゴメンね。


「さてと蒼空、春奈。 お父さんにしっかりご挨拶は出来た? そろそろお昼前だし帰ろっか」

 お母さんがボクたちに声をかける。


「「はーい」」

 2人そろって返事する。

 ちなみに春奈はお墓参りのために学校を休んじゃった。 命日だし、初めてボクがお墓参りするというので絶対一緒に行くって言い張ったのだ。

 お母さんも大した反対もせずに休むことを許してあげてた。 やっぱ3人で会いに行かなきゃお父さんもさみしがるよね、きっと。


 ボクは車のリアシートへ、ちょっと支えてもらいつつ乗り移る。 後ろには春奈も一緒に乗った。 お母さんは前で一人さみしく運転だ。


「今日は時間もあるし、食事したら3人でどこかへお出掛けしましょうか?」

 お母さんがうれしい提案をしてくる。


「え、本当? それじゃショッピング~! お買い物行こうよ~?」

 春奈さっそく入れ食いだ。 さっきまでの空気がウソのようだよ。


「お姉ちゃんのお洋服、春物買わなきゃ? ね、どうどう? お母さん」

 更に押し込む春奈。 しかもダシに使うのはボクだ。 春奈……ずる賢い。


「蒼空は? どこか行きたいとことかないの?」

 お母さんがボクにも聞いてくる。


 まあ特に無いし、ここで変なこと言うとずっとこっちをにらんでる春奈に、後で何言われるかわからない。

「うん、ボク特にないから。 春奈の行きたいトコでいいよ」


「よっしゃ~!」

 春奈が元気に声を張り上げる。 ちょっと女の子らしくないよ、春奈。


 お母さんはやれやれといった表情になるけど、特に文句も無いようで、

「もう春奈ったら……。 それじゃお買い物、行きましょうか。 市内の駅前通りのほうでいいわよね? 春奈」


「うん! それでいいよ。 早くイコ♪ もうごはんもマックでいいくらい」


「えぇ~! それはダメ。 絶対ダメだからね」

 これはさすがにボクが反対した。 マックもいやじゃないけど、今日のお昼はチーズハンバーグ! いつものファミレスじゃなきゃダメなんだから。 買い物は譲ったんだから、これは絶対譲らないんだから。(そうは言ってもそんなにいっぱい食べられるわけじゃないんだけどね)


「わかってるよ~、ちょっとした冗談じゃん。 お姉ちゃんってば慌てちゃって、かわいいんだからぁ」

 にやける春奈。


「ううぅ、春奈ぁ!」

 ボクはほっぺを膨らませて春奈をにらみつける。

 でも春奈は知らん顔で涼しい顔してる。 くっ悔しい。 あやつに勝つにはどうしたらいいんだ……。


 ――うふふっ。 お姉ちゃんったら、あれで怒ってるつもりなのかな? おお! にらんでる、にらんでる! カワイイ。

 でもあの顔は他人ひとに向けてさせちゃダメだ。 この前の、ちー姉ちゃんの二の舞になってしまう。 被害者続出だ。 ほんとお姉ちゃんは自分の破壊力、まだまだぜんぜん理解たんないよぉ。



「ほら春奈? あんまりお姉ちゃんをいじめちゃだめよ。 蒼空、すぐいじけちゃうんだから」

 お、お母さん? そ、それはフォローになってないんじゃ?


「はーい。 わかった~」

 春奈はそう言ってシートにボスンっと勢いよく背中を預け、一息つく姿勢になった。



* * * * * *



 食事してから向ったのは、市内の一番おっきな駅周辺に広がってるショッピング街だ。 そこは大きく3つのエリアに別れてて、それぞれに有名な百貨店やレディース・メンズのファッション店、雑貨店や靴屋さんなどいろんな種類のお店が入ってて、たくさんのお客さんで賑わってる。 すぐ近くに大きな公園もあってそれもちょっと気になった。 またそこにも行ってみたいな。


 施設の駐車場に車をとめてショッピングに出る際、ボクは車イスだと邪魔になって迷惑かも? と思い、松葉杖で行こうかとちょっと考えてたら、お母さんに即却下をくらっちゃった。


「それはダメだからね? 蒼空。 お家の中や近所周りを歩くのとは違うのよ。 長時間ずっと松葉杖で立っていられる自信ある? ん?」

 ボクはないです……と小さくなりながら答え、素直に車イスでの移動を選択した。


 ここの近くにはちーちゃんの通ってる大学もあるのよってお母さんが言う。

 へぇ、ちーちゃんこんな街中の大学に通ってるのかぁ。 色々あって楽しいだろうなぁ、うらやましいなぁ。

 そんなことを色々考えてたら……。


「さ、早く行こうよ!」

 春奈が急かすように言い、そしてボクの車イスを押し始めちゃった。

「は、春奈まだ準備がっ!」

「もうお姉ちゃんの準備待ってたら日が暮れちゃう。 私が押したげるから動きながらでお願~い」

 もう春奈の暴走はとめられないみたいだ。 ボクはあきらめて春奈に車イスをまかせ、ボクは眼鏡を掛けなおし、お母さんからつば付きのニット帽を受け取ってかぶった。

 駐車場からは直接施設の中に入れるから、お日様の心配はしなくていいみたい。 だから今回は髪を隠してなるべく目立たないようにするのが目的だ。 ボクは余計な注目は浴びたくないもん。


挿絵(By みてみん)


 

 平日の午後、まだ早い時間だというのに歩いてる人が結構多いのにはビックリだ。

 ボクは女の子になってからこんな人が多いトコロに来るのは初めてでちょっと緊張してる。 しかも車イスだからすごくめだっちゃう。 周りの人がみんなボクを見ているような気がして落ち着かない……。

 ボクはニット帽を思いっきり目深にかぶり、うつむき加減にしてちょっとでも目立たないようにと、小さな体をさらに小さく縮こまらせて車イスに座ってる。

 春奈はそんなボクを見て、「お姉ちゃん気にしすぎだよっ」ってあきれてる。 そんなこと言われたって……慣れないものは慣れない。 恥ずかしいものは恥ずかしいんだもん!



* * * * * *



 ボク達が来たところは、主にファッション関係のお店ばかりが集まってる建物だ。 カジュアルなものからフォーマルなもの。 アウトドアやスポーツ系、果てはギャル系?のお店まである。

 女性用の下着のお店なんかも結構あって恥ずかしい……。 男の子の頃だったら近寄ることすら危険な、禁断の場所だよね。 ボクだって女の子なんだから別に恥ずかしがらなくていいのに、つい……えへへっ。


 そんな迷うほどあるお店の数なんだけど、春奈のことだから回るお店は決めてるんだろうなぁ? お店を回る姿に迷いがない!

 

 ボクは春奈がいろんなお店を回ってるのを、お母さんに車イスを押してもらいながらちょっと離れて見てる。 一緒に付いて回ると邪魔になっちゃうからだ。 必要があるときは春奈に呼ばれて、その時お店に入るのだ。 ホント春奈の思い通りだよ、まったく。 でも春奈はすごく楽しそうだ。 そんな姿を見てるとボクまで楽しい気持ちになってくる。


 こうやって3人でお店を回りお買い物出来るようになるなんて……。 夏ごろのボクには想像も出来なかったよ。(まあまだ車イス頼りなのが残念だけど……)


「お姉ちゃん、ちょっと来てぇ~」

 あ、春奈さまのお呼びだ!

「は~い、なになに春奈? いいものあった~?」


 ボクは春奈のところに向う。

 春奈は店員さんにボクを見せて、選んだお洋服を見立ててもらう……。

 店員さんはボクを見て何かしら思うところはあっただろうけど、そんなことはおくびにも出さず、ニッコリと笑って春奈の相談に乗る。

 ――プロだね。うん。


 ボクはお洋服をあてがわれたり、春奈のお洋服の感想を聞かれたり。

 お母さんはそんなボク達を見て目を細めて微笑んでる。


 …………。



 ……いつもと変わらない普通な日々。


 もう永遠に……お父さんがいない世界、なわけだけど。

 もうこれが普通の日常。 普通の世界。


 そんな世界で3人が一緒にいられる幸せ。


 こんな日常がこれからもずっと続いていきますように。


 

 お父さん――。


 お母さんや春奈、そしてボク。

 ……ボク達のこと見守ってくれてる? もしかして心配してる?


 ボクは元気になって……幸せに暮らしてるよ。

 お母さんや春奈はすごく優しいんだよ? でもお母さんは怒るとちょっと怖いけどね……えへへ。


 だから安心して眠ってください。




「おやすみなさい、お父さん!」


 

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